オリジナルマスター

ルド@

第13話 各所の話と動き出す脅威。

「では報告をまとめましょう」
「はい学園長」
「……」

王都にある料亭のとある一室。外から隔絶された一室で密談に役立つ部屋である。
学園長のリグラは生徒でありながら直属の部下でもある、クロウ・バルタンともう一人、ジークを監視する女子生徒を呼び報告会を開いていた。

「ウルキアの方は今のところ不穏な影はありませんね。王都については明日も大会の合間に調べますが、こちらは正直調べ尽くせません」

まず始めにクロウが報告するのは、ウルキアの現状と王都の情報についてだ。ウルキアの方は前もって調べていたので報告に手間はかからなかったが、今日来たばかりの王都ではやはり情報を集めるのは苦労するようだ。

「分かりました。可能な限りお願いしますね。こちらも動ける者に探らせておきますので」
「はい」

リグラもそれが分かっているので強くは言わず、自分が持つ王都のパイプを使い街の現状を調べてみることにする。……必要ないようにも見えるが、念を入れておくのが彼のやり方である。必要以上に調べておいても、損のない範囲で動くのであろう。

リグラはクロウと話を一旦終えると女子生徒の方へ向いた。

「そちらはどうですか」
「……特に変化なし」

興味なさげに口にするだけ。
無表情で告げる彼女になにも問わず頷くリグラ。


……とそこへ──────室内に繋がるドアから、コンコンと叩かれる音が響く。

「ん? どうぞ」
「失礼する」

リグラが促すとドアが開き、姿を見せたのは真っ白な髭の老人である。見た目はガーデニアンと同じくらいである。

「総団長のゼルダード卿ですか」
「久しいなガンダールの小僧」
「私を小僧呼ばわりする人なんて世界でも数人ですよ?」

王都エイオン騎士団 総団長ゼルダード・クラム。
聖国にある全騎士団の頂点に立つ人物であるが、実質相談役のような役職いる人物で指揮系統はエイオン騎士団長に委ねている。

しかし実力は本物である。
大戦時でもその力を敵国に知らしめていき、敵の騎士団長を討ったこともあるのだ。
実力自体はSランクに超えて、SSランクに近いのではと言われるほどだ。

「お久しぶりですガンダール卿」
「おや、君も一緒でしたか、シルベルト君」

ゼルダードの後ろにさらにもう一人いることに気付き、その者が挨拶すると少し驚いた顔をするリグラ。……その人物の登場は聞いてなかった為、クロウと女子生徒も驚いたように目を見開いている。

「うむ、儂が小僧に会いに行くと聞いてどうしても、付いて行きたいと聞かなくてな。師であるあいつから許可を取って連れて来た」
「急に付いて来てしまって申し訳ありません。ですが明日には大会があります。そんな中、他校の教員の方に会うのはよくないと思いまして」

黒と金の色髪をし、瞳も黒と金色している青年。
聖国の王都エイオン学園が誇る未来のSSランク冒険者、とまで噂されている人物である。
SSランクの冒険者を師にして既にランクはAランクで、Sランクもすぐであろうと言われている。

エイオン学園三年《天魔》シルベルト・オッカス

「それでも負けるつもりはありません。たとえ相手がガンダール卿。あなたの教え子であっても」

チラリとクロウと女子生徒に対して、僅かに挑発的な視線と一緒に笑みを浮かべていた。


◇◇◇


「《妖精魔女》シャリア・インホードだと?」
「はい。『魔導杯』のギルド観戦名簿に彼女の名前が……。それと腹心の《封人》も一緒のようです」

一室にて部下から報告を受けている大男がいる。机の上に肘を乗せて話を聞いていた。
王都エイオンのギルドマスター ガイ・グラナドは眉間にシワを寄せて、苦々しい顔をしていた。

大戦後、他の街から王都のギルドマスターとなったガイ。……ただ、新しい仕事環境は思った以上に過酷であった。

ほぼ引退状態である総ギルドマスターからの小言や騎士団、貴族のからの無茶な振りの毎日。……それと今はあまり言われないが、姿を消した英雄  SSランク冒険者シルバー・アイズの居場所と捜索など。

簡単に言うと最初にシルバーが消息を絶った時、彼のところのギルドマスターであったガイはシルバーの居場所を知っているのではと、騎士団や貴族関係者問わず、いろんな関係者から何度も問いかけられたのだ。

さらに彼が知らないと分かると今度は捜索であった。

陛下自身はそれほどではなかったが、一部の王族や貴族、騎士団などが彼を見つけ出せなど言い出した。何度か大人数による大捜索も行われた程だ。

……だが、魔力を探知できずそもそも素顔を知らない彼を見つけるなど不可能に近かった。……現に見つからず、大捜索もしなくなった。

まだ諦めず、情報を集めている貴族もいるようだが、ガイは無理だと確信していた。……もし本気で姿を隠そうとシルバーがしているのなら、大陸中を探したとしても見つけるのは不可能だと感じられたからだ。

と話はズレたが、ギルドマスターのシャリアの観戦についてである。

毎年断り続けている彼女の参加。《魔女》とも呼ばれて現役時代はとんでもない怪物であったと噂さている。

ガイは何やら不穏な──────というか嫌な予感を感じてならなかった。

(く……胃が痛い。何も起きなければいいが……)

不安要素があるが構ってる暇など彼にはない。
彼女の情報を部下から聞いた後、最近ようやく慣れてきたギルドにくる大量の書類と再び向き合うと、ペンを握り書類と格闘するのであった。


◇◇◇


王都エイオンから少し離れた人里離れた、夜の草原の内にある空き家。

「来たか」
「皆さん、元気そうですね」

入って来た男性に待っていた男はギロリとした目で睨む。

入って来た男は白髪で白のフードを頭から被り顔はよく見えないが、微笑んでいるのが分かる。武器らしき物を身に付けてるようにも見えないが、どこか只ならぬ気配を纏わせていた。

もう一方の男は黒の和服姿で紫髪をした大男。腰に紫色をした大太刀を差して傷だらけの顔をしている。

そこに集まっていたのは二組のメンバーであった。

男を待っていた者の後ろに数名の部下らしき者達がいる。冒険者のような武装をした男が数人と女性が数名であるが、中に混じっている二人はかつてジークが捕らえた《七罪獣》の《悪狼》のダガンと《死狼》のイフも立っている。

「よぉ《復讐の壊滅者リベンジャー》。テメェ、よくもオレたち《七罪獣》を利用してくれたな?」

そう。和服の大男が率いている《七罪獣》のメンバーである。
そして彼は《狂犬》のデット。裏ギルド《七罪獣》のリーダーだ。

それに対して白ローブの男は。

「それは誤解です。我々《魔境会》にそのような意図は一切ございません」
「ふん、言い訳だけならなんとでも言えるが……」

ガチャッと音を立て部下の者達が一斉に、武器を構えて白ローブの男に向ける。……遅れてデットも腰の大太刀を半分程抜き、正面に立つ男を見下ろして不敵な笑みを浮かべる。彼もまた犯罪組織である《魔境会》の幹部である。

「今回の件はやり過ぎたな。お陰でこっちは多大な損害を受けた」

大太刀を抜き終えてそのまま男の首元に添えるデットが言う。
彼が言いたいのはひと月以上前に王都から離れた街、ウルキアで起きた暗殺の仕事である。

《魔境会》との協力で対象を暗殺する手筈であったが、いつの間にか自分らが利用されるだけ利用されたような扱いを受けていることを知り、挙句仲間は一度は王都にある騎士団の牢獄に入れられたこともあり、デットは激しく激怒している。

……ちなみに仲間達を救出できたのはイフのお陰である。彼女は襲撃を受けた際に《真赤》と呼ばれる魔法使いの冒険者に大事にしている魔石をこっそり返して貰ったそうだが、その魔石にはデットの魔力が込められおり彼にだけ、居場所を知ることができるようになっている。

「困りましたね。私はただ近々行われる仕事のお誘いを……」
「テメェをバラバラにして《魔境会》に送り返してやってもいいがな?」

苦笑をする男にデットは殺気を飛ばし、首元に大太刀を近付ける。

「テメェらが支えている、教祖とかいう奴にもそのうち礼をしてやるがな」
「……もういませんがね。……そんな人物も組織も」
「あ? おい今なんて─────」

ぼそりと呟いた男に訝しげな顔をして聞き返すデットであったが、…………その返答はなかった。パンチと男が指を鳴らすと何か未知なるの寒気を感じさせた。

変化が起きたのはすぐであった。デット以外の者達から生気の気配が完全に消えたのだ。
──────そして

「なっ!! ─────お、お前ら何を……」
『『……』』

ダガンやイフを含む《七罪獣》のメンバー達が突如、構えていた武器をリーダーであるデットに向けたのだ。気がつけばその目は虚となって感情の色が一切なかった。

「自ら進んで協力して頂けると良かったんですが……、仕方ありませんね」
「《復讐の壊滅者リベンジャー》ァアアアア!! テメェ!! これはどういうことだ!?」
「既にチェック、ということですよ。─────誓約執行・・・・
「ぐっ!? があああああああ!!」

激昂のあまり今にも首を両断しそうになるデットであったが、男が一言口にした瞬間、その衝動も忘れる程自分の心臓に痛みを覚えるデット。

「が、が……!」

まるで破裂でもするかのように激痛を発生させる、心臓に苦しみデットは持っていた大太刀を落としてしまい、地べたに倒れ伏せてしまう。

(何が起きてんだ!? どうしてあいつと・・・・交わした誓約魔法が発動するんだ!?)

痛みで声が出ないが、思考を巡らせ起きてる現象を探るデットだが、現在発生心臓発作はどう考えても理解できなかった。

奴が口にした『誓約執行』、彼の予想が正しければそれは以前、大戦時にあるSSランク冒険者に敗れて見逃される代わりに、情報の口止めと最悪の場合の強制制裁を交わすこととなった誓約魔法である。

この魔法によってデットは漏らすなと言った情報を流すことなく、さらに相手の意思によって行動を縛り、制裁を行うことが可能である。
……だが

(バカな!? この誓約はあいつの魔力・・・・・・でしか使えないはず!! それにあいつの魔力を真似るのも不可能なはずだ!! ───────誰だ!? 誰なんだコイツ!?)

ありえない現象に思考が追いつかなくなるデット。
そんな彼の心情を察したのか、再び苦笑をする男は慰めるように、倒れる彼の頭に手を添える。

「相当混乱しているようですが、そろそろご退場を願いますね─────────『クロノス』」

彼が唱えた瞬間、デットの視界に屈折し崩壊する。
そして体も自壊でも起こしたかのように崩壊していって、…………裏ギルド《七罪獣》のリーダーはあっさりと生を喪ったのだった。





「はぁーー困ったことになりましたが、まあこれで手間も省きますね」

デットであったバラバラの肉塊の見下ろしている男がそう呟く。周囲にはデットの仲間であった《七罪獣》のメンバーがいるが、正気を失った表情で突っ立ているだけである。

「では続いて──────『復活の傀儡人リバース・アンデット』」

男は肉塊にそっと触れて魔法を発現させる。
闇の派生系の一つ、呪属性のオリジナル魔法であるそれを発現させると、対象となった肉塊に変化が起き始める。

グチャグチャと歪な音を立てて集まっていき、一つの人の形を───────先程までそれであったデットの姿をした者へと姿を変えたのだ。


「用意は順調ですね」
「はい、こちらも準備はできています」

《七罪獣》とのやりとりを終えた男は空き家を出て、王都の方角の夜空を見上げる。……隣に跪くのは黒のフード被った老人が恭しく話している。

「例の鎧も無事に王宮についてます。『ガイア』もあなた様の合図を待っています」
「始まりますね。全ての魔導の先を掴み取る戦いが」

男はそう口にすると老人と共に、夜の草原の奥へと姿を消した。

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