オリジナルマスター

ルド@

第11話 神炎の槍と神を喰らう魔導王の白銀世界。

「───っ、ジークっ!」
「シィーナさん?」
「……?」

バッとその場で立ち上がったのは、ジークの師であるシィーナだ。
隣に座っているアイリスやリナが不審そうに見ているのも構わず、思い詰めたようにシィーナは声を零す。

「……それがあなたの決断ですか。無意味と分かっても、あなたはまた戦うのですか? 突き動かすのが、僅かな想いだとしても……」

本当は嫌な筈なのだ、言葉では足らない程の苦痛な筈なのだ。……だが、それでも彼は選んだ。たとえその結果が滅びだとしても、昔の────勝利を収めていた頃の自分に戻ろうと……彼は決意したのだ。

(本来の感情すらも否定しても、あなたは僅かな希望にすがるのですか……四年近くも停滞をしていた筈なのに)

ふと空を見上げ、街を覆っている霧・・・・・・・・を見ながら、シィーナは悲しそうに目を細める。

すべてを知ってるわけではなかったが、自身が扱える派生属性で扱う千里眼に近い魔法と、仲間達からの情報収集よって、それとなく事態を把握しつつあった。

そして照らし合わせたことで、彼が古代原初魔法ロスト・オリジンを狙っている可能性が高いと結論付けた。

(やはり報告にあった『ウロボロス』持ちとの対決が原因ですかね。ジークも学園に行く前まではあらゆる欲求を捨て去って、無欲になってましたが)

僅かな可能性を目にして、再び願望が蘇ったのか。
当時の弟子の心境をそれとなく察したシィーナ。複雑な気持ちで試合場を見つめる。

「ならばもう止めません。ジーク……あなたは、あなたの為に戦ってください」

(……私も師としてあなたを正しく・・・導けるように努めます)

胸に手を当てて辛そうにしながらも、決して目を逸らさず、これから戦いの行方を見届けようと、シィーナは弟子の姿を目に焼き付ける。

(ですが、やはりこのままではいけません。敵があのこと・・・・を知っているかもしれない以上、不安定なままの彼を決勝まで放置するわけにはいきません)

ここに来てジークの精神の乱れが酷いのを、シィーナはしっかり感じ取っていた。

(感情に呼応するあの魔力が暴走するのも時間の問題。そうなったらこの街どころか国が……危ない)

いつ爆破するか分からない。相手もそれを狙っているかもしれない。だから先手と打たねばならない。
……だが、その為にはまず心の門禁断の箱を開けるのに必要な────────鍵を手に入れる必要がある。

「アイリスさん」
「は、はい」

一旦試合の方から視線を逸らすと、呼び掛けに戸惑っているアイリスの方へと向いた。
呼びかけられたアイリスは少し戸惑うも返事をし、隣で見守っているリナも妙な緊張を感じていた。

(鍵は……やはり絆の象徴────彼女・・

妙に沈黙する空間の中、ジィとアイリスを見つめていたが、しばしの沈黙の後。

「あなたはジークのことが好きですよね?」

いきなり予想外な方向の言葉を投げて、重くなっていた場の空気を一瞬で粉々にした。

もしここに弟子のジーク、もしくは仲間達がいれば『また始まったよ。この人は……』などなど話の展開すら無視して進む。天然魔法使いに頭痛を覚えながら呆れてしまったに違いない。

「……へ? ふぇぇぇぇっ!?」

ただ、初対面のアイリスは純粋に戸惑うばかりである。
問い掛けられた言葉を理解した途端、顔からプシューと湯気を出して、あわわわと真っ赤になって混乱している。リナの方もいきなり何を言っているのかと、驚き過ぎて首を傾げて困惑していた。

(どうしてこの人……そんなことをアリスさんに)

リナからすれば、それはもう懐かしい話な気がした。
例の冒険者の話や予選会での騒動で、あの噂は煙と化しつつあった。……姉のサナはまだ少し異を唱えたい気持ちがあるようで、妹の自分にもそれとなく探るように頼んだくらいだ。

「あ、いきなりでしたね? 驚かせてしまってすみません。ただ確認ついでに聞いてみたかったので、あなたとジークの話は以前から耳にはしていたので」
「そ、そうですか……」

混乱し慌てているアイリスを見て、失言だと気付いたシィーナが一言理由を加える。

(まぁ、言われてみれば、本当に師なら最近の騒動よりもあの件の方が気になるよねぇ。最近の先輩はビックリ箱だったからそっちの方に考えてたよ)

確かにあの噂は学園どころか、街中でも耳にすることが多かった。理由を聞いてリナは思い出していると、アイリスも理由を聞いて少しだけ落ち着きを取り戻していた。

(少々急でしたか、余裕がないとはいえ慎重にすべきでしたね)

落ち着き出す彼女を見てとりあえず安堵するシィーナ。年頃の女の子であるのを考慮してなかったと反省すると、今度は地雷を踏まないように言葉の真意を彼女へ伝えた。

「私が知りたいのはあなたの気持ちです。ただの友達であれば、それ以上は言いません。……でも、もし彼にそれ以上の気持ちがあるのなら……教えてほしいんです」
「わ、わたしは……」

そんなシィーナの言葉に誘導されたか、自然と試合の方へ目を向けたアイリス。

(ジーくんへの気持ち……)

思わずジークの方を見てしまう。弱腰でありながら自分が抱く気持ち。心臓の鼓動が激しくなりながらも、抱いた想いを彼女はシィーナへ伝えた。

「はい、好きです。避けられて、ハッキリと拒絶されても、わたしは彼のことが忘れられません」
「それは助けられたからですか?」
「きっかけはそうかもしれません。でもそれ以降は違います。わたしは自分で望んで彼に尽くしたいと、側にいたいと思っています」

楽しそうな哀しそうな、歪で捉えにくい表情で笑っている彼を見て告げる。
その顔を見ていると胸の奥で痛みが走り、哀しさがこちらにも伝わってくる。……どうしても彼を忘れることができないのだ。

しかし、彼女の想いを聞いたシィーナの顔には陰があった。
静かに目を逸らして、どこか複雑そうに試合をするジークに顔を向けた。

「……やはり、消えず残っているんですね。アティシア・・・・・
「え?」

ボソとシィーナが呟いたが、側にいる二人にも聞こえない小さな声であり、会場の騒音のせいであっさりかき消えてしまった。

「あなたの気持ちはよくわかりました。その上で、アイリスさんにお願いがあります。……可能であればリナさんにも」
「え!? ボクも!?」
「厳密にはあなたのお姉さんもですが……」

さりげなくリナと姉であるサナにも協力を求めながら、アイリスに視線を合わせて告げる。

(巻き込みたくはありませんが、聞いてみた限り、彼女たちの想いも少なからず彼に届いているみたいですから)

何より告げた彼女の眼に嘘がない。ならばと覚悟を決めたシィーナが頼み込む。
きっと彼は激怒するに違いない。一生懸命抑え続けた憎しみのソレ・・・・・・を呼び起こすことになるだろう。

「彼の心の扉を抉じ開ける為に、協力してください」
「ジーくんの……心を?」

けれど、シィーナはやめない。
たとえその先で自分がジークに殺されることになったとしても、決してその選択を選んだことを後悔しないと彼女は確信していた。


◇◇◇


「少しできるようになった程度で、舐めてもらったら困るなっ!」

冷静さは失ってはいないが、静かに怒気を放つシムラ。先程のように槍から薄い雷のオーラを発すると素早く構えを取り、オリジナル魔法を再度発現させる。

すると放たれた槍が伸びる雷光と共に、彼の手元へ戻ってきた。
雷のオリジナル魔法『刹那なる破雷の一殺トニトルス』は雷の速度で放たれる槍である。

だが、雷速で放たれる槍の命中度はかなり低い。速過ぎる所為でとても扱いづらいのだ。槍に長けたシムラだからこそ、扱えれるオリジナル魔法といっていい。

だから回避不能な一槍であるのは間違いない。相手がジークでなく、ただの学生であれば、一発で倒せれる筈なのだ。

「さっきの残像は特殊歩行だろう? オレの槍を躱してみせたように見せたのは」
「ああ、『狗跳び』。東方の技を真似たものだ」

そう口にして横跳びをするジーク。すると先程立っていたところに、霧のようにしてジークの姿が残っていた。

そして、どういう訳か“空天”を解除したことで、突き刺さってあった剣も消えているが、ジークは余裕な顔を変えず、シムラへ向かって手招きをしていた。

「ふっ!」

それを一瞥したシムラはすぐさま槍を投げてみせる。槍を握っていた右腕の動きがまったく見えない。シムラの右側が一瞬だけ閃光を上げた時には、槍はジークに届いて────────

「避けれないと思ったか?」
「ぐっ」

届いたと思われた槍はジークの残像を射抜いただけ。横に立っていた彼を素通りしていた。
回避不能な技をジークは容易く避けている。……分かっているのだ。何処を狙っているのかを。

「う、ぉおおおおおおお!」

判断がつかないが、動かない訳にはいかない。シムラは身体強化で駆け出すと、『刹那なる破雷の一殺トニトルス』の連続の突きでジークの反応を見てみることにした。

ほんの一秒でシムラは三十を超える突きを繰り出そうとする。
しかし、接近してきたシムラに対してジークは退がることはなく、薄い笑みで手をかざして待っていた。

(『身体強化ブースト超硬化スーパーガード』、『身体強化・土の型ブースト・アース』)

二種類の身体強化を同時に発現させる。無色のオーラと褐色のオーラが彼を覆う。

どちらも防御強化が狙いである。土属性の防御力も加えることで、三十を超える槍をすべて受け切って弾いたのだ。

「───っ! 相性の悪い土属性でガードだと!? ふざけるな!!」

相性では土属性は雷属性に弱いのだ。
そして雷を扱うのはAランクの《雷槍》の二つ名を持つシムラだ。特性の貫通力も活かした槍を得意としている。

───────それになのに通じない。ジークが相性を容易くねじ伏せているのだ。

「属性の相性でなら負けないと思ったか?」
「ガハっ!! ぐ……ト、『刹那なる破雷の一殺トニトルス』ッ!」

いくら槍で突いても傷つくことなく弾かれてしまう。……さらにボディと顔に数発の重い拳が受けるシムラ。その攻撃も何処か今までと違い、体の芯に届いて響かせる。

「この程度の貫通力など、意味はないぞ?」
「……っ!」

再び雷光の槍を放つが、それでも通らない。何度もオリジナル魔法の槍を放っていくが、少しもビクともしないのだ。

圧倒的なジークの魔力がシムラの魔力を、完全に拒絶していた。

「無駄なのは理解したか?」
「っ! いや、まだだっ! 我が領域を満たせ────『雷霆王の絶対領域ボルテック・フィールド』!」

加えて確実に重い一撃をお見舞いしてくるが、シムラも引かない、地面に槍を突き刺し彼を中心に広がるのは、莫大な量の雷属性のオーラ、別の魔法を発現させて攻撃力をさらに上げ出したのだ。

「へぇ、属性強化のフィールド魔法か」

Aランク魔法『雷霆王の絶対領域ボルテック・フィールド
雷系統のエリア干渉系のフィールド魔法。シムラは自分たちの試合エリアを覆うように、雷のフィールドを作り上げたのだ。

「まだ学生なのに本当に大したもんだけど……」

しかし、その光景に対してもジークは臆することなく、薄い笑みのままシムラに告げる。……闇雲に抵抗する弱者を諭すように。

「潔く諦めるのも、また戦い鉄則だぞ?」
「っ! 黙れッ! ……降り落ちるいかづちよ、稲妻なる猛威にて……敵を撃て!! ────『霹靂の暴風ボルテック・テンペスト』ォォォォっっ!!!」

そこから繰り出したのはAランクの最上位魔法『霹靂の暴風ボルテック・テンペスト』。
出力が今までの比ではない。フィールドの魔法で強化されている。シムラはこれで一気にカタをつけるつもりのようだ。

「ハアアアア!!」

渾身の魔力を注ぎ放たれた『霹靂の暴風ボルテック・テンペスト』は、試合場を抉りながらジークへ迫る。
避ける気がないジークは、迫ってくる雷の暴風を前にしても動じることなく、暴風の先に控えるシムラを捉えていた。

「─────遮れ」

そしてジークが取った行動は、真っ向から防御である。
強烈な嵐のような『霹靂の暴風ボルテック・テンペスト』に対して、ジークは軽く手を振るって、Sランク技法である『詠み唄』で一言、詠唱を唱えた。

「な────なんだと!?」
「防げ……」

するとジークの前方に土属性の褐色のオーラが障壁となって出現。
相性では悪い筈の荒れ狂う『霹靂の暴風ボルテック・テンペスト』であるが、ジークが張ってみせた土属性の障壁は一切揺らぐことなく。

荒れ狂う暴風の稲妻の全てを受け止めたのだ。

「一応言っておくが、これは魔力の量での力押しではないぞ?」
「カアアアアっ!!」

だが、それもシムラは織り込み済み。自分が放った魔法とジークの障壁を飛び越えるように飛んで上から迫っていた。

「この程度で諦めるかァーー!!」

オリジナル魔法───────『刹那なる破雷の一殺トニトルス』で奇襲を仕掛けようとしていた。

「これで決めるッ! 今度こそ、逃しはしないッ!」

降下しながらジークを貫こうと一気に突っ込んで行く。
瞬間、雷光の一槍と共にいかづちの軌跡が描かれて、動かずに立っていたジークへ鋭い一槍が直撃した。

……筈が。

「これで分かっただろう?」
「そ、んな……」

呆然としたまま固まってしまうシムラがいた。
自信のあった二段攻撃。シムラがこれまで強敵な魔物と対峙した際に、よく使用した戦法である。……片方は防がれても、両方防がれたことは一度もなかった。

だが、ジークは『霹靂の暴風ボルテック・テンペスト』を障壁で防いだ上、上空からシムラの必殺の一槍『刹那なる破雷の一殺トニトルス』の刃の部分を……なんと素手で掴み取って止めてしまったのだ。

「無理なんだよ。お前の力じゃ」

この攻防の中でジークは既にシムラの魔力を掌握しており、そのすべての干渉を拒絶していた。
上位魔法もただの・・・オリジナル魔法も、もう彼には通じない。……以前相手した魔境会の者と同じであった。

「オレが“空天”を解いたのは、決意を示したかったからだ」
「……っ」

槍の刃先を掴んだまま、抵抗できずにいるシムラに対して、ジークは落ち着いた口調で告げる。

(う、動けない……! なんでだ!?)

すぐに退避したかったシムラであるが、どうしてか動くことができない。
身体強化をフルに使っているのに言うことが利かないのだ。

シムラ自身は気付いてないが、ジークはシムラが発現させている身体強化の魔力を囲うように、自分の魔力を使って全方位から圧力を掛けていた。

入学した際にガーデニアンがやってみせた超重圧の魔力圧を真似たものだが、ジークの場合は魔力がステルスのようなものなので、この技法だと気付かれにくい。

「もちろん舐めていた訳じゃない。勝利を捨てた訳でもない。……寧ろ逆だ。安全に相性のいい“空天”で相手してたのが、恥ずかしくなった。常に安全圏にいようとオレは持ってる手札で、戦ってるフリをして逃げていた」
「何を……言っているんだ! お前は……!?」

そう口にしているジークの顔には、何故か哀愁が漂っているのを混乱しているシムラの目にも理解できた。だが、それが何を意味するのかまでは分からない。動けない彼にはどうすることも出来なかった。

「これから先、お前のような相手とオレは戦う。お前くらいならオレも真の意味で戦えれる。……だからここで改めておきたかった」
「勝手な……ことを言うな! 勝つのは……オレだ……!!」

槍を掴まれながらシムラが強く反論する。……度重なる上位魔法の使用によって魔力が限界にきているにも関わらず、強気の姿勢でジークを睨んでいた。

だが、それ虚勢ではない。シムラにはまだジークを倒せる武器を残していた。

(まだ、だ……! オレにはまだ、師匠から譲り受けた奥の手アレがあるっ!)

捕まった状態である中でも、シムラは狙っていた。ここまで来てしまっては、もう最後の手段を行使するしかない。

(先生からは……怒られるけど、こいつだけは……!!)

実は師である《炎槍》から大会での使用を禁じられていた。まだシムラでも完璧に使いこなせてない。

罪人を地獄の灼熱で焼き尽くす、神の槍はまだ彼には重過ぎるチカラなのだ。

(なんとか出来るか!? 既に消耗具合がピークだ! ヘタしたら倒れるだけじゃ済まないが……!)

使用できるのは精々一日一回程度。
しかも、使用後は自分は気絶しかねない程の脱力に負われて、倒れてしまいかねない。……既に魔力も枯渇している時点で、それは避けられないだろうが。

魔力消費自体は少々他と違い特殊であるが、使用状態の魔力量によって、魔力回復が異なる。……このまま使用すれば、代償でしばらく魔力が練れなくなるであろうが。

(だが、その前にこいつを倒すことができればっ!! 構うものかっ!!)

「もう何もないなら───────これで本当に終わりにする」
「うっ……!」

本当にお終いのように告げると、槍から手を離して動けずにいるシムラの首を掴み取り、そのまま引き上がるジーク。

(落ち着け……! 暑くなったら気付かれてタイミングを逃す……! 落ち着いてチャンスを待つんだっ!)

「まぁまぁ楽しめたわ」

タイミングを見計らっているシムラに、ジークはトドメをさそうと空いている手に魔力を集めていく。……未だに制限をかけたままであるが、シムラ程度であれば、容易く気絶させれる一撃であった。

「じゃあな」

告げると込められた魔力の手を伸ばして、シムラの頭部へ魔力の衝撃を与えようとした。……微かに意識が手の方に移った瞬間。

(────今だっ! 魔力・全解放ッッーー!!)

シムラはこのタイミングで動き出した。
頭部を狙おうとして、僅かに生まれた好機チャンスを、彼は見逃さず一気に決めに行く。

「う、おおおお、オオオォォォォォォォォォッッ!!!!」

有りったけの魔力を瞬時に爆発させる。
結果、それほどキツくしてなかったか、ジークが発現させている魔力重圧の抑えをシムラは力任せに振り解くと、素早く距離を取って離れる。

「カァッ!」
「……!」

その際、ジークがすぐに距離を詰めないように、捨て石のつもりで愛用の槍を投げて牽制する。大事な槍であるが、もう魔力も殆どない今では心苦しいが、あの槍は今は必要ない。

「こんなもので……!」
「いいんだッ! これで……!!」

事実、ジークが問題なく槍を横に弾いていたが、シムラは気にもとめなかった。

(さぁ来いッ! 早く来いッ! この男を倒すためにオレの元に来るんだッ!)

彼が今、求めている槍は別である。
その名を彼は右手を勢いよく、ジークに突き出して───────────呼んだ。

「ハァァァァッ!! 天界まで貫けぇぇぇっっ!  ─────────『天誅灼熱の……神の槍グングニル』ゥゥゥっっ!!!!」

そして解放された古代原初魔法ロスト・オリジンの名は……神炎、神槍─────────『天誅灼熱の神の槍グングニル

「カッァァァァアアアアアアアっっ!!!!」

右腕から生まれ変わったように出現したのは、神槍である黄金の槍。
さらにその槍から噴き出しているのは、何処まで深く真っ赤な灼熱の神炎。

すべてを貫いてみせる槍。すべてをことわりさえも焼き尽くしてまう神炎。……あの炎だけでも、ジークの最強の炎。オリジナルの竜炎すら圧倒的に凌駕していた。

「終わるのは、お前だぁぁあああああああっっ!!」
「ッ……!」

神炎の槍はシムラの雄叫びと共に、仕留めようと駆け出していたジークへ一直線に伸びる。……距離間など既にないに等しかった。

(いくらこいつでもこれは対応出来ない筈だッ! 師から継承した神の槍ッ!! 絶大なその力を受けてみろォッッ!!)

シムラの狙いは対応も間に合わない。ギリギリのタイミングでの発現だった。
彼の槍の腕前と発現された伸びる神炎の槍は、茫然と見ている観客達を無視して、不発することなく逸れることもなく、標的であるジークの胸元、心臓へ到達寸前であった。

直撃すれば確実に勝利を手にする。最後の一撃を前にジークは─────────









やっと来たか・・・・・・。随分と慎重だったな)



────────これを待っていた・・・・・・・・

「待ってたんだ。この時を……!」
「は──────っ!?」

躱すことも守ることもせず、ジークは神炎の槍をまるで迎い入れるような嬉し笑みで両腕を広げていた。

これには槍を突き刺そうとしていたシムラも絶句。
好機であるのは間違いない場面である筈なのに、彼の直感は激しく警鐘を鳴らして、心音まで止まりかねない。今までにない強烈な悪寒が背筋に走っていた。

(待ってた、だと……? まさか全部この為に? 奴の狙いは初めから神炎の槍この槍だったのかっ!?)

言い知れない危機感から、最後の一撃である神槍を慌てて止めようとするシムラだが、……その時にはもう手遅れであった。

「『限定限界リミテーション』────“制限解除”」

彼の魔法は既に完成した。



究極原初魔法ウルティムス・オリジン発動────────────神の権能を剥奪せよ! 『白き銀の世界アルジェント魔導王の黙示録アポカリプス』ッ!!」



魔力の放出量の制限を解除し、手をかざしたジークは呼ぶ。
──────自身が編み出した原初奥義である。オリジナル魔法を発現させた。

すると周りの景色が一瞬にして、煌めく白銀の世界へ変貌する。
ジークから勢いよく放出された白銀のオーラは、彼らの試合エリアを飲み込むように広がっていく。

さらにシムラが発現させていた『雷霆王の絶対領域ボルテック・フィールド』までも塗り潰して上書きしてみせた。

「っ!? なんだ!? なんだこれはっ!?」

狼狽するシムラだが、視界に映る景色が白銀で埋め尽くされたからではない。

景色の暗転と共に、自身の右腕と同化していた神の槍『天誅灼熱の神の槍グングニル』が、突如神々しい存在感を薄め出したのだ。シムラは解除していないもに形状を維持することが出来ず、やがて崩壊するように最強の神槍は崩れてしまった。

「一体どうなっている!? 『天誅灼熱の神の槍グングニル』よ!? どうしたんだッ!?」

呼びかけるも返事など返ってくる筈もない。
最強を誇る古代原初魔法ロスト・オリジンの一角、神の槍『天誅灼熱の神の槍グングニル』はその素晴らしきチカラを発揮することなく、虚しくも存在を徐々に崩して消失していく。

「惜しかったな。オレがこの魔法・・・・を予め用意してなかったら、お前にも本当の意味でチャンスがあったのにな」

──────そして、粒子にまで崩れてしまったそれは、風に流されるようにシムラから離れる。……呆然とするシムラは無意識に目で、その跡を追っていくと……。

「お、おまえ……」
「この魔法はそもそもこの為にある。絶大なチカラであるコイツらでも争うことは出来ない」

まさかとは思った。だがそれでもありえないと吐き捨てたくなるシムラ。

しかし、現実はあまりにも残酷で、彼を奈落へと突き落としてしまう。

「オレの……槍を……師匠から貰った……槍を……オレの」
「ああ、本当に予想もしてないよな」

呆然としたまま彼は呪詛のように呟いている。……意識がしっかりしているか、少々怪しく周囲から見られるが、彼の目には粒子となった槍と、その先にいる者しか見えていない。

「失う恐怖を初めて感じたか? そうだな。オレもそうだったから分かるよ?」

師から貰い受けた大切な槍、まだまだ使いこなせてなくても、シムラは誇らしく抱いていた。

そんな師の誇りと言ってもいい、大切な槍は粒子となって彼から離れると、向かい合って立っている相手である──────────

「本当に残酷だよな。誇りを奪われるなんてな」

ジークの手元へと集まっていった。

「確かに貰ったぞ。神炎の槍グングニルを」
「オレの槍をォォォォォっっ!!!!」

完全に粒子が集まり切り、ジークの手元で球体となり、それを彼がシムラに見せつける。

「ぁぁ、ァァァァ、アアアアアアアアッ!!」

これが引き金であった。
シムラは荒れ狂うような絶叫を上げて、本能のまま激情のままにジークに駆け出した。

もう魔力は空であり、発現の影響ですぐに倒れてしまうが、それさえも思考の隅にも入れず、シムラは血走った眼光と般若のような怒りの形相で、ジークに向かって突進した。

「返せェェェェェェェェェェッッ!!!!」
「ああ、許せないよな。オレもだった」

シムラのあまりの変わりように、言葉を失い茫然とする観客達と違い、ジークの対応は冷静で辛辣であった。

「けど申し訳ない。それは無理な相談なんだ────────『融合』」

向かってくるシムラに対して、ジークは手を上にあげてかざしている。
すると右腕だけであるが、光と風の属性オーラが集まって、混じり合っていく。

「終わりだ」

Sランク技法の『融合』。右腕だけで属性融合させて、その魔力でトドメの魔法を行使した。

「『翼閃の断裂光線ウィング・スラッシュ』」
「っ!! ──────う、うがあああああっ!!」

シムラに向かって属性融合を含ませた腕を振り抜く。腕に込められた輝く緑光の一閃が駆け出していた彼の体に炸裂した。
苦悶の叫びと一緒にシムラの体は、大きく後ろに吹き飛ばされる。衝撃と共に彼の意識もそこで途切れたのだった。

「光と風の融合した『翼天の皇閃衣ウィング・ナイト』だ」
『そ、そこまでっ!!』

エメラルドのような輝きを見せる右腕を、ジークは天に掲げたところで試合終了の合図の声が響く。背を向けるとジークはその場から立ち去っていた。

展開していた白銀の空間も溶けるように消えていった。

「やっと……やっと新しい鍵だ」

唖然とする観客達にも目もくれず、ジークは手に入れた神槍の状態を球体にして、眺めながら倒れるシムラや審判を無視して出て行く。

「これで、残りは五つ……」

手のひらに浮かぶ球体を眺めて呟くジーク。
その瞳には目の前に映るものしか捉えていなかった。

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