オリジナルマスター
第4話 風の支配者と王空の征服者。
アヤメ・サクラの中心に風が吹く。
羽織りの浮き加減からそう見えるジークは第一の魔眼『透視眼』で警戒する。
戦い方を知っているのか、見失わないように集中する。
……だが。
「……!」
開始と共に彼の視界からアヤメが消える。
消える際には気配もなく、無意識に行う瞬きの間にアヤメの姿はジークの視界……魔眼からも消えて──。
「むッ!」
と、そこで息を呑む声を漏らした────アヤメが咄嗟に躱す。
一瞬で背後に跳んだ彼女が剣を振ろうとしていたが、跳んだと同時に生まれた複数の気配に攻撃を中断した。
(察知した、魔法か? だが何も感じなかったぞ? 魔眼でも使ってるのか?)
慌てることなく対応するアヤメだが、脳裏には疑問符が浮かぶ。
まるで予期していたかのように彼女を囲い無属性の魔弾レーザーが発射されるが、アヤメはそれを縫うようにして躱す。
気と風の感知能力を持つ彼女は魔力を掴めないジークの存在と魔法を察知することが出来る。
(魔力は感じないが、無属性なのは間違いない!)
すかさずジークのすぐ側まで駆け抜けて、風を纏った剣で彼の体を横から斬るが、ジークはそれを振り向かずに上半身をしゃがませて避けると、その勢いとシルバーの術式で強化された後ろ蹴りを浴びせようとするが、後退されて避ける。
「ふっ!」
しかし、そこで振り返りざまに剣を横薙ぎに振るい魔力を込めた剣圧を放つ。
避けれずアヤメが躰が吹き飛ばされるが、手応えの弱さから跳ぶように受け流したのだと悟る。再度剣圧を放ち追撃を仕掛けるが……。
「風よ、無空となれ」
魔斬術『無風・圧縮窯』。
刀を縦にして添えた展開した風の風船に包まれると潰されて消失する。
それを見てジークがさらに剣圧を放ち風を打ち破ろうとするが、風の風船の中は強烈な圧が掛かっているのか、次々と放たれる斬圧を潰していく────筈だった。
「──っ?」
一度、二度……五、六と剣圧を圧縮して押し潰す風の風船。
このままなら何度でも受け止めれる。アヤメはそう思った直後だった。
風船の形態を維持していた風が揺らぎを見せて崩れ出し。
萎んで綻びを見せた風船を、ジークの剣圧が突き破ったのは。
(回避を──っ!?)
即座に移動術を使い回避するが、そこでも異変が彼女を襲う。
確実に躱せると思ったが、移動術の発動が遅れる。普段ならすぐに発動するが、遅れたことで僅かに動きが乱れ、飛んできた剣圧が彼女の肩に掠るように当たる。……いや、当たってしまった。
「!? 何故……?」
彼女が扱う移動術は彼女が最も得意とする固有の技。
さらに言うなら攻略された経験も殆どない必殺剣技に繋げるもの。
衝撃で肩に痛みが走り体の軸が崩れたが、それよりも移動術が間に合わなかったことに驚きの反応を見せていたが……。
「『銀王の魔導煌』」
ジークはその隙に彼女の真上へ移動する。
銀の剣を逆さに持ち構えて剣先から銀光の刃を撃つ。
「風よ、光となれ!」
迫る銀光の刃をアヤメは心の動揺を消して迎え撃つ。
刀の刃に走らせた風が薄緑色へと輝き刃と同化した。
魔斬術『光風』。
降ってきた銀光の刃に向かって剣を掲げるように突きを放つ。
銀の光と緑の光がぶつかり、火花のように四方へ散る。
互いの剣撃が均衡している……と思えば、真上にいたジークが降り立ち剣を振るい、アヤメの剣とぶつかり合う。互いの刃の閃光が火花のように上がった。
『……』
同時に試合場を覆う結界のお陰で観戦者たちに被害はないが、散って飛ぶ二色の火花は試合場を駆け巡って、二人の剣が激闘すると激しくなり、加速する剣戟に呼応するように増していく。
観戦する者たちの中には慄き腰を抜かす者もいたが、大半は目の前の光景に眼を奪われて言葉を失っている。
アヤメの姿を見失えばいつの間にかシルバーの間合いに入り、鋭い風を纏った突きを繰り出す。
彼女の突きをシルバーが躱せば、返しに魔力を込めた剣で袈裟斬りから切り上げて追い詰める。
アヤメが再び姿を消してシルバーの剣戟から逃れると、追撃の魔法弾が繰り出されるが、軽業の剣捌きで流す。
観客の方に飛んでしまうが、観客席を守るように障壁が弾を防ぐ。その間にも互いの剣が交差していき、試合場で神速の剣舞が行われる。
その光景を見れば、昨日までの戦いがまるでおままごとのようであった。
圧倒的に次元が違う二人の戦いに、特に学生たちの大半は愕然となって口を閉ざし、自分の力量にそれなりの自信を持っていた者たちは、頂点である二人の超越者の戦いに追いていけず決定的な力の差に心が折れてしまそうである。
平和ボケの影響とも言えるが、大戦を経験してない学生たちにとって二人の戦いは桁違いだった。
が、そんな観戦者たちの心境など二人に分かる筈もない。
互いに相手の出方を見つつ剣を交える。
神速で繰り出される剣戟の応酬に纏っている光が削れていくが、すぐに魔力を込めると輝きを取り戻して攻め合う刃。
二人の剣技は完全に拮抗していた。……だが。
その拮抗が長引けば長引く程、彼女の脳裏で警報が激しく鳴り響く。
あり得ない事態だと彼女は焦りを感じていた。
(互角……互角だと? 馬鹿な、この男は魔導師の筈。剣術も中々だがそれでも一級。我が剣技と同じ領域に立つ《剣聖》、《天空王》、《剣豪》よりも劣っているのだぞ?)
最強の剣士である彼女だからこそ分かる彼の剣の技量。
魔法と組み合わされば苦戦は避けられないのは間違いないが、それでも格下の剣士である。
そんな彼の正面からの剣技に、彼女は必死に剣を振るわせるが、ジークはそれらの剣撃を流す逸らす避けるなど、徐々に余裕を見せて対処していっている。
剣の腕では間違いなくアヤメが優勢。
しかし、それ以外の何かによってその優勢が覆っていた。
「やはり簡単にはいかないか」
「それはこちらのセリフだ。完全に不意をついたと思えば……余裕で追いて来る。相当強力な察知魔法でも使用しているのか? こちらの手の内が完全に読まれている気分だ」
先程から得意とする消える剣技を使うアヤメ。
操る風を利用した特殊な移動技であるが、ジークはその不意打ちに対して的確に対処している。
既に十回以上ジークの不意を突いているが、まるで未来予知でもしているか移動と同時に繰り出される剣を躱し、弾き、さらに斬りに来ていた。
だが、それも未来予知をしているだけでは考え難い事態。予知程度で彼女の剣技は防げれるものではない。
しかし、それだけではない。
目で見えていないが、アヤメが放っていた攻撃は剣戟だけではない。
肌で感じる程度の微風となって無数の刃がジークを襲っていたが、刃はジークを切り裂くことなく何かに遮られるか、感知できるのか避けられていた。
「私が操る気配なき風の刃もどうやって防いでいる? いくら貴様でも気を込めた風を防ぐのは簡単ではないだろ?」
「さぁな、それを解くのも戦いじゃないのか?  ──!」
とジークが惚けたように返すと剣を盾にする。
腹の部分で地面を斬って走る斬撃を受け止めようとするが、衝撃で後ろへ足場を抉るように後退してしまう。すぐに仕掛けようとするが、張り巡らせた目に見えないアヤメの刃を気付くと、飛び出すのをやめて最適なルートを選び出す。
「ほぅ? 今度は防御したか、すぐに対応したようだが……!」
ギリギリのようで無傷に済んでいる彼を、アヤメは観察の目で見ながら張り巡らせた風を操り、刃で切り裂こうとする。
が、見えない刃に気付いたジークは出現したすべての刃を躱す。避けれないものも剣で弾き飛ばし手をかざすと飛んでいた風の刃が彼を拒絶するように左右に逸れていく。
(また逸らされた。やはり一定以下の威力の風は防げるのか。だが、先程のような攻撃に特化した斬撃などは普通に止めるしかない。違いがあるとすれば威力だが……ん?)
少し調べようとしたが、そこで試合場に巡らせた風に違和感を感じ取る。何だと目を細めて思考を巡らせるがすぐには分からない。
代わりに試合場に巡っている奇妙な風の存在に気付く。
自然物は違う。明らかに異物とも言える障害の風を。
(いや、待て何かおかしい。だが……まさか──っ!)
「カッ!!」
それは急接近して来たジークが風を避けて剣撃を与えて来た時だ。
神速と呼べる速度には今さら驚くことはないが、周囲の障害となる風を逆に従わせて駆ける姿にアヤメはある可能性を脳裏に浮かべた。
「そうか……!  貴様が利用しているのは風! 大気か!」
彼の剣を弾いて叫ぶと回転して一際大きい斬撃で牽制する。
(何かの風魔法か原初か!? いずれにせよ、この男私に気付かないように試合場の風を掌握して、こちらの風を妨害している!)
確信すると違和感の原因も察しがついた。
今までは攻撃、防御に自分の風を使用してきたが、索敵用の風を使用して普段とは違う風の流れに作為的なものを感じ取る。
大気は自然と同化するごく当たり前の存在。あって当然のものでありアヤメも不思議には感じてなかった。……だが、それこそ彼が仕掛けた策だ。
風の魔法を無詠唱で発動させているのか知らないが、周囲の風を操作して感知代わりにすることでジークはアヤメの移動術を見切っていた。
さらにアヤメが放つ風の斬撃も、障壁も操作まですべての能力を著しく落としていたのだ。
しかも、彼女が気付けないほどゆっくりと少しずつ。
彼女の剣技が彼と互角だったのは、彼が速いのではなく彼女が少しずつ遅れていた。
「風の操作で私に勝てると思うな!」
だが、タネが分かってしまえばアヤメに軍配が上がる。
風の操作を何段階も上げてジークの掌握範囲から引き離す。試合場全体にまで彼女の操作可能な風を行き渡らせると障害でもある彼の風を吐き出して、すべての風を刃にして彼を斬り刻もうと────。
「“融合”」
しかし、寸前で行き渡らせた風が消失。
一瞬で操作していた対象が消えたことで、アヤメは手に持っていた物を突然消えたような錯覚に合い思考が低下。不思議そうな顔で鈍く戸惑いを見せたが……。
(──支配権を、奪われた?)
「よう? どうしたよ、そんな呆けた顔して?」
しかし、次の瞬間目の前に浮くように現れた、無色に発光して風を束ねたシルバーの姿を見てすべてを理解する。ありえない量の風の集合体とも言える彼の姿に、彼女は理不尽であるが見事に罠に嵌められたのだと納得した。
(そうか、道理で魔法の気配がしなかった訳だ。こいつは最初から地の利を得ていたのか……『派生属性』か)
彼女の風が奪われたことを。
彼の方が一歩上を行っていたことを。
今まさに自分が危うい状況に立たされていることを。
(《大魔導を極めし者》か……侮ったか)
彼女の理解がようやく追い付いたの待ったのか、彼は悟った顔をしたアヤメを見ると銀剣を掲げる構えて魔力を込めた。
「『王空殺しの魔剣』」
変化して現れた薄い青き大剣の一閃。
移動術は愚か風の障壁も展開出来ず、咄嗟に剣でガードしようとしたが、突如重くなった躰に反応が遅れてしまう。
宙に立つ彼が放つ飛ぶ袈裟斬りを彼女はその身で受けてしまった。
羽織りの浮き加減からそう見えるジークは第一の魔眼『透視眼』で警戒する。
戦い方を知っているのか、見失わないように集中する。
……だが。
「……!」
開始と共に彼の視界からアヤメが消える。
消える際には気配もなく、無意識に行う瞬きの間にアヤメの姿はジークの視界……魔眼からも消えて──。
「むッ!」
と、そこで息を呑む声を漏らした────アヤメが咄嗟に躱す。
一瞬で背後に跳んだ彼女が剣を振ろうとしていたが、跳んだと同時に生まれた複数の気配に攻撃を中断した。
(察知した、魔法か? だが何も感じなかったぞ? 魔眼でも使ってるのか?)
慌てることなく対応するアヤメだが、脳裏には疑問符が浮かぶ。
まるで予期していたかのように彼女を囲い無属性の魔弾レーザーが発射されるが、アヤメはそれを縫うようにして躱す。
気と風の感知能力を持つ彼女は魔力を掴めないジークの存在と魔法を察知することが出来る。
(魔力は感じないが、無属性なのは間違いない!)
すかさずジークのすぐ側まで駆け抜けて、風を纏った剣で彼の体を横から斬るが、ジークはそれを振り向かずに上半身をしゃがませて避けると、その勢いとシルバーの術式で強化された後ろ蹴りを浴びせようとするが、後退されて避ける。
「ふっ!」
しかし、そこで振り返りざまに剣を横薙ぎに振るい魔力を込めた剣圧を放つ。
避けれずアヤメが躰が吹き飛ばされるが、手応えの弱さから跳ぶように受け流したのだと悟る。再度剣圧を放ち追撃を仕掛けるが……。
「風よ、無空となれ」
魔斬術『無風・圧縮窯』。
刀を縦にして添えた展開した風の風船に包まれると潰されて消失する。
それを見てジークがさらに剣圧を放ち風を打ち破ろうとするが、風の風船の中は強烈な圧が掛かっているのか、次々と放たれる斬圧を潰していく────筈だった。
「──っ?」
一度、二度……五、六と剣圧を圧縮して押し潰す風の風船。
このままなら何度でも受け止めれる。アヤメはそう思った直後だった。
風船の形態を維持していた風が揺らぎを見せて崩れ出し。
萎んで綻びを見せた風船を、ジークの剣圧が突き破ったのは。
(回避を──っ!?)
即座に移動術を使い回避するが、そこでも異変が彼女を襲う。
確実に躱せると思ったが、移動術の発動が遅れる。普段ならすぐに発動するが、遅れたことで僅かに動きが乱れ、飛んできた剣圧が彼女の肩に掠るように当たる。……いや、当たってしまった。
「!? 何故……?」
彼女が扱う移動術は彼女が最も得意とする固有の技。
さらに言うなら攻略された経験も殆どない必殺剣技に繋げるもの。
衝撃で肩に痛みが走り体の軸が崩れたが、それよりも移動術が間に合わなかったことに驚きの反応を見せていたが……。
「『銀王の魔導煌』」
ジークはその隙に彼女の真上へ移動する。
銀の剣を逆さに持ち構えて剣先から銀光の刃を撃つ。
「風よ、光となれ!」
迫る銀光の刃をアヤメは心の動揺を消して迎え撃つ。
刀の刃に走らせた風が薄緑色へと輝き刃と同化した。
魔斬術『光風』。
降ってきた銀光の刃に向かって剣を掲げるように突きを放つ。
銀の光と緑の光がぶつかり、火花のように四方へ散る。
互いの剣撃が均衡している……と思えば、真上にいたジークが降り立ち剣を振るい、アヤメの剣とぶつかり合う。互いの刃の閃光が火花のように上がった。
『……』
同時に試合場を覆う結界のお陰で観戦者たちに被害はないが、散って飛ぶ二色の火花は試合場を駆け巡って、二人の剣が激闘すると激しくなり、加速する剣戟に呼応するように増していく。
観戦する者たちの中には慄き腰を抜かす者もいたが、大半は目の前の光景に眼を奪われて言葉を失っている。
アヤメの姿を見失えばいつの間にかシルバーの間合いに入り、鋭い風を纏った突きを繰り出す。
彼女の突きをシルバーが躱せば、返しに魔力を込めた剣で袈裟斬りから切り上げて追い詰める。
アヤメが再び姿を消してシルバーの剣戟から逃れると、追撃の魔法弾が繰り出されるが、軽業の剣捌きで流す。
観客の方に飛んでしまうが、観客席を守るように障壁が弾を防ぐ。その間にも互いの剣が交差していき、試合場で神速の剣舞が行われる。
その光景を見れば、昨日までの戦いがまるでおままごとのようであった。
圧倒的に次元が違う二人の戦いに、特に学生たちの大半は愕然となって口を閉ざし、自分の力量にそれなりの自信を持っていた者たちは、頂点である二人の超越者の戦いに追いていけず決定的な力の差に心が折れてしまそうである。
平和ボケの影響とも言えるが、大戦を経験してない学生たちにとって二人の戦いは桁違いだった。
が、そんな観戦者たちの心境など二人に分かる筈もない。
互いに相手の出方を見つつ剣を交える。
神速で繰り出される剣戟の応酬に纏っている光が削れていくが、すぐに魔力を込めると輝きを取り戻して攻め合う刃。
二人の剣技は完全に拮抗していた。……だが。
その拮抗が長引けば長引く程、彼女の脳裏で警報が激しく鳴り響く。
あり得ない事態だと彼女は焦りを感じていた。
(互角……互角だと? 馬鹿な、この男は魔導師の筈。剣術も中々だがそれでも一級。我が剣技と同じ領域に立つ《剣聖》、《天空王》、《剣豪》よりも劣っているのだぞ?)
最強の剣士である彼女だからこそ分かる彼の剣の技量。
魔法と組み合わされば苦戦は避けられないのは間違いないが、それでも格下の剣士である。
そんな彼の正面からの剣技に、彼女は必死に剣を振るわせるが、ジークはそれらの剣撃を流す逸らす避けるなど、徐々に余裕を見せて対処していっている。
剣の腕では間違いなくアヤメが優勢。
しかし、それ以外の何かによってその優勢が覆っていた。
「やはり簡単にはいかないか」
「それはこちらのセリフだ。完全に不意をついたと思えば……余裕で追いて来る。相当強力な察知魔法でも使用しているのか? こちらの手の内が完全に読まれている気分だ」
先程から得意とする消える剣技を使うアヤメ。
操る風を利用した特殊な移動技であるが、ジークはその不意打ちに対して的確に対処している。
既に十回以上ジークの不意を突いているが、まるで未来予知でもしているか移動と同時に繰り出される剣を躱し、弾き、さらに斬りに来ていた。
だが、それも未来予知をしているだけでは考え難い事態。予知程度で彼女の剣技は防げれるものではない。
しかし、それだけではない。
目で見えていないが、アヤメが放っていた攻撃は剣戟だけではない。
肌で感じる程度の微風となって無数の刃がジークを襲っていたが、刃はジークを切り裂くことなく何かに遮られるか、感知できるのか避けられていた。
「私が操る気配なき風の刃もどうやって防いでいる? いくら貴様でも気を込めた風を防ぐのは簡単ではないだろ?」
「さぁな、それを解くのも戦いじゃないのか?  ──!」
とジークが惚けたように返すと剣を盾にする。
腹の部分で地面を斬って走る斬撃を受け止めようとするが、衝撃で後ろへ足場を抉るように後退してしまう。すぐに仕掛けようとするが、張り巡らせた目に見えないアヤメの刃を気付くと、飛び出すのをやめて最適なルートを選び出す。
「ほぅ? 今度は防御したか、すぐに対応したようだが……!」
ギリギリのようで無傷に済んでいる彼を、アヤメは観察の目で見ながら張り巡らせた風を操り、刃で切り裂こうとする。
が、見えない刃に気付いたジークは出現したすべての刃を躱す。避けれないものも剣で弾き飛ばし手をかざすと飛んでいた風の刃が彼を拒絶するように左右に逸れていく。
(また逸らされた。やはり一定以下の威力の風は防げるのか。だが、先程のような攻撃に特化した斬撃などは普通に止めるしかない。違いがあるとすれば威力だが……ん?)
少し調べようとしたが、そこで試合場に巡らせた風に違和感を感じ取る。何だと目を細めて思考を巡らせるがすぐには分からない。
代わりに試合場に巡っている奇妙な風の存在に気付く。
自然物は違う。明らかに異物とも言える障害の風を。
(いや、待て何かおかしい。だが……まさか──っ!)
「カッ!!」
それは急接近して来たジークが風を避けて剣撃を与えて来た時だ。
神速と呼べる速度には今さら驚くことはないが、周囲の障害となる風を逆に従わせて駆ける姿にアヤメはある可能性を脳裏に浮かべた。
「そうか……!  貴様が利用しているのは風! 大気か!」
彼の剣を弾いて叫ぶと回転して一際大きい斬撃で牽制する。
(何かの風魔法か原初か!? いずれにせよ、この男私に気付かないように試合場の風を掌握して、こちらの風を妨害している!)
確信すると違和感の原因も察しがついた。
今までは攻撃、防御に自分の風を使用してきたが、索敵用の風を使用して普段とは違う風の流れに作為的なものを感じ取る。
大気は自然と同化するごく当たり前の存在。あって当然のものでありアヤメも不思議には感じてなかった。……だが、それこそ彼が仕掛けた策だ。
風の魔法を無詠唱で発動させているのか知らないが、周囲の風を操作して感知代わりにすることでジークはアヤメの移動術を見切っていた。
さらにアヤメが放つ風の斬撃も、障壁も操作まですべての能力を著しく落としていたのだ。
しかも、彼女が気付けないほどゆっくりと少しずつ。
彼女の剣技が彼と互角だったのは、彼が速いのではなく彼女が少しずつ遅れていた。
「風の操作で私に勝てると思うな!」
だが、タネが分かってしまえばアヤメに軍配が上がる。
風の操作を何段階も上げてジークの掌握範囲から引き離す。試合場全体にまで彼女の操作可能な風を行き渡らせると障害でもある彼の風を吐き出して、すべての風を刃にして彼を斬り刻もうと────。
「“融合”」
しかし、寸前で行き渡らせた風が消失。
一瞬で操作していた対象が消えたことで、アヤメは手に持っていた物を突然消えたような錯覚に合い思考が低下。不思議そうな顔で鈍く戸惑いを見せたが……。
(──支配権を、奪われた?)
「よう? どうしたよ、そんな呆けた顔して?」
しかし、次の瞬間目の前に浮くように現れた、無色に発光して風を束ねたシルバーの姿を見てすべてを理解する。ありえない量の風の集合体とも言える彼の姿に、彼女は理不尽であるが見事に罠に嵌められたのだと納得した。
(そうか、道理で魔法の気配がしなかった訳だ。こいつは最初から地の利を得ていたのか……『派生属性』か)
彼女の風が奪われたことを。
彼の方が一歩上を行っていたことを。
今まさに自分が危うい状況に立たされていることを。
(《大魔導を極めし者》か……侮ったか)
彼女の理解がようやく追い付いたの待ったのか、彼は悟った顔をしたアヤメを見ると銀剣を掲げる構えて魔力を込めた。
「『王空殺しの魔剣』」
変化して現れた薄い青き大剣の一閃。
移動術は愚か風の障壁も展開出来ず、咄嗟に剣でガードしようとしたが、突如重くなった躰に反応が遅れてしまう。
宙に立つ彼が放つ飛ぶ袈裟斬りを彼女はその身で受けてしまった。
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