オリジナルマスター

ルド@

第15話 試合を支配する氷の女王。

「まだです!」
「……」

────突き刺さったように見えたが、と同時にその箇所が白き霧で覆われる。

まるで彼女の体をすり抜けたかのように貫通した刃を見て、サナが感心したように呟く。

「なるほど……『一体化』ですか。良い魔力コントロールですね」
「そう簡単には……やられません!」

サナの呟きが聞こえる中、シズクが突き刺さった刃を無視して、剣を構えて前へと踏み込んだ。

その結果、突き刺さった刃がさらに抉れて腹部を突くが、霧へと変化して流していく。

Sランク技法『一体化』。属性や魔法をその身と一つにする高等技法。
その技法を使用して、シズクは体の一部を属性化させて受け流した。

「『霧の千本刀ミスト・ナイフ』……!」

シズクは無数の小さな霧の刃を作り出す。空中で構えて同じく白い霧を纏った細剣と、ほぼ同時に放つ。

「『朝霧・突』っ!」

先にナイフを発射させて、細剣でサナを鋭く突きにいく。

「ふふふ……水の派生属性『霧』ですか」

至近距離からの無数のナイフとトドメの突き。

とくに構えてないサナはただ立っているだけで、躱せれるようには見えない。
普通に考えても間に合わない。

「『氷の千本刃アイス・ナイフ』」

しかし、サナの対応力は《冥女》並みに早かった。

シズクが放った霧のナイフをサナは、まったく同じ数の氷のナイフで相殺させた。

「『氷軍の護り盾アイシクル・ガード』」

さらに左腕に作り出した、分厚い氷の盾を作り出す。
霧のオーラを帯びた突きであったが、強固な魔力層で出来ているのか、傷ひとつ付かずはね返りオーラも弾けた。

「か、硬い……それに」

強過ぎる。そう呟きたくなるのを堪えて、彼女の動きに注意するシズク。
ほんの数手の攻防であったが、シズクはそれだけで勝ち目がないことを理解してしまう。

(攻めも守りも底がまったく見えない……! こんな相手、師匠以外にはいなかった……!)

勝利の意図が掴めない。このままいけば、先ほどのシオンのように瞬殺される。

たとえSランク技法の『一体化』を用いて、奥義を使用しても。

(ダメです……完全に詰みですこれは)

相手が師匠クラスに近い者だと感じ、勝機が乏しくなったことを自覚する。

決して諦めた訳ではないが、自分がその領域に立っているなどとは思ってなかった。

「勝ち目がないことは、理解できましたか」
「───っ」

その動揺は相手からも看破されていた。
見透かすようなサナの瞳がシズクの体を拘束したが、サナは攻めようとはしなかった。

「どうやら頭も冷えたみたいですね」

それどころか持っていた氷の刃を消して、シズクの元に歩み寄ろうとする。

「く……っ」

咄嗟に硬直が解けてシズクが剣で牽制し止めるが。

ある程度、内緒話ができる・・・・・・・だけの距離は稼げた。

「ちょうどよかったです。彼女にも参加を要請するつもりでしたし、どうせならあなたからお願いしてもらえませんか?」
「? 何のことですか?」

少しでも距離を取っている中、サナはシズクにのみ聞こえる声で話を切り出した。


◇◇◇


『シズク・サカモト選手、棄権を確認しました!』
「なっ!?」

審判の宣言が《復讐の壊滅者リベンジャー》の思考を乱し、会場内にさらなる混乱を生んだ。

(いったい何を話したというのですか? 二、三度会話をしたと思えば、突然の棄権ってなんですかっ。明らかに言われて従ったように見えますねっ?)

半ば怒気を心の内で吐き捨てる《復讐の壊滅者リベンジャー》。

《霜剣》のシズクの途中棄権。
勝機がまったくないという言い分であったが、とても納得できるものではない。SSランクの弟子が簡単に棄権とは考え難い。

何か裏あるのは明らかである。

「っ」

しかし、どちらにしろ試合は当然であるが、止まるはずもない。

気づけば参加者は残り三名となっていた。
しかも、うち一人は既に拘束されて動けそうない。

そして、まともに動けるのはサナイレギュラーを除きただ一人、狙われていなかったクロウだけであった。

視線は当然彼に移る。
だが、《復讐の壊滅者リベンジャー》は手が出すことができなかった。

「あなたは……何者ですか? サナ・ルールブではありませんね?」

見た限りでも相手の力量は、憑依中この状態の自分を上回っている可能性があった。

(実力は間違いなくSランク級を凌駕している、と考えるべきのようだ)

想定にない思わぬ強敵の登場に顔から冷汗が出てくる。
大会で彼がもっとも警戒すべきは、ジーク・スカルスだと思っていたが、それは浅はかだった。

サナ彼女こそ……いや)

考えてもしょうがないと切り捨てていると、サナからまた厄介な魔法が展開される。

「『凍結された幽閉世界フリーズ・ディストピア』」
「考えるべきでした。私と同じゲストの存在を」

もうここまでくれば、笑うしかない。
ジーク・スカルスが使用した白銀の世界と同じように、試合場全体を包み込むのは、オリジナル魔法の無限にも思える氷の山だった。

観客達の視線を遮り、舞台の上に設置してある水晶型の魔石の映像のみとなった。

しかし、不思議なことに不満の声はなく、ただ予期せぬ試合の流れに戸惑うばかりだった。

「もう一度聞きますが、あなたは何者ですか? どんな魔法か分かりませんが、化けるにしてもやり過ぎでは?」
「さぁ? それはどうでしょうか?」

慎重に相手の動向を探るような瞳で問い掛ける《復讐の壊滅者リベンジャー》に、サナは一切動揺の色を見せず、にこりと微笑んで周囲の氷を操り出した。

「それにお互い様……いえ、そちらは幽体ではありませんか?」

彼を包囲するように、何十本もの氷柱が宙に浮いている。そのすべてがサナが支配する氷柱。

継続している氷結系のフィールド魔法。
同じくカルマ拘束し続けるオリジナル魔法。

そして最後には試合場をすべてを飲み込んむ程の巨大な氷山原初結界

本来の彼女─────サナ・ルールブが扱えれる筈もない魔法ばかりである。

たとえ《復讐の壊滅者リベンジャー》でなかろうと、同じ学園、クラスの者であれば絶対に気づくほど──────規格外な強さであった。

「この結界…………はぁ」

閉じ込められた結界の表面を眺めながら、《復讐の壊滅者リベンジャー》は吐息をつく。

相当頑丈にできた氷の結界のようであるが、オリジナル魔法である以上、それだけではないことに気付いた。ふと自身の手を見ながら口を開いた。

「また厄介な能力のですね。この魔法も中にいる者の魔力を奪っている訳ですか、そちらの方の蔓のように」

氷の薔薇の蔓に縛られるカルマを指して、嫌そうな顔をする。

「ええ、審判員は対象外ですが、あなたとあちらの男性の魔力は吸ってますよ? それに徐々にですが、空気も薄くなるようにしてますし」
「みたいですね。魔力体の端から魔力が吸われているのが分かります。それでより強固にして維持させているんですか」

しかも対象を指定できるとは、なんとも魔法師には厳しい嫌がらせのような魔法である。

「では、はじめますか」

さらに四方には大量の氷柱が控えている。
絶望的な状況なのは明らかであった。

「そうですね。私も改める必要があるようです……」

だから、そこ彼も自身の力を使うことに躊躇いを捨てたのだ。

クロウだけの魔法だけではなく、どうやらこちらも全力で挑まねばならない。
復讐の壊滅者リベンジャー》は肩をすくめられると、右手から歪んだ黒きオーラが漏れ出す。

「その力もまた彼と同じように罪だ。ならば清算して頂くのが通りです」

すると指先から黒き淀んだ、小さな雫が出現した。

「重みを知りなさい『矛盾な罪の一滴ペナルティ・ドロップ』……」

ここで乗っ取っているクロウではなく、彼自身のの原初の力を解放させる。

闇系統にも見えるが、出現した黒き雫。それは七属性には含まれていない濁り───呪であった。

それこそが呪属性の原初魔法。
ありとあらゆる悪意が込められた小さな雫。

「だからこれまでのあなたの罪を、この雫が測りましょう」

サナに見えるように指先にある雫を掲げると、彼は不敵な笑みと共に軽く指を下ろした。

原初の一滴はその地に落ちた。

─────ドクン

そして零れ落ちた瞬間、氷の世界が脈動を打った。

「これは……」
「私のの邪眼に似ていますが、こちらの方が実に使いやすい」
「? ごぼっ……」

彼が妙なこと呟いたが、サナの耳には入っていない。
試合場全体の氷の変化に不思議そうな顔をする。

だが、《復讐の壊滅者リベンジャー》が呟いたところで自身の体の異常に気付いた。

しかし、同時に胸の奥から激しい嘔吐感に襲われてしまい、吐くことはなかったが咳き込んでしまった。

「氷の魔力を通して私自身の魔力体を……」
「はい、呪わせてもらいました。これまでのあなたが放出した、魔力の分だけ濃い毒を」

口元を手で押さえるサナに《復讐の壊滅者リベンジャー》が告げる。

魔力体を乱して本人にも負荷を与える、呪属性の魔法のようだ。そこまでは《冥女》の邪眼と同じタイプである。

口振りからして放出された量の分だけ、威力を上げていく魔法であるようだ。

「ですが、それだけはありません。あなたなら気付くと思うのでお話しますが……」
「ただの毒ではなく、対象の魔力を無価値に・・・・してしまう毒ですね」

だが、彼が告げる前にサナが答えてみせる。
嘔吐感が強いのか、口元を押さえたままであるが、どうにか氷柱の操作を維持する。

そして、その内の数本を《復讐の壊滅者リベンジャー》に向かって放った。

スピードもあり、威力も高そうな氷柱。
中級の槍タイプの魔法に匹敵するが。

「無駄です」
「分かってます。確認しただけですよ」

的である《復讐の壊滅者リベンジャー》に直撃した瞬間、霧散してしまい消失してしまった。

「つまり耐性が付いたということですね。あなた自身の魔力体が」
「その通り、魔力の抗体と言えばいいでしょうが、こちらが毒を放ったのに、あなたの魔法すべてに対して耐性が付いたんですよ」

両手を広げて無防備に体を晒す。彼女ではもう仕留めれないことが理解しているからだ。
オリジナル魔法が成功した時点で、《復讐の壊滅者リベンジャー》は勝利を確信した。

なぜなら。

「すべて……ですか」

もし《復讐の壊滅者リベンジャー》の言う通り、魔力そのものに耐性ができたとすれば、それはジークと同じような存在になったということだ。

これでサナが扱う魔法はすべて通じなくなったのだ。
張っている氷のフィールド魔法と氷結結界も、彼に対し効果をなくしてしまった。

「ええ、すべてです。それでは……」

しかし、《復讐の壊滅者リベンジャー》も自分の力を発現するのはここまでにする。能力こそ解除しないが、ここからは乗っ取っている肉体。

「お覚悟を……『魂狩りの罠区域ソウル・ハンティング』」

クロウのオリジナルで十分であろう。
彼はクロウの魔力体に刻まれた、原初魔法を解放させる。

「その体の魔法ですか」
「はい、効果は説明しなくてもいいですよね? 踏み込めばその瞬間、餌食になりますよ?」

彼複数の不透明な赤き円が、彼女を囲むように試合場全体に形成される。
そのエリアが何を意味するか、サナは踏み込まなくても分かる。危険な魔力を帯びていた。

「…………ふ」

しかし、危機的状況あるにも関わらず、サナの笑みを溢すだけ。
いつの間にか吐き気を抑える為に押さえていた手で、笑いそうになる口元を隠していた。

それが《復讐の壊滅者リベンジャー》には不気味に見える。
殺気が感じたわけや悪寒が走ったわけでもない。

ただ、どうしようもないほど、浮かべている彼女の笑みが歪で不気味であった。

「何が可笑しいですか……」
「いえ、まだ、まだ…………甘いと思いまして」

そこも見えていれば、絶対におかしいと思った筈であろう。
歪んでいた笑みがさらに深みを増す以上に、サナの表情は普段の彼女や先程までの彼女にもなかった。

「────」
「ごぉ!?」

だが、それを確認する機会は彼に来ることはない。
仕掛けた罠をすり抜けて悪あがきにも見える。迫るようなサナの疾走によって失われた。

「この程度の原初の力で……私を止められると思っているとは」

原初魔法により無効にしていた魔法。
通じる筈もないと警戒も緩んでいたのだろう。

「ど、どうして……」

それなのに胸に突き刺さった氷の剣・・・により、苦悶の声を出すこととなる《復讐の壊滅者リベンジャー》。

「どんな罠を張ったところで、凍結してしまえば無力と化す。この毒もそうです。手の内を晒したタイミングを間違えましたね」

本来消滅して通ることのない、彼女の魔法で出来た剣だ。
だが、起きてしまった現実は違った。サナの疾走と一緒に襲ってきた剣は、突き刺さる直前であっても、剣先から消える様子を一切見せず、その体を容易く貫いたのだ。

わたしの・・・・本来の能力を見極めれなかった。あなたの敗因ですね」

その彼を冷めたような眼差しで見上げるサナ。
先程まで笑みもない。呆れたように首を振って、右手で掴んでいる氷剣の柄に力を込める。

「過信軽率……ホントに残念な終わりでしたね。王子・・
「─────ガハッ!? あ、あなたは……!」

突き刺したまま袈裟斬りのように斬り捨てる。
精神ダメージに変換される為、実際は傷もなく血も出ない。

だが、その結果発生した精神ダメージは、致命傷に近いものであるのは明らかである。
振り切ったところで糸が切れたように、ガクリと膝つく《復讐の壊滅者リベンジャー》。

まったく理解が追い付かない狼狽した表情で、抵抗も反応すらなく。
呆気ない最後としてサナの前で倒れ伏せるのであった。

「オリジナルマスター 」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く