オリジナルマスター

ルド@

第17話 勝敗。

(これもできれば使いたくなかった。後味が悪過ぎる上、あいつも絶対納得しないだろうしなぁ)

脳裏で不満そうな顔をする彼女を思い浮かべる。
仮に無事に終えても試合後に面倒になる予感をヒシヒシと感じてしまうが、……もうこれしかないと諦めて、覚悟を決めた……ような表情をするジークである。

(まぁ、使えばさすがに試合も終わるしな…………やりたくない)

なかなか覚悟決まらずの状態であったジークであったが、……結局やらないと余計に面倒にあると何度も考え直すがこの手で決めることにしたのだ。

「やるかな」
「……なにが?」
「いや……わるい。俺も本当はこんなやり方はどうかなって思ってたけど」

彼女の方を見て、申し訳なさそうに謝罪を口にするジーク。
本音でもすごくやりたくない気分のジークであるので、申し訳ない気持ちでありながらも……これから彼女を怒らせることになる現実に多少ながらも後ろめたさを感じずには入れないのであった。

「……いったい何を言って────っっ……!!」

少しだけ考えてみる彼女だが、次の瞬間、訝しげな顔から一気に警戒の色が露わになった。

(あ、あの顔は……!!)

彼女は知っているのだ。
苦笑顔を浮かべて、申し訳なさそうにしているが─────騙されてはいけない。

(これは本気で抵抗しないと、危険っ!)

あの顔は間違いなく、常識外れな…………相手への気遣いなど一切ない、遠慮のないヤバいことを企んでる時の顔だと。

「ほんと、悪く思うなよ。……ティア・・・

彼女にだけ聞こえる声でジークは謝罪と共に彼女の名を告げた。

「っ───!?」

一瞬で彼女の脳内で危険信号が激しく鳴り響いた。

動いたの反射的であった。
彼女はその一瞬で全開全力の魔法をジークに向けて発動させた。

「『輝く光の十字シャイン・クロス』ッッ!!」

詠唱破棄で唱え、両手に持つ光の大剣を大きく十字に切った。
すると振った剣先と刃から強大な光の斬撃が放たれた。

Aランクの最上位光魔法。この学園全学生の中で果たして、何人がこのレベルの魔法を使用できるか。

仮に居ても、片手で数えれるほどであろう。
それほどまで次元が違う魔法を彼女はこんな公の場で後先考えず発現させた。

だがそれだけに終わらない。
次にティアは右手の剣を射抜くように素早く構えて、その状態で剣舞魔法を発動させる。

「月からの光の一星……────『月光の一撃ルナ・ストライク』ッッ!!」

月光の聖剣ルナ・セイバー』の剣術であった。
突きの要領で剣を突いた先から突きの光の斬撃が飛び出して、十字の光と共にジークに迫る。

輝く光の十字シャイン・クロス』と同じくらいの上位技であった『月光の一撃ルナ・ストライク』。

Aランクレベルの大技が二つ。
普通ならこれだけで相手にしている者は戦意を喪失して自分の命を諦めてしまうだろうが……ティアはまだ止まらなかった。

─────絶対にこれで仕留める。

そんな強い意志を込めてティアは最後に自分が誇る剣術と魔法、そして精霊の力が合わさった。
月光の一撃ルナ・ストライク』より上の奥義クラスの技を使用した。

「ハァァァーーー!! これでトドメ! 『月光姫の剣舞世界ルナプリンセス・ワールドーーー!!』

唱えると同時に彼女の頭上より光、強大な右手と剣が出現した。
手の大きさは先ほどのジークの強大な手に近く、手首あたりまでありその手には剣が握り締められていた。

「覚悟しなさいっ! これでわたくしの勝ちよ!」

そしてそれは彼女の声を合図に他の二撃に少し遅れてジークへ向かっていた。

『…………』

Aランクの光の十字。
同レベルの光の突き。
そして巨人を思わせる強大な光の手とそれが握る光の剣。

常軌を逸脱した光景に言葉を失う観戦者達。
もう次元がどうとかの話でない。
誰もが考えることができずにただただ茫然と見ているしかなかった。


相手をしている彼を除いては……。

「魔力無効化エリア生成──────『魔無ゼロ』展開」

しかし……そんな次元の違う魔法であってもジークには意味をなさなかった。
相手の魔法を自身の魔力で押し潰す魔法と呼ばない魔法───────『魔無ゼロ』を展開した。


「……え」

彼女…………ティアは目の前で起きた光景に呆然としてしまう。

放たれた十字の光の斬撃や突きがジークが展開した莫大な魔力によって掻き消されたのだ。

唯一抵抗があったのは精霊の力が備わった最後の技あるが、それでも少し保っただけある。
ジークに近づくにつれ歪みだして、亀裂が行って……最後には粉々になって消えていった。


しかし、それだけではない。

「な、なんと……!」

外の方でガーデニアンが驚きの声を上げている。
なんとジークが展開した『魔無ゼロ』はティアの魔法だけでなく、ガーデニアンが観戦者達のために張った結界まで消してしまったのだ。

もちろん全てではない。
展開した場所からすぐ近くの障壁に大きな穴が空いてしまったのだ。

なのですぐに張り直すことが出来たが、この状況に少なからず驚いてしまうガーデニアンであった。


「い、一体……───ッ!」

もともと規格外な人物であることは知っていたティアだが、今回起きた現象についてははっきりいって滅茶苦茶であった。

「ま、まさか、自分の魔力を……そのまま変換せず、ぶつけたんですか?」
「ご名答。流石だなぁ、理解が早い(……『音声沈黙ボイス・サイレント』)」

だがそんな混乱からもすぐに持ち直すティア。
少しだけ混乱が解けた頭で、ジークが今何をしたのか、冷静になっていく頭で分かってしまったのだ。

「な……なんて……!」

震える声であっさり認めてみせたジークを見つめるティア。
そんな彼女に苦笑顔を浮かべてたまま、こっそり防音魔法をジークは周囲に掛ける。

「なんて、無茶なことを……!」

ジークの魔力について、それなりに知っているティアは、彼が行なった手段に対して激しい憤りを覚えていた。

だが、それはティア自身の身が危険になってたかもしれない、ということの怒りではなく、彼の身を案じてのことである。

あの魔力の危険性についても彼女は知っていたのだ。
だからジークは行なったあまりの無防備な方法に激怒していた。

「あなたの魔力はそんな風に扱っていい物じゃないでしょうが!? どれだけ無茶をしたか分かってるのですか!?」

変装していることも忘れるほど興奮し怒声を上げるティア。 
そんな彼女の顔に周囲から戸惑いの空気が立ち上るが、当のティアは気にした様子……というより気付いた様子を見せずジークを睨みつけていた。

「まさかとは思うけど、他の試合でも使ったんじゃないでしょうね!?」
「全くもってその通りだけど、まあ心配ないって……たぶん」
「っ! まさかさっきのもワザと攻撃を誘うわせるためのっ!」
「ご名答。やはり理解が早いな」

ハッとした顔で口にするティアにジークは肯定して賞賛を口にする。
自分が攻撃するよう誘導されていたことに気づき、愕然とした顔をするティア。

この場では深く言わないが、ジークも昔と比べて確かに成長していた。
以前であれば魔力その物を扱った技など使うだけで自殺行為であった。
それをティアは知っていたため、こうしてジークに怒号を露わにしているのだ。

だがティアは本人は知らないが、ジークには切り札の一つである《消え去る者イレイザー》がある。

それにこの数年で魔力の扱いがさらに上達していた。
今のジークであれば、疲弊してしまう《消え去る者イレイザー》を使用せずとも扱うことが可能だった。

「あ、あなたは……!」

尚も何か言おうとするティアであったが、ジークは苦笑気味のまま口を挟む。

「それより試合は……どうするよ?」
「っ! そ、それは……」

ジークに言われて、言葉を濁してしまうティア。
周囲の者達も黙り込んで、聞こえてはいないが緊張な面持ちで見守っていた。

「っ……! そ、その……!」

不意に俯いて手元にある光の剣を見下ろすティアだが、一向に攻めて行こうとはせず、その場で立ち尽くす。

いつの間にか、その表情には先ほどまではあったはずの闘争心がすっかり抜け落ちていたのだ。

彼と話をしてそんな気になれなくなったのだろう。

それに先ほどの『魔無ゼロ』の存在のせいで、もう彼に攻撃しようとは思えなくなってしまっていた。

(うっ、ああ……、なんか三流の小者の気分だよこれは。……けど、これ以上はなぁ……)

心の中でブツブツと後悔を述べるジークだが、ここで引くつもりもなかった。
試合場の状態もそうだが、これ以上彼女と試合をするのはそもそも心臓に悪過ぎだった。

「俺はこのまま続けるつもりだ。───ああ、安心してくれ、今あなたが自分に掛けてる魔法については除去しないから」

掛かってる魔法とは彼女が変装のために使用している魔法である。
ジークと同じでオリジナル魔法であるが、彼の『魔無ゼロ』であれば除去可能であろう。

脅すようにティアにジークは告げ、発動させた『魔無ゼロ』をいつでも再発動できるように魔力に意識を向けていた。

「まさか、連発するつもり!?」

ジークの言葉を聞き信じられないといた顔でティアが悲鳴にも似た声で叫ぶが、ジークの方は顔色一つ変えず、先ほどの問い掛けに対しての返答を求めた。

「で? どうする?  続けるなら俺はやるけど」
「くっ」

ジークに問い掛けれ、ティアは苦しげな顔をして彼を睨みつけた。
だが、……もう彼女の中で答えは決まってしまっていた。

「つ、────続けれるわけないでしょう?」

哀しげな顔でティアは口にする。
項垂れるのに頭を垂らし、ジークから視線を逸らす。

「棄権しますよ……。もうわたくしの負けでいいから……もう、それ以上やめてくだ──────」

そうして泣きそうな顔になって、ティアはジークに向けて降参を口に出そうとする。

「─────はい、ストップ!」
「え、えっ!?」

が、そこでジークがパンっと手を叩いて彼女を黙らした。
ジークは苦笑をして、戸惑ってしまっている彼女に改めて自分の真意を告げた。

「別にそこまでしなくていい。俺はただ、ミルル・・・がこれ以上試合をしたくないか、……確認を取りたかっただけだから」
「へ……?」

彼女に伝える中、ジークは『魔無ゼロ』を展開した後からずっと張っていた、防音結界・・・・を解除した。

突然ティアのことをミルルと呼んだのは、皆に聞かれても問題ないようにするため。

そしてジークはティアに背を向けて、観戦者達の方を向くと笑顔でとんでもないことを口にした。

「はぁ、なんかもう魔力切れ・・・・でヘトヘトになったんで────棄権するわ・・・・・
『……ハ?』

彼の言葉に会場全体が唖然とした空気になって、しばし沈黙に包まれる。

「バカタレが……」

そんな中、疲れたようにガーデニアンの呟きが聞こえたような気がしたジークであったが、既に思考を切り替えてこの場逃げる算段を立てていた。

(とりあえず、ティアと話をしないと……よし、固まってる間にダッシュで逃げますか)

未だに彼の発言に固まっている観戦者達を見て、ジークは試合時以上の真剣な表情で小さく頷いていた。

「今絶対下らないことで頷いてましたね? 本当にあなたは……」

その横でティアが呆れた様子で首を振り呟いていた。




こうしてジークと彼女────ティアとの試合は幕を閉じたのであった。
……いつものようにアレコレと後回しにして、やらかしてしまったジークであった。

その後もジークは最後の試合も魔力切れを理由に棄権してしまい、一日目の試合は皆、なんともいえない不完全燃焼のまま終わりを迎えた。


アレコレ厄介ごとを残したまま。

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