オリジナルマスター
第18話 試合後。
「ごめん」
少年は謝るしかなかった。
怪我をしているのか、頭部や身に付けている服の端から包帯のような物が見えている。
表情にも疲労感があるのか、病人のようなやつれた顔をする中、少年は目の前にいる人物に謝罪を口にした。
「シ……ル、バー……」
目の前にはいたのは緋色の少女。
少年を見上げるようにして地べたに座り込んでいた。
謝罪を口にする彼を茫然とした表情と光を失った瞳で見上げると、掠れるような小さな声で彼の名を呟く少女。
「守ることができなくて……本当にごめん」
自分の言葉に反応した少女に彼はもう一度謝罪を口にする。
──────少女の胸の中で抱えられ眠りについている男性に向けて。
「どうして……? どうしてお兄様が……」
少女と同じく緋色の髪をした男性。
少女は生を失ってしまった自分の兄を弱々しく抱き締めながら呟く。
「ごめん」
少年はもう謝罪を口にするしかなかった。
どれだけ謝っても許されないのは分かりきっていても、少年は─────
◇◇◇
ティアとの試合を終え、ジークは近くにいた審判に次の試合の棄権を告げると騒ぎ掛けてる会場から彼女を連れて素早く脱出した。
その際、観戦していたガーデニアンに呼び止められたジーク。
恐らく一緒に連れているティアについて何かあるのだと予想したジークであったが、……面倒になるのが分かりきっていたのでこれを無視することにしたのであった。
「はぁ……ここなら大丈夫かなぁ」
場所は学園の予選会場から移り、男子寮にあるジークの部屋。
とりあえず落ち着いて話をするため、自分の部屋へと連れてきたのだ。
本当なら『森の道』に隠してある隠れ家で話をしたかったが、いくら何でも王族である彼女を危険地帯に連れて行くのは色々とマズイと考え、男子寮の自分の部屋へと連れてきたのだ…………だが。
「それじゃそこに座りましょうか、シルバー」
「いやいや、ここ俺の部屋なんだけど、なんでお前が先導するの? ……あと今はジーク・スカルスだから、シルバーって呼ぶのはやめてくれ」
用意されてある椅子に遠慮なく座り込むティアに呆れた感じでジークは口にする。
(……にしても)
呆れた顔でティアを見ているジークだが、この部屋に入った時点で、既にミルルに化けていた魔法を解除していた。
ジークの目にティアの姿が映り出す。
《エリューシオンの戦騎姫》ティア・エリューシオン第二王女。
王女である彼女だが、周囲からは通り名から取って姫とも呼ばれてきた。
変装状態のジョドの赤い髪に近い、緋色の髪の長い髪を後ろで結んだポニーに美麗な整った顔立ち。
女性にしては長身であり、サナ以上の豊満な部位と引き締ている箇所の数々……女性が目指すような理想の体型であるティアであった。
ちなみに彼女には姉一人に妹二人いる。
妹達はまだ幼さがあるが、姉はティアと同じかそれ以上に優れた容姿端麗であるのだ。
兄も一人いたが、……その兄は四年前の大戦で戦死してしまった。
(うーん、数年振りだけど……化けたこれは)
ティアとは四年振りの再会。
久々に会った彼女に───────なぜか部屋の支配権を奪われてしまっていた。
「あら、スカルス? てっきりあの師匠さんの姓を貰ったのだと思ったけど……もぐもぐ」
「いつの間にか部屋の菓子パンが食べられてる!?」
もぐもぐと菓子を食べられる。
……まるでリスのように頬張る様子は、とても予選会で戦った者と同一人物とは思えなかった。
(相変わらずの自由振りだ。見た目はともかく、中身は全然変わってない)
王族育ちなのに慣れた相手のときは遠慮がないティア。
厳しい教育の反動なのか、そもそも彼女の性格がアレなのか知らないが、ジークからしたら外面は良いのに中身が合ってない残念な女性という印象があった。
「そんな固いこと言わないでほしいですね……もぐもぐ」
「とりあえず食べるのやめれい」
ジークの呟きに不満気に頬を膨らませるティア。
しかし、もぐもぐと食べるのはやめず、体をダラとして机の上で上体を寝そべらせている。
「わたくしだってゆっくりしたいんですよぉー」
「……」
彼女を敬愛している者達には絶対見せられない光景である。
こんな彼女にどうしたものかとジークは頭を抱えてしまそうになるも、なんとか堪え会話をする。
「あ〜昼食は食べてないのか?」
「超特急でこの街に来たから食べてないです。……どうしてもあなたと戦いたかったから、その準備に時間を使ってましたぁー」
口にするとどんどん不機嫌な面になっていく。
どうやら話していくうちに先の試合を思い出したようだ。
「……」
ジトーとした目でジークを睨むティア。
自分から戦う意思をなくしたとはいえ、余程納得がいってないようで不満顔を隠そうとせず、ジトーとしたまま睨みつけていた。
「というか、そもそもなんでこの街に来たんだよ。師匠から知らされたときは耳を疑ったぞ?」
いつまでも睨まれてもしょうがないので気になっていたことを尋ねるジークは試合前に連絡してきた師の言葉を思い出す。
『今その街にティア王女が来てます。あなたがそちらにいると伝えてあるので、おそらくあなたに会いにいくと思います。……気をつけてくださいね?』
と、聞かされたジークだが。
(なんで俺の居場所を伝えてるんですか師匠〜?)
その師の対応ぷりに呆れた気分のため息をつくジーク。
どこか天然な感じのある師であるが、まさか弟子の居場所をバレたくない相手にあっさり伝えてるとは思わなかった。
貴族にバレるのも嫌であるが、王族にバレるのはもっと嫌だったのだ。
王族とは色々と因縁がある────────こちらの姫とも。
「実はあなたが通ってる学園のガンダール伯爵とウルキア騎士団長のフェイン様と会談がありまして。ほら、例の大会の件ですよ」
「ん? ……あ」
ティアに言われてジークは思い出す。
今回の大会、魔導杯が行われる場所は聖国エリューシオンにある王都エイオンであったことを。
「その様子を見ると……忘れていたんですね」
「あ〜……まあ」
今度はティアに呆れた顔で見られてしまい、ジークは歯切れ悪く答えるしかなかった。
「た、大会といえば! ティアお前、なに予選会に参加してんるだよ!? おかげで大騒ぎだぞ!」
「うっ、い、いいじゃないですか別に! もうバレたようなものですし!」
「おまっ───! ……まあ、そうかもなぁ……王族が扱うオリジナルを使っちゃったしな」
というかそれ以前の問題であるが、とジークは付け加える。
すっかり開きなおった態度のティアに一度ガツンと説教でも……と考えもしたジークだが、よくよく考えてみて、一方的に文句を言うのはどうかと思い留める。
「さっき学園長と会談があるって言ってたよな?   ……あの人が手引きしてたのか?」
「してたかというと少し違いますが、そうですねー、知ってはいたはずですよ?  事前に手紙を送りましたから」
思案顔でそう口にするティアを見て、ジークは情報を頭の中で整理しながら質問を続ける。
「学園の中と外の境界には結界が張ってあったはずだ。だが試合が始まる前に騒ぎは起きてなかった……どうやって掻い潜った?」
ジークも何度か結界を掻い潜って、出たり入ったりしているが、一般的には非常に困難なことを普通に行なっている。
結界のセキュリティレベルは通っている学生は勿論、教員であって容易に誤魔化すのは難しく、以前侵入していきた《七罪獣》の幹部が生徒になりすまして掻い潜ったが、それぐらい手間をかけないとまず出入りするのは骨が折れるのだ。
もしできるとすれば、学園長を除けくとガーデニアンだけであろう。
それほどの厄介な結界をどうやって躱したか。
つい気になってしまったので聞いてみたジークであるが、その問いかけにティアはなんでもない様子で疑問に答えた。
「あなたの師の魔法ですり抜けましたよ」
「……来てるの?」
ティアの発言に周囲を警戒するように見回し、恐る恐る聞くジーク。
先刻、通信魔石で連絡をしたジークだが、まさかその本人が近くにいるかもしれないなど、まったく考えてなかったので急に背筋に悪寒が走ってしまった。
若干天然で基本温厚な性格の師であるが、それでも怖い一面もある師。
過去に折檻を受けてしまった師の男性陣達の悲惨な末路を思い返したのだ。
だが、それは早合点であった。
ジークの言葉と表情を見て、ティアは彼がなにを勘違いしているのか予想がついたので、苦笑を浮かべて否定したのだ。
「違いますよ。以前、通信魔石でお話した際、この街に行くと伝えたら使い魔を通してこの魔道具を貸してくださったんです」
そう言って胸元から服の中にあるものを取り出す。
出てきたのは首飾りで少し大きめの魔石が付いていた。
「初めて見るな……闇系統か?」
魔石の色は薄い黒なのでそう口にするジーク。
が、少し考えるような仕草をするティアからの返答は少し斜め下であった。
「属性自体ははそうみたいですけど、この魔道具、ただの通行許可証のようですよ?」
「通行許可……ああ!」
ティアの言葉を聞いてジークはこの魔道具がなんなのか理解した。
(なるほど、これが例の魔道具……たぶんレプリカかそれに近いものだと思うが)
ジークはそこで、いつもニコニコ微笑んでなんでも知っていそうにしている学園長を思い浮かべる。
(バレたらえらいことだよなぁ……まあそれは置いとくか)
「入ってこれた理由は分かった。けどそこまでして俺に会いにこなくても良かったんじゃないか?」
「良かったに決まってるじゃないですか。いったい何年ぶりだと思って────」
「いや、そうじゃなくて……」
先ほど以上に不満気な表情で口にするティアを一旦止めてるが、どう言っていいのか悩み、ジークは言い淀んでしまう。
「シルバー?」
「……ふぅ」
不思議そうに首を傾げるティアを見て、一度低く息吐くと……罵詈雑言を浴びせらることを覚悟の上で口を開いた。
「ティア……お前、俺を恨んでないのか? お前の兄、ライン・エリューシオンを……見殺しにしたんぞ? 俺は」
押し殺すように口にするジーク。
そんな彼を前にして、ティアは不思議そうに傾げていた顔を元に戻し、不満気な表情を消して彼の側に寄ると、無感情な顔でジークを─────
「恨んでるに決まってるじゃないですか。─────この人殺し」
冷めきった鋭い瞳で捉えるとティアはそう口にした。
先刻試合で使用していたナイフを─────彼の首筋に当てながら。
少年は謝るしかなかった。
怪我をしているのか、頭部や身に付けている服の端から包帯のような物が見えている。
表情にも疲労感があるのか、病人のようなやつれた顔をする中、少年は目の前にいる人物に謝罪を口にした。
「シ……ル、バー……」
目の前にはいたのは緋色の少女。
少年を見上げるようにして地べたに座り込んでいた。
謝罪を口にする彼を茫然とした表情と光を失った瞳で見上げると、掠れるような小さな声で彼の名を呟く少女。
「守ることができなくて……本当にごめん」
自分の言葉に反応した少女に彼はもう一度謝罪を口にする。
──────少女の胸の中で抱えられ眠りについている男性に向けて。
「どうして……? どうしてお兄様が……」
少女と同じく緋色の髪をした男性。
少女は生を失ってしまった自分の兄を弱々しく抱き締めながら呟く。
「ごめん」
少年はもう謝罪を口にするしかなかった。
どれだけ謝っても許されないのは分かりきっていても、少年は─────
◇◇◇
ティアとの試合を終え、ジークは近くにいた審判に次の試合の棄権を告げると騒ぎ掛けてる会場から彼女を連れて素早く脱出した。
その際、観戦していたガーデニアンに呼び止められたジーク。
恐らく一緒に連れているティアについて何かあるのだと予想したジークであったが、……面倒になるのが分かりきっていたのでこれを無視することにしたのであった。
「はぁ……ここなら大丈夫かなぁ」
場所は学園の予選会場から移り、男子寮にあるジークの部屋。
とりあえず落ち着いて話をするため、自分の部屋へと連れてきたのだ。
本当なら『森の道』に隠してある隠れ家で話をしたかったが、いくら何でも王族である彼女を危険地帯に連れて行くのは色々とマズイと考え、男子寮の自分の部屋へと連れてきたのだ…………だが。
「それじゃそこに座りましょうか、シルバー」
「いやいや、ここ俺の部屋なんだけど、なんでお前が先導するの? ……あと今はジーク・スカルスだから、シルバーって呼ぶのはやめてくれ」
用意されてある椅子に遠慮なく座り込むティアに呆れた感じでジークは口にする。
(……にしても)
呆れた顔でティアを見ているジークだが、この部屋に入った時点で、既にミルルに化けていた魔法を解除していた。
ジークの目にティアの姿が映り出す。
《エリューシオンの戦騎姫》ティア・エリューシオン第二王女。
王女である彼女だが、周囲からは通り名から取って姫とも呼ばれてきた。
変装状態のジョドの赤い髪に近い、緋色の髪の長い髪を後ろで結んだポニーに美麗な整った顔立ち。
女性にしては長身であり、サナ以上の豊満な部位と引き締ている箇所の数々……女性が目指すような理想の体型であるティアであった。
ちなみに彼女には姉一人に妹二人いる。
妹達はまだ幼さがあるが、姉はティアと同じかそれ以上に優れた容姿端麗であるのだ。
兄も一人いたが、……その兄は四年前の大戦で戦死してしまった。
(うーん、数年振りだけど……化けたこれは)
ティアとは四年振りの再会。
久々に会った彼女に───────なぜか部屋の支配権を奪われてしまっていた。
「あら、スカルス? てっきりあの師匠さんの姓を貰ったのだと思ったけど……もぐもぐ」
「いつの間にか部屋の菓子パンが食べられてる!?」
もぐもぐと菓子を食べられる。
……まるでリスのように頬張る様子は、とても予選会で戦った者と同一人物とは思えなかった。
(相変わらずの自由振りだ。見た目はともかく、中身は全然変わってない)
王族育ちなのに慣れた相手のときは遠慮がないティア。
厳しい教育の反動なのか、そもそも彼女の性格がアレなのか知らないが、ジークからしたら外面は良いのに中身が合ってない残念な女性という印象があった。
「そんな固いこと言わないでほしいですね……もぐもぐ」
「とりあえず食べるのやめれい」
ジークの呟きに不満気に頬を膨らませるティア。
しかし、もぐもぐと食べるのはやめず、体をダラとして机の上で上体を寝そべらせている。
「わたくしだってゆっくりしたいんですよぉー」
「……」
彼女を敬愛している者達には絶対見せられない光景である。
こんな彼女にどうしたものかとジークは頭を抱えてしまそうになるも、なんとか堪え会話をする。
「あ〜昼食は食べてないのか?」
「超特急でこの街に来たから食べてないです。……どうしてもあなたと戦いたかったから、その準備に時間を使ってましたぁー」
口にするとどんどん不機嫌な面になっていく。
どうやら話していくうちに先の試合を思い出したようだ。
「……」
ジトーとした目でジークを睨むティア。
自分から戦う意思をなくしたとはいえ、余程納得がいってないようで不満顔を隠そうとせず、ジトーとしたまま睨みつけていた。
「というか、そもそもなんでこの街に来たんだよ。師匠から知らされたときは耳を疑ったぞ?」
いつまでも睨まれてもしょうがないので気になっていたことを尋ねるジークは試合前に連絡してきた師の言葉を思い出す。
『今その街にティア王女が来てます。あなたがそちらにいると伝えてあるので、おそらくあなたに会いにいくと思います。……気をつけてくださいね?』
と、聞かされたジークだが。
(なんで俺の居場所を伝えてるんですか師匠〜?)
その師の対応ぷりに呆れた気分のため息をつくジーク。
どこか天然な感じのある師であるが、まさか弟子の居場所をバレたくない相手にあっさり伝えてるとは思わなかった。
貴族にバレるのも嫌であるが、王族にバレるのはもっと嫌だったのだ。
王族とは色々と因縁がある────────こちらの姫とも。
「実はあなたが通ってる学園のガンダール伯爵とウルキア騎士団長のフェイン様と会談がありまして。ほら、例の大会の件ですよ」
「ん? ……あ」
ティアに言われてジークは思い出す。
今回の大会、魔導杯が行われる場所は聖国エリューシオンにある王都エイオンであったことを。
「その様子を見ると……忘れていたんですね」
「あ〜……まあ」
今度はティアに呆れた顔で見られてしまい、ジークは歯切れ悪く答えるしかなかった。
「た、大会といえば! ティアお前、なに予選会に参加してんるだよ!? おかげで大騒ぎだぞ!」
「うっ、い、いいじゃないですか別に! もうバレたようなものですし!」
「おまっ───! ……まあ、そうかもなぁ……王族が扱うオリジナルを使っちゃったしな」
というかそれ以前の問題であるが、とジークは付け加える。
すっかり開きなおった態度のティアに一度ガツンと説教でも……と考えもしたジークだが、よくよく考えてみて、一方的に文句を言うのはどうかと思い留める。
「さっき学園長と会談があるって言ってたよな?   ……あの人が手引きしてたのか?」
「してたかというと少し違いますが、そうですねー、知ってはいたはずですよ?  事前に手紙を送りましたから」
思案顔でそう口にするティアを見て、ジークは情報を頭の中で整理しながら質問を続ける。
「学園の中と外の境界には結界が張ってあったはずだ。だが試合が始まる前に騒ぎは起きてなかった……どうやって掻い潜った?」
ジークも何度か結界を掻い潜って、出たり入ったりしているが、一般的には非常に困難なことを普通に行なっている。
結界のセキュリティレベルは通っている学生は勿論、教員であって容易に誤魔化すのは難しく、以前侵入していきた《七罪獣》の幹部が生徒になりすまして掻い潜ったが、それぐらい手間をかけないとまず出入りするのは骨が折れるのだ。
もしできるとすれば、学園長を除けくとガーデニアンだけであろう。
それほどの厄介な結界をどうやって躱したか。
つい気になってしまったので聞いてみたジークであるが、その問いかけにティアはなんでもない様子で疑問に答えた。
「あなたの師の魔法ですり抜けましたよ」
「……来てるの?」
ティアの発言に周囲を警戒するように見回し、恐る恐る聞くジーク。
先刻、通信魔石で連絡をしたジークだが、まさかその本人が近くにいるかもしれないなど、まったく考えてなかったので急に背筋に悪寒が走ってしまった。
若干天然で基本温厚な性格の師であるが、それでも怖い一面もある師。
過去に折檻を受けてしまった師の男性陣達の悲惨な末路を思い返したのだ。
だが、それは早合点であった。
ジークの言葉と表情を見て、ティアは彼がなにを勘違いしているのか予想がついたので、苦笑を浮かべて否定したのだ。
「違いますよ。以前、通信魔石でお話した際、この街に行くと伝えたら使い魔を通してこの魔道具を貸してくださったんです」
そう言って胸元から服の中にあるものを取り出す。
出てきたのは首飾りで少し大きめの魔石が付いていた。
「初めて見るな……闇系統か?」
魔石の色は薄い黒なのでそう口にするジーク。
が、少し考えるような仕草をするティアからの返答は少し斜め下であった。
「属性自体ははそうみたいですけど、この魔道具、ただの通行許可証のようですよ?」
「通行許可……ああ!」
ティアの言葉を聞いてジークはこの魔道具がなんなのか理解した。
(なるほど、これが例の魔道具……たぶんレプリカかそれに近いものだと思うが)
ジークはそこで、いつもニコニコ微笑んでなんでも知っていそうにしている学園長を思い浮かべる。
(バレたらえらいことだよなぁ……まあそれは置いとくか)
「入ってこれた理由は分かった。けどそこまでして俺に会いにこなくても良かったんじゃないか?」
「良かったに決まってるじゃないですか。いったい何年ぶりだと思って────」
「いや、そうじゃなくて……」
先ほど以上に不満気な表情で口にするティアを一旦止めてるが、どう言っていいのか悩み、ジークは言い淀んでしまう。
「シルバー?」
「……ふぅ」
不思議そうに首を傾げるティアを見て、一度低く息吐くと……罵詈雑言を浴びせらることを覚悟の上で口を開いた。
「ティア……お前、俺を恨んでないのか? お前の兄、ライン・エリューシオンを……見殺しにしたんぞ? 俺は」
押し殺すように口にするジーク。
そんな彼を前にして、ティアは不思議そうに傾げていた顔を元に戻し、不満気な表情を消して彼の側に寄ると、無感情な顔でジークを─────
「恨んでるに決まってるじゃないですか。─────この人殺し」
冷めきった鋭い瞳で捉えるとティアはそう口にした。
先刻試合で使用していたナイフを─────彼の首筋に当てながら。
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