オリジナルマスター

ルド@

第0話 各面の動揺と対策。

「あれは……なんだ?」

エリューシオンの第一王女カトリーナ・エリューシオンは王族の席で妹のティアやその下の妹達。それに陛下の父や母、専属の部下達や従者と共に試合を見ていたのだが。

「魔法を消し去る銀のオーラだと、そんなもの聞いたことがない」

ジークが発現させた白銀の世界がシムラの神炎の槍を消し去る。
両目を見開いて会場上空に設置している巨大画面をカトリーナは凝視していた。

白銀のオーラで覆われたことで、観客から見れない状態になったが、中にいる審判や光景を映す魔石の効果で、会場の上に設置している巨大画面や持っている水晶画面にもしっかり中の様子が映っていた。

「あの雷槍が負けたのも驚いたが、あの魔法はなんだ? 派生属性でもあんな物は見たことがないぞ」

ブツブツと呟きつつ、勝利を収めて去って行くジークを睨むカトリーナ。
見た目はティアはと同じ緋色の髪をし、麗しい美人であるのだが、どこか迫力あり、眼光も鋭い所為で一番下の妹二人からは少々距離を置かれてしまっている。……地味に気にしている。

「それに魔力がまったく感じない。……あれではまるでシルバーだ」
「……」

不審そうにシルバー名を呟く姉にティアは内心ドキドキしていた。
ジークの試合を家族と共に見ていたが、辛さのあまり何度もここから消えたいと思ってしまった。

(ああ、もうダメですっ! ホントにシルバーは何を考えているんですか!? フォローしようと考えている自分がバカみたいじゃないですかっ!!)

もうやり過ぎ、やり過ぎである。
周りのことを気にしないでいいなら、優勝候補であった雷槍を倒したジークに二、三発殴ってやりたい。

特に最後に見せた魔法については、なんとしても問い質せねばならない。
気の達人である姉は気付かなかったが、ティアには理解できた。

ジークの白銀の魔法はシムラの『オリジナルの槍魔法』を奪ったことを。

(確かにルール違反という訳ではありません。ですが、無視もできません)

『わたくしはエリューシオンの王女。国を危機がもし目の前にあれば、躊躇わず斬り捨てる覚悟があるわ。たとえそれが誰でも、わたくしは迷わない。それがシルバー……あなたでも』
『もしその時がきたら、躊躇う必要はない。国の為、国民の為、そして、愛する家族の為、いつでも俺を斬りに来い』

あの時ジークが口にした含みのある言葉の意味が今、目の前にあるような気がした。

(本当にそうだとしたら、わたくしは彼を斬らねばならないのでしょうね)

何処か決意ある強い瞳で会場の奥に消えて行くジークを見て、ティアは控えているフウに一瞥をして、彼女も小さく頷いて理解していた。

場合によってはかつての仲間と戦わねばならない。
ティアは改めてフウにだけ視線でのみ伝えた。


◇◇◇


「シィーナが言ったことは本当だったか」
「……」

会場内になる会議室、先程までゼオ達が話をしていた場所である。
しかし現在そこに集まっていたのはゼオとディックの二名だけあり、二人は画面で見届けたジークの試合に驚きの顔を見せていた。

「まさか本当に古代原初魔法ロスト・オリジンが狙いだったのか、だとしたら放ってはおけない。由々しき事態だディック」

ゼオは厳しい顔つきで画面を見たまま、ディックに告げる。
ジークの起こなっていることは、あまりにも常識外れであり、とても放置できないからだ。

世界を変えてしまう力を持つ九つの始まりの魔法。
ゼオやディックには人ごとには聞こえなかった。

(サナ達の友人でもあるようだからと穏便に済まそうとも思ったが、これ程の力だと考えるなら、こちらもそれなりの対応をしないといかん)

特にその一つを所持しているゼオは冗談では済ませられなかった。
告げられた時は半信半疑であったが、狙われている一人であることを試合を見て彼は改めて認識させられた。

『ジークの狙いは古代原初魔法ロスト・オリジンです』

会議室に現れて共に話に参加したシィーナは帰り際に、ゼオとディック、そしてどういう訳かシャリアを残して弟子の目的について打ち明けた。

何故、師である彼女が弟子の目的を知らせたのか、その真意は判断がつかない。ただ止めたいだけなのか、それともそれが以外の理由があるのか、ゼオには理解するのは厳しい。

九つの古代原初魔法ロスト・オリジンを揃えようとしていると聞かされはしたが、同時にどう考えても不可能だろうと言われずにはいられなかった。

『仮に君の弟子が古代原初魔法ロスト・オリジン狙っているとしてもだ。最後のアレだけは手に入れるのは不可能な筈だ。それに内三つ。『ガイア』『ウロボロス』『クロノス』は行方が分からない上、……たとえこの三つを見つけたとしても、一つは《天空界の掌握者ファルコン》と同格のあの《無双》が所持してるんだ。あの者から『アルテミス』を奪うなど絶対無理だ』

その立ち塞がる難解をまだ娘達と同い年である青年に成し遂げれるとは、ゼオにはどうしても思えなかった。

ただ、情報が嘘の可能性は少ないとも考えている。

ちなみに真っ先に話からハブられたリグラは、滅多に見せない鋭い目付きでシィーナを睨んで、会話にも参加しようとしたが。

『これで前の前の前の前の前の借りはなしでいいですよ?』と言われしまい、滅多に見せない愕然とした顔の後、深い息を吐いて諦めて引き退がった。……この二人も色々と因縁が積み重なっているようだ。

シャリアにも何か告げたようだが、シィーナは二人には教えることなく、シャリアもまた黙り切っていたので知る術はなかった。

「我々で対処するしかあるまい。なぁディック」

ゼオはその時の話を思い返し、ディックの方へと視線を移したが、ディックの方は妙に消極的にであった。

「どうしたディック?」
「……僕は、今回は見届けさせていただきます」

黙祷のように目をつぶりゼオから体ごと背を向ける。
そういえばシィーナはディックにも個人的に話をしていたが、それが原因なのかとゼオは思い出した。

「……手を出さんつもりか? いくら相手が学生でもシィーナの弟子だぞ。それに古代原初魔法ロスト・オリジンを持っている。放置していては余りに危険過ぎる」
「僕は彼とは戦えない。もともと戦闘派でもない。研究肌の僕にはこの件は内容的にもそして精神的にも重過ぎる」

これ以上は放置するつもりないゼオに対し、ディックは落ち着いた様子で目を伏せている。
ゼオが叱咤するように見つめて煽るが、まったく刺激されることもなく、覇気をなくした声音で告げるだけ。

何故なら告げるだけで、彼の脳裏には彼女から言われた言葉が何度も繰り返されているからだ。

『私自身はあなたに個人的な恨みはありません。……ですが、それでもあなたが私の親友とその娘にしたことを……絶対に私達は忘れません。彼女の魂を別ったことを永遠に悔いなさい』

彼女はすべてを知っていたのだ。
ディックがしてしまった過ちのすべてを。


◇◇◇


「ギル、いったいどういうつもりだ? お前ほどの男ならアイツの正体を看破できた筈だろう? 任務もそうだ。どうして報告に来なかった? 奴らのことは前から言っていただろう」
「それついては済まないと思っている。頼まれた立場としては恥ずかしい話だが……正直困って手を貸して欲しいくらいだ」
「……なにがあった」

トオルの試合が終わったあとのことだ。
王都のギルドマスターガイは個室に呼び出したギルドレットに問い質していた。

理由は二つ。
一つはジークについてだ。ガイの言う通り、前日の夜にはジークの正体を偶然とはいえ看破したのだ。だが、どういう訳かガイを含め他の者にも話さなかった。

そして重要なのは次である。
二つ目はトオルと対戦したカルマ・ルーディスについてだ。
何故シルバーの魔法を使用できたか、ガイはある程度は予想を立てていた。

首謀者は間違いなく学園長のグレリア・フルトリス。

王都に保管されているシルバーの魔力から採取された魔法式の残滓。それをグレリアは密かに利用して実験に使っていた。ガイは以前からマークしていた者だが、情報を上手く操作されて決定的な証拠もなく、毎回躱されてしまっていた要注意人物だ。

しかし、どうしても尻尾を掴むことができない相手にガイは、ギルド内部に内通者がいるのだと予想して、ギルドレットと共に割り出していた。

そしてヒットした者が一人だけいた。
ガイにとって頭の軽いが頼りになる相談役、聖国のギルドマスターの中のマスター。

総ギルドマスターリヴォルト・ビートル。

かつては冒険者としてSSランクにまで上り詰めて、ギルド関係者なら誰もが尊敬する老人である。
ガイも彼の名が引っ掛かった時は何度も調べ直したが、調べれば調べるほど黒くなっていった。

大戦終結後からしばらく、リヴォルトから良からぬ噂が出ていたのだ。

これについてもやはり証拠はない。
だが放ってもおけない。だから常々ギルドレットに目を光らせて置くように指示していたのだが。

「奴らだが、以前報告した侵入者と手を組んでる可能性がある。おそらく王都のどこかに潜わせれるように手引きしているも奴らの仕業だ」

ギルドレットからの報告にガイは驚くこともなく、眉をひそめて考えるように腕を組む。

「確証はあるのか?」
「残念ながらない。あの学生からはシルバーの魔力は感じれなかった。だが、タイミングが良過ぎる。それに例の王宮に設置された試験用のゴーレムも使われているみたいだ。もっと深く調べた方がいい。……あとゴーレムは早くなんとかしてくれ。万が一、今以上に悪用されたらオレでも手に負えなくなるかもしれない」
「……確かに、ゴーレムについては早急に対応した方がいいな。これからすぐに陛下に進言するか」

ギルドレットの言葉にガイも否定的なことは言わず、頷いて思考を巡らせる。
偶然にしては出来過ぎるている。さらに調べるべきなのは分かっているが、果たして証拠が残っているか。

それに彼が口にしたゴーレムの存在もそうだ。
最近王宮に設置された大の大人の倍以上の、大きさのある剛鉄の赤き巨人である。

名は『赤神巨人プロキオン』、帝国の技術と聖国の技術を結集され、骨組みには王クラスの魔物の骨を使用されており、魔力伝導の良い最高の硬度の金属ヒヒイロカネを利用された物だ。

さらに体内で魔力を自動的に溜められ吸収も可能なことから、上位魔法に加えてオリジナル魔法の魔法式が組み込まれている。魔力との相性が最高なヒヒイロカネが満遍まんべんなく使われているのが大きい。

そして開発者達の報告によると、赤き巨人の推定ランクはSランクを超えて、SSランクに到達していると言われている。中にはSSランクさえも超えていると豪語する者もいたそうだが、まだ魔力供給が安定してない為、それはさすがに過大評価が過ぎると笑われた。

それをグレリアとリヴォルトは最近利用して、成果がなかった研究を大きく進めていたのだ。
当然ガイはそんな危険な行為を見過ごし続けるつもりはない。

「話は理解した。ところでギル、最初に言った手を貸して欲しいとはどういうことだ? まさか動ける人材を求めているのか?」

お前に付いて行ける者など早々いないのだが。
口にはしないが、ガイは表情だけで告げるとギルドレットは口元に苦笑の作って、首を横に振った。

「確かにそうだが、少し違う。人材は求めているが、普通の人材ではダメなんだ。それとアテはあるが、ガイ。あんたにも頼みがあるんだ」
「オレにも?」

元がSランクだったとはいえ、ガイは既に現役を引退している。
大戦時の頃はまだ外で暴れることも多かったが、王都のギルドマスターとなってからのこの四年間はまともに戦うことは極端に少なくなってしまった。

それに王都のギルドにいるSランクの冒険者は、他の街に比べても多い。情報漏れのリスクもあるが、頼むなら他の者の方がいいとガイは思うが。

ギルドレットの口振りからして、何か別の思惑があるように聞こえた。

「実は密かに協力要請があった。……それも二人から」
「二人? 誰だ?」

首を傾げて尋ねるガイ。
イマイチ誰なのか想像がつかなかった彼は特に深く考えず、ギルドレットに尋ねたところ。

ギルドレットは不敵な笑みで『クククっ』と、楽しげな笑い声を零して告げた。

「一人は予想はつくと思うが、シルバーだ。アイツも色々と巻き込まれてしまったらしい」

指を一本立てて告げるギルドレットにガイも『ああ』と、いった顔で笑みを浮かべていた。

いつもシルバーの所為で苦労させられてきたガイにとって、不適切かもしれないが、いい気味だと思った。

「で、もう一人は……誰だ?」

だがその笑みもすぐに消して、真剣な表情でガイはもう一人のことを尋ねた。

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