オリジナルマスター

ルド@

第8話 閉幕と引退。

試合場に背を向けて立ち去るシルバーを見て、ようやく凍り付いていた会場に熱が戻る。それも過去最大の熱が会場を一瞬にして満たした。

『お、お、オオオオオオオオオオオオオォォォォッーー!!』

気を失い倒れたアヤメを見て、会場の全員が勝負が決したのだと理解した。
そして会場全体に雄叫びが上がる中、慌てて医療班と思われる治療師たちが舞台上に上がる。

倒れたアヤメのところに集まって治療を開始し出すが、彼女の状態を見て焦った様子でそれぞれが話出して治療魔法を掛けている。

目立つような外傷は見られないが、全身に酷い魔力によって出来る火傷か──魔力火傷まりょくかしょうが見られたからだ。

最後に放たれた『天王の極撃ウラノス』の影響だろうが、治療魔法師たちが頭を抱えたのは斬られた箇所よりも魔力火傷が原因だ。
ジークがしっかり魔力操作を行っていたので、高濃度の魔力汚染などの状態を見られないが、“神殺しの斬撃”で半減させたといえやはり威力が高過ぎた。

用意された治療師たちは全員優秀だが、魔力火傷については時間が掛かるようだ。ある程度応急処置をしてすぐに医療室に連れて行く準備に入っていた。

「無事に終えた。ということか」
「はい……良かったです!」

王族の席では安堵の息を漏らす国王のローガンが呟きに、王女のティアが力強く頷く。感極まった様子で涙を浮かべると去っていくジークに視線が向けれる。

慌てた様子の治療師が制止して治療を促しているが無視して去って行く。そちらは遠目から見ても重傷なのはハッキリと分かるが、ジークは動かない右腕を垂らしてながら試合場を出て行った。

「お父様」
「うむ、行って来なさい。個室を用意してある」

ティアの呼び掛けにローガンは退席を許す。本来ならまだこの場に居ないと不味いが、ここまで我慢し続けた娘の気持ちを少しは報いたいという、父親としての気持ちが今は強かった。

周囲の目もあるのでティアは早歩きで王族席から退席する。去っていた彼女を見てキョトンとする母や妹、見ていた他の貴族たちだが、かつてのシルバーと彼女の噂は知る一部の者たちは思い出したように微笑み、そして複雑そうな顔をする者もいた。

前者は王女が彼に恋意を寄せていたことを知っている者。
だが、後者はそれを知る者と王子の死に彼が関わっており、それで王女がショックを受けていたことを知っている者だ。

もちろん彼が殺したとは誰も思ってはないが、それでも落ち込んでいた王女の知る者からすれば、どう反応すべきか迷い戸惑うしかなかった。

「いいですか? 間違いなく騒ぎになりますよ?」
「構わん。娘が四年も待たされたんだ。多少は彼奴にも分からせた方がいいだろ」
「いや、そうじゃないでしょうが!? なんで娘の時だけそんなに親バカなんだアンタは!?」

だからこそ王族を除き唯一この場で発言が出来るであろうギルドレットが不味くないかと言うが、とうのローガンは王ではなく娘に甘い父親に変わっている。
思わず怒鳴り散らしてしまったが、ローガンはハハハッと笑うだけで一切気にしてない。……寧ろ親バカと言われて嬉しそうにも見えてギルドレットは余計に頭を抱えてしまう。

と、ふざけ合うのもほんの少しの間だけ。
高笑いがおさまるとローガンは担架で運ばれ行くアヤメに視線を送りながらギルドレットに尋ねた。

「最後の斬り合い。どう見えた? 私にただ通り過ぎたようにしか見えなかった。いつ剣が振られたのも見えなかったが、剣同士が激突した音も・・聞こえなったぞ?」

まさに静寂の一戦だ。二人の気配が静か過ぎて息遣いのみが試合場に響いていたが、僅かに動いた見えた思えば二人を見失う。気付けば二人は過ぎ去り振り抜いた状態で止まっていたが、アヤメが静かに剣を突き刺すと倒れて、ジークは振り返りもせずその場を後にした。

問題は立ち去った彼の付近に半分ほど折れた剣先が落ちていたことだ。
銀の刃、輝きからそれが見えたローガンだが、つまり最後の一戦。剣士としての勝敗はアヤメが勝っていたことになる。

だが、斬られて倒れたのはアヤメだ。
どういう風に勝ったか分からずローガンは唯一この場でその見えない一戦を目撃したであろう隣の男に問い掛けると、男はああ、とその一部始終を思い出して頷き何があったかを王に説明をした。

「あれはアイツが得意な魔法を使用した結果……ですかね。ご存知か知りませんがアイツの創り上げた原初の一つに“なんでも斬り裂く刃”を生み出す魔法があるんですよ」

絶対切断ジ・エンドのことを知っていたギルドレットはそう最初に言う。
厄介な魔法で大戦でよく使われたものだが、それは殆どが処刑。敵を殺す際に使用されていたことも多々あり彼としては良い思い出がなかった。

が、それを聞けば余計にローガンの頭に疑問が積もる。
説明の途中だったが、思わずといった顔で口を開いた。

「それが剣に付与されていたのなら何故その剣が折れた? なんでも斬れるのなら折れるのは彼女の剣だろ?」
「“なんでも”と言っても所詮は魔法だ。斬られないようにする方法はいくらでも有りますし、特に格上相手だと彼女のように最初から防がれる。……あの帝国の《鬼神》も手のひらで受け止めていました。さらにその上である最強の聖剣も」

《鬼神》の名を聞いて忌々しそうに目つきが鋭くなるローガン。思い出したくもないが、躊躇い気味に説明するギルドレットを責めることはできない。

だが、憎まずにもいられない。その男一人に聖国は大きな犠牲を強いられ、娘は落ち込んでしまった原因でもある愛する息子までも殺したのだ。決して許せるはずもない。

「あの男が本当に復活したのなら、かつての借りは必ず清算させる。……ま、それは後だ」
「はい、話が逸れてしまいすみません。つまり《無双》にも彼の魔法は効かなかった。彼もそれを分かっていた。だから……剣士として勝つのは諦めた」

どういうことか、と首を傾げるローガンにギルドレットはあの一戦を振り返る。

空間移動で一瞬でアヤメの間合いに入ったジークの振り抜かれた一閃は彼女の居合いで抜かれた剣と激突。普通に考えればそこで均衡し合い止まっていただろうが、問題はそのすぐ後だ。

ジークが振り抜いた銀剣がアヤメの刀とぶつかり合おうとした瞬間。彼の刃は一切の抵抗もなくまるで紙切れのようにスパッとアヤメの刀に切断された。何が起きたか理解出来ず見ていたギルドレットは呆然として一瞬だが肝が冷えた。

それも瞬きに近い時間の流れだ。
僅かだがアヤメも戸惑ったようにギルドレットには見えたが、それもすぐに驚愕に変わった。彼も同じだ彼女の刃がそのまま滑るようにジークを斬り裂こうとした。

ところが、ジークはそこまで読んでいた。
彼女の刃を潜り混むように下から躱して横に一回転する。過ぎ去る瞬間に彼女の脇腹を斬るように横薙ぎの一閃を放つが、折れている上アヤメが素早く離れるように横に避けた。……彼の剣は間に合わないとアヤメもギルドレットも見えた。

だが、アヤメは斬られた。
避けた彼女に折れた刃は届いていなかったが、目に見えない一閃が届いたのだ。
そしてジークの銀剣の折れた先・・・・に血が付いていた。

「直前で魔力で生み出した刃を伸ばしたのか・・・・・・・・?」
「確かに見えない刃で合ってます。ですが、あの一瞬じゃ弱っても彼女を斬れるほどの刃は、いくらアイツでも簡単には作れないと思います。それと前もって出していたという可能性もないです」

だが気付けなかった。何故なら魔力が刃全体に覆っていたから。ギルドレット自身もそう見えてアヤメも恐らく感じていた。

しかし、ギルドレットには確かに見えた。
振られたジークの銀剣が躱されたと思った時だ。

折れた刃の部分、それも剣先の僅かな箇所に生み出された刃を。
まるで遠隔で繋がっているように折れた先から離れて、振られる剣に合わせて動いていた。

「アイツは銀剣の刃に魔力を纏わせながら、その下に魔法の刃を剣先に固定させてたんです。二重に仕掛けたから《無双》もオレも気付けなかった」
「ッ!? ……つまり、たとえ最初から魔法は剣先のみに付与していたのか?」
「いえ、最後のみ。それまでは全体に付与させていましたが、最後だけはバレないように剣先だけに切り替えていた。しかも位置固定までしっかり行っていたから、折れても位置が固定されていた刃が彼女に届いた」
「刃を二重に忍ばせたということか……あの体でそこまでやってのけたとは」

精密な操作力がなければできない芸当。あの局面で信じ難いことだが、それこそが彼の狙いだったのだろう。剣技では勝てないと理解した上で魔法で勝負したが、ここまでギリギリの状況で使う異常な神経。

普通の魔法師では思い付かない方法だ。
それが超越者と呼ばれたシルバー・アイズなのだろう。

「流石最強の魔法使いと呼ばれただけはあるか、なんともリスクの高い戦い方だが、間違いなく彼も超越者だな」
「けど、その伝説の魔導王も今度こそ本当に消えます。アイツはもうSSランクの冒険者には戻らない・・・・
「分かってる。はぁ……国王として困るんだが、仕方ないか」

改めてそう感じながら嘆息しローガンは立ち上がる。
ようやく終えたこの騒動に締め括るために。国民たちに向けて国王としての言葉を送った。

そして同時に聖国の超越者SSランク冒険者────シルバー・アイズ。
彼の正式な冒険者としての『引退』を会場の皆に伝えて、国王としてそれを正式に認めたことを宣言した。

当然宣言と共にこれまでにないほど会場全体が大騒ぎとなったが、これが彼の引退試合だと伝えるとこれまでの騒動に幕を下ろしたのだった。

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