オリジナルマスター

ルド@

第11話 模擬戦終了と決戦の王都へ。

「はぁ……?」
「キサマァ……! 舐めているかっ!?」
「メドルフ君! 何をしてるの!」

ギロリとした目でジークに詰め寄ってくるメドルフ。周囲から嫌そうな視線を浴びながら……というか、気づいてないのか遠慮なしにズカズカと寄ってきた。そんな彼を見て慌てているルーシーにも気づかず。

(もうどうしろって言うんだよ……)

ウンザリした様子でジークが嘆息する。だがそれがまだ余計であった。沸点が低いメドルフは不満を爆発させて彼の胸ぐらを掴んできた。

「だからその態度は何だと言うんだっ!?  オレのように目上の者が前に出たら、まずは誠心誠意頭を下げるのが礼儀じゃないのか!」
「はぁ……(自分で言うか? 自分で?  ……は、もういいか)」

もう会話をしても無理そうなメドルフに嫌気がさしたジーク。内心冷ややかな態度で服を掴んでいるどうでもいい存在偉い人の手首を握り、捻ってみせた。

「───イタタタっ!? 何をするキサマっ!?」
「メドルフ君!?」

突然叫び出すメドルフに離れたところで、見ていたルーシーから声が上がる。他の生徒達も驚く中、ジークは冷めた表情で痛がるメドルフに声を掛けた。

「ペンシル先輩、服が伸びるので手を離してください」

────何を言っとるんだお前は。

ジークの対応をみていた学生の心が、この時だけは一つになった気がした。だが、とうのジークには遠慮など全くなかった。

「だ、誰に命令している! 手を離すのはそっち────がああああっ!?」
「いいから、離してください」

尚も離そうとせずメドルフが文句を言おうとするので、捻っている力を強めるジーク。少々手荒な気がするが、ジークとしてはこれでも優しい方だと思っている。

大戦時代、メドルフのように無茶苦茶で我儘な貴族の相手を散々してきたのだ。この手の相手は慣れている。……ただその結果、余程の理由でもない限り話もしたくない程、貴族嫌いになってしまった。

酷い時はキツイ魔法を行使する時もあった。

「っ」

ついに痛みに堪えきれなくなったメドルフ。顔を痛みで引きつらせると、勢いよく手を離してジークからも離れた。

その際ジークも手を離していたので、引っ張られるという心配もなかったが。

「す、スカルス……!」

メドルフにとってそのような気遣いは意味をなさなかった。すっかり頭に血を昇らせて周りが見えなくなってるメドルフは、血走った眼でジークを射殺すように睨みつけていたのだ。

「よくもコケにしてくれたな……! 許さんぞ!!」
「ま、待ちなさい! メドルフ君!」

彼の言動にハッとした顔で止めに入ろうとするルーシー。彼の言動から次に何を仕出かすのか察したのだろうが、止めに入るには少しばかり遅かった。

「く!」
「落ち着きましょうって」

だがジークは問題なく余裕の様子で対処してみせた。怒りに任せて拳を振りかぶってきたメドルフの腕を掴み取って、流れるようにその体を地面へ転がしてみせた。

「この……平民風情がぁぁあ!!」
「平民ですが、なにか?」

あくまで冷静なジーク。それが油であったか憤怒の形相だったメドルフの表情から殺意が沸いたのを、ジークを含む見ていた者、全員は確かに感じた。

「─────爆炎の槍に撃ち滅びろ! 『火槍の爆ファイア・ランサー』ーーーっ!!」

詠唱を唱えて火系統の槍をジークに放ったメドルフ。そして一応優秀な生徒側である彼が放った槍は、生徒が放った物とは思えない程の強大な槍であった。

槍の形状をした炎の爆弾はメドルフの目の前に立っていたジークに、僅か数秒にも満たない時間で直撃─────

「『魔無ゼロ』」

───することはなく、ジークが張った魔力無効化エリアの中で全方位から押し潰されるように、霧にように消えてしまった。

「……は? 今のは……」
「……いい加減にしてほしいなぁ?」

起きた光景を見ていたメドルフは、ポカンとした顔で呆けた声を漏らすが、その時にはジークの苛立ちはかなりの物になってしまっていた。

「あ、ありえない……そんなことが……」
「────仕掛けたの先輩だからな?」
「な、なに?」

満面な笑みを浮かべてジークが口にするが、その笑みは普段と違って明らかに凄みが存在している。あまりの態度の変化に先程のことも忘れて、動揺し後退さるメドルフ。

ここにきて、やっと自分が置かれてる状況を理解したようだが、ジーク本人はもう止まるつもりなど一切なかった。

「まあ安心してください。……一発で済ませるんで」
「────!? ま、待っ─────ぶっごぉっっ!?」

狼狽して慌て出すメドルフを無視し、ジークは一瞬でメドルフの懐に入り込むと、その顔めがけて拳を打ち抜いた。


◇◇◇


「スカルス君」
「俺は悪くないですよ?」

メドルフを一発KOしたところで、近寄ってきたルーシーから声が掛かる。これだけのことをしたからには、ルーシー生徒会から抗議がくるのは明らかだろうが、それでも仕掛けてきたのはそちらだと口には出さないが態度で伝えている。

「なんですか?」

だから不満気な顔を隠そうとせず質問をする。見ていた生徒会側から不穏な空気が流れるのが分かるが、やめようとはしない。

戦いの邪魔をされただけでなく、向こうから突っかかられたのだ、ジークもいい加減辟易している。

「……ごめんなさい」
「───か、会長!?」

だが、そんなジークの態度にルーシーは抗議をすることなく、静かにその場で頭を下げて謝罪を口にした。その対応に生徒会側から戸惑いの声が上がるが、彼女はさらに謝罪を述べる。

「こちらの役員が多大な迷惑を掛けてしまいました。本来なら私が止めるところが間に合わず、あなたに迷惑を────止められなくて、ごめんなさい」
「会長ーー!!」

役員の連中がやめてほしそうに叫ぶが、ルーシーは再度頭を深く下げて謝罪した。

彼女は分かっているのだ。今回の騒動、完全にこちら側に非があると。

確かにジークの態度は貴族側のメドルフにしたら挑発的にも見えたが、それでも殴りかかって最終的に魔法まで行使したのはどう考えても問題行為であった。

だがこういうのは初めてではない。以前から副会長である彼には色々と、平民や学年順位が下の者に対する接し方には問題があったのだ。

勿論彼女の記憶中では、暴力的な行為は今回が初めてだが、彼女としては副会長の役職などには入って欲しくなく、実は密かに学園側に彼を生徒会からの除名処分するよう検討してほしいと願い出たことがあった。

しかし、相手が貴族界の中でもなかなかの名家だということもあって、大騒動になってないこともあり受理はされなかった。

だが今、皆の目の前で副会長のメドルフは、罵詈雑言を浴びせて暴力行為までしてしまった。結果的にジークも暴力を振るったが、それもで彼女の方はもうこれ以上事を荒立てたくないと切実に願っていた。

今回の件で確実に生徒会の評判が落ちたのは明らかなのだ。風紀委員会に比べて人気がないのをルーシーは内心気にしていた。

「まあ、いいですよ。俺も殴っちゃいましたし。今回はおあいこってことで」

ジークもそれが理解できたので合わせるように謝罪を受け取った。一応自分の非も認めた上で。

こうして一度は騒然となった訓練場であったが、次の日にはいつもと変わらずジークが挑戦を受け続けるのであった。


◇◇◇


「で、その後も模擬戦続きで……気がつけば今日だった」
「なんというか……大変だったな。そたなも」

話の区切りがついたところでジークは、部屋に備えられているベットに倒れる。話疲れてしまったようだ。

「いくつか聞きたいが、その生徒会とは模擬戦はしなかったのか?」
「ん、したよ? 生徒会だけじゃなくて風紀委員ともな────とは言っても」

生徒会長とか風紀委員長とか、トップクラスと試合することはなかったがな。……のんびりとした口調で説明するジークに、シャリアは疑問そうに眉を潜める。

「再戦されなかったのか風紀委員長とそれに生徒会長や副会長などにも」
「なかったな。風紀委員の方は下の連中とかがよく来たが、トップの三人はあの戦い以降再戦はなかった」
「生徒会もか?」
「そっちは特にな」

もともと忙しい役職である生徒会と風紀委員会なのだ。いくら大会前で授業が半分しかなくても、忙しいのに変わりない。寧ろ今の時期が忙しいのではとジークは思う。

「というか、トップの生徒会長になんか去り際に言われたよ」

────私も戦ってはみたいですが、勝てる気がしないので戦いません。

苦笑を浮かべ立ち去っていたルーシーの言葉を、思い出してるジークにシャリアが納得顔で口を開いた。

「立場の問題だろう。風紀委員会の委員長は特に気にしてないようだが、二人共四年に次ぐ学園のトップだからな。学生達の前で敗北した時のリスクを考えているのだろう」
「そういうもんですかね?」

正直どうでもよかった。ジークとして生徒会長と戦っても、戦わなくても構わなかった。邪魔をされた生徒会とは、あまり模擬戦をしたい気がしなかったのだ。



「それではそろそろ失礼しよう」
「ん、そうか。……俺はどうしようか」

そう言って立ち上がるシャリア。まだ昼前であったが、彼女の方も予定があるのだろうと理解したジーク。特に戸惑うことなく自分もこの後どうするか考えていた。

「ジーク……いや、シルバー」
「……なんだ」

シャリアからその名を口にされた瞬間、部屋の空気が重くなったのをジークは感じた。窓から去ろうと背を向けたままでいる、シャリアを見ながら彼女の言葉を待つ。

「ここは既に《天空界の掌握者ファルコン》の視界だ。気付かれれば、そのまま陛下に伝わるぞ?」
「ああ」

「それにここには《天空界の掌握者ファルコン》だけでなく、騎士団長や総団長もいる。それに大会期間は各街にいる騎士団長や、私のように来ているギルドマスターもいる。もし陛下がそなたを捕らえるように指示をしたら、いくらそなたでも────」

「その為にあの保険があるんだ。今回はガーデニアンにも誤魔化すつもりで、魔力の方も『自身否定パーソナル・エラー』と『限定限界リミテーション』で隠蔽している。……それに最悪俺の正体が露見してもアレを使って押し通す。……だから頼むよシャリア」

心配そうになるシャリアに対し、のんびりとしたままジークが口にする。
ジーク自身、このままバレずに王都から出られるとは最初から思ってなかった。

ギルドレットや陛下などのにも素顔は晒してないが、ギルドレットの目はジークの変装を見破って彼の魔力を視えるのだ。……どうやら今は隠蔽が効いて誤魔化せてるようだが。

油断ならないのは確かだ。いつ見つかってもおかしくない。
だからジークは手を打っておきたいのだ。そしてのそれは過去の自分とのハッキリとした決別でもあったのだ。

(世にも珍しい魔族とエルフのハーフの《天魔》、既にAランク冒険者の《雷槍》、帝国の第三王女の《冥女》か……全員と戦えるとは思えないが、そのオリジナルは絶対見極めないとな)

唯一の救いがあるとすれば、魔道杯のトーナメントが学年別ではなく、全学年であることだ。
ジークの目的を達成させる為にも、直接戦える方がいいのは明らかであったのだ。

「オリジナルマスター 」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く