オリジナルマスター

ルド@

第10話 読まれていた戦法。

(ふぅ……やっぱ疲れたな)

ジークは『火炎王の極衣フレア・フォース』、『瞬殺戦火バトル・コンビネーション』を維持させたまま密かにため息をつく。

気を抜いているつもりはないが、師が率いるかつての仲間たちとの大激闘を前に、彼の心は乱れて正常な状態ではなかった。
これまでにないほど苛立ちで心が騒ついている。

(というか、戦い続けてないか俺って?  こんなに動いたの大戦以来だな)

王都にやって来てから魔道杯。数多くの試合と二つ名持ちの学生たちとの対決。王都の乱入者たちに元SSランクのリヴォルトとの死闘。

重なって溜まっていく疲労とストレスの中、こうしてかつての仲間たちとの戦いに予想外のアイリスの登場。

(く、胃に穴が開きそう。……どうしてこんなことになった?)

必死に感情を抑えながら戦ってきたが、疲労とストレスが蓄積されてピークに達しつつある。

今のジークには目の前の光景も相当堪えるものがあった。

(こっちは既に色々とギリギリなんだが)

しかし、彼が参っていた理由は他にもある。
さりげなく普段よりも脱力感がある躰に意識を向ける。……思ったよりも深刻だと理解して、ため息を吐きそうになる。

「やはり相当お疲れですね。大人しくしてくれますか?」

それは師であるシィーナにも見極められている様子だ。
優しい笑みで語りかけるように言うが、僅かな手の動きから構えているのは分かる。

いつの間にか彼を囲うように立っている。ギルドレット、シャリア、ティア、ゼオの面々の様子を一瞥したジークは。


「ははは…………誰が」


疲れたような笑みと共に右手を振り上げる。
疲労は確かにピークだが、このまま捕まるつもりなどなかった。


微かに瞳を───大人姿のシャリアへ向けた。

(まずはシャリアだ! ───『短距離移動ショートワープ』)

その場で空間を移動する。

移動先はシャリアの左後ろ。
火炎オーラを込めた手刀を構えてその首元へ一撃を。

「ふ!」
「───っ!」

が、寸前で攻撃を止めて頭を下げるジーク。
少し遅れてジークの頭上を飛来した大鎚が通過する。ブーメランのように空中を回ると青き雷光を発生させて消える。

「女性を背後を突くのは感心しないな、青年?」
「《金狼》」

いつのまにか手元に戻った大鎚を肩に乗せてゼオが告げる。
そしてジークはゼオを捉えるが、身につけていたゼオが甲冑の変化に気付き目を潜める。

(金だと?)

先程までは白銀の鎧であったが、今ではまったく逆。
細部の形状が獣のような印象へと変わり、色も白銀から金へと変わっていた。

「金色の獣の装甲…………それが獣王の牙で出来た外装か」
「その通り。ふん!」

そして地を蹴って豪腕な腕で、大鎚を振るい距離を詰めるゼオ。
その動きには毅然とした貴族の姿はなく、戦場を駆ける野獣のそれであった。

「凄い圧力だ……!」

身体強化を付与されているのか、強烈な風圧を乗せて攻めるゼオに対して、ジークは受けようとはせず、『瞬殺戦火バトル・コンビネーション』を利用して確実に躱していく。

そして躱し続けることで分かるその威力。直撃がなくても風圧だけ体が押されそうになる。

(あの鎧が『獣王』の牙で出来ているなら能力は“地力”。気に関するものと考えた方がいい)

相性の悪い力であり、さらに一撃一撃も明らかに強力だ。
まともに受ければ、たとえ『火炎王の極衣フレア・フォース』でもタダでは済まないだろう。

「っ」
「逃がさん!!」

接近戦は危険だと判断したジークは、一度距離を取って後退する。
そして猛獣のように追い詰めてくるゼオへ手を伸ばした。

「『翠風の音曝砲グリーン・バズーカ』!」
「ぐ……、ガハッ!」

凝縮した風の砲弾を放つジーク。
ゼオは大鎚を盾にして受け止めようとするが、接触と同時に発生した凄まじい衝撃波に巨体が浮き、後方へ飛ばされる。

「───がっ、なかなかだ!」

だが、すぐに起き上がり再びジークに向かって猛突進する。
強化されても鎧である以上は通常よりは鈍い筈だが、そうとは思えないほどの迫力で勢いよく駆けてくる。

「しつこい……!」

大鎚を持ち突進してきたゼオに対し、ジークは『瞬殺戦火バトル・コンビネーション』で迎撃をする。

「がっ!?」

右から振り下ろされた大鎚を上体を後ろに倒して躱すと、バク転の要領でゼオのアゴへとキックを入れる。

強化の影響で砕くことはなかったが、アゴのへの一撃でグラついたゼオの片腕を取るジーク。ゼオの上体を斜めに倒して膝を蹴って体勢を崩すと、横投げのようにゼオを投げ飛ばした。

「っ……良い蹴りだ」

しかし、投げ飛ばされて転がるように床に叩きつけれるが、ゼオは少し首を左右に揺らすだけで平然と立ち上がってみせた。

そしていつもで仕掛けれるように大鎚を構える。

(噂通り、まるで人間砲弾だ。止まる気配を見せない)

これが《金狼》と呼ばれた由縁。
鎧となった獣王の外装を身に纏ったゼオが、矢や魔弾が飛び交う戦場を駆けて敵陣へ飛び込む姿からそう呼ばれたそうだ。

貴族とは思えないその荒々しい戦いぶりから、一部の貴族からは気品の無さから《金狼》と言う呼び名が禁句とされていた。

さらに最強の原初の一つを所持している。普段はあまり使わないそうだが、実力は間違いなく上位Sランク相当である。

(『物資簒奪シーフ』で奪いたいところだが、さっきの手元に戻る能力を見る限り意味はないか)

リヴォルトとの戦いで使用した武器簒奪の原初魔法。
大鎚を見た時からジークは狙っていたが、使い手の元に戻ってくる能力がある以上、たとえ奪ったとしても戻されるだけだと考えている。

もちろん彼の魔力で上書きするか、もしくは神炎の槍を奪った時の魔法を使えば別である。


それだけの余裕があればの話だが。


「それより余所見していいのか友よ」

構えていたシャリアの杖先から魔法陣が展開される。
光の粒子が集まり魔法陣から無数の弾丸が発射された。

Cランク魔法『光球ライト・ボール』。
形状を弾丸のように変えて撃ったのである。

「そっちもせっかくのチャンスを、こんな豆弾で台無しにしてよかったのか?」

形状変化には少しだけ驚いたが、所詮は魔法でしかない。
呆れた様子で手をかざしたジークは火炎のオーラだけですべて防ごうとする。

だが。

「もちろん陽動だ。───なぁ?」
「お任せください!!」

余裕な動作でシャリアの魔弾を防ぐジークだが、彼女の背後で待っていたもう一人の存在に気付くのに遅れる。

魔眼を起動させていたが、魔弾の所為で視野も感知も狭まっていた。
カウンター魔法の『瞬殺戦火バトル・コンビネーション』を通して『透視眼クレアボヤンス』を使っているが、常に反応できるわけではない。

通常動作と魔法動作と合間で僅かな乱れる。

「ティ……っ」

そしてティアの襲撃の対応も遅れる。
ゼオと同じように甲冑姿であるが、動きはゼオよりもさらに疾い。

魔法でジークが補足するよりも速く、ティアの剣が彼を補足する。

「『月光の聖剣ルナ・セイバー』!!」

構っている剣で聖剣を発現させたティア。
聖属性である光の剣で伸びていたジークの腕を斬りに行った。

「がぁっ! ティア……!」

火炎王の極衣フレア・フォース』の魔力層で斬れはしなかったが、鋭い打撃と衝撃が痛みとなって腕に伝わり、苦悶の声を漏らすジーク。

「痛っーーな!!」
「きゃっ!」

痛みで硬直する腕を庇いながら、追い討ちをかけてくるティアに追い払おうと、まだ動く腕で掌底を打ち込む。

剣を持つ腕でガードされたが、押し返すことはできたのでその隙に距離を取るジーク。周囲に注意を払いつつ斬られ、というか打たれた腕の状態を確認する。

(腕の筋も骨も大丈夫そうだ。魔法効果も一応弾いたようだが)

一時的な大きな激痛は引いたが、まだ腕の痺れてうまく動かせなかった。

そんな彼の様子を見ていたティアは、すぐさま斬りかかろうとはせず、不満そうな顔で自分の剣を見つめていた。

「腕を取りに行きましたが、纏っている魔力が厚いですね。……硬いです」
「戦っているといえ一応仲間だよな!? 腕が取れるかと思ったぞ!?」
「今は敵じゃないですか。それに」

ここに至るまで信じられない状況には何度も遭遇したが、仲間に腕を斬られそうになった経験はなかなか味わったことはない。

「斬れないと思ってましたから。だから腕を折るつもりで打ち込みました」
「……」

できれば、今後も味わいなくはないが、真顔で口にするティアの目を見て、ジークはいよいよ皆本気で追い詰めて来ているのだと自覚する。

そして師であるシィーナによって、この流れも想定されていたことに気付いた。

(俺の奇襲に反応できるようにフォーメーションを組んでいる。じゃなきゃギルドレットのサポートなしで『短距離移動ショートワープ』の攻撃を破って『透視眼クレアボヤンス』の死角も見抜いてきた)

空間移動の攻撃が読まれていた時点で気付くべきだった。
恐らくシィーナの指示である程度の攻撃パターンと守り方も、攻略方法が知らされている。

(まともに相手していたら消耗するのはこっちだ)

ならば対応が間に合わないほどの超攻撃の嵐を叩き込むまで。
ティアの剣戟で痺れた腕を軽く振るい、感覚を確かめてジークは手をかざす。

すると彼を中心に結晶───いや、鏡が生まれ出した。

(『魔鏡面世界ミラーワールド』展開)

光系統の原初魔法『魔鏡面世界ミラーワールド』を展開。
全員を包囲するように鏡の世界を構築される。

「む、これ……」
「光の系統か?」

足元に構築される鏡にゼオは半歩後退し、鋭い観察眼で見たシャリアが呟くと。

「一度距離を取ってください、ティアさん」
「はい」

ジークの戦法が変わったことでシィーナもすぐさま指示を送る。
いつでも斬りに行ける状態だったティアだが、シィーナの指示に素直に従うと距離を取った。

ギルドレットの眼封じですか?」
「形成───“反射鏡ミラー”」

鏡を形成する中、シィーナが呟いたが、ジークは『魔鏡面世界ミラーワールドに集中。

複数の鏡を周りに浮かせて、それらを操作をジークは自動オートに設定すると。

「神隠し───“起動”」

さらに持っているブレスレット型の魔道具に魔力を注ぐ。
操作を素早く行って先制攻撃を仕掛けるつもりだった。

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