オリジナルマスター

ルド@

第5話 始まる本当の戦い。

(どうやらまだ気付いてないな。暴力王女のように気に特化してたら『天地・・』の風も簡単には使えないが、風を操るこの女ならいける!)

アヤメと光速の剣技を繰り広げる中ジークは内心息を吐く。気を抜きはしないが、次第に操る空間を広げてアヤメの風にも影響を与えれていることに驚いてしまう。

派生属性────『天地』。
基本属性の火、水、土、風、雷の五つすべて。
そして光と闇の特殊属性である二つ、どれ一つ欠けていては取得する可能性も持てない。高難易度が極めて高く、非常に珍しい属性である。

自然界を支配する属性チカラ
最強の属性と呼ばれている内の一つだ。

(制御は上手くいっているな。まだ風だけだが・・・・・、複雑な魔法を使わない分、思ったより使いやすい)

アヤメ・サクラが風を操る剣気使いなのは、師であるシィーナから聞く以前から彼は知っていた。

得ていた時期は当然だが四年前の大戦。
他所の国の超越者に関する情報もそうだが、中でも異名持ちで国も警戒している者については国が持っている限りの情報は、アティシア同行者から頭に叩き込まされていた。

なのでジークがシルバーだった頃には、他三名の超越者たちに関する基本的な戦闘スタイルなども既に頭に入っており、中立国の超越者アヤメ・サクラの対応策も用意してある。

剣士でありながら風の刃を操り、遠くの敵も斬り裂いてしまうことから、近距離、中距離、遠距離と自由に戦い方を変えられる特殊タイプ。

しかも相手は最強の称号を持つ剣士。彼の剣技では勝機は薄い。
だからこそ、まずアヤメの風を封殺する為に彼は進化した魔力を利用することにした。

(派生属性をここまでフルに使うのは初めてだが、暴走の気配が全然ないな。朝の時にも感じたが、やはり相当魔力の質が上がってるらしい)

正確にはその魔力の特性とも言える、他の属性を扱える能力。
その能力でこれまで極力控えていた『派生属性』を使用する。これまでは暴走を恐れて躊躇ったが、夜の件で魔力に関するすべての能力が数段向上して、抑えていた派生属性も十分に扱えるようになっていた。

そして『天地属性』は自然界のチカラに干渉する。
謎が多い属性の一つでもあるが、使い手である彼はそれを他の者たちよりも理解している。

剣を振るいながら手に属性魔力を引き出す。
手繰り寄せて従わせるように試合場の風に干渉。アヤメが操る風の存在を把握すると同時に彼女が繰り出す移動術や目に見えない風の斬撃まで見極めていく。

(あの目に見えない移動の正体は、“風との一体化”。移動する先の風と自分自身の風を共鳴させて肉、体が一体化で風に変わると瞬時に移動先の風へ移動している。見えない斬撃もただ風を操作して放つものと、移動と同じように自身を一体化し、刃となって斬り裂く二種類がある。しかも攻撃の際は気を流しているから、ある程度威力が高いと風で逸らし難いな)

初めは操作にも多少の誤差は起きたが、ジークは続けていき圧倒的な速度でコツも掴んでみせる。アヤメがジークの風の存在に気付いた時には、既に彼は試合場どころか王都全体の風を掌握しつつあった。

「“融合”」

そして『天地』の風がアヤメが生み出した大量の風の刃を飲み込む。
彼の膨大の属性魔力が彼女の風を上書きして、すべての風を『天地属性』と融合させる。

さらに二つの属性を取り込んで生み出される融合属性だが、片方は七属性の力を使える『天地』だ。本来は複数の属性が必要な融合も扱えるようになる。

(来い────“天王”)

最上級の融合──“帝天”に並ぶ融合属性。
空を支配する対《天空界の掌握者ファルコン》用に編み出された融合属性。
相手は《無双》であるが、風使いであるなら問題ないと────ジークは纏った無色の光と風を操作して空中から呆然とする彼女を見下ろす。

「『王空殺しの魔剣アイテル』」

手から融合属性の魔剣を生み出すと軽い一振りを繰り出す。
咄嗟にアヤメが剣で守ろうとしたが、空圧を掛けて動けなくする。それでも彼女ならすぐにでも脱せれただろうが、咄嗟に剣を動かそうとしたのが悪手となった。

斬ッ!!

回避するだけの隙もなく、ジークの魔剣から放たれた斬撃は、彼女の胸元を斜めに切るようにして、背後の舞台の地盤に巨大なクレーターを作って見せた。

特別頑丈になった筈の試合場の一部が……まるでクッキーのように粉々になった。


◇◇◇


『──っ!!』

シルバー・アイズの反撃に見ていた観戦者たちからどよめきが起こるが、それは試合場全体に振動させる彼の魔力でもその力で振るわれる魔剣でもない。

属性や魔法を混合させる融合技法。
Sランク技法で“一体化”に並ぶ“融合”だが、使い手はそれほどいない。消耗が激しい以外にも使い勝手が難しくことが大きいからだが……つい前日、彼と同じ方法で・・・・・・・融合の技法を使用した者がいたのが最も大きな要因である。

『なんだが……見覚えのあるような』
『と、というか同じじゃないか? 普通はあんな風に使わないし……』
『いや、でもなんで……英雄が同じ技を?』

そんな疑問で騒つき出す会場。一部関係者などは彼の無警戒な対応に思わず頭を抱えたくなる。一応観戦者たちの疑問を打ち消す算段は用意しているが、まだ決闘も始まったばかりだと揃って沈黙を続けている。

ただ。

「……」
「な、なんだ? どうかしたかアイリス?」

アイリスはじーとした目で隣の席に座るジークを見ている。
彼女の隣には並んでサナと妹のリナが座っているが、二人とも緊張した様子で試合場を見ていて、こちらに気付いてない。

「……」

アイリスは無言でジークを見る。そして試合場で《無双》を圧倒するシルバーを見る。二人に視線を行ったり来たり、を何度か繰り返していくと最後にジークに視線を固定して……一言。

「……………………へぇ?」

微笑みを浮かべて呟きを漏らした。
が、微笑んでいる頰と口元と違い、目はちっとも笑っておらず見透かす瞳で戸惑っているジークを捉える。……というか、ジークの奥を覗き込むように見つめる。それはまるでかつての彼女のようだった。

(怖ぇえええええええええっ!! なに!? なに!? この冷たい目は!?)

懐かしくもあるが、思わず身震いをしてまう。
ジークの姿をした男バルトは視線からか、全身から冷や汗を流して今にも全部ゲロって、暴露してしまいそうになっていた。

(ヤバいヤバいヤバいヤバいッ!! あの目は絶対バレてる! 誤魔化しとか言い逃れができるレベルじゃねぇ! 女性陣が偶にやる逆らったらヤバい目だ!)

最初はまだバレてないということもあり、軽い気持ちでバルトは協力した。変化魔法については前に話したことがあり二人とも知っているが、肝心のジークの正体までは明かしていない。……分かるかもしれない展開は何度かあったが、運良く知られてない。

だからジークとシルバーは繋がらないとバルトもジーク自身も考えていた。……要はそれが甘かったのは言うことだ。

「ジークさん・・
「は、はい」

微笑んでいるアイリスに呼ばれ、怯えた様子でバルトが返事をする。さりげなく愛称ではなく“さん”付けでやたら強調気味なところが、完全に看破されている証拠に思えて心臓に悪い。

「試合が終わったらじっくり、じっくぅーーりと、聞かせてもらいますからね?」
「い、イエッサー」

そして有無言わせない威圧感溢れる微笑を前に、バルトは知り合いの女性陣を思い出しながら、軽い気持ちで引き受けたことを後悔する。寧ろ抵抗などやめてさっさとジークを売ってしまうか、など己の身を守ることに集中し……。

────ッッ!!

「っ!? なに!?」
「……こいつは」

試合場を突き刺すような、巨大な気配が姿を現した。


◇◇◇


大きな気配が生まれた直後。
斬撃を浴びて俯いたアヤメの纏っていた気の質が変わる。

追撃を仕掛けようとしたジークだったが、彼女の変化に気付き距離を取る。さりげなく視線を切られた胸元を覗き見ると、直撃した筈の肌には一切の血が出ておらず、綺麗な白い肌が微かにしか見えなかった。

「オレの魔剣を……気だけで耐えたのか?」

その異様な結果にジークは冷静に分析するが、この声音には僅かに戸惑いの色がある。気の使いであるのは知っていたが、まさかあの状況とタイミングで防御が間に合うとは。

それにアヤメが握っている刀も気になる。
握られた刀の刃から発光が起こり、脈動を打ちその度に存在感を増している。いきなり会場を全体に自身の存在を響かせた剣。ジークは警戒の目でその剣に意識を向けたが……。

「一太刀……一太刀、浴びせたのは褒めよう」

俯いたままのアヤメが呟きに剣に向けていた思考が止まる。
剣もそうだが、アヤメが発している気の質も徐々に変わり重く彼にのし掛かる。

「油断も認める。魔導師だと侮って見事に罠に嵌った。魔導の王と呼ばれる貴方を相手に風の魔法を頼るのは愚かな手だった」

そっと切れた着物の奥の肌に触れる。油断と言うがその表情は嬉しげだ。気だけで防いでいるが、見事な一太刀に彼女の中に眠る最強の剣士の魂が震えた。

「目を覚ませ────“天叢雲の剣アマノムラクモノツルギ”」

刀の脈動が止まり爆発。眩く神々しい光の刀となったそれを握り締めて、アヤメは内に秘めた気を解放する。

「はぁあああああああああああああああッ!!!!」

────轟ッ!! という気の波動が波のように会場を飲み込むと、爆発と振動に観客が狼狽する中、彼女の中心で“天叢雲の剣アマノムラクモノツルギ”と同じ光のオーラが膨れ上がった。

「では、ここからは本気でやろうか。────互いに」
「……ああ、そうだな」

ジッとその様子を見つめていたジークだが、アヤメがそう挑発的に言うと勿論だと言った感じに頷きまぶたを静かに閉じる。

内に秘めた力を持つのは彼女だけはない。
彼もまた同じように内の奥の奥にあるチカラへ手を伸ばす。そして意識を集中させると予想通りと言うべきか、以前よりも進化したチカラを捉えた。

(分かる、分かるぞ。これなら存分に戦える)

そうして以前であれば、慎重にすくい上げて馴染ませていたが、触れただけでもう違うのだと分かってしまう。

(借りるぞ《消し去る者イレイザー》ッ!!)

触れた手にしっかり馴染んでいるチカラを前よりも多くすくい上げる。瞬間、ドックン!! という大きな脈動が会場に響き渡り、彼の体内魔力と意図も簡単に繋がり合い共鳴を起こしてもう一度大きな脈動が打たれる。

アヤメのように……もしくはそれ以上の魔力の波動を爆発のように引き起こして無色の魔力光を迸らせた。

そんな異常な変化を起こした二人に唖然とする観客と冷や汗を大量に流す王族と仲間たち。……唯一近い実力を持つギルドレットやシィーナなどは、アヤメ・サクラの剣気の強化とジーク・スカルスの魔力強化に鋭い目線で警戒して見守る。

見た限り二人の実力は現時点で互角。技量ならアヤメが上をいき火力ならジーク。気ならアヤメで魔力ならジーク。異なる分野で頂点と言ってもいい同士が遂に本気で激闘する。

次の流れで戦いが一気に進むだろう。
決着の時は近いのは明白だ。

そして。

「「ッーー!!」」

同時に地面を蹴る。
互いに莫大の力を込めた魔剣と刀を構える。


「『絶対切断ジィ・────」
「『神斬リカミキリ────」


一直線に駆ける相手に最大の必殺剣技を発動する。

天王極エンド』ッッ!!」
神殺シカミゴロシ』ッ!!」

強化された“天王”のチカラを付与されたジークが原初魔法。
高められた剣気と“天叢雲の剣アマノムラクモノツルギ”による剣技。

それらがぶつかり合い、戦いは終局へと加速していく。
次に止まった時、それが決着の時だ。

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