オリジナルマスター
第14話 魔法使いの目的とただ一人の宿敵。
「懐かしいな」
シャリアとの密談を終えたジークは、特にやることもないと夕方、外を見て回るついでに夕食を取ることにした。
……一応トオルも誘ってみたが、大会前日であったこともあり、ピリピリした様子であった為、一人で夕食を取ることにした。
そして夕食後、それとなく街を探検している。……なんとも無警戒にも見えるが。
「あの頃はまだ大戦中だったから、ここまで活気はなかったな……」
街に溢れている人々の活気に直に感じながら、ジークは思い返すように呟く。
ジークが初めて王都に来た時はまだ、死がすぐ側にあるような締め付けれる空気に満ちていた。
しかし、それも仕方のないことであった。数十年も続いていた大戦も一時的には休戦状態となっていた時期に突然再戦となり、四つの大陸を全てを巻き込んだ大戦が行われたのだ。
そしてその時、ジークは戦争に参加した。
「……」
そこまで思い出すと、ジークは視線を王都の中心にある王城へと向けた。
「寄っておくか」
ジークは足を進めかつて共に戦った、あの男が眠る地へと向かうことにした
◇◇◇
夕陽も沈み夜となった王都の地。
ジークが立つのは王城付近にあるお墓である。戦時中に亡くなった者達の墓であるが。
「……よ、ライン」
その多数の墓の中心にある大きな石碑が立つ場所。彼の友 ライン・エリューシオンが眠る地であった。
最も本人自体はこの墓には無いが、……陛下の意向で巫女姫に頼み、精霊の煉獄の炎によって、浄化して眠らさせれたそうだとジークは聞いていた。
それでもジークはここに来た。
たとえ本人がいなくても、伝えたいことがあったから。
「お前はたぶん俺を許さないだろうな。……お前が惚れてたアティシアを死なせて、お前の妹まで泣かせたんだから……」
苦笑を浮かべてジークは肩を竦める。
かつて大戦時、自分が姉のように慕うアティシアに対して、婚約者がいながらラインは恋に落ちてしまっていた。……アティシア本人も気付いているようであったが、終始困った様子で時折ジークに助けて欲しそうな視線を向けていたが。
当時の彼にはそれがなにを示しているのか分からず、彼女から恨めしそうな目を向けられても、ラインからライバル的な態度を向けられても、意味が分からず困惑しているだけであった。
ラインがアティシアに惚れていると気付いたのは、彼女がバイソンに嵌めらえて帝国の者達に人質に取られた時だ。敵が最強のSSランク冒険者だと気付き、ジークとギルドレットが二人で退治して助けに行こうとした時。
必死の顔でラインも告げてきたのだ。
『私もついて行きます! 守りたいんです!!』
守りたい─────初めはその言葉を《鬼神》が暴れている場所の人達のことを、指しているだと思ったが。
『よしな王子。君には荷が重過ぎる』
『そうだライン。ここはオレたちに任せてくれ』
当然止めに入るギルドレットとジークであった。
相手が最強クラスである以上、実力が違い過ぎる彼ではハッキリ言って足手まといだと告げて、彼を置いて行こうとした。……が、最初はショックで俯いていた彼が近付いて、ジークにだけ聞こえるように呟いた。
『……本当は知ってますよね? シルバー』
『……? 何をだ?』
『私の……彼女に対する気持ちを』
『…………お前には、婚約者がいるだろう?』
『ああそうだね。……けど、それでも──────』
─────守りたいんだ。……並々ならぬ闘志ある瞳でラインはジーク、そしてギルドレットを睨みつけたのだ。
「俺も馬鹿だよな。あの時、お前の目に負けた気分なって連れてった結果、あっさり死なせてしまうなんてよ」
勝利を得る為、彼を切り捨てるしかなかった。
だが、それを本当の勝利だとは少しも思っていない。……寧ろ負けたのだと感じてしまう。
彼だけでなく、彼女まで失ってしまっては……。
「たくさん死んだ。……たくさん死んだな」
脱力したように夜空を見上げる。雲が一切なくジークの視界にはたくさんの星々が見えた。
「俺もそっちに行くはずだった……。なのにアティシアの命と引き換えに戻って来てしまった」
そして、もう一度墓に目を向ける。
「生き残った俺にできることを……俺は四年かけて考えた。途中何もかも忘れて怠惰に過ごしたこともあったが……それも虚しかったな」
墓にそっと触れて彼は告げる。
「ライン。俺はやるよ」
決意の籠った瞳で。
「この世界の─────────神を殺す」
喉の奥から吐き出すように、彼は墓に向かって告げるのであった。
◇◇◇
宿に戻る中、ジークは頭の中で計画達成の為の条件を整理する。
(俺が所持している『古代原初魔法』は全部で三つ。帝国から持ち逃げしてバイソンが所持していた『永遠を喰う黒闇の神の盾』、師匠から譲り受けた『修羅の運命を裁く神の剣』……そしてもう一つ師匠が残した『再生と破滅を呼ぶ神の杖』)
脳裏でイメージするのは三つ彼の切り札。
彼が探し続ける最強の原初魔法である。
世界を変えてしまうほどの力を持つ神の意思とも言われ、あまりの力に歴史からも抹消されたそれらのことを『古代原初魔法』と呼ばれている。
『古代原初魔法』は全部で九つあると言われている。
ジークは生涯を懸けてでも、その全てを手に入れるつもりである。
(だがまだ足りない。……『天誅灼熱の神の槍』と『真の軌跡を射貫く神の弓』、『壊雷を墜とす神の大鎚』の所在は大体掴めてきた。運が良ければこの大会で手に入るかもしれないが、残りの三つ『全地を統べる神の鎧』と『時と異界を制する神の鎌』、……あと名も分からない一つだけは何処にあるのか、眼を使ってもさっぱり分からない。……だが、もしかしたら)
運が良ければ、目的の三つだけでなく、他にも掘り出し物と出会えるかもしれない。微かに意味深な笑みを溢してジークは夜道を歩いて行くのだった。
「決意は、揺らがないのですね──────」
「─────っ!!」
静寂な夜の街を透き通すような、静かに女性の声が彼の耳に届く。
楽しげな笑みが一変、バッと振り返ると今までにない鋭そうな目つきとなって、射殺すように視線を飛ばすジーク。
「……何のようだ」
「怖い目ですね。それに今にも飛びかかりそうな魔力です」
視線の先に立つのは、白ワンピースを着た銀髪の少女。
穢れのなさそうな真白な印象のある肩まで伸びた銀髪の彼女に、ジークは死線と呼んでもいい程の濃縮した殺気を向ける。……その証拠に彼の体から魔力のオーラが可視化して、白霧のように静かに溢れ出している。
「用がないなら帰れ」
心の奥から口にするような濃縮された怒気を吐き捨て、ジークは少女を見下ろす。……だが少女の方はなんでもない風に黙殺して忠告する。
「そんなに魔力を漏らして大丈夫ですか? すぐにバレますよ?」
「……」
言われて口をつむぐジーク。確かにこれだけ本気の魔力を漏らせばさすがに気付かれかねない。……とジークが悔しげに歯切りしていると、少女の方から切り出す。
「冗談です。実際は私の張った障壁で気付かれないようにしてます」
無感情な声音で周囲に手を向けて言う。
ジークも手振りに引き寄せられ視線を向けると、確かに魔力は感じれないが、透明な膜のような物が張られているのが分かる。
魔力を通さない摩訶不思議な障壁であるが、今だけは有り難く利用するジーク。……最悪の場合はここでやり合う可能性がある。……たとえ無駄だとしてもジークは躊躇わない。
「あれから四年経ち。再び原初の……始まりの九つが集おうとしています」
「……」
「これがあなたの願いが叶う最後の機会かもしれません」
淡々と告げていく少女に対して、ジークは無言のまま彼女を睨むだけ。
……何を考えているのか分からない、ただ殺気の籠もった瞳で彼女を射抜く。……微かだが怒りで手が震えているを少女はしっかり把握していても、躊躇うことなく彼に近寄った────────結果。
「ッ、『修羅の運命を裁く神の剣』ッッーーーー!!」
それに反応しジークはバッと手を横に振るって、何かを引き抜くようにして叫び上げた。
すると『古代原初魔法』とまで呼ばれた、世界で九つしかない最強のオリジナル魔法の一つ───────────魔法でありながら形を保ち装飾ある黄金の聖剣『修羅の運命を裁く神の剣』が発現された。
「それ以上──────近寄るなぁぁッッ!!!!」
太陽のように光り輝く剣先を少女の喉元へ指す。……少しでも力を込めれば刺し切れそうな程近く。
「……今のあなたでは私を殺せません」
しかし、少女は一切動じることなく向けられた刃を見もせず、立ち止まり彼に視線を合わせる。
「言われなくたって分かってる」
「無意味と分かっても、刃を向けるのですね」
「ああ、そうだ。悪いか?」
ジークの殺気によって充満していく障壁内。
少女の方は手を出そうとせず、ただただジークを見据え告げる。
「気持ちは変わってないか、それを確かめに来ただけです。────────私を殺すことを願うただ一人の原初を集いし者───────《原初の極めし者》よ」
「アンタが築いたこの世界で怠惰に生きようとした時もあったさ。けど、やはり変われなかった。……俺が殺したいただ一人の存在───────それはアンタだッ!!」
剣が一層輝き、彼の意思を示すかのように閃光を上げていた。
「ではチャンスをモノにしなさい。この街には既にあなたが求める物が全て集いてます」
「──────!! なんだと……!?」
思いがけない少女の発言に動揺を露わにするジーク。
「あなたであれば手に入れることも可能でしょう。ですが、その過程で必ずあなたは再び重い選択をしなくてはならなくなります」
「どういう意味だ……? お前は何を知っている?」
思考が定まらず混乱してしまいそうになるが、彼女が言った二つの言葉が彼の心に重く突き刺さる。
『あなたが求める物が全て集いてます』
『あなたは再び重い選択をしなくてはならなくなります』
(アティシア…………ライン……)
彼の脳裏であの日のことを思い出す。
あの時の選んだ彼の選択は……。戦争がなくなり平和になっても未だに正しかったのか、分からないでいた。
「……また、人が死ぬのか? お前たちの下らないルールの中で……」
「分かりません。ですが、大勢の命とあなたの願い。それは決して一つには成り得ません」
小さく首を横に振り彼の問いかけに応える。
そうしてもう一つハッキリとした事実を、彼に突きつけた。
「目的の為に見捨てるか、それとも目的を棄てて護り抜くか。……生かすも殺すも選ぶのはあなたです」
「…………」
その言葉にジークは突き付けていた剣を下ろし、愕然とした表情で膝をついた。……気付けば危険な程に溢れていた彼の魔力も感情が影響して、剣と共に沈み消えていた。
「また……あの時のような惨劇が起こるのか?」
「あなたはどの選択を選んだとしても、私は最後まで見届けさせていただきます」
最後にそう告げて少女もまた、その場から姿を消したのだった。
「生かすのか、殺すのか……」
少女が消えて静寂のみが残った地。
ジークは手をついたまま呟くだけであった。
そして翌朝、遂に始まるのは彼にとっても、重要な戦いであった。
シャリアとの密談を終えたジークは、特にやることもないと夕方、外を見て回るついでに夕食を取ることにした。
……一応トオルも誘ってみたが、大会前日であったこともあり、ピリピリした様子であった為、一人で夕食を取ることにした。
そして夕食後、それとなく街を探検している。……なんとも無警戒にも見えるが。
「あの頃はまだ大戦中だったから、ここまで活気はなかったな……」
街に溢れている人々の活気に直に感じながら、ジークは思い返すように呟く。
ジークが初めて王都に来た時はまだ、死がすぐ側にあるような締め付けれる空気に満ちていた。
しかし、それも仕方のないことであった。数十年も続いていた大戦も一時的には休戦状態となっていた時期に突然再戦となり、四つの大陸を全てを巻き込んだ大戦が行われたのだ。
そしてその時、ジークは戦争に参加した。
「……」
そこまで思い出すと、ジークは視線を王都の中心にある王城へと向けた。
「寄っておくか」
ジークは足を進めかつて共に戦った、あの男が眠る地へと向かうことにした
◇◇◇
夕陽も沈み夜となった王都の地。
ジークが立つのは王城付近にあるお墓である。戦時中に亡くなった者達の墓であるが。
「……よ、ライン」
その多数の墓の中心にある大きな石碑が立つ場所。彼の友 ライン・エリューシオンが眠る地であった。
最も本人自体はこの墓には無いが、……陛下の意向で巫女姫に頼み、精霊の煉獄の炎によって、浄化して眠らさせれたそうだとジークは聞いていた。
それでもジークはここに来た。
たとえ本人がいなくても、伝えたいことがあったから。
「お前はたぶん俺を許さないだろうな。……お前が惚れてたアティシアを死なせて、お前の妹まで泣かせたんだから……」
苦笑を浮かべてジークは肩を竦める。
かつて大戦時、自分が姉のように慕うアティシアに対して、婚約者がいながらラインは恋に落ちてしまっていた。……アティシア本人も気付いているようであったが、終始困った様子で時折ジークに助けて欲しそうな視線を向けていたが。
当時の彼にはそれがなにを示しているのか分からず、彼女から恨めしそうな目を向けられても、ラインからライバル的な態度を向けられても、意味が分からず困惑しているだけであった。
ラインがアティシアに惚れていると気付いたのは、彼女がバイソンに嵌めらえて帝国の者達に人質に取られた時だ。敵が最強のSSランク冒険者だと気付き、ジークとギルドレットが二人で退治して助けに行こうとした時。
必死の顔でラインも告げてきたのだ。
『私もついて行きます! 守りたいんです!!』
守りたい─────初めはその言葉を《鬼神》が暴れている場所の人達のことを、指しているだと思ったが。
『よしな王子。君には荷が重過ぎる』
『そうだライン。ここはオレたちに任せてくれ』
当然止めに入るギルドレットとジークであった。
相手が最強クラスである以上、実力が違い過ぎる彼ではハッキリ言って足手まといだと告げて、彼を置いて行こうとした。……が、最初はショックで俯いていた彼が近付いて、ジークにだけ聞こえるように呟いた。
『……本当は知ってますよね? シルバー』
『……? 何をだ?』
『私の……彼女に対する気持ちを』
『…………お前には、婚約者がいるだろう?』
『ああそうだね。……けど、それでも──────』
─────守りたいんだ。……並々ならぬ闘志ある瞳でラインはジーク、そしてギルドレットを睨みつけたのだ。
「俺も馬鹿だよな。あの時、お前の目に負けた気分なって連れてった結果、あっさり死なせてしまうなんてよ」
勝利を得る為、彼を切り捨てるしかなかった。
だが、それを本当の勝利だとは少しも思っていない。……寧ろ負けたのだと感じてしまう。
彼だけでなく、彼女まで失ってしまっては……。
「たくさん死んだ。……たくさん死んだな」
脱力したように夜空を見上げる。雲が一切なくジークの視界にはたくさんの星々が見えた。
「俺もそっちに行くはずだった……。なのにアティシアの命と引き換えに戻って来てしまった」
そして、もう一度墓に目を向ける。
「生き残った俺にできることを……俺は四年かけて考えた。途中何もかも忘れて怠惰に過ごしたこともあったが……それも虚しかったな」
墓にそっと触れて彼は告げる。
「ライン。俺はやるよ」
決意の籠った瞳で。
「この世界の─────────神を殺す」
喉の奥から吐き出すように、彼は墓に向かって告げるのであった。
◇◇◇
宿に戻る中、ジークは頭の中で計画達成の為の条件を整理する。
(俺が所持している『古代原初魔法』は全部で三つ。帝国から持ち逃げしてバイソンが所持していた『永遠を喰う黒闇の神の盾』、師匠から譲り受けた『修羅の運命を裁く神の剣』……そしてもう一つ師匠が残した『再生と破滅を呼ぶ神の杖』)
脳裏でイメージするのは三つ彼の切り札。
彼が探し続ける最強の原初魔法である。
世界を変えてしまうほどの力を持つ神の意思とも言われ、あまりの力に歴史からも抹消されたそれらのことを『古代原初魔法』と呼ばれている。
『古代原初魔法』は全部で九つあると言われている。
ジークは生涯を懸けてでも、その全てを手に入れるつもりである。
(だがまだ足りない。……『天誅灼熱の神の槍』と『真の軌跡を射貫く神の弓』、『壊雷を墜とす神の大鎚』の所在は大体掴めてきた。運が良ければこの大会で手に入るかもしれないが、残りの三つ『全地を統べる神の鎧』と『時と異界を制する神の鎌』、……あと名も分からない一つだけは何処にあるのか、眼を使ってもさっぱり分からない。……だが、もしかしたら)
運が良ければ、目的の三つだけでなく、他にも掘り出し物と出会えるかもしれない。微かに意味深な笑みを溢してジークは夜道を歩いて行くのだった。
「決意は、揺らがないのですね──────」
「─────っ!!」
静寂な夜の街を透き通すような、静かに女性の声が彼の耳に届く。
楽しげな笑みが一変、バッと振り返ると今までにない鋭そうな目つきとなって、射殺すように視線を飛ばすジーク。
「……何のようだ」
「怖い目ですね。それに今にも飛びかかりそうな魔力です」
視線の先に立つのは、白ワンピースを着た銀髪の少女。
穢れのなさそうな真白な印象のある肩まで伸びた銀髪の彼女に、ジークは死線と呼んでもいい程の濃縮した殺気を向ける。……その証拠に彼の体から魔力のオーラが可視化して、白霧のように静かに溢れ出している。
「用がないなら帰れ」
心の奥から口にするような濃縮された怒気を吐き捨て、ジークは少女を見下ろす。……だが少女の方はなんでもない風に黙殺して忠告する。
「そんなに魔力を漏らして大丈夫ですか? すぐにバレますよ?」
「……」
言われて口をつむぐジーク。確かにこれだけ本気の魔力を漏らせばさすがに気付かれかねない。……とジークが悔しげに歯切りしていると、少女の方から切り出す。
「冗談です。実際は私の張った障壁で気付かれないようにしてます」
無感情な声音で周囲に手を向けて言う。
ジークも手振りに引き寄せられ視線を向けると、確かに魔力は感じれないが、透明な膜のような物が張られているのが分かる。
魔力を通さない摩訶不思議な障壁であるが、今だけは有り難く利用するジーク。……最悪の場合はここでやり合う可能性がある。……たとえ無駄だとしてもジークは躊躇わない。
「あれから四年経ち。再び原初の……始まりの九つが集おうとしています」
「……」
「これがあなたの願いが叶う最後の機会かもしれません」
淡々と告げていく少女に対して、ジークは無言のまま彼女を睨むだけ。
……何を考えているのか分からない、ただ殺気の籠もった瞳で彼女を射抜く。……微かだが怒りで手が震えているを少女はしっかり把握していても、躊躇うことなく彼に近寄った────────結果。
「ッ、『修羅の運命を裁く神の剣』ッッーーーー!!」
それに反応しジークはバッと手を横に振るって、何かを引き抜くようにして叫び上げた。
すると『古代原初魔法』とまで呼ばれた、世界で九つしかない最強のオリジナル魔法の一つ───────────魔法でありながら形を保ち装飾ある黄金の聖剣『修羅の運命を裁く神の剣』が発現された。
「それ以上──────近寄るなぁぁッッ!!!!」
太陽のように光り輝く剣先を少女の喉元へ指す。……少しでも力を込めれば刺し切れそうな程近く。
「……今のあなたでは私を殺せません」
しかし、少女は一切動じることなく向けられた刃を見もせず、立ち止まり彼に視線を合わせる。
「言われなくたって分かってる」
「無意味と分かっても、刃を向けるのですね」
「ああ、そうだ。悪いか?」
ジークの殺気によって充満していく障壁内。
少女の方は手を出そうとせず、ただただジークを見据え告げる。
「気持ちは変わってないか、それを確かめに来ただけです。────────私を殺すことを願うただ一人の原初を集いし者───────《原初の極めし者》よ」
「アンタが築いたこの世界で怠惰に生きようとした時もあったさ。けど、やはり変われなかった。……俺が殺したいただ一人の存在───────それはアンタだッ!!」
剣が一層輝き、彼の意思を示すかのように閃光を上げていた。
「ではチャンスをモノにしなさい。この街には既にあなたが求める物が全て集いてます」
「──────!! なんだと……!?」
思いがけない少女の発言に動揺を露わにするジーク。
「あなたであれば手に入れることも可能でしょう。ですが、その過程で必ずあなたは再び重い選択をしなくてはならなくなります」
「どういう意味だ……? お前は何を知っている?」
思考が定まらず混乱してしまいそうになるが、彼女が言った二つの言葉が彼の心に重く突き刺さる。
『あなたが求める物が全て集いてます』
『あなたは再び重い選択をしなくてはならなくなります』
(アティシア…………ライン……)
彼の脳裏であの日のことを思い出す。
あの時の選んだ彼の選択は……。戦争がなくなり平和になっても未だに正しかったのか、分からないでいた。
「……また、人が死ぬのか? お前たちの下らないルールの中で……」
「分かりません。ですが、大勢の命とあなたの願い。それは決して一つには成り得ません」
小さく首を横に振り彼の問いかけに応える。
そうしてもう一つハッキリとした事実を、彼に突きつけた。
「目的の為に見捨てるか、それとも目的を棄てて護り抜くか。……生かすも殺すも選ぶのはあなたです」
「…………」
その言葉にジークは突き付けていた剣を下ろし、愕然とした表情で膝をついた。……気付けば危険な程に溢れていた彼の魔力も感情が影響して、剣と共に沈み消えていた。
「また……あの時のような惨劇が起こるのか?」
「あなたはどの選択を選んだとしても、私は最後まで見届けさせていただきます」
最後にそう告げて少女もまた、その場から姿を消したのだった。
「生かすのか、殺すのか……」
少女が消えて静寂のみが残った地。
ジークは手をついたまま呟くだけであった。
そして翌朝、遂に始まるのは彼にとっても、重要な戦いであった。
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