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第5話 チカラの正体と宣戦布告。
「手荒い歓迎ですね」
「……そいつらは」
しかし、煙立つ暗闇の奥から出て来た黒ローブの老人には傷一つなく、側に二人の武装した男女が立っている。
その者達に守らせたのようだが、その二人から生気を感じられなかった。……その二人を一瞥して、冷めた目となったジークは老人に向き直る。
「禁呪の、兵士か」
「ええ」
『『──────』』
老人が目配せして合図を送ると、二人の男女が駆け出してくる。男性は剣を女性は短剣を携えて、無言で見据えているジークに迫ってくるが。
「……退いてくれ」
辛そうに僅かに眉間をシワを寄せたジークだが、専用技で手から『翠風の音響壊』を込めて、掌底で男性の体を吹き飛ばす。
短剣を振るう女性の頭部を同じく『翠風の音響壊』を込めた足蹴りを加えてみせる。
学園や闘技場とは違う上、加減の一撃、精神ダメージ変換させず直撃と同時に、二人から骨の砕ける音が響いた。
『『──────』』
普通なら重症、即死であったジークの攻撃であったが、男女からの勢いは落ちず剣を振るってきた。
(この程度じゃダメか……)
それをジークが体術で払い除けると、女性は距離を取って詠唱を唱え出し始める。……男性の方は時間を稼ぐつもりか、守りを気にせず攻めに来ている。聞こえる詠唱からして上位魔法であるのは間違いない。
このままでは厄介になる────────ジークの心の中で覚悟を決めた。
(仕方ない、……許せ)
詠唱を唱え出した女性を見て、ジークは『零の透斬』を手先から放出させて、剣を振るっている男性の胴を切り裂いて無力化した。
走法『跳び兎』を使用し女性の側まで跳び出して、手から風の鎌、『翠風の斬鎌』を創り出して、女性の体をバラバラにしてみせた。
「遠慮がないですね?」
「黙れ。アレは死体だ、もう……人間じゃない」
無感情な顔で転がっている死体を見た後、笑みを浮かべている老人へと向き合うジーク。
しかし、口では辛辣であるが、精神面はかなり疲弊し始めていた。たとえ死体であっても、持ち直してきたばかりのジークには堪えてしまう。
だが、老人が使用している禁呪の魔法は大戦時代でも、苦戦を強いられた厄介な物であった。……手加減すれば、倒しきれない。肉体をバラバラにしないとならないのだ。
死んだ者を傀儡として操り従わせる禁呪。《死霊の墓荒らし》のオリジナル魔法であり、老人自身が魔境会でも主力メンバーで教祖の側近でもあった。
帝国からの依頼で何度も戦場を荒らして尽くしてきたのである。
中には記憶をそのまま残っているタイプもいた為、この傀儡体には多くの味方兵が苦しめられ、心を病んでしまった者もいたのだ。
子供と戦わされることもあれば、仲間同士で戦うこともある上、さらに家族、恋人だった者と戦うこともあり、……ジークも仲間と戦わされた苦い経験があった。
だが、その報復も《鬼神》戦後にしっかりさせてもらった。
「今更何の用だ《死霊の墓荒らし》。……大戦の際に魔境会の帝国内にある拠点を破壊し尽くしたが、その復讐でもしに来たのか?」
「ああ、あれは確かに悪夢でした。しかし、それも今更ですよ」
「違うというのか、というか、どこで俺の正体を知った?」
懐かしむような老人が口にするが、決して微笑みながら懐かしむようなことではない。
SSランクの《鬼神》と激戦後、アティシアを亡くしてラインを死なせてしまったジークは心を殺して、一番派手に暴れている帝国内へ一人で乗り込んだのである。……無謀にも聞こえるが、彼は最強クラスの魔法使いで《鬼神》もいなかった。
突如現れた聖国のSSランクの《大魔導を極めし者》の襲来。
帝国内に乗り込んだジークに騒然となる帝国の者達であったが、ジークは御構い無しに最上級魔法からオリジナル魔法までフルに使用して、冷徹なままに帝都まで暴れて尽くした。
三日三晩、ジークは帝国内を暴れ回って以降、彼の怒りに触れ帝国の戦力は一気に落ちてしまった。……すっかり消沈し挫折してしまった帝国側から全面降伏が下るまで遅くはなかった。
その後ジークも《消し去る者》と呼ばれるようになり、ジーク自身もそれを自分の魔力の名として扱うようになった。……殺してきた者達のことを、自分のしてきたことを忘れない為に。
「主人ですよ。あなたの正体を看破したのは」
ジークの質問に対して、老人の方は黙秘もせず、平然と答えてみせるが、ジークはそんな老人を胡散臭げな眼差しで睨んでいた。
信じる信じない以前に何故を現れたのか、目的はなんなのか、ジークは目の前の老人の─────いや、その主人の考えが分からなかった。
「主人とは誰のことだ? お前らのところの教祖か? そいつが俺に何の用だ?」
「教祖様でありません。ただ、伝言を頼まれたんですよ。あなたに伝えたいことがあると」
微笑みを崩さずジークの質問に答える老人に、ジークは訝しげな顔で疑問をぶつけた。
「お前が使いパシリだと? 《魔境会》でも主力で、しかも教祖の側近であるお前がか?」
「いいえ、もう側近ではありませんよ」
首を振って老人が告げているが、ジークは何を言っているのかと目を疑っている。……だが、老人はジークの視線に対しての返答として、一つある行動を取ってみせる。
ジークが警戒する中、懐からナイフと一つ取り出した老人がナイフを、彼に見えるように掲げる。さらに胸元を見えるように晒している。
「ご覧ください、……ふ!」
「なっ!?」
すると突然、ナイフを持ち直して逆持ちにするとそのまま刃を自分の胸元に向けて、突き刺してしまったのである。……あまりの急なことにジークは止めることができなかった。
しかし、次の瞬間、目に映る光景に思考までも固まってしまいそうになる。
「……傷が、塞がっていく」
胸に突き刺されたナイフを引き抜く老人にも驚いたが、それ以上に刺された箇所から出ていた血が止まって、傷が塞がっていく現象を見たジークは、そのよく知る現象の正体を知っていた。
「お前も……傀儡なのか?」
「いかにも、記憶もそのままして、主人の傀儡として今は行動しております」
かつて戦って苦戦を強いられた《死霊の墓荒らし》はあろうことか、自分自身までも傀儡となって、彼の前に現れていたのである。
その証拠として老人の体から生気の気配が消えていっているのが分かる。……さらに、ぼかされていた自分に似た魔力にも変化が─────────似てるような感じから、完全にジーク自身の異質な気配を出している魔力に変化していた。……本人も狼狽するほど。
「まさかその魔力、お前を傀儡化している術者の魔力か」
「はい、他の傀儡の場合は自分の魔力を八割、主人の魔力を二割程度にしていますが、私は実験の為、九割九分、主人の魔力にしてあります」
禁呪によって生まれた傀儡を操る場合、操り主である主人の魔力が必要である。……割り合いや量によって操れる易さが変わるようだが、大体は本人の魔力で構成されている。
ところがこの老人は自分の大半の魔力を捨てて、残っている箇所に主人の魔力を埋め込んでいるのだ。……それもジークにそっくりな魔力を。
(他の二人もよく探るとそうだ。……微量だけど魔力の感覚が俺に似ている)
それとそっくりとも言ったが、ジークはこの魔力を似ている程の認識ではもう片付けられなかった。
……否定要素が一切ない。信じられないが、この色で表現が不可能な淀み切った感じがある異質な力など────────彼はこの世で一つしか知らなかった。
「これは俺の魔力だ。大戦時、シルバー・アイズの俺が発していた魔力そのものだ」
「ええ、おっしゃる通りです。これは……あなたの魔力ですよ」
敵からの反論の言葉も一切ない。
老人は満足げな顔をして、強く頷いてジークに賞賛の言葉を述べたが、ジーク本人は全く嬉しくなった。……寧ろ自分の答えが当たってしまった現実に、押し潰されそうになっていた。
それだけ使用されている魔力の正体が、自分の物だったことがショックだったのだ。
「……お前……それを、どこで」
「本当に分かりませんか? この魔力が、何故我々の元に届いたのかを」
どこか掠れたような声で弱々しく問いかけるジークに対し、少々呆れたような声音で発している老人が仕方なさそうに首を振るうと懐から、折られた一枚紙を取り出して、彼に見せるように掲げた。
「主人からの伝言です。────────シルバー・アイズ、忘れるな、お前は英雄ではない、無秩序に死を振りまき続けてきた、裁かれるべき大罪人だ。それを……この祭りで証明しよう」
主人の言葉を淡々と告げて、紙を彼に向けて放り捨てると、老人は彼に背を向けて振り返ることもなく、暗闇の奥へと消え去っていた。……転がっていた傀儡もいつの間にか消えてしまっていた。
「……」
残されたジークはただ、黙したまま立ち尽くしているだけ、追おうと思えば追えたのにもかかわらず、思考内でついこの間もこんな気分になったような……と少々ズレたことを考えてしまっていた。
そうして彼が正常な状態に戻って落ちている紙を拾ったのは、もう少々後になる。
◇◇◇
ジークが《死霊の墓荒らし》と対峙していた頃、王都内にあるとある建物の中。
明かりもつけず薄暗い広いフロアの中で立つのは、白きローブを身に付けてた白髪の青年《復讐の壊滅者》。……目の前に設置している台座の上にある、巨大な物を眺めていた。
「天は私達に味方しているようですね。……まさか、彼の魔力を移植したことで、彼自身を感じ取れるようになるとは」
最も彼の方からは感じ取り難いようですが……。緩やかに思考に耽る《復讐の壊滅者》は台座の上に置いている───────石
大の大人ぐらいは簡単に隠してしまいそうな巨大な魔石を前にして、青年は楽しそうに微笑を浮かべて手で触れる。
「あなたの力は、もうあなただけの物じゃないんですよ。……シルバー」
かつて帝国を三日三晩襲った、シルバー・アイズの魔法の災厄。
その集合体となってどこか淀んだ輝きを見せている巨大魔石を、愛おしく撫でながら青年は濁った瞳で眺めていた。
◇◇◇
ジークが《死霊の墓荒らし》と対峙していた時である。
王都の街中にある大きめの店舗の屋根の上から街の外、本来は見える筈もないジーク達がいる夜の草原の方を覗き込む───────一人の男性がいた。
「……マジか」
溜息とともに呟いた一言には男性の深い深慮が窺えた。
頭痛にでも見舞われているような、しかめた顔で頭に手を添えている。
気付いたのは偶然であった。基本外よりも街中を警戒している彼が外の小さな騒動に気付いたのは、特に警戒していた魔力が彼の瞳の反応したからだ。
彼はすぐさま眼を飛ばして反応の先を覗き込んだが、……そこで行われている光景にギョっとした顔で覗き込んでいた。
反応した先にいたのはローブを着た見覚えのある老人であったが、彼が注目したのは対峙ている学生服を着た青年。
一見ただの学生にしか見えない青年だが、……その側にはバラバラにされて尚も動こうとする人らしき物が見える。動こうとしている時点でおかしいことだが、図的に見ても彼が倒したのだと予想できる。
しかし、その斬殺行為を見た限りとてもただの学生には見えなかった。
彼の思考もそこまで行き着くこととなったが、もっとも驚きを見せたのは去り際に老人が口にしたあの言葉。
─────────シルバー・アイズ
男は老人の口の動きから読み取った人物名。それは彼もよく知っている冒険者最強の魔法使いの名であり、自分と同じ超越者の名でもあった。
「闘技場の時も気付けなかったが、今も全然見分けが付かん。……いつもみたいな魔力の気配じゃないのは不思議だが、アイツのことだ、それも魔法で隠してるんだろうな」
そう納得して覗き込んでいた男────────────ギルドレット・ワーカスは落ち込んだような溜息をつくと視線を移して、暗闇の中に歩いていった老人……《死霊の墓荒らし》の追跡に動き出した。
「……そいつらは」
しかし、煙立つ暗闇の奥から出て来た黒ローブの老人には傷一つなく、側に二人の武装した男女が立っている。
その者達に守らせたのようだが、その二人から生気を感じられなかった。……その二人を一瞥して、冷めた目となったジークは老人に向き直る。
「禁呪の、兵士か」
「ええ」
『『──────』』
老人が目配せして合図を送ると、二人の男女が駆け出してくる。男性は剣を女性は短剣を携えて、無言で見据えているジークに迫ってくるが。
「……退いてくれ」
辛そうに僅かに眉間をシワを寄せたジークだが、専用技で手から『翠風の音響壊』を込めて、掌底で男性の体を吹き飛ばす。
短剣を振るう女性の頭部を同じく『翠風の音響壊』を込めた足蹴りを加えてみせる。
学園や闘技場とは違う上、加減の一撃、精神ダメージ変換させず直撃と同時に、二人から骨の砕ける音が響いた。
『『──────』』
普通なら重症、即死であったジークの攻撃であったが、男女からの勢いは落ちず剣を振るってきた。
(この程度じゃダメか……)
それをジークが体術で払い除けると、女性は距離を取って詠唱を唱え出し始める。……男性の方は時間を稼ぐつもりか、守りを気にせず攻めに来ている。聞こえる詠唱からして上位魔法であるのは間違いない。
このままでは厄介になる────────ジークの心の中で覚悟を決めた。
(仕方ない、……許せ)
詠唱を唱え出した女性を見て、ジークは『零の透斬』を手先から放出させて、剣を振るっている男性の胴を切り裂いて無力化した。
走法『跳び兎』を使用し女性の側まで跳び出して、手から風の鎌、『翠風の斬鎌』を創り出して、女性の体をバラバラにしてみせた。
「遠慮がないですね?」
「黙れ。アレは死体だ、もう……人間じゃない」
無感情な顔で転がっている死体を見た後、笑みを浮かべている老人へと向き合うジーク。
しかし、口では辛辣であるが、精神面はかなり疲弊し始めていた。たとえ死体であっても、持ち直してきたばかりのジークには堪えてしまう。
だが、老人が使用している禁呪の魔法は大戦時代でも、苦戦を強いられた厄介な物であった。……手加減すれば、倒しきれない。肉体をバラバラにしないとならないのだ。
死んだ者を傀儡として操り従わせる禁呪。《死霊の墓荒らし》のオリジナル魔法であり、老人自身が魔境会でも主力メンバーで教祖の側近でもあった。
帝国からの依頼で何度も戦場を荒らして尽くしてきたのである。
中には記憶をそのまま残っているタイプもいた為、この傀儡体には多くの味方兵が苦しめられ、心を病んでしまった者もいたのだ。
子供と戦わされることもあれば、仲間同士で戦うこともある上、さらに家族、恋人だった者と戦うこともあり、……ジークも仲間と戦わされた苦い経験があった。
だが、その報復も《鬼神》戦後にしっかりさせてもらった。
「今更何の用だ《死霊の墓荒らし》。……大戦の際に魔境会の帝国内にある拠点を破壊し尽くしたが、その復讐でもしに来たのか?」
「ああ、あれは確かに悪夢でした。しかし、それも今更ですよ」
「違うというのか、というか、どこで俺の正体を知った?」
懐かしむような老人が口にするが、決して微笑みながら懐かしむようなことではない。
SSランクの《鬼神》と激戦後、アティシアを亡くしてラインを死なせてしまったジークは心を殺して、一番派手に暴れている帝国内へ一人で乗り込んだのである。……無謀にも聞こえるが、彼は最強クラスの魔法使いで《鬼神》もいなかった。
突如現れた聖国のSSランクの《大魔導を極めし者》の襲来。
帝国内に乗り込んだジークに騒然となる帝国の者達であったが、ジークは御構い無しに最上級魔法からオリジナル魔法までフルに使用して、冷徹なままに帝都まで暴れて尽くした。
三日三晩、ジークは帝国内を暴れ回って以降、彼の怒りに触れ帝国の戦力は一気に落ちてしまった。……すっかり消沈し挫折してしまった帝国側から全面降伏が下るまで遅くはなかった。
その後ジークも《消し去る者》と呼ばれるようになり、ジーク自身もそれを自分の魔力の名として扱うようになった。……殺してきた者達のことを、自分のしてきたことを忘れない為に。
「主人ですよ。あなたの正体を看破したのは」
ジークの質問に対して、老人の方は黙秘もせず、平然と答えてみせるが、ジークはそんな老人を胡散臭げな眼差しで睨んでいた。
信じる信じない以前に何故を現れたのか、目的はなんなのか、ジークは目の前の老人の─────いや、その主人の考えが分からなかった。
「主人とは誰のことだ? お前らのところの教祖か? そいつが俺に何の用だ?」
「教祖様でありません。ただ、伝言を頼まれたんですよ。あなたに伝えたいことがあると」
微笑みを崩さずジークの質問に答える老人に、ジークは訝しげな顔で疑問をぶつけた。
「お前が使いパシリだと? 《魔境会》でも主力で、しかも教祖の側近であるお前がか?」
「いいえ、もう側近ではありませんよ」
首を振って老人が告げているが、ジークは何を言っているのかと目を疑っている。……だが、老人はジークの視線に対しての返答として、一つある行動を取ってみせる。
ジークが警戒する中、懐からナイフと一つ取り出した老人がナイフを、彼に見えるように掲げる。さらに胸元を見えるように晒している。
「ご覧ください、……ふ!」
「なっ!?」
すると突然、ナイフを持ち直して逆持ちにするとそのまま刃を自分の胸元に向けて、突き刺してしまったのである。……あまりの急なことにジークは止めることができなかった。
しかし、次の瞬間、目に映る光景に思考までも固まってしまいそうになる。
「……傷が、塞がっていく」
胸に突き刺されたナイフを引き抜く老人にも驚いたが、それ以上に刺された箇所から出ていた血が止まって、傷が塞がっていく現象を見たジークは、そのよく知る現象の正体を知っていた。
「お前も……傀儡なのか?」
「いかにも、記憶もそのままして、主人の傀儡として今は行動しております」
かつて戦って苦戦を強いられた《死霊の墓荒らし》はあろうことか、自分自身までも傀儡となって、彼の前に現れていたのである。
その証拠として老人の体から生気の気配が消えていっているのが分かる。……さらに、ぼかされていた自分に似た魔力にも変化が─────────似てるような感じから、完全にジーク自身の異質な気配を出している魔力に変化していた。……本人も狼狽するほど。
「まさかその魔力、お前を傀儡化している術者の魔力か」
「はい、他の傀儡の場合は自分の魔力を八割、主人の魔力を二割程度にしていますが、私は実験の為、九割九分、主人の魔力にしてあります」
禁呪によって生まれた傀儡を操る場合、操り主である主人の魔力が必要である。……割り合いや量によって操れる易さが変わるようだが、大体は本人の魔力で構成されている。
ところがこの老人は自分の大半の魔力を捨てて、残っている箇所に主人の魔力を埋め込んでいるのだ。……それもジークにそっくりな魔力を。
(他の二人もよく探るとそうだ。……微量だけど魔力の感覚が俺に似ている)
それとそっくりとも言ったが、ジークはこの魔力を似ている程の認識ではもう片付けられなかった。
……否定要素が一切ない。信じられないが、この色で表現が不可能な淀み切った感じがある異質な力など────────彼はこの世で一つしか知らなかった。
「これは俺の魔力だ。大戦時、シルバー・アイズの俺が発していた魔力そのものだ」
「ええ、おっしゃる通りです。これは……あなたの魔力ですよ」
敵からの反論の言葉も一切ない。
老人は満足げな顔をして、強く頷いてジークに賞賛の言葉を述べたが、ジーク本人は全く嬉しくなった。……寧ろ自分の答えが当たってしまった現実に、押し潰されそうになっていた。
それだけ使用されている魔力の正体が、自分の物だったことがショックだったのだ。
「……お前……それを、どこで」
「本当に分かりませんか? この魔力が、何故我々の元に届いたのかを」
どこか掠れたような声で弱々しく問いかけるジークに対し、少々呆れたような声音で発している老人が仕方なさそうに首を振るうと懐から、折られた一枚紙を取り出して、彼に見せるように掲げた。
「主人からの伝言です。────────シルバー・アイズ、忘れるな、お前は英雄ではない、無秩序に死を振りまき続けてきた、裁かれるべき大罪人だ。それを……この祭りで証明しよう」
主人の言葉を淡々と告げて、紙を彼に向けて放り捨てると、老人は彼に背を向けて振り返ることもなく、暗闇の奥へと消え去っていた。……転がっていた傀儡もいつの間にか消えてしまっていた。
「……」
残されたジークはただ、黙したまま立ち尽くしているだけ、追おうと思えば追えたのにもかかわらず、思考内でついこの間もこんな気分になったような……と少々ズレたことを考えてしまっていた。
そうして彼が正常な状態に戻って落ちている紙を拾ったのは、もう少々後になる。
◇◇◇
ジークが《死霊の墓荒らし》と対峙していた頃、王都内にあるとある建物の中。
明かりもつけず薄暗い広いフロアの中で立つのは、白きローブを身に付けてた白髪の青年《復讐の壊滅者》。……目の前に設置している台座の上にある、巨大な物を眺めていた。
「天は私達に味方しているようですね。……まさか、彼の魔力を移植したことで、彼自身を感じ取れるようになるとは」
最も彼の方からは感じ取り難いようですが……。緩やかに思考に耽る《復讐の壊滅者》は台座の上に置いている───────石
大の大人ぐらいは簡単に隠してしまいそうな巨大な魔石を前にして、青年は楽しそうに微笑を浮かべて手で触れる。
「あなたの力は、もうあなただけの物じゃないんですよ。……シルバー」
かつて帝国を三日三晩襲った、シルバー・アイズの魔法の災厄。
その集合体となってどこか淀んだ輝きを見せている巨大魔石を、愛おしく撫でながら青年は濁った瞳で眺めていた。
◇◇◇
ジークが《死霊の墓荒らし》と対峙していた時である。
王都の街中にある大きめの店舗の屋根の上から街の外、本来は見える筈もないジーク達がいる夜の草原の方を覗き込む───────一人の男性がいた。
「……マジか」
溜息とともに呟いた一言には男性の深い深慮が窺えた。
頭痛にでも見舞われているような、しかめた顔で頭に手を添えている。
気付いたのは偶然であった。基本外よりも街中を警戒している彼が外の小さな騒動に気付いたのは、特に警戒していた魔力が彼の瞳の反応したからだ。
彼はすぐさま眼を飛ばして反応の先を覗き込んだが、……そこで行われている光景にギョっとした顔で覗き込んでいた。
反応した先にいたのはローブを着た見覚えのある老人であったが、彼が注目したのは対峙ている学生服を着た青年。
一見ただの学生にしか見えない青年だが、……その側にはバラバラにされて尚も動こうとする人らしき物が見える。動こうとしている時点でおかしいことだが、図的に見ても彼が倒したのだと予想できる。
しかし、その斬殺行為を見た限りとてもただの学生には見えなかった。
彼の思考もそこまで行き着くこととなったが、もっとも驚きを見せたのは去り際に老人が口にしたあの言葉。
─────────シルバー・アイズ
男は老人の口の動きから読み取った人物名。それは彼もよく知っている冒険者最強の魔法使いの名であり、自分と同じ超越者の名でもあった。
「闘技場の時も気付けなかったが、今も全然見分けが付かん。……いつもみたいな魔力の気配じゃないのは不思議だが、アイツのことだ、それも魔法で隠してるんだろうな」
そう納得して覗き込んでいた男────────────ギルドレット・ワーカスは落ち込んだような溜息をつくと視線を移して、暗闇の中に歩いていった老人……《死霊の墓荒らし》の追跡に動き出した。
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