オリジナルマスター
おまけ編 幼女とクマと雪だるま 真冬の雪合戦。
これは去年、とある真冬に起きた出来事である。
雪が積もるウルキア街で────カオスが発生していた。
『『……』』
寒い中、外に出歩く者達全員が目の前の光景に、目を点にしてポカンとしていた。
沈黙する街内で三人……いや、一人と二頭…………いやいや、一人と一頭と一体が共に並び歩いていた。
「ふっふふんっ、ふっふふんっ」
一人はウルキアギルドの長、シャリア・インホードだ。
真冬に似合うモフモフとしたローブを着て、金髪幼女は嬉しげにステップをする。
『く、……くまくまくまくま』
一頭は濃い茶色の毛皮の獣……クマのクー。
何故か「くまくま」と連呼して恥ずかしげに顔を俯いている。
「フォフォフォフォ」
そして三体目は……なんと説明したらよいか、その姿は一言でいうなら雪だるまである。
この世界でも一応、東の国の文化として雪だるまの存在は認知されているが、皆の知識が正しければ、雪だるまはひとりでに歩いて「フォフォフォ」などと言葉を発する生き物ではない筈だ。……というか生き物ですらないが。
『『……』』
その異様な存在達に対して、遭遇しすれ違う者達は必ず立ち止まり口をあんぐりとしているが、その驚き順のランキングは大体以下の通りである
第三位……街でも有名な《妖精魔女》ギルドマスターのシャリア。
彼女は基本ギルド会館の自分の一室に籠っているので、こうして外に出ている彼女は非常にレアであるため、出会った者達も驚いていた。
続いて第二位は……巨大クマのクー。
普段森の中で生活しているクマであるクーだが、その存在は意外とこの街でも知れ渡っている。
やはり森の守護獣として認識されていることもあり、他にも人の言葉を喋るところや意外と優しい一面があることなど。あと最近ではシャリアがヘマをして討伐騒動に発展させ、結果その存在が多くの人に知れ渡ったことであろう。
ギルドマスターの登場にも驚くが、このクマが街中で平然と歩いていることにもっと驚愕してしまうのである。……ちなみにクーは現在二足歩行である。四足歩行でも可能でそっちの方が楽であるそうだが、本人……本獣としては、街の人々が恐怖で混乱しないようなるべく街に溶け込めれるよう考えた答えだそうだ。
二足歩行のせいでその巨体差がさらに印象づけられてしまっているが。
そうしてそんなクマを差し置いて、栄えある第一位が─────
「フォフォフォ、さて楽しみましょうかデス」
人と同じくらいの背で丸い雪玉二つが基準で、バケツ帽子を被り両手を木の棒と手袋を繋げた物で構成され、足には長靴が装着された…………普通に人の言葉を話す雪だるまの姿に化けたジーク・スカルスであった。
ジークの姿は一応、正体を隠す意味もあってのものであろう。色々と派手にやらかすことが前提なので、万が一知り合いにでも見られたらややこしいことなる。
そう恐れ『仮装変装』で雪だるまに化けたのだ。雪だるまに化けたらと提案したのはシャリアであったが……さすがに自分身に直接雪を纏わせるのは勘弁だったらしい。
「ああ、始めようか友よ!」
『アー、我は帰ってもいいか? もの凄く恥ずかしいのだが』
「「ダメ」」
いよいよ何か始めようとするジークとシャリアに対し、クーはどこか帰りたそうにしている。……結局二人に却下されて「グヌヌヌ……」と呻くが。
どう見ても異常過ぎる状況、見ている者達はどうすればいいのかと視線を右往左往して誰でもいいからなんとかしてと、周囲に視線で投げていた。……大半が同じことをしていたのであまり意味がなかったが。
「あ、あの……、ギルドマスター?」
だがそんな時である、絶対近寄れないと思われたその輪の中に、無防備にも声を掛けてきた猛者が現れた。
……猛者と言ってもちょうどその場に通り掛ったギルド職員であるが。
「ん? おお、そなたか。どうした?」
「いや、どうしたじゃありませんよ」
正直覚えられているとは思ってなかったので、普通に反応されて少し戸惑う職員であるが、わざわざこの輪に近寄ってまでして、ギルド長に話をしたいことがあったと思い出して、口を開いた。
「今日、お休みじゃなかったですよね? 何をしているんですか?」
勿論質問である。
あの異様な一頭と一体はなんのかと、そして外出た目的は……。受付嬢のキリアにしっかり報告したのか……などなど。
だが、それら大多数の質問対してシャリアは不敵な笑みを浮かべ、その職員の肩を叩いて一言口にしただけであった。
「まあ、大丈夫だ!」
「……いや、何が大丈夫なんですか」
何も大丈夫ではない。寧ろとんでもないことが起きる寸前では……と口にする職員から顔ごと逸らして、シャリアはクーとジークへ向いた。
「いくぞ二人とも、準備はいいか?」
「フォフォフォ、任せなさいデス」
『ハァーー、仕方ないか』
シャリアの問いかけにジークは表情変えず……というか元々変えれる顔ではないが、とりあえず返答して、体を前に傾けて頷いているように見せた。
クーの方も渋々、というよりもう諦め感を滲ませながらシャリアに返答し首肯した。最初は寒い中、嫌々連れて来られてヘキヘキしていた彼だが、移動前にシャリアとジークに聞かされた目的を思い出し、少し楽しそう笑みを浮かべていた。
「フフフっ、ではこれより!  ウルキアをリングとした、第一回、ウルキア雪合戦を開始するぞーーーっ!!」
『「おおお(オオオ)ーーーーっ!!!」』
『『…………え』』
この街内でも最強クラスの二人と守護獣は、周りの人々の戸惑いも無視して、ウルキアすべてを巻き込む、雪合戦を開始させたのだった。
「いくぞ! クー! ジ……だるまよ!」
最初に動いたのはやはり先刻からやる気満々のシャリアである。
その小さなお手手で作られた雪玉数発がそれぞれ、ジーク、クーへと向かった。……本当に子供のように投げるシャリアに周囲の戸惑っていた人達は、ついついほっこりとした顔になってしまう。
が、そんなほんわかとした空気をクーとジークは結構遠慮なくぶち壊してしまう。一瞬だが、街の者達には彼らの目が光ったように見えてしまった。
『くまくまくまくまくま!』
まずクーが動く。前足を器用に動かして辺り位面にある雪を掻き集め転がしている。その際、迫ってくるシャリアの雪玉を左右に曲がったり止まったりして躱してみせる。
『クッ、マァアアアア!!』
「なあっ!?」
そして出来上がったそれを両手で抱えるようにして持つ、そこには超巨大の大雪玉が完成されおり、クーは両目を大きく見開くシャリアに向けて勢いよく投げた。
やはり無理をしていたのか、羞恥心やその他諸々を投げ捨ている気持ちで大きく振りかぶって投げていた。
「くっ!」
『『!?!?』』
迫り来る大雪玉にシャリアは躱すか、どうするか考え、周囲の人達は巨大雪玉に青ざめる。
クーの身体能力は人間を遥か凌駕している。それも手を振って衝撃波を出せるほどに。その彼の膂力で放たれた巨大雪玉は崩れそうになりながらも、標的であるシャリアに向けて一直線に飛んだ。
ほんわかしていた場が、一瞬にしてエグい光景に早変わりしかける、……がそこで、もう一体の彼が遂に動いた。
「(『雪玉』)」
ジークは木の枝でできた両手を広げて、魔法で周囲から大量の雪玉を作り上げた。
(やはり物がすぐ近くにあるのはいい、この魔法の利を活かせる)
もともとこの場には素材となる雪は大量にある。ジークは面倒な処理を無視して周囲の雪を利用して大量の雪玉を製作した。
そして作り上げた大量の雪玉を瞬時に操り、彼はシャリアに勢いよく飛んでいた巨大雪玉に向けて飛ばしてみせた。
『───ッ! キサマ!』
「だるま! やるではないか!」
……さりげなく、クーやシャリアにも投げて。
「フォフォフォ、これはバトルロイヤル、デス。遠慮はしませんデスよ?」
『上等だクマッ! 前にヤラレた借りを返してやるクマ』
「フフフっ! いくぞ友よ!」
そこからは激しい戦い─────スケールが圧倒的におかしな雪合戦が進んでいった。
ジークを真似て、巨大な雪の障壁を作ってバリケードして無数の巨大な雪玉を宙に浮かせる《妖精魔女》シャリアや、猛吹雪にも雪崩にも似た衝撃を前足(両手)で起こして敵に襲う《暴君》クー。
そして─────
「くらえ!『雪の射出砲台塔《スノー・カタパルトキャノン》』! さらに『再起復活』『再起復活』『再起復活』『再起復活』っ!」
『再起復活』も利用して雪で作られた高い塔と砲台を無数に建ててその二人を見下ろす《大魔導を極めし者》ジーク。
『「「ッ!!」」』
三竦みの争いは一瞬で町全体を巻き込むのであった。
◇◇◇
「で、散々遊び尽くして周囲を見回したら─────こうなっていたと?」
『「「は、はい(うむ)」」』
そして派手に暴れた彼らに待ち受けていたのは、眉間にシワを大きく寄せた状態で口元に不気味な笑みを浮かべ……目がまったく笑ってない、───幾つモノ感情を混ざり合ってしまったギルドの苦労人キリアだ。
キリアが嘆いていたのは、周囲の街の状態である。
もともと雪で満たされた街であったが、戦いの影響であっちこっちが雪崩でも起きたように滅茶苦茶になっていた。
「揃いも揃ってなんですかコレは? バカですか? バカなんですか?」
三名は現在、ギルド会館の前、仁王立ちするキリアに雪の上で正座させられていた。
実力的には劣るキリアであるが、その迫力にシャリアとジークだけでなく、クーまで縮こまってしまっている。
「怪我人や死傷者でなかったのが奇跡ですよ! どうしたら雪合戦であんな風にできるんですか!」
吐き捨てるように言うキリアを前にジークは苦笑浮かべて、チラリと周りを見る。
建物こそは壊れてはないが、彼らの雪合戦巻き込まれて埋もれてしまった者までいた。……一応、全員救出しておいたが、その大半が一瞬で雪に沈められた恐怖で震え上がっていた。
「ジークさん。話中は目線を逸らさない!」
「スミマセン」
キリアに注意され視線を戻すジーク。
あとジークの姿は、雪だるまのままである。
「まったく、アレですか? 強い人というのはみんな自分勝手なんですか? 少しは周りのことも気遣ってください」
『我……人ではないのだが』
「黙りなさい。あと正座を崩さない」
『グ……はい』
森の守護獣も受付嬢相手に完全にかたなしである。
「クククっ」
「ギルドマスターァ?」
「ヒッ!」
そのクーの情けなさに小笑するシャリアをキッと睨みキリアは嗜める。
「御三方……反省しなさい」
『「「すみませんでした」」』
正座するギルドマスターもビックリだが、同じく正座する雪だるまとクマもまたシュールな絵図らである。三名とも土下座しかねない勢いであった。
その後、キリアは罰として三名に、雪崩で道や家などが酷い状態となった街の雪掻きをやらせ、さらに反省として三名には街の催し物としてしばらくの間、無償で働くこととなった。
それともう一つ。
「あ、それとギルドマスターにはしばらくの間、寝ずに仕事をして頂きます。もともと仕事が山積みなの上、サボった分の仕事もありますが、きっちりこなしてもらいますので…………覚悟してください」
「ガーーーンッ!?」
街の代表の一人でありながら、街に対して被害を与えたギルドマスターのシャリアには、また別のペナルティーを受けることとなったが。
真冬に起きた彼らからしたらちょっとした遊び事であったが、やはり自重の心は大事だと改めて痛感する日であった。
雪が積もるウルキア街で────カオスが発生していた。
『『……』』
寒い中、外に出歩く者達全員が目の前の光景に、目を点にしてポカンとしていた。
沈黙する街内で三人……いや、一人と二頭…………いやいや、一人と一頭と一体が共に並び歩いていた。
「ふっふふんっ、ふっふふんっ」
一人はウルキアギルドの長、シャリア・インホードだ。
真冬に似合うモフモフとしたローブを着て、金髪幼女は嬉しげにステップをする。
『く、……くまくまくまくま』
一頭は濃い茶色の毛皮の獣……クマのクー。
何故か「くまくま」と連呼して恥ずかしげに顔を俯いている。
「フォフォフォフォ」
そして三体目は……なんと説明したらよいか、その姿は一言でいうなら雪だるまである。
この世界でも一応、東の国の文化として雪だるまの存在は認知されているが、皆の知識が正しければ、雪だるまはひとりでに歩いて「フォフォフォ」などと言葉を発する生き物ではない筈だ。……というか生き物ですらないが。
『『……』』
その異様な存在達に対して、遭遇しすれ違う者達は必ず立ち止まり口をあんぐりとしているが、その驚き順のランキングは大体以下の通りである
第三位……街でも有名な《妖精魔女》ギルドマスターのシャリア。
彼女は基本ギルド会館の自分の一室に籠っているので、こうして外に出ている彼女は非常にレアであるため、出会った者達も驚いていた。
続いて第二位は……巨大クマのクー。
普段森の中で生活しているクマであるクーだが、その存在は意外とこの街でも知れ渡っている。
やはり森の守護獣として認識されていることもあり、他にも人の言葉を喋るところや意外と優しい一面があることなど。あと最近ではシャリアがヘマをして討伐騒動に発展させ、結果その存在が多くの人に知れ渡ったことであろう。
ギルドマスターの登場にも驚くが、このクマが街中で平然と歩いていることにもっと驚愕してしまうのである。……ちなみにクーは現在二足歩行である。四足歩行でも可能でそっちの方が楽であるそうだが、本人……本獣としては、街の人々が恐怖で混乱しないようなるべく街に溶け込めれるよう考えた答えだそうだ。
二足歩行のせいでその巨体差がさらに印象づけられてしまっているが。
そうしてそんなクマを差し置いて、栄えある第一位が─────
「フォフォフォ、さて楽しみましょうかデス」
人と同じくらいの背で丸い雪玉二つが基準で、バケツ帽子を被り両手を木の棒と手袋を繋げた物で構成され、足には長靴が装着された…………普通に人の言葉を話す雪だるまの姿に化けたジーク・スカルスであった。
ジークの姿は一応、正体を隠す意味もあってのものであろう。色々と派手にやらかすことが前提なので、万が一知り合いにでも見られたらややこしいことなる。
そう恐れ『仮装変装』で雪だるまに化けたのだ。雪だるまに化けたらと提案したのはシャリアであったが……さすがに自分身に直接雪を纏わせるのは勘弁だったらしい。
「ああ、始めようか友よ!」
『アー、我は帰ってもいいか? もの凄く恥ずかしいのだが』
「「ダメ」」
いよいよ何か始めようとするジークとシャリアに対し、クーはどこか帰りたそうにしている。……結局二人に却下されて「グヌヌヌ……」と呻くが。
どう見ても異常過ぎる状況、見ている者達はどうすればいいのかと視線を右往左往して誰でもいいからなんとかしてと、周囲に視線で投げていた。……大半が同じことをしていたのであまり意味がなかったが。
「あ、あの……、ギルドマスター?」
だがそんな時である、絶対近寄れないと思われたその輪の中に、無防備にも声を掛けてきた猛者が現れた。
……猛者と言ってもちょうどその場に通り掛ったギルド職員であるが。
「ん? おお、そなたか。どうした?」
「いや、どうしたじゃありませんよ」
正直覚えられているとは思ってなかったので、普通に反応されて少し戸惑う職員であるが、わざわざこの輪に近寄ってまでして、ギルド長に話をしたいことがあったと思い出して、口を開いた。
「今日、お休みじゃなかったですよね? 何をしているんですか?」
勿論質問である。
あの異様な一頭と一体はなんのかと、そして外出た目的は……。受付嬢のキリアにしっかり報告したのか……などなど。
だが、それら大多数の質問対してシャリアは不敵な笑みを浮かべ、その職員の肩を叩いて一言口にしただけであった。
「まあ、大丈夫だ!」
「……いや、何が大丈夫なんですか」
何も大丈夫ではない。寧ろとんでもないことが起きる寸前では……と口にする職員から顔ごと逸らして、シャリアはクーとジークへ向いた。
「いくぞ二人とも、準備はいいか?」
「フォフォフォ、任せなさいデス」
『ハァーー、仕方ないか』
シャリアの問いかけにジークは表情変えず……というか元々変えれる顔ではないが、とりあえず返答して、体を前に傾けて頷いているように見せた。
クーの方も渋々、というよりもう諦め感を滲ませながらシャリアに返答し首肯した。最初は寒い中、嫌々連れて来られてヘキヘキしていた彼だが、移動前にシャリアとジークに聞かされた目的を思い出し、少し楽しそう笑みを浮かべていた。
「フフフっ、ではこれより!  ウルキアをリングとした、第一回、ウルキア雪合戦を開始するぞーーーっ!!」
『「おおお(オオオ)ーーーーっ!!!」』
『『…………え』』
この街内でも最強クラスの二人と守護獣は、周りの人々の戸惑いも無視して、ウルキアすべてを巻き込む、雪合戦を開始させたのだった。
「いくぞ! クー! ジ……だるまよ!」
最初に動いたのはやはり先刻からやる気満々のシャリアである。
その小さなお手手で作られた雪玉数発がそれぞれ、ジーク、クーへと向かった。……本当に子供のように投げるシャリアに周囲の戸惑っていた人達は、ついついほっこりとした顔になってしまう。
が、そんなほんわかとした空気をクーとジークは結構遠慮なくぶち壊してしまう。一瞬だが、街の者達には彼らの目が光ったように見えてしまった。
『くまくまくまくまくま!』
まずクーが動く。前足を器用に動かして辺り位面にある雪を掻き集め転がしている。その際、迫ってくるシャリアの雪玉を左右に曲がったり止まったりして躱してみせる。
『クッ、マァアアアア!!』
「なあっ!?」
そして出来上がったそれを両手で抱えるようにして持つ、そこには超巨大の大雪玉が完成されおり、クーは両目を大きく見開くシャリアに向けて勢いよく投げた。
やはり無理をしていたのか、羞恥心やその他諸々を投げ捨ている気持ちで大きく振りかぶって投げていた。
「くっ!」
『『!?!?』』
迫り来る大雪玉にシャリアは躱すか、どうするか考え、周囲の人達は巨大雪玉に青ざめる。
クーの身体能力は人間を遥か凌駕している。それも手を振って衝撃波を出せるほどに。その彼の膂力で放たれた巨大雪玉は崩れそうになりながらも、標的であるシャリアに向けて一直線に飛んだ。
ほんわかしていた場が、一瞬にしてエグい光景に早変わりしかける、……がそこで、もう一体の彼が遂に動いた。
「(『雪玉』)」
ジークは木の枝でできた両手を広げて、魔法で周囲から大量の雪玉を作り上げた。
(やはり物がすぐ近くにあるのはいい、この魔法の利を活かせる)
もともとこの場には素材となる雪は大量にある。ジークは面倒な処理を無視して周囲の雪を利用して大量の雪玉を製作した。
そして作り上げた大量の雪玉を瞬時に操り、彼はシャリアに勢いよく飛んでいた巨大雪玉に向けて飛ばしてみせた。
『───ッ! キサマ!』
「だるま! やるではないか!」
……さりげなく、クーやシャリアにも投げて。
「フォフォフォ、これはバトルロイヤル、デス。遠慮はしませんデスよ?」
『上等だクマッ! 前にヤラレた借りを返してやるクマ』
「フフフっ! いくぞ友よ!」
そこからは激しい戦い─────スケールが圧倒的におかしな雪合戦が進んでいった。
ジークを真似て、巨大な雪の障壁を作ってバリケードして無数の巨大な雪玉を宙に浮かせる《妖精魔女》シャリアや、猛吹雪にも雪崩にも似た衝撃を前足(両手)で起こして敵に襲う《暴君》クー。
そして─────
「くらえ!『雪の射出砲台塔《スノー・カタパルトキャノン》』! さらに『再起復活』『再起復活』『再起復活』『再起復活』っ!」
『再起復活』も利用して雪で作られた高い塔と砲台を無数に建ててその二人を見下ろす《大魔導を極めし者》ジーク。
『「「ッ!!」」』
三竦みの争いは一瞬で町全体を巻き込むのであった。
◇◇◇
「で、散々遊び尽くして周囲を見回したら─────こうなっていたと?」
『「「は、はい(うむ)」」』
そして派手に暴れた彼らに待ち受けていたのは、眉間にシワを大きく寄せた状態で口元に不気味な笑みを浮かべ……目がまったく笑ってない、───幾つモノ感情を混ざり合ってしまったギルドの苦労人キリアだ。
キリアが嘆いていたのは、周囲の街の状態である。
もともと雪で満たされた街であったが、戦いの影響であっちこっちが雪崩でも起きたように滅茶苦茶になっていた。
「揃いも揃ってなんですかコレは? バカですか? バカなんですか?」
三名は現在、ギルド会館の前、仁王立ちするキリアに雪の上で正座させられていた。
実力的には劣るキリアであるが、その迫力にシャリアとジークだけでなく、クーまで縮こまってしまっている。
「怪我人や死傷者でなかったのが奇跡ですよ! どうしたら雪合戦であんな風にできるんですか!」
吐き捨てるように言うキリアを前にジークは苦笑浮かべて、チラリと周りを見る。
建物こそは壊れてはないが、彼らの雪合戦巻き込まれて埋もれてしまった者までいた。……一応、全員救出しておいたが、その大半が一瞬で雪に沈められた恐怖で震え上がっていた。
「ジークさん。話中は目線を逸らさない!」
「スミマセン」
キリアに注意され視線を戻すジーク。
あとジークの姿は、雪だるまのままである。
「まったく、アレですか? 強い人というのはみんな自分勝手なんですか? 少しは周りのことも気遣ってください」
『我……人ではないのだが』
「黙りなさい。あと正座を崩さない」
『グ……はい』
森の守護獣も受付嬢相手に完全にかたなしである。
「クククっ」
「ギルドマスターァ?」
「ヒッ!」
そのクーの情けなさに小笑するシャリアをキッと睨みキリアは嗜める。
「御三方……反省しなさい」
『「「すみませんでした」」』
正座するギルドマスターもビックリだが、同じく正座する雪だるまとクマもまたシュールな絵図らである。三名とも土下座しかねない勢いであった。
その後、キリアは罰として三名に、雪崩で道や家などが酷い状態となった街の雪掻きをやらせ、さらに反省として三名には街の催し物としてしばらくの間、無償で働くこととなった。
それともう一つ。
「あ、それとギルドマスターにはしばらくの間、寝ずに仕事をして頂きます。もともと仕事が山積みなの上、サボった分の仕事もありますが、きっちりこなしてもらいますので…………覚悟してください」
「ガーーーンッ!?」
街の代表の一人でありながら、街に対して被害を与えたギルドマスターのシャリアには、また別のペナルティーを受けることとなったが。
真冬に起きた彼らからしたらちょっとした遊び事であったが、やはり自重の心は大事だと改めて痛感する日であった。
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