オリジナルマスター

ルド@

第25話 傾く続ける戦いと散っていく友たち。

「ギル!?」
「ギルドレット様!?」

SSランク超越者の敗北に戦況が大きく傾き出す。

全身を剣で串刺しとなり、火炙りとなって倒れたギルドレットを見て絶句する面々だが、そんな彼らの心境など察する筈もなく、つまらなそうに倒れるギルドレットを見送って、ジークは立ち上がったゼオへ標的を移す。
瞬間、彼の纏っている魔力が渦を生み出し始める。

すると全身を飲み込んで、その場から彼の姿を消した。空間移動の『短距離移動ショートワープ』である。
そしてゼオの死角より同じ赤黒い渦が出現すると、出て来たジークは龍の顎門の腕でゼオを噛み切ろうとした。

「ッ……!! ふんッ!!」

が、寸前で振られた大鎚によって、ジークの攻撃は阻まれる。
下から振り上げられた大鎚と顎門が激突し合うと、激しく火花を散らしていく。

「ふん!! はあああああああ!!」

そこで振り絞るようにゼオが吠えると、身体強化と獣王の鎧を全開にし、龍の顎門を押し返す。衝撃でジークの体が後ろへ傾き、振り上げた際に放たれた雷光で放出していた龍の瘴気も跳ね返した。

「解き放て『壊雷を墜とす神の大鎚ミョルニル』!!」

そして体勢を崩したジークに向けて、ゼオは大鎚の力を全解放させ迸らせる神雷を纏って、大鎚の先から巨大な雷を放つ。

向けられる雷をジークは避けることなく受け止める。『古代原初魔法ロスト・オリジン』ということもあり、接触の際に纏っている魔力が蒸発してジーク自身にも少なからず神雷が駆け巡っていく。

「グァアアアアアア!!」

が、痛みを気にせず体全体で受けるジークが踏み堪えたところで、限界が来たか雷の放出も止まる。

「ガァアアアアアアアア!!」

すかさずジークは背中から魔力を噴き出して飛ぶ。再び右腕を龍の顎門にすると、今度は剣ではなく鋭い棘付きの棍棒を吐き出せて、大鎚のガードを弾き鎧越しにゼオの横脇を棍棒で削り殴る。

「がーーッ!?」

バキバキと鎧が砕ける音と、メキメキといった数本の肋骨が折れる音がその場に低く響く。

結果ゼオの巨体は横に折れ曲がって飛ばされ、受け身も取れず地面に転がって、彼が起き上がる前に上空より、巨大化した棍棒が振り下ろされる。

それを動かない躰で見ていたゼオは、自分はここまでだと悟ると申し訳なさそうな顔で、声が出せない口を開く。

(すまないアイリス君。あとは、頼む……)

心の中で娘の親友の名を口にして、そこで彼の意識は閉ざされた。

最後にドンッと地響きを上げてゼオの巨体は、巨大な棍棒の下に埋まるようにして姿を消した。その隙間から次第に血が漏れ出したが、その光景を見ている余裕など誰にもなかった。

「……」

そして、またつまらなそうに見ていたジークの手元には、魔道具で出来た棍棒と入れ替わるように神の大鎚が握られ、冷気を帯びた魔眼の瞳は静かにそちらを捉えていた。


◇◇◇


「ッ」

入り込むことができず、見ているしかなかったティアは、倒れていくギルドレットとゼオを見て絶句。さらにジークの手元に収まった大鎚を見て、次第に血の気が引き深刻な事態だと焦り出した。

(いけない! ルールブ伯爵の大鎚は原初魔法の中でも最強クラスの一つ! もしアレを彼の魔力内に取り込まれたら、ただでさえ今でも手が付けられない状態なのに、いよいよ国そのものが危うくなる!!)

原初魔法を取り込む度に、彼の魔力は成長して進化してきた。

大戦時にその秘密を知った当初は、なんとも頼もしく底の見えない少年だと思ったティアだが、今はそんな特異な能力を持つ彼の存在が恐ろしい。

そんな彼が『古代原初魔法ロスト・オリジン』でもある大鎚を持っている状況だ。

自分よりも強いギルドレットやゼオが倒れた以上、無謀以外の何ものでもないとしても、国を守り抜くと決意したティアはここで臆することはできない。

「『月光の聖剣ルナ・セイバー』、『精霊剣舞の型エレメンタル・ソードダンス』、『剣舞の型・光ソードダンス・ライト』、『光速の馬脚シュヴァル・ラン』!!」

決死の覚悟で飛び掛ったティアの聖剣が煌めく。聖属性のオーラを鋭く纏い、光り輝くティアは横薙ぎでジークを切り裂こうとする。今のジーク相手に僅かな迷いも致命的だと理解して剣速を最大にして攻め入る。

「シルバー!」
「ガァアアアアア!!」
「……! 硬いっ!」

しかし、纏っている魔力の装甲は非常に分厚く、彼が反応するよりもずっと早く帯のように伸びる魔力の触手が、ティアの光速の聖剣を止めて弾いてしまう。

反応して振り返ったジークに合わせて、赤黒い触手は鞭のようにティアに打ち付ける。それを剣でガードしたティアだが、高濃度かつ分厚い魔力の塊であるジークの触手は、異常な溶解効果を備えてティアの剣を削ぎ、衝撃で彼女の躰を突き飛ばした。

「かはっ!! ────ッ!?!?」

地面に倒れた衝撃で肺の空気が溢れるティアだが、ゾクッと背筋に走る悪寒に強化された脚力でその場から強引に離脱。

そうして遅れて倒れた場所に突き刺さる剣を見て、その悪寒が正しかったのだと、安堵と緊張が混じり合った顔で放った彼へと視線を向けた。

(武器召喚まで平気で使い出しましたか! 戦闘に魔法を混じらせてきたと思いましたが、まさか無意識に自分の戦い方に戻ってませんかシルバー!?)

悲鳴に近い心の叫び。それでも剣を維持して立ち向かうのは、やはり王族としての使命からか、それとも戦友で……意識している相手だからか。

(負けられない。絶対負けられない!)

そうだ。退くわけには絶対にいかないのだ。
そうして徐々に強さを増していくジークを前に、ティアは聖剣を構えようとする。
だが、そんなティアを制するように金色のロングが視界に入った。

「不用意に飛び込むな。今の友は全身が凶器、近接戦は危険過ぎる」

踏み込もうとしたティアを止めてシャリアが前に出る。そう口にするシャリア自身も決して相性の良い相手とは言えないが、ティアを殺されてしまう可能性がある以上、放っては置けない。

なにより。

(《白銀》が何か狙ってる。さっきからずっと魔力を練って術式準備に入ってるようだ)

視線を僅かに動かして目を瞑って魔法式を練るシィーナへ。ふき飛ばされて以降、一旦ギルドレットたちに任せて魔力を練っていたが、まだ準備が終わっていない様子だ。

(《白銀》は必要のないことはしない主義だった筈、この戦いの勝機が彼女・・だとしても、このままではまず無理だろう)

ならば、最低限シィーナが望む状況にするがベストであろう。
果たしてどこまで出来るか分からないが、とにかくシャリアがやるべきことは。

「そなたを可能な限り弱らせることだな!」

杖を棒術のように構えて飛び込む。背後から呼び止めるティアの声が掛かるが、シャリアは振り返らず、来るなと投げ掛けてジークの魔力が溢れる、彼の射程圏に入った。

途端、着ている魔法服に付与された浮力効果で浮く彼女の足元から、赤黒い魔力の触手と武器召喚で飛び出た槍や剣が襲い掛かる。

(やはり来た。防衛本能か、攻撃数も質量も大きいが、よく見れば単調。……避けるのは可能だ)

触手はよく分からないが、どちらも無意識のレベルで発動させたジークの魔法と考えても良いようだ。

注意深く分析してそう判断したシャリアは杖から丸いレンズのような障壁を展開。触手と武器類に障壁を打つけるというよりも、逸らすような捌き加減で操作する。

(どれも攻撃力が高いが、魔力操作が雑の一言。多少劣っている障壁でも工夫すれば……!)

とんでもないジークの飛び道具にも対抗が可能だ。
壊れそうになっても何度も作り直す障壁を操作して、飛んでくる武器を受け流してやり過ごし接近していくシャリア。

近づくにつれてジークの攻撃力も上がっていき、触手を束ねて巨大な龍に変化させて襲わせて来る。彼の本能のままに動く龍は、飛行して接近するシャリアを捉えると顎門を大きく開く。

その口から赤黒い炎を……『竜蒼の息吹バースト・エンド』が放ちシャリアを焼き尽くそうとした。

「シャリア様っ!?」

シャリアを飲み込もうとすドス黒い炎を見て背後から、ティアの叫び声が聞こえてくるが、シャリアは止まらず前方の炎に向かって障壁の光魔法を発現。

「『輪光の絶障壁サンシャイン・クリフ』!!」

光輝の絶壁シャイニング・クリフ』に精霊力が混ざった障壁だ。
精霊の魔法陣が描かれた強力な障壁で大抵の攻撃であれば防ぎ切れるが、龍の炎もまた強力で受けると徐々に溶けて崩れてしまう。

「まだだ友よ!!」

だが少しでも保ってくれれば、その隙を狙える。
完全に障壁が消失する前に炎の射程から逃れ、Cランクの『光球ライト・ボール』を四方から飛ばして注意を向けさせる。

(さぁエサだ、食い付け!!)

「ガァッ!!」

ジークの警戒がその球に移るのを漂う魔力で確かめると、シャリアは精霊魔法を唱えて、杖に魔力を注ぎ形状を変化させる。

「『精霊界に棲みし精霊よ』『光の存在たる光の精霊よ』『盟約に従い我に力を』『盟約に従い我を庇護せよ』『意思なる武具を我が手に』『誇りある刃を我が杖に』『誇りある衣を我が身に捧げよ』」

それは杖を飲み込むようにして、螺旋のように形状をした鋭い槍となる。
そして服の上から纏うように、銀色の甲冑を身に付けた。

「『精霊武装』────【白星剣姫ハクセイケンキ】」

契約している精霊が扱う武具を、一時的に借り受ける精霊魔法だ。

精霊ヴァルキリーが使用していた武装を身に付けて、聖霊王直轄の精霊騎士の切り札である槍を握る。まともに受ければ精霊王であっても、ただでは済まないSランク以上の一槍だ。

(本来は悪霊などの大群を滅する為に使用されるが、ジークの魔力を消費させるのなら……)

過剰とも呼べる一槍を手に、シャリアは魔法球を陽動にジークの懐まで接近する。だがそれも簡単ではなく、察知したのか漂っている魔力の触手の先端がドリルのように回転。
追い払うように触手が向かって来る。やはりというべきか、一部の魔力は正確にシャリアを捕捉している。

魔力こっちは暴走しても察知が早い。誘導されているのは、友の意思と魔力の自動察知が混合している所為か?)

迫ってくる触手と自分との間に障壁を展開して足止めし、その間に躱すことで致命的な一撃から逃れる。

瞬時に展開できる程度の障壁では、そこまでの強度はないが、僅かな足止めと身に付けている鎧のお陰で致命的な攻撃を避け続け、とうとうこちらに気が付いて視線を向けたジークの懐まで入り込む。

「気付くのが遅かったな! 今度の槍は貫く程度は済まんぞ!!」
「────ッ!?」

構えた螺旋状の光槍を遅れて反応したジークの腹部を貫く。

しかし、彼の魔力だけはしっかりと反応しており、肉体の一部を魔力化。部分的な“一体化”で貫かれた箇所をただ受け流しただけにする。遅れて反応したジークが眼前にいるシャリアを捉え、魔力を帯びた手刀でその頭部を貫こうとした。

(あと少し早ければ……届いたな。────いくぞ)

目の前まで迫る手刀を見てもシャリアは動じない。
何故なら届く前に彼女の槍は、効果を発揮したからだ。


「『軍勢を下す剣姫の裁きヴァルキリア・ジャッジ・レイド』」


貫かれた放出された光は、手刀を繰り出そうとしたジークの動きと魔力を止める。

その光は浄化の光。
悪霊を滅する浄化効果は、瘴気とも言え精霊と相性が最悪な魔力。

「ガァァア!? グガアォォアアアアアォアォアアガォアアアッッ!?」

回転して放出される光は、ジークの魔力を内部から蒸発させる。体内から焼けていく刺激に絶叫して、突き刺さる槍を引き抜こうと掴むがそれが悪手だ。

触れた手が焼けたような感覚に襲われ、纏っている魔力が蒸発する。これまでも魔力の出力が跳ね上がって精霊魔法も弾いていったが、シャリアが引き出した槍は倒れた騎士精霊ヴァルキリーが扱う切り札だ。

(それでも倒すのは無理だろ。だが、その膨大な魔力は果たして無事に残るか?  無限にも等しいが、それは憎しみの塊・・・・・。それが一気に消費すれば残った彼自身はどうなる?)

放出される浄化の光は膨れみ膨張する。
次第に動けずに叫ぶジークを包み込んで見せると、その体内に宿っている憎しみの根源を……。

「シャリア様ッ!!」
「────ん?」

『……』

ソレはそっと……、彼女の背後に立つ。
その存在を目視し驚き、彼の叫びを押し退けてティアが叫び上がるが、剣を持ったそいつは思わず振り返った彼女を待たない。

視線を移したと同時に赤黒い魔力を帯びた、剣を振り下ろした。

斬ッ!!

「は……?」
『……』

実に鮮やかな袈裟斬りである。
肩から斜め下に出来た切り口は、その皮膚の上にある鎧を紙切れの如く捌き、彼女の胸元を中心に斬り裂かれた部分から、血が噴き出してしまった。

「ど、どうして……? そ、なたが……?」

胸元から広がる痛みの熱に、精霊魔法に注いでいた集中が途切れ、武装形態が崩れ出し始める。浄化の光を放出していた槍も急激に光が弱まってしまい、抵抗力が落ちたところでジークの魔力に侵食されて溶けるように消えた。

だが、それよりもシャリアは視線は背後に立つ存在に集中していた。
この状況では自殺行為に等しい行為だが、それでも意識を奪われしまう。

『……』

その者は全身が赤黒い色だった。
ローブを羽織って服装も全身が赤黒一色。髪も瞳も赤黒い魔力が生み出したかのような色をしており、唯一その瞳はジークの魔眼と同じ金色の輪郭と銀の瞳孔をしていたが、シャリアが注目したのはその顔だった。

距離があったティアは分からなかったかもしれないが、それはシャリアやキリアであれば、よく知っている顔だったからだ。

髪や瞳などの色は一切異なるが、それはかつてウルキアで活動を決めて、自分の存在を隠す為に用意した仮の姿。無念にもあの大戦で犠牲となり、ジークが尊敬した次期国王だったライン・エリューシオンをイメージして生まれた存在。

謎に包まれた赤き魔法使い。
理解も追い付かない魔法を扱う奇術師。
ウルキアのギルドマスターの隠し球。
Sランク級の冒険者とまで噂される人物。

「ジョ、ド?」

《真赤の奇術師》ジョド。
武器召喚で取り出された剣と槍を持って、無機質な感じの瞳でシャリアを見つめる。意識なども欠けらもないのか、シャリアの声に反応せず静かに立っていた。

(あり得ない、ジークのあの姿は変装魔法で出来たものだ。決して彼が二人いる訳ではない)

余りにも常識外れの現象に、シャリアは思考の渦に呑まれる。もう動けるようになったジークが背後から狙っていたが、斬り裂かれた痛みが彼女の動きを鈍くした。

「シルバー……そなたはいった────」

呆然とした呟きを遮り横から咥えるように、赤黒い龍がシャリアの胴体に噛み付く。
背後に立つジークの腕から出てきた龍は、鎧を噛み砕き大人の姿である彼女の肉体に深く、牙を埋め込んでミチミチと肉が裂け、血飛沫を上げさせ……。

『……』

眼前に立つジョドの剣先が彼女の胸元を突く。背後から悲鳴を上げて駆けてくるティアの気配を感じるが、シャリアは不思議と笑みを溢して微笑んだ。

「お、おお……、流石は、友だ……」

まさかこんな奥の手まで隠していたと。
そう口に仕掛けるが、喉から漏れる血がその声を遮ってしまう。

そしてトドメとも言わんばかりに、ジョドが跳躍してシャリアに向かって空いた槍を投擲。
すると槍の効果か、彼の魔法か分からないが、一瞬で並ぶように百近い同じ槍が出現する。

後退したジークの後、呆然と龍に喰われるシャリアの上空から、槍の雨が降り注がれたのだ。

「ダメ!! シャリア様!!!!」

逃げる様子も見せないシャリアへ、ティアは悲痛のように叫び、光魔法の脚力で駆けつけようとしたが。

「なっ!?」

その行く手をシャリアが呼び出していた下級精霊が阻む。弱き光であるが、存在を賭けた渾身の光を放つことで、光速の如き速度で駆けていたティアを止めた。

「邪魔をっ……、……ッ!?!?」

いったい何を血迷ったかと激怒し掛けるティアだったが、その精霊が悲しんで消えていくのが分かり言葉を失ってしまう。

「シャリア様の……意思?」

そう、これは精霊が望んだことではない。
無茶をして巻き添えに入ろうとした自分を止めてくれと、主人であるシャリアに頼まれたからだ。

「そんな、シャリア……様っ!」

泣きそうな顔でティアは膝を付いてしまう。
そんな彼女の前には、無数の槍で出来た森があり、シャリアが立っていた場所を中心にそれは、堂々とした圧倒的な存在感を放ち続けていた。





「すみません、皆さん」

そうして倒れていく仲間に向けて、黙々と魔力を練っていたシィーナが謝罪を口にする。

手のひらに描かれた魔法陣を眺めながら、これまでの戦闘を加勢せず見ていた彼女だが、シャリアが倒れてしまったところで杖を構えた。

シャリアも皆も承知であったが、シィーナは辛そうな顔で発動が可能となった魔法を……。

「必ず止めてみせます。……『ヘルメス・・・・』────発動」

ジークを対象に発現させた。

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