オリジナルマスター

ルド@

第11話 名も無き復讐者の真実と四年越しの別れ。

──本当の名は友を失った際に捨てた。
そして様々の名と身分で活動しては捨て、母国の為に尽くしてきた。

「間違ってない」

目の前で淡々と語り続けた男が去った後。
名を欺き続けた者は俯いて呟く。決して間違ってないと自分に言い聞かせるように。

そんな彼には二人の友がおり、同じ学び舎で育ち共に騎士を目指していた。
一人は昔馴染みで騎士に憧れていたが、同時に師であったクロイッツ・ガーデニアンと同じ王族直轄の魔導師にも憧れを持っていた。師も教え子の彼ことを息子のように慕い優しく見守っていた。

二人目は学園で知り合ったが、なんと王族。しかも次期王とまで言われた第一王子だったことから学園でも近寄り難い風に見られていた。

が、ちょっとした縁と彼の人柄もあり卒業した頃には、親友となって三人は共に騎士団へ所属することとなる。その際、王族の彼も自ら下っ端の騎士として入って、しばらく競い合うように訓練に励んだのが懐かしく感じる。

三人が一緒活動した期間は短かったが、それでも彼らにとっては掛け替えのない日々だった。訓練の期間を終えてそれぞれの違う道を歩んでいった後も、偶の休日に恩師とも会って体験したこと、悩み喜びなど相談し励み合った。

……だが、国に仕えて早々。
彼らの国への想いが大きく揺らぐ事件が起こる。

──友の死。
停戦が終わり先行部隊に入って敵の動向を探っていたが、待ち伏せに遭い部隊と共に戦死した。……と、表向きには報告されていたが、王族だったもう一人の友人から聞かされた内容はそれとは大きく異なっていた。

戦死したのは事実だが、それは必然だった。
罠だと分かっていながら国は、彼らを見捨て贄にしたのだ。

──苦肉の策。
そう言えば許されるわけがない。国のやり方に初めて皆激しい憤りを感じたが、同時に無駄死にと言ってもいい、失ってしまった友のことを想い悲しんだ。

特に恩師の落ち込み具合は酷く、持病だった心臓が悪化し王都にやって来ることも少なくなってしまった。

しかし、それから恩師を含めた自分たちは、国に対する考えを改めた。
こんなやり方では、また同じようなことが起きてしまう。……そんなことはあってはならない。

王族だった彼の友も恩師もまた、彼の行動を同意した上で協力してくれた。

──極秘情報を利用して自国と他国と操り戦争を操作する。
果てしない道筋だったが、名も身分も捨てた彼は隠密に動き、帝国を含めた他国からの同士を見つけて少なからず掌握しつつあった。

友が恩師を裏切るような真似をして共に粛清を受けるまでは。

男にとっても想定外の事態だった。恩師が帝国の《鬼神》に依頼して裏切ろうとしていた親友と一緒に自分のことも始末するように仕向けさせたのだ。

辛うじて生き延びても帝国に拉致られて実験体として扱われたが、絶望などしなかった。友を死へと追いやった国とあの男へ復讐心が彼を生かした。

膨れ上がった憎しみが彼の感覚を麻痺させ、偶然にも宿したあの男の魔力チカラを利用して弱り切った帝国を内部から支配。皇帝を操り王族となって国を握ってみせた。

裏切られた恩師と再び協定を結ぶのには、抵抗はそれほどなかった。
それ以上にあの男を絶望に追いやりたいという願望の方が強かったのだ。

「だから間違ってない、間違ってないんだ……!」

たとえまた利用され、裏切られたとしても彼は後悔などしない。
こうして永遠に幽閉されることになっても、男は決して真実を語ろうとしないと固く決意していた。


◇◇◇


「結局語らずか……」
「はい、悔し涙を流しても黙秘を貫きました。けどラインのことは、やはり悔やんでたみたいです」

王城内の出口に続く通路でガイと歩きながら、ジークは先程までの内容を伝えた。
といってもろくに会話にもならず、相手のスベンは最後まで黙秘を続けたので大した情報は得られなかったが、反応を見る限りジークが話した内容は間違いではなかったようだ。

「ライン王子が関係していたか……確かにあの方もガーデニアンから教鞭を受けていたが、まさか敵国と繋がっていたとは」
「停戦があっても大戦が続いて多くの血が流れましたから。あいつのことだ、もうこれ以上民の血が流れるのは耐えられなかったんだと思います。それにガーデニアンが首謀者ならあいつらを引き込むことも可能でしょう」

「……裏切った理由はやはり──」

躊躇い気味にガイが口にする。隣のジーク以外には聞こえないようにするが、もし事実だった場合、とんでもない大問題となるからだ。特に隣の彼に尋ねることこそが一番の問題だろうが、

「──」

その問い掛けにジークは────小さく頷いて肯定した。

と、落ち込み脱力したように両膝に手を付くガイだが、小さくすまないと謝罪を口にする。が、ジークにトントンとその肩を叩かれ、気にしていないといった顔を見てコクリと頷いて、咳払いをしつつ話を続けた。

「度々あった情報漏れもそれか。リヴォルトたちが帝国と協力関係にあったのもガーデニアンがいたからか。それにゴーレムへの細工もいつでも出来た。研究所の襲撃は貴重な技術を国に残さない為」
「《鬼神》を復活させる為にも使用したらしいですからね。解析されて術の弱点を探らせないようにする保険だと思います。そして漏れた情報の中に俺のも含まれていた。《黒蛇》がウルキアでアティシアを狙ったのは……俺への嫌がらせ、寝惚けていた俺をその気にさせたかったんだろうが」
「その件については、正直シャリア殿を通してこちらに身柄を預ける前に一言伝えて欲しかった。せめて廃人にする前にアイツから情報を抜き取りたかった」
「所詮生きた傀儡だ。俺と再会した際も狂ったように暴れてたし、唯一持っていたものが“神の盾ウロボロス”だったからな。……アレは本当に面倒だった」

嘆息気味にジークが言うとちょうど門の前に辿り着く。
昼の試合後から時刻は夕方を過ぎて夜だった。

「はぁ、大変なのはこれからだ。総ギルドマスターのリヴォルトと王都の学園長グレリアの人体実験。帝国から侵略者たちとゴーレムも暴走。研究所の襲撃に第一王女、総騎士団長たちの負傷。ガーデニアン率いる裏切り者たちと復活したであろう《鬼神》の存在。……報告書作成だけでも胃に穴が開く」

どんよりとした顔でガイががっくりする。今後のことを想像してか腹をさすりながら死んだ目をしているが、これ以上巻き込まれるのは御免だとジークはきっぱり告げる。

「ま、その辺りの関係はそっちでやってください。短い間だったけど、なんか何年も働いた気分なんで俺は遠慮しますから」
「ぐ、本当に去るのか? シルバーの件は解決してお前自身にも……」
「資格なんて使おうと思わなければただの紙切れ。少なくともしばらくは必要ありません」

何か言いたそうにするガイを見て、懐から一枚のカードを取り出すが、すぐに仕舞い直す。それが何なのかギルドマスターの彼が一番よく知っている物だが、ジークのおかげで長い間王都に根付いていた害悪を排除できた。……不承不承であるが、苦笑して手を出し握手を求めた。

「そうか……じゃ、さらばだ戦友」
「ああ、戦友──後のことは頼んだ」
「そのセリフは勘弁してくれ。想像しただけで胃が破裂しそうだ……」

そして笑みを浮かべて握手を交わした。
四年前と似た別れ方だったが、今度は二人とも満足した様子で背を向け歩いて行った。


──長い長い王都での話は、こうして幕を閉じたのだった。

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