オリジナルマスター

ルド@

第24話 赤黒き炎が散らす天空の騎士。

「……?」

それは暴走化状態での直感であろう。
龍の顎門と化した腕でシャリアの片腕を喰いちぎったジークだったが、そのまま畳み掛けようとする寸前、続けて首に喰らい付こうとした顎門を止めた。

……仮にもしこの時、彼の意識がハッキリしていれば、その異変の正体にも気付けただろうが、今のジークにはそれだけの知能すら、憎しみ染まってしまいまともに機能していない。

喰いちぎられた部位から血が流れず、剥き出しとなった部分が光って見えても、何も不思議とは思わなかった。


片腕を無くしたというのに、平然とこちらへ飛び掛ったシャリアに対しても疑問が浮かばず、ただ不意つかれた程度の驚きを見せていた。


「……ッ!?」

先程は咄嗟に攻撃の手を止めたが、あれはあくまで野生的な反射動作。
今度は残った腕で杖を振るう彼女を見つめ、片手に生み出した龍の顎門を伸ばして、躊躇うことなくシャリアの胴体へ噛み付かせた。

「……??」

瞬間、喰らい付いたシャリアの体が光となって形を失ってしまう。
そしていくつもの光の鎖へと変化して、喰らい付いた龍の顎門を縛り上げる。それを見て慌てて退がろうとしたジークも逃さず、全身まで伸びていき縛り上げた。

鎖の先は地面などに食い込んで固定されると、そんなジークの背後から光の粒子が出現して集まり、人の形となって姿を見せた。

「さすがにその状態では気付けなかったようだな────友よ」
「……ッッ!!」


姿を見せたシャリアがそこから続けて光の杭を発現。
動けないジークの四肢を固定するように撃ち込む。

Cランクの『光の捕縛ライト・バインド』にBランクの『輝きの縛り杭ライト・パイル』で、どちらも瘴気まみれのジークには通じるような魔法ではない。それこそ先程の槍のように触れたように、容易くあちらの魔力に飲まれてしまう程だ。


ただし。


「やはり精霊に対しては相性が悪いままか、精霊には多少無茶させたが、どうにか効いたようだ」

シャリアが行ったのは、実体を変化させる精霊の特性を活かした方法だった。

最初に龍の顎門が喰らい付いたのは、主人に化けたシャリアの騎士精霊【白星剣姫】。咄嗟に後退したように見せたシャリアと入れ替わって、身代わりとなっていた。

精霊の力と光の魔法を合わせたことで、光の鎖は『光輝の束縛鎖シャイン・ バインド』、光の杭は『輝く束縛の杭シャイン・パイル』と変化していた。

「そのまま縛り上げろ“ヴァルキリー”!!」
『……!!』
「ッ……ガァ!?」

鎖同様に杭にも精霊が宿っている。シャリアに命に従って彼の動きと魔力を可能なだけ封じる。やはり肉体はともかく、魔力の方はいつまでも縛り続けれないようだが、それでも時間稼ぎにはなった。

閃光の刃と青き雷が雄叫びを上げる。

「『天の栄光を刻む剣ラス・アスカロン』ッ!!」
「“業雷”ッ!!」

僅かに生まれた硬直を利用して、神の大鎚を持つゼオと“一体化”で折れた腕に聖剣を取り付けたギルドレットが仕掛ける。
力でどれだけ押し切れるか分からないが、ゼオは大鎚から莫大な量の雷を出して、ギルドレットも剣となった腕に魔力と気だけなく、翼の推進力も注いで一点に集中させた。

「ッ……!!」

左右から攻めてくる剣の突きと大鎚に、光の拘束から抜け出そうとするジークだが、縛っている精霊はシャリアも好む高位精霊なだけに踏み堪えていた。

縛っている杭も鎖も瘴気に蝕まれて少しずつ消失していくが、懸命に暴れようとする魔力を抑えて二人の攻撃まで持ち堪え────。

「ガァアアアアアアアアアアアアアアア!!」
『……ッ!?  ッ!?』

堪えようとしたが、そこで竜王の如き咆哮を上げたジークの雄叫びが木霊こだまする。実体にも異常を起こしているのか、串刺しとなった体からは血が上がらず、穴が空いた部分からは赤黒い瘴気が漏れ、塗り潰すように傷口が塞がっていた。

そして纏っている魔力が波動となって全身から解き放たれると、縛り上げていた光の精霊に喰らい付いて束縛から抜け出すと共に、精霊を粉々に噛み砕いて見せた。

「馬鹿な!? 聖霊王直轄の守護精霊が……! こんなあっさりに!?」

その様子を信じられない顔で目撃したシャリアが驚きの声を上げる。

確かに今のジークの魔力はこれまでにないほど全開かつ危険な状態だ。それでも自信のある高位精霊の縛りがある以上、少しの間は確実に抑えれると思っていた。

(想像以上の魔力出力だと言うのか!? ヴァルキリーも本気だったが、その縛りを跳ね除けるとは!)

決して死んだわけではないが、頼りになる精霊が消えてしまった状況では、いくらシャリアでもジークとの魔法戦は厳し過ぎる。他の精霊もなくはないが、大抵の精霊では彼を抑えることなどできるわけがなかった。

「ァアアアアアア!!」

再び触手のように出て赤黒い魔力が変化する。
腕に出来た顎門と同じ龍が十数体、触手の先から出て来るとジークの雄叫びと共に迫っていた二人へ。

ガシッ!!

瘴気の漏らす顎門を開けてギルドレットの盾と剣や金色の翼。ゼオの大鎚と鎧の四肢に喰らい付いて動きを止めたのだ。

「なっ!?」
「いかん!! ギ────っがぁ!?」

ゼオの方は鎧のお陰で噛み砕かれず侵食もされなかったが、噛み付く龍たちに容易く持ち上げられてしまう。

抵抗もできないまま地面に叩き付けれると、鎧越しに全身に来る重い衝撃に数秒だが、意識を朦朧としてさせてしまった。

「ゼオ!? ッ……オオ!!」

叩き付けられたゼオを見て叫ぶギルドレットだが、その間も魔力と気に集中して武器の損傷を回避するしかなかった。ガシガシと噛んで肉体にまで流れ込もうとする魔力を、ギルドレットは動けない状態でどうにか抑えていたが。

「グゥアアアアッ!!」

ただ立っているだけの彼を、ジークは逃す筈もない。
殴り付けるように腕の顎門を打ち込んだジークに、ギルドレットは龍に噛まれていない羽を盾のように出すが、龍の咆哮のように顎門から魔力の粒子砲が放たれ、赤黒い魔力粒子が“天の羽衣アマノハゴロモ”を透き抜けてギルドレットを吹き飛ばした。

「がっ!? と、透過だと!? ただの魔力物質じゃないのか!?」

飛ばされた結果、捕まれていた部位が解放されたが、受けた魔力粒子砲も瘴気を帯びて対象を削り取る。目では分からないが、直撃を受けた“天の羽衣アマノハゴロモ”は確実に表面が消耗し、『天の栄光を刻む剣ラス・アスカロン』も『天空の護り盾イージス』も少なからずダメージを受けていた。

だが、それによってギルドレットは専用剣と盾は能力を使用する。

「お返しだ! 騎士道家系のオレを……」

蓄積されたダメージ分をエネルギーする。別の対象へ移す『天空の護り盾イージス』の効果で、魔力砲によって消耗した分のすべてを『天の栄光を刻む剣ラス・アスカロン』へ注ぐ。

「舐めるな魔法使い!!」

巨大な光の刃を腕から生み出した。
まるで巨人の剣でも扱うかのような剣捌きで。

自分の身の丈以上の巨大な右腕の刃を振るい、迫ってくる魔力の竜を両断。首や顎門を半分にして斬り捨てて翼を羽ばたかせる。

「くらえ!!」

翼を振るわせてジークの頭上まで飛ぶ。
大きくなった刃の腕を振り上げて、龍の顎門を放つジークに向かって振り下ろす。
喰い付こうとする竜たちが阻むが、巨大に比べても斬れ味が高いギルドレットの剣は、阻むどころか威力を削ぐのも困難なものだ。

一振りで巨大な城も両断してしまうSランク魔法の『閃光両断バスタード・スラッシュ』が気と混じり合い、ジークどころかこの大監獄さえも斬り裂きかねない一振りとなっていた。

「ガァアアアアアアアッ!!」
「ッ……! おおおおおおおおっ!!」

しかし、そんな強力な刃を前にしても、暴走状態のジークは臆す気配を見せない。
それどころか拳をギルドレットへ向けると龍の顎門を生み出して、砲弾のように竜の顎門を発射体勢にするが。

なんと先程のように魔力砲を撃つかと思えば、振り下ろされた刃が届く前に自身を魔力砲弾のようにして飛び、その巨大な刃を咥えて受け止めたのだ。

「止められた、だと!? 力押しでオレを噛み切ろうってわけか!?」

空中で赤黒い瘴気と巨大な光の刃が攻めぎ合う。
だが、押し返されまいと翼を振るわせ、圧力をかけてくギルドレットの努力も虚しく、咥えてくる龍はビクともしないどころか、徐々に咥えている光の剣にヒビを入れて噛み砕こうとしていた。

魔力で生み出たモノにしては、いくらなんでも高性能過ぎないか。不審に思い魔眼で注意深く龍を観察してようやく、それがただの魔力物質ではないと悟った。

(複雑な魔法式が入り乱れている! まさかとは思ったが、この龍は原初のなのか! 魔力がただ変貌したかと思ったが、それにしてはやけに順応性が高過ぎる! 以前シルバーが竜炎を扱っていたが、それが魔力によって変化、いや進化したのか!?)

確信は持てなかったが、違和感はあった。
先程背後から繰り出さようとした手刀に込められた魔法『絶対切断ジ・エンド』が、普段とは明らかに異なる気配を纏って襲ってきた時点で、嫌な予感が常に脳裏に過っていた。

それが強化か進化か、そんなことはギルドレットにも分からない。
だが負けじとギルドレットも“天の羽衣アマノハゴロモ”の圧力を上乗せして出力を上げていく。二枚ほど噛み付かれ砲撃を受けた際に少々傷めてしまったが、止め処なく高まっていくジークの魔力を魔眼で察知したことで危機感を走らせつつ、自身の技量も注いで押し返し始めたが……。

「ウ、セ、ロ……!!」
「ッ────!!」

その悪い予感は早々に的中してしまう。
ジークが怨嗟ような静かな声を漏らした刹那。バリンッ、というガラスが割れるような音がすると、噛み付いていた龍が彼の光剣を砕き散らして、本体であるジークと共にギルドレットの懐へ入り込み、その牙を爪のように操り咄嗟に立ち塞がった白き盾を削る。

結果、装飾された国宝の如き輝きを放つギルドレットの盾が綻びを見せる。
砕かれることはなかったが、もう守りに使えるような状態ではなく、表面は完全に抉れてしまい、あと一撃も防げるかさえ分からない程ボロボロであった。

が、それでも能力はまだ使用できる。
受けたダメージ分だけ右腕の剣に注がれると、今度は巨大ではなく、鋭く研ぎ澄まされた両刃となって懐に入ったジークを斬り裂こうとする。魔眼の視点で避け難い位置を素早く把握していたギルドレットの刃は、滑るように剣筋その位置へ導かれる。

だが、ギルドレットの眼はジークの反応を予測していても、その暴れている獣ような魔力は別である。

ギリギリ避け切れないでいたジークの体の各部位より数体の小龍が出現。俊敏に動いて滑るように迫っていた刃を咥えて腕まで絡めて止める。

「ガアアアアアアアアアアア!!」
「ッ!? ナ、ガ……!?」

その勢いで容易く剣先を噛み砕く。
そして折れた刃と顎門から出てきた剣で、腕を取られ動けないでいた彼に向けて……。


禍々しい七つの刃がギルドレットの体に突き刺さる。
両腕や肩、脚に太腿、そして胴体に数本が突き刺さりギルドレットの息が止まり掛けてしまう。
視線を僅かに移動させると、そこでこちらへ龍の顎門を向けたジークがいた。

「……くそ、やっぱ強いな……お前は」

次の瞬間、吐き捨てる彼の視界が赤黒い世界に染まる。
至近距離から瘴気の塊である龍の顎門より、特大の魔力砲────いや、赤黒い炎が放たれたからだ。

赤黒いの瘴気を放つ『竜蒼の息吹バースト・エンド』は、標的の彼だけでなく周囲の物も巻き込み、溶かしていくようにして大監獄に大きな爪痕を残した。

操作できた翼で咄嗟に守りはしたが、砲撃が止むとそこには四枚以上羽が消えて、焼け焦げて崩れ落ちるギルドレット天空王の姿があった。

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