オリジナルマスター

ルド@

おまけ編 過去の記憶と王女との邂逅。

これはジークことシルバー・アイズが大戦に参加して、およそ数ヶ月ほど経ったある真夜中のことである。……SSランクのギルドレットと人騒動起こした後の話である。

聖国のエリューシオンにある、とある街。
その街にある貴族が住む豪邸にて。

『逃すなァ!』

惨劇が起きていた。

『殺せッ!』
『引き摺り出せェ!』

建物内で大勢の人の血が流れる。
エリューシオン内部で敵国の者達による襲撃を受けていた。

『キャァアア!』
『グアァァァ!?』
『だ、誰か……!』

豪邸を襲撃したのは盗賊や暗殺者達である。
相手が油断してるところで不意をつき、貴族に仕える使用人や護衛、さらに貴族と思われる人まで殺していった。

『出口を塞いで外からも見張れ! 窓から抜け出すようなら矢か魔法で撃ち抜け!』
『ハッ』

邸内を駆け回り、外にも目を光らせ、徐々に逃げ場を奪っていった。


◇◇◇


「……参りましたね。どうやら逃げ場はないみたいです」

襲撃を受けた豪邸、そのとある部屋の中でエリューシオンの第二王女ティア・エリューシオンが隠れていた。

「怪我人もいるから早く出たいのですがね」

呟きながらチラリと部屋の隅を見る。
そこに襲撃で怪我をした者達や非戦闘員であろう使用人、貴族などが固まって身を縮めていた。

襲撃を受けた際、戦力的に厳しいと感じて素早く一室に隠れたティアは他にも生き残った者達を集めて、部屋に隅に匿わせていたのだ。

「さすがに厳しい……」

キツそうな顔をして状況を整理して脱出口を見つけようとするが、もうほぼ詰みの状態であるのが分かりきっているので、一向に策が思いつかずにいた。

「どうやらそのようです」
「やれやれ、困ったものだ」

彼女の言葉に相づちを打つのは、彼女の専属の護衛騎士の二人。

二人とも女性である。
一人はティアより少し年下風の女の子で、もう一人は彼女らよりも年上の女性であった。

「まさかここでの会議が漏れていたとは……どうやら密偵は王都中枢まで侵入しているようですね姫様」

年下風の女の子が杖を構えた状態で仕えるティアに告げる。

今回彼女ら、というかティアがこの豪邸にいるのかというと、休戦しながらも未だに続く大戦について新たな対抗策を検討するため、密かに支援している貴族数名を集めて会談を開いていたのだ。

今年で基礎的な戦闘訓練を完了したティアも遂に戦場に出ることとなり、王族代表としてこの会談に参加したのだ。

だがその情報が敵国に流れていたようで、こうして襲撃を受けてしまったティア達。

敵は十分に準備を整えてから仕掛けてきた為、敵の裏をかけずにいる。……その上こちらはバレないために最低限の護衛のみしか連れていない。

圧倒的に不利な状況であった。

「フウ、リン。あなた達は他の人達についてあげてください」
「!」
「ティア様!?」

彼女の言葉に驚く二人。
だが、そんな彼女達を置いて部屋の入り口付近まで歩む。

入り口ここはわたくしが抑えます!」

そうして愛用の剣を構える。

彼女は気づいている。
───────敵が徐々にこの部屋に近づいていることを。

「っ! 姫様!」

フウと名乗る年下の女の子が慌てた様子で、ティアの前へ出ようとする。
リンと名乗る女性も同じである。

が、ティアは手で制して来させないようにする。

「お願い! お兄様もお姉様も騎士として戦場に出てるんです。わたくしだって戦場に出ると決めた身。大丈夫、出来ます!」

そうティアが二人に決意を口にしているところで───────

『見つけた! ここにいるぞ!』

扉の奥から敵の声が聞こえた。
とうとう敵に居場所がバレたようだ。

「ッ!」
 
その声に反応して手元の剣を、強く握り締めるティア。

後ろで近寄ろうとしていた二人、そしてまだ戦えれる者達に緊張が走る。……それぞれ手持ちの武器を構え気を引き締める。

『ここだ! 間違いない!』
『打ち破れ!』
『殺せ! 皆殺しだ!』

「っ……!」

扉越しに響く声にビクッと体を震わせるティア。
同時に数多くの殺気が扉から溢れでいた。

今にも突入しかねない気配にティアはこの国の王である父より受け継いだ、オリジナル魔法を発現しようと剣に魔力を込め出した。

(や、やれる……わたくしはやれる……!)

心の中で自分に言い聞かせ、ティアは覚悟を決め動き出そうとする。

────が、敵が扉を開けようとする気配がした瞬間。

『それは困るな』
「────!?」

ティアの耳に透き通るような声が扉から届いた。……扉越しであるのにその声音から先程の男達以上の突き刺さるような殺気が感じられたのだ。

(し、しまっ──────)

背筋が凍りつくその声に思わず、込め出していた魔力を霧散させてしまうティア。

だが、そうして焦っている間にも扉の奥で何かが起き出していた。

『だ、誰だテ─────ガァッ!?』

次に戸惑う敵の声が扉から聞こえたが、すぐにそれが呻き声へと変わった。

そしてそれをきっかけとなって──────次々と野太い悲鳴と共に奇妙な音が響く。

『こ、このガッ───ブッラッ!?』
『オイ、どうし────ギャァアアアア!!!?』
『こ、殺せ! 誰かコイツを───バアッ!?』
『ヒっ! ア、あああ!?』
『に、にげろ! グハッ!?』
『だ、だれ、うわわわわッ!?』

鈍器で岩でも殴ったかのような鈍い音。
胴体を斬り裂くような斬音。
何か握り潰したかのような破裂音。

響き渡る悲鳴と共にティアの耳に届くそれらの音。

「……っ」

扉の向こうから聞こえる悲鳴や音に息を呑むティア。
背後にいる護衛の二人や他の者達も何事かと、固唾を飲み黙り込む。


そしてしばらくすると、あれほど響き渡って殺気立っていた扉の向こうが静かになる。

「う……」

あまりの静けさにティアは思わず半歩後ずさってしまう。

「ひ、姫様……」
「しっ! 静かにフウ!」

寄ってきたフウが心配そうに声をかけてきたが、ティアは素早くそれを黙らせる。
彼女の目の前でギーと音を立てて、静かに開く扉が見えたのだ。

「──」

ゆっくりと開く扉を前にティアは剣を大きく振り上げた構えをとる。

叫び声からして敵が何者かにやられたのだと判断すべきかもしれないが、直接見てない以上、罠かもしれないので油断できない。

そのティアの行動に背後にいた、護衛の二人が驚いたような顔をするが、すぐに意図が理解できたのか、二人とも彼女に続けて武器を構える。

後ろの二人が戦闘体勢に入ったのを確認すると、一瞬だけ彼女達の方を向いて頷いて見せる。

(二人とも準備はいいみたい)

そうして扉の方へと目を向ける。

「ッ!」

するとその扉を押すように腕がティアの視界に入った。

「────!!」

視界に入ったところで、ティアは腕めがけて剣を振り下ろした。
緊張はしていたが、訓練のおかげか自然と振り下ろした剣に魔力を込めれた。


───────振り下ろした剣が伸びる腕に迫る。

ティアの脳裏に切り落ちた腕が見えた。



だが。

「落ち着け」
「────な!?」

言霊でも受けてしまったのか、突然耳に入った声にティアは振り切ろうとした剣を押し止めてしまった。……背筋を一瞬で氷つかされたような錯覚を覚え、体が硬直してしまったのである。

「たく、手荒な歓迎だな?  一体どこの貴族様だ? せっかく超特急で救助に来たのによ」

呆れた声で腕の主はティアを軽く押し退けて中に入る。

「あ、あなたは?」

思ったよりも背丈が低く、自分に近いことに呆然としてティアは尋ねる。……入ってきた人物はフード付きのローブを被っており、顔はよく見えなかった。

声からして男性だと判断し、体格から自分と同じくらいの歳だと思われる。

しかし、そこで一つ疑問符が浮かぶ。

(あれ? こんなに近くなのに顔がよく見えない)

ティアはそこでこの人物が今被ってるローブに、視覚妨害が付与されていることに気づく。……僅かであるが銀の髪がチラリと見える程度ある。

(常時発動しているってこと? でもなぜ? 味方じゃないのかしら )

先ほどの口ぶりからして味方なのだと判断したティアであったが、新たな疑問を浮かべる彼女よりも先にローブの主が口を開いた。

「で? アンタ誰?」
「え、え?」
「いやオレ、偉そうな連中に頼まれてここに来たんだけど、誰なのか聞いてないんだ」

ポリポリと頰を掻くローブの主に、ティアは戸惑った顔で口を閉ざしてしまった。
いきなり自分が誰なのかと問われ、咄嗟に返答出来なかったのだ。

しかしそれも無理もない。
こんな予想外な展開も原因ではあるが、ティアこれまで人に自分が何者なのかと問われたことが一度もなかったのだ。

これまで訓練を続けていたティアは冒険者達などと外で活動することはなかったため、こうした対応されてしまうのは初めてであった。

「ん? おーい? 聞いてるのか貴族さ─────ッボブバッ!?」

呆れた口調のまま尋ねるローブの主であるが、突如変な声をあげて真横へ吹っ飛んでいった。

「さっきから何してるのかなぁ〜シルバー?」

彼が立っていた背後、扉の入り口付近にもう一人立っていた。
もう一人の方もフード付きのローブを身に付けており、頭からすっぽりと被っている。……手首を振ってるところを見ると、彼を吹き飛ばしたのはこの人物のようだ。

「うっ、ぐ……! あ、アティシア……!」

吹き飛ばれ壁へと激突したシルバーと名乗るローブの主は、フラつきながら起き上がる。……衝撃で壁にめり込んだように見えたが、本人は割とピンピンしている。

「もう、メッ! だよシルバー!」
「背後からいきなり裏拳かますとか鬼か」
「鬼ってあのね? いくらいきなり襲いかかれたからって貴族相手に『誘導交渉ネゴシエーター』の威圧を掛けてる人に言われなくないよ……!」

ローブからチラリと見える水色の淡い髪の女性。
アティシアと名乗る少し年上風の女性が、怒った口調で吹き飛んたシルバーと名乗る少年を叱りつける。

「ああ〜そうですか……つぅ……!」

シルバーと呼ばれた少年の方は呻きながら、こちらに近寄ってくる。……結構派手に壁に激突したようにティアには見えたが、とうの少年はフラつきはしているが、怪我をしてる様子はなく血も出してない。

「……」
『……』

そんな光景に呆然とした様子のティアと護衛の二人。
というより、部屋にいた二人を除いた全員が固まってしまっていた。

「あ、ティア王女ですよね? 先ほどは大変失礼しました」

そうしてシルバーがこちらに来たところで、アティシアと名乗る女性がティアに向かって頭を下げて申し訳なさそうに謝罪を口にする。

「ほら! シルバーも!」
「いっってえええッ!?」

ついでに隣に立った少年の頭も、無理矢理下げさせる。

(あ、腕だけ強化してる)

無理矢理頭を下げさせてる少女の手に、魔力が集まってるのを感じ取ったティア。
力任せに下げさせてるように見えていたが、まさか強化魔法まで使用しているとは─────と、薄ら寒いものを感じてしまった。

「い、いいえ……こちらも確認もせず斬り掛かりましたから、お互い様ですよ?」

頰に冷や汗をかきながらフォローするティア。……見ているこっちが不安になりそうな光景にすっかり低姿勢になってしまう。

「そうですか? はあー」

彼女の言葉を聞いて安心したのか、その場で深くため息をつく少女だが、その隣にいる少年の方は────

「ハァー、やっぱ貴族は面倒だ。アレぐらいで問題になるなんてよ」

呆れた口調でそんなことを口にしていた。
貴族に対して敬意や良い印象がないのか、まったく遠慮がない発言である。

「え、あ、えと……」
『ッ!!?』

そんな少年の発言にティアは困ったような顔をする。
後方で控えていた護衛の二人や他の方々もビックリした顔で、口にした少年を見ていた。

こんな風に彼女に文句を口にする人間など初めてなのだ。
ティア自身、こうして正面から不満を言われてしまうのは、家族以外では初めてであった。

本来なら王族に対する侮辱罪で打ち首であるが、皆混乱してどう反応していいのか分からなくなってしまっていた。……一人を除いては。

「……『巨氷の槌ビックアイス・ハンマー』」

混乱する他の方々の代わりにアティシアと名乗る少女が動いてみせる。……少年の頭の上から巨大な氷のハンマーを振り下ろしたのだ。

「がふッ!?」

突然の頭部からの攻撃にまた変な声をあげるシルバー。
触れた瞬間、不思議なことに氷の方が霧散してしまったが、衝撃は残っていたようで。

「うっっっ」

そのままうずくまり、頭部を抑えてしまうシルバー。
そんな彼の頭をガシっとアティシアは掴み取ると、ニコリと笑みを浮かべてティアの方へと顔を向けた。

だがその額に怒りのマークが浮かんでるように、ティアには見えた気がした。

「本当にすみませんティア王女。内分この子は目上に対して敬語を使う、というのが苦手な子供でして……」
「は、はぁ」

掴んだ少年の頭をこちらに見えるように上げながら言うアティシアにティアは苦笑を浮かべて曖昧な返事をする。

「アティシア……、頼むから頭をそんな揺らさないで……。脳みそが出てきそう───」
「黙りなさい」
「──がふッ!」

青ざめた顔のシルバーにさらなる追い討ちを与えるアティシア。
掴んでいた頭を床に向けて叩き落とした。

「そもそもこうなったのは、シルバーが王都で暴れたのが原因でしょう! もう!」
「……」

ティアはもう何も口にすることができなかった。
失礼な態度のシルバーと名乗る謎の少年に、氷魔法の使い手の末恐ろしいアティシアと名乗る女性のコンビとの対面。

ティアの許容を遥かに超える自体に、彼女は困惑したまま固まっているしかなかった。

その後、女性の方から……

「すみませんティア王女! 私達このあと重要な任務が控えてるので、失礼ではありますが、ここで引き上げます! もう少ししたら増援の方々が来ると思うので、それでは失礼します!」

どこか慌てた様子でグッタリしているシルバーを掴んで、部屋の窓から出て行ってしまった。

ちなみに外からティア達を狙っていた者達は遅れて入ってきたアティシアが仕留めたようで、出ていた時には外は静かであった。

そして沈黙する部屋の中で、ふとティアは思い出したかのように口を開いた。

「あ、どこの所属の方達のか聞くの忘れました!」

出来ればあらためて礼をと思っていたティアだが、呆然とした状態であったため、聞くことができなかった。

だが、そんな心配など不要であった。
この時のティアは夢にも思わないであろう。

まさかあの二人と今後も戦場で付き合っていくことになろうとは。

あの失礼な少年、シルバー・アイズが世界で四人目のSSランクの冒険者になる瞬間を目にする日がくるなど。

今のティアには想像もできなかったのだ。

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