オリジナルマスター

ルド@

第9話 暴王の反撃と緋天の一閃の惨劇。

(ホントにミーアちゃんからこの狸を回収できてて良かった)

お陰で最悪の展開は避けられた。とジークは安堵しつつ困惑した様子のミルルと軽い会話をする。

「まぁ、そのお陰で魔力が空になったがなぁ?」
「それって……不味いんじゃないの? なんで平気そうに動けるの?」

平気というわけではないが。と内心思いながら呪いも抜け落ちた体内魔力の────その奥へと意識を向ける。

「……」

そして思わず顔を覆いたくなるジーク。
思ったよりもご立腹な・・・・暴王の魔力に目を背けたくなった。

(やっぱ、解放しない方がいいようだけど……無理だな。もう使える魔力が切れた。貯蔵されている中から取り出さないとダメだ)

ならば上手い具合に解放しなくてはならない。

ジークがそのチカラを暴走せずに扱うには、三つの工程が必要である。
それは大戦の最中に編み出した技法であり、あの《鬼神》と戦って生き残ったのもそれが理由であった。

「そうなんだよな?」
「なんで疑問系? ……あとジーク君さぁ─────なんで笑顔なの?」

若干強張った顔でこちらを見るミルルに、ジークはそんなに変なのかと苦笑を浮かべる。

「うん? さぁ? なんでだろうな?  ───冥女さん?」
「───ヒッ!?」

ジークに声をかけられたルカは、今までに見せたことがないほどに怯えた顔する。
倒せれたと本気で思っていた反面、倍以上に返ってくるであろう返礼に戦慄し戦意を失いつつあった。

その様子にジークは肩をすくめながらも、しっかりお返しをすべく準備に入った。

まずは『同調』────

そのモノに意識を合わせる。
彼は身体の奥に荒れる大波の存在を認識すると、逆らわず波に合わせる。

(さぁ、逆襲の時間だ……《消し去る者イレイザー》)

次に『対話』へと続き────

ジークは自身のもっとも奥深くにある、チカラの根源であるそのモノに唱える。
言葉による返答などない。生き物と言い難い、一方的な感情のみを吐き出すそれにジークは、逆らわず馴染ませていき、最奥に溜まっている無限に等しい魔力の泉へと手を伸ばす。

そしてその掬い上げた魔力の水を、ジークは体内全体に行き渡らせていく。

─────ドックン!  ─────ドックン! ─────ドックン!
─────ドックン! ─────ドックン! ─────ドックン!
─────ドックン! ─────ドックン! ─────ドックン!

その瞬間、身体の中心で大きな脈動が打たれる。
破裂してしまうのではないかというほどの大きな脈動であるが、それこそが最後の工程である『掌握』が無事に完了したことを指していた。

「じゃあ、覚悟はいいか冥女? ここからはただの一方的なお仕置きの時間だ」
「っっっ!?」

ジークの中の魔力の容量の急激な増加を感じ取った様子のルカ。表情が凍りつきジリジリと後退しているが、そこでジークはいつの間にか消えている精霊達に気付いた。

(主人を見捨てて逃げただと?  んーーどうやらアイツらの繋がりはシャリアやカグヤさんほどじゃないようだ)

もしかしたら簡易的なものかもしれない。
あっさりと姿を消した精霊達に気付くこともなく、ジリジリと後退するルカに同情を覚えそうになるが、こちらもそれ以上に酷い目にあった。

「いくぞ────冥女さん?」
「き、来なさいっ!」

散々、子犬のように吠え続けたルカに言い聞かせるようにジークが告げると、言っていることは威勢はいいが、この世の終わりのような青ざめた顔をしたルカがいる。

「そうか……じゃあ─────久しぶりに思いっきりいくぜっ!!」

ここだけの話、ジーク本人だけは自分が鬼のつもりではなかった。
ここからのことは、ジークにとっては些細なお仕置き。

少々おいたの過ぎた子供を懲らしめる程度のことであると認識していた。

それが第三者から見たら、鬼畜過ぎることあることも知らず。


────やはり保険をかけて正解でしたね。

と大会に紛れたあの男の呟きも聞こえるはずもなく。

二人の戦いは遂に終幕を迎えようとしていた。


◇◇◇


「まずは確認と────『緋極・千の破球レッド・バン』!」
「っっ!! ほ、ホントにデタラメ過ぎるわねっ!? あなた────はーーっ!?」

通常の火の玉、千個分の威力に変えた馬鹿げた魔弾を放ったジーク。
その攻撃を紙一重で躱したルカであったが、躱したことで放たれた魔弾の着弾地点が遥か遠く、舞台の端まで移る。

─────結果、

「───っうそ!?」
『……!!』
『『『……………………っっ!?』』』

着弾と同時に激しい赤い閃光を広い舞台で発生したが、その瞬間、短い間であったが会場が赤く染まり地面が揺れた。

そして地面を大きく抉り、結界さえも崩壊しかねない破壊力を持つジークの魔弾。
それを目撃したルカや審判員、観客達────会場すべてに衝撃を与えた。

『ま、まったく感じれず、なによりあ、あの規格外な魔力の塊は……──────────まさか……!!』

そして彼のことをよく知る一部・・・・・・、というかかつての知り合いほぼ全員が彼の正体に気付いた瞬間であった。

確たる証拠など何処にもない。
彼を知っている彼らだから、確信したのだ。

しかし、思考までとても正常ではいられなかった。

何故ここに、どういうことなのかと驚き、混乱する者が多数であった。
時間が経てば居なくなったことに憤りを覚える者や、再会に喜びついつい歓喜していまう者も現れるだろうが。

それよりも彼が放ったことで一部破損した舞台上に、驚いたままの呆然と知った瞳で見ていると。

『『『…………………………………………』』』

無意識のうちに大量の冷や汗をかき始めた。何も知らない友人や隣の客がぎょっと二度見してしまうほど激しく尋常ではない量を。

気付かなかった方が寧ろよかったかもしれない。そう感じてしまう者もいる。

何故ならこれから起きるであろう惨劇を、何気なく予測してしまったのだ。……過去のことを思い出して逃げたくなったに違いない。


『『『…………─────ハっ!?』』』

そうしてこれは誰が代表とかではなく、彼のことをたった今知って恐ろしい未来予測をしてしまった者達の心の叫びが、以下の通りであった。

『や、やめろぉぉぉぉォォォォ!?』
『正気かああああああああ!!』
『闘技場が、闘技場が吹き飛んでしまうっ!?』
『おおおおおおおっ!? わしの闘技場ガァァァァァァ!? 小遣いで改造したばかりなのにーーー!!』

などなどあり、また彼ことを知っていたごく一部の者達はというと。

『まずい、バレた』
『バレましたね』
『イカーーン!? 陛下に報告する前にバレてしまった! ……ううっ胃が胃が』
『これは早々に陛下達のところに行かないとマズイな。騎士達を動かしてアイツを捕縛しかねないぞ、こりゃ』

などなど、彼の仕出かしたことに頭を抱えたくなっていた。

「……まだもう少し視てみるか────『緋極・千の炎拳レッド・ナックル』!  『翠極・千の風拳グリーン・ナックル』! 」

と、そんな面々のことなどお構いなしに、ジークは制限すら解除された力を振るう。
魔法倍加技法『術式重装』によって千回分の技の技を発現させた。

「うぉおおおおお!!」
「なあああああっ!?」

両手拳を火と風の巨大な拳へと変化させて、ルカに向かって巨大な拳を振うジーク。
ただ、本気で当てるつもりがないのか、拳は直撃せず代わりに地面が大きく穿ってみせた。

まぁ当たってしまたら、たとえ精神ダメージとなってもただでは済まないが。

(冗談でしょう!?)

ルカからしたらたまったものではない。
どうにか身体強化を発現させて逃げ惑うが、硬い試合場の地面を容易く穿つ拳。かすりでもしたらと思うと彼女は残された戦意も無くして意識が飛んでしまいそうであった。

(やはり、効果はあったか)

そして、そんなルカの精神状態などまったく視野にも入れてないジークは、最初から別の的を狙って放った攻撃の跡を『千夜魔天の瞳シェラザード・アイ』で確かめていた。

よく眼を行使することで視えるジークの魔力、敵が放って待ち街全体を覆い尽くした魔力の霧。

その霧は当然試合場にも蔓延まんえんしており、ジークはその霧に自身の技を攻撃したのだ。

莫大な魔力を極限にまで込めた純粋な魔力の塊。
それによってもたらされる結果を彼は注視した。

(思った通り、この状態でならこの霧にも干渉できる。除去できる・・・・・

周囲が霧で覆われているように視えるのに対し、その一箇所だけは色が剥がれて視えるようになった。

「なるほど、やはり質より量を重視しているのか。質の上げれば強固な結界にもなるが、安定が難しいようだ。“究極原初ウルティムス・オリジン”級なら別だろうが、そこまでには達成していないか」

────それさえ確認できれば、あとはやることは一つだった。

「決着をつけようか。これまでの分、倍以上にして返してやる」
「───っ」

ジークの宣言に身構えるルカ。
しかし、もはやジークの攻撃を防ぐのは不可能であり、躱すのも限界があった。

「『緋極・三千の崩炎レッド・フレア』『璜極・四千の暴雷イエロー・ヴォルト』」

なにより、これから仕掛けてくる彼の攻撃をすべて受け流せれる自信は、身構えるだけの彼女にはなかった。

「はあああああああ!!」

『『『────っっ!?』』』

身体中から赤き炎と黄の雷を迸らせる。

膨大な魔力のオーラは視覚ができるほど、彼の体から吹き荒れると、彼の周囲では二色のオーラが渦を出して試合場を飲み込もうとする。

そしてハッキリと視えるほどの膨大な魔力の奔流を前にしても、未だに感じ取ることができず、観戦する多数の者達から戸惑いと驚愕の声が漏れていた。

尚、一部の彼を知っているもの達からは、もうやめてくれと叫びたい衝動にかられ、でもどうすればいいのかと、焦燥な顔であたふたしていた。

「“融合”!!」

ジークはさらにその二つの属性を融合技法で一つにする。
彼を中心に立ち昇り広がる魔力のオーラ。その二色の渦が一つとなるべく混ざり合うと次第に紅き雷光へと変貌させた。

「─────『緋天の皇蕾衣カーディナル・サンダー』アアっっ!!」

これまでジークが見せた“空天”、“翼天”を上回る攻撃力を持つ形態。
“緋天”を発現させたジークは今までにない“緋天”から漏れる、尋常でない量の魔力のオーラに呆然とするルカに向いて───────たった一歩で懐に入った。

「よっ」
「───? ───っっ!?!?」

突然目の前に現れたジークに、何も反応できずにいるルカ。
雷の如き速さを得た彼の動きを捉えることもできず、声を掛けられると同時にお腹へ一発、掌底を食らい後方上空へと飛ばされてしまった。

「ほっ」

そして気がつくと飛ばされた先にジークが立つ。
飛んできたルカをボールでも扱うように地へと向かって、蹴り飛ばしてそのまま試合場に叩きつけた。

「せい」

そこでさらに追撃するジーク。
地面に叩きつけられバウンドしたルカの蹴り飛ばすと、また雷速で先回してその身体を別の方向へと蹴り飛ばす。

蹴り飛ばしては叩きつけ。蹴り飛ばしては叩きつける。

また、手首足首を捕まえてクルクルと回して上空に投げたり、その躰に紅き電撃を浴びせていく。

……ちなみに脚を掴み、クルクルとその身体を回している際に、彼女のスカートの布が上下左右に遠慮なく跳ね上がり、そして乱れてしまい、その筒の中身が大変なことになっているが、お仕置きに夢中なジークは一切構わず、ただ内心見た物に対して、チャレンジャーだなぁと感心するだけであった。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

そうして出来上がったのは、クタクタにバテてしまったルカである。
本来なら既に気絶して戦闘不能になっている筈だが、ジークの打撃や魔法攻撃が本気ではなかったのか、それとも奇跡的に維持できていた身体強化のお陰か、彼女は何度も途切れてしまいそうになる意識をなんとか繋ぎ止めて、意識を保たせていた。


しかし、ジークの度重なる攻撃を受けて、雷の特性で魔力を痺されもう立つこともままならない様子、膝をついて息をしているだけで立つのは、ほぼ不可能に近かった。

……打撃以外の精神攻撃も原因な気もするが。強制公開されてしまい泣きたくなるも、どうにか衝動を堪えて懸命に立ち上がろうとしたルカ─────だが

「これで決める───『雷轟く緋天王の一振りカーディナル・エッジ』」

こちらの精神状態などやはり無視して、怨敵であるジークは両手に改めて火と雷を合わせると、自身を仕留めるための最大攻撃を出すつもりのようだ。

彼が合わせた瞬間、“緋天”へと変化して紅くそして緋天の雷を纏う、一振りの魔剣へと姿を変えた。

「トドメだ」

刃は両刃で鋭利になっており、ジークが所持していた魔剣以上のサイズを誇る大剣。
ジークはその大剣に込められた尋常ではない莫大な量の魔力を解放させるべく、刃先をルカの方へと指して─────唱えた。

「─────『緋蕾降臨』────『緋星の一閃アンタレス・ストライク』ッッ!!」
「─────っっ!?!?」

雷光を纏う“緋天”の刃は膨張して、烈火の如き緋色の雷光斬撃となり、退避できずにいるルカの身体を飲み込んで試合場の舞台を─────一閃・・


『『『『………………』』』』

目を点にする観客の前には、稲妻の如く真っ二つに両断された舞台上が出来上がっていた。

そしてその中心に立つこの惨状の犯人は、少し冷静になったか頰をポリポリとかいて、苦笑い気味に一言。




「ゴメン、またやり過ぎたわ」





軽い調子で会場に向かって謝罪を口にすると。

『『『────ふ、ふ、ふざけんなァアァァアアアアアアアアアアアアアーー!!!!』』』

どこからともなく、会場の全体から特定の人物達の激怒の叫びが巻き起こった。………あとその怒声を聞いただけ当のジークは懐かし気な顔で、ああやっぱりバレたな、と目の前の現実に少々目を逸らすのだった。まぁ、逸らしても真っ二つとなった舞台はハッキリと映っていたが。


────ちなみに舞台の惨状に固まっていた審判員が正気に戻ったのは、そのすぐ後であった。戸惑いつつもジークの勝利と決勝進出を宣言した。

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