オリジナルマスター

ルド@

第14話 王族。

──────彼女が本気になったと確信した時、発していた空気が大きく変わった。

「ハァァァ──────ッ!!」

大量の魔力を両手のナイフに注ぐ。
するとナイフから光属性特有の眩ゆい光が漏れ出す。

ザワザワ……

その光景に周囲が騒めき出すが、もうお構いなし。
彼女は思うがままに剣を魔力を注ぎ続けると。


「『月光の聖剣ルナ・セイバー』……!」


光のナイフからさらに輝きが溢れ出て、二本のナイフを呑み込んで極太の光の剣へと変化を遂げた。


聖属性オリジナル魔法『月光の聖剣ルナ・セイバー

光属性の特性を持ち、上位派生属性でもある聖属性の特性を兼ね備えた聖剣魔法。
そして聖国エリューシオンの王族・・が受け継ぐ原初魔法の一つなのだ。

『……!?!?』

剣の出現にさらに騒然とする会場だが、その大半が剣の正体を知っていて驚いてるわけではなく、その神々しい光の剣に魅了されていた。

だがそんな中、先ほどまで余裕な顔で見ていた老魔導師の顔には、確かな驚きの顔があった。

「ま、まさかアレは!!」

大半があの光の剣がなんなのか理解し切れずにいる中、長い間王都直属の魔導師を務めたガーデニアンは、あの剣がなんなのか気づいてしまった。

(どこかで見た覚えのある剣術だと思っていたが……そういうことだったのか!)

薄々予感をしていたガーデニアン。

(い、いかん! だとしたらあの方は王族の……! ─────まずい、止めねば!)

だが同時に今現在起きている事態の深刻さ気づき、その顔が焦りの表情となると結界を解いて中に入ろう動き出す。

まだ試合中であるが、そんなことで止まるわけにはいかないガーデニアン。
動き出そうと張っている結界の魔力を切ろうとする。

「さすがに気づきましたか、ガーデニアン先生」
「ッリグラ学園長殿……!」

しかし、行動に移るより先に隣で観戦していたリグラに遮られる。

焦るガーデニアンに対して、リグラは涼しい顔で試合に視線を固定していた。
リグラも光の剣については知っていたが、ガーデニアンと違い、まったく焦った様子を見せないでいた。

「言いたいことは分かりますが、心配ありません。これは彼女の意向です」
「……!? ですが、万が一の────」

不安要素があり過ぎる。ガーデニアンは言わずにはいられなかった。
たとえそれが彼女の意向であったとしても。

「ええ、ですので万が一の時は……お願いいたします」
「なぬ!?」
「できますよね?」

だが保険はしっかり掛けておくリグラの返答に聞いていたガーデニアンがギョッとする。

「どうやら知り合いのようですからね。大丈夫だと思いますが……」

リグラの方はジークのことを信用してないわけではない

だがやはり相手が相手である。
念を入れておくつもりで口にしたのだろう。

しかし、その万が一の時に動かねばならなくなったガーデニアンは。

「出来れば試合自体をなしにして欲しかったのぉ……。  心臓に悪過ぎるし……」

冷や汗を大量に流して、いまさらになって試合の行く末が心配になってしまっていた。

(というか、今まさに止めるべきじゃないのかのぉ……)

明らかに危険な方向へと進んでゆく試合。
今から試合に割って入って止めるべきではないのかと自問するガーデニアンだが。

「取り敢えず今は大丈夫でしょう」
「で、ですがのぉ……」

不安げな表情のガーデニアンにリグラはニコリと笑みを向ける。

「最悪の場合ですよ。今はまだその時ではありません」

そう言い含めてしめると、再び試合の方へと意識を向けた。


◇◇◇


(やっときたか!)

オリジナル魔法の発動を見て、ジークは彼女が本気になったことを察した。

(王族のみが扱うオリジナルだ。さすがに気づいた人もいるはずだし。これで………………あれ?)

彼女を本気にさせて手の内を晒させて、正体を一部の者にこっそり知らせること。
全員に知らせると間違いなくパニックになるので、彼女の魔法の正体をしているであろうガーデニアンあたりに止めに来てほしかったジーク。

戦闘中に策を練っていた際、ガーデニアンがかつて王都にある王宮で魔導師を務めていたことを不意に思い出していたのだ。

これがジークの狙いであった…………あったのだが。

(どういうこと?)

少々、彼が予想した展開とは違っていたのだ。

「……」

キョロキョロと周囲を見回す。
生徒や教員達は彼女が出している光の剣を見て騒めいてるだけ。

「……」
「????」

そして審判をジトとした目で見るジーク。
当の審判は目の前の光景に動揺しており、視線に気づいていない。

「……」

キョロキョロと視線をあっちこっち視線を巡らして、再びミルルへと向けて一度笑みを作ると。

(どうして誰も止めに来ないんだ?)

ショックを受けたのか、普段に比べてその笑みが固まっていた。
心なしか目から光が消えてるようにも見えた。

(おいおいガーデニアン先生、なんで止めに来ないの? どう見てもアレだろうアレ)

心の中でミルルが持つ光の剣を指差して、どこかで見ているであろうガーデニアンに問うジーク。

(なんで止めに来ないの、止めようよっ! 相手王族だぞ・・・・? 完全に国家クラスの問題だぞ)

誰も試合を止めようとしないことに愕然してしまう。

どうやら作戦は見事に失敗してしまったようだと知ってしまうジーク。
他の教員は知らないが、ガーデニアンは間違いなく知っているはずなのに止めに来ない時点で、試合を止めるのはもう無理そうだと確信してしまう。

(もしかして彼女の剣を見てみんな尻込みしちゃったのか? 頼むよホントに……というかいい加減なんとかしてよマジで!)

と心の中で不満を吐き捨てているジークであるが。

皆が動けずにいるのは、なにも彼女の実力や剣だけが原因ではない。
そんな彼女の相手しているジークにも驚愕しているからである。

大半の者がジークの飛び抜けた魔法戦にビックリしている。
前までの試合でも体術や魔法でも驚愕することばかりであったが。

今回の試合が一番、見ている者達の目を奪っていた。

というかあの問題児で落ちこぼれとも呼ばれていたジークが勝ち越している時点で、生徒や教員からしてみれば十分事件なのであったが……。

当の本人は全然そんなことに気づいていなかった。

「ハッ!」
「げっ!?」

そんなことを『零の透矢ノーマル・ダーツ』を放ちながら考えているところで、彼女の方から動きがあった。

いつの間にか剣だけなく彼女の体も輝いていた。

(アレは『身体強化・光の型《ブースト・ライト》』! ヤバい、一気に攻める気だ!)

光の身体強化を身に纏うと、彼女は輝く二本の大剣サイズの剣を携えて、斬りかかってきた。

迫ってくる矢弾を纏っている光と二本の光の剣で弾き飛ばしながら。

「う……!」

とっさに籠手でガードするが、激突したところで剣から強大な光の奔流が溢れ出てきた。

「な!?」

奔流に飲まれて、そのまま後ろへと押し出されるジーク。

(あっぶない……! もう少しで斬られるとこだった!)

魔法であるためダメージはないが、衝撃で吹き飛ばされてしまった。

さらに剣撃によるダメージでとうとう腕の籠手が両方とも破壊されてしまう。


(考え事していたせいだな。この人相手にそれは厳禁だったわ)

今は考えてる場合ではなかったと反省するジーク。
だが、少々遅かった。

「一気に……仕留めさせてもらうわよ!」

光り輝く剣を構えて、彼女の方からこちらへ迫ってきていた。

「う」

まだ倒れた状態から体勢を戻せておらず、迫ってくる彼女に焦るジーク。

「ヤァァァァ!!」

なんとか上体を起こそうとした時には、既に彼女の剣間合いへと入ってしまい、目の前で斬撃がジークへと襲いかかろうとしていた。

(いっ〜〜! )

だが、ここでとっさに閃くジークである。
腕の籠手は壊れてしまったが、まだ足に付けた鎧の脚防具はまだ残っていることを思い出す。

剣撃が届く寸前、片足を上げて迫る剣へぶつけてみせた。

「あ」

だがそこで再び、接触によって強大な光の奔流が発生する。
咄嗟の行動であったため、先のことを考慮してなかったのだ。

完全悪手である。

発生した光の奔流によってさらに、彼の体は後ろへと吹き飛ばされ──────────


「『行動禁止クリアジャマー』───解除・・


────そうになるところで今度はジークの方がセーブを解いた。

少しだけであるが、本気を出したのだ。

「っっ!!」

吹き飛ばされる直前でジークが動いたことに息を飲む彼女。
いきなり『行動禁止クリアジャマー』で封じていた魔力を解放したのだ。

「くっ!?」

解放された魔力によって彼を中心に大きな余波が発生した。
彼に向かって押し潰そうとしていた光の奔流を吹き飛ばされた。

彼女の方にも衝撃がくると、苦しげな表情で後退してしまう。

『……え?』

一連の流れで起きた光景に唖然とする生徒や教員。

『────!?』

だが次の瞬間、会場にいる生徒の三割が気絶。
残りの大半がふらつくなどして倒れそうになっていた。

教員の中にも倒れそうになる者がいたが、そこは魔法教員であるためか、なんとか堪えて自身に起きた症状に目を見開き困惑した顔をしていた。


──────ジークが解放した魔力の余波は周囲の者達にも影響を及ぼしていたのだ。


「え、オイっどうした!? おわっ! なんかブルッときた!?」
「だ、大丈夫か!? ううっ……、なんだ今の感覚」 
「こっち誰か来て下さい! 突然友だちが倒れちゃって……!」

皆困惑した顔である。
会場が混乱に包まれてしまっていた。


そんな中、ジークが知る者達は──────

「なんだこの寒気は……。気じゃないな。けど……魔力の気配がしなかった」

復帰が認められて、ちょうどジークの試合があると知って見に来ていたトオル。

多少気を扱えることが出来るトオルはいま感じた感覚に気が関係してないと見極めたが、なら一体なんのかと疑問符を浮かべていた。

「なに……? 急にめまいが……」
「うっ、こ、この感じは……あの時の……!」

同じく試合を見ていたサナとリナの姉妹。

姉の方は困惑した顔で初めて味わった奇妙な感覚にめまいを覚えてた。

逆に妹の方は姉と同じようにめまいに襲われてふらつきはしていたが、以前にも似た感覚があっと自身の記憶を遡って…………男子寮でジークに問い詰められた時に襲われた感覚と似ていることに気づいて驚きの顔をしていた。

「これは……! ガーデニアン先生、これは一体……」

そして学園長であるリグラは笑みを消して、真剣な表情をすると今身に降りかかった衝撃について隣にいるガーデニアンに問いかける。

魔法分野に関しては彼に聞くのが一番なのである。

が、この時点でリグラはこの現象に魔法が…………ジークの魔法が関係していると直感で感じ取っていた。

それを聞いたガーデニアンは難しい顔をする中、心中でやはり流石だと感心していた。

「無理矢理抑えていた反動ですなぁ。魔力が吹き荒れとるが……まさかこれほどとは」
「吹き荒れてる?  魔力は感じませんが?」
「む……確か、特異体質だったと」
「体質?」
「漏れてはいるが感知が出来ん特殊な魔力なんですぞ」

説明を聞いて違和感を覚えるリグラに、ガーデニアンはそれらしい説明する。
午前中のジークとの会話で彼が自身の魔力について隠してることに気づいていたガーデニアン。

そうしてリグラに自身が気づいたことを全部説明するか、一時は考えてはみたが、結局こうしてそれらしい作り話を用意して惚けることに決めた。

「まあ、中にはいるタイプですので、珍しいというほどではありませんな」

実際、説明自体もそれほど違う訳でもないので、ガーデニアンもあまり気にせず口にした。

「高濃度かつ高い魔力を無防備な状態で受けてしまい気絶したのでしょう。まあ命の心配はないはずじゃな」

(と、口では言ってはいるが)

説明をする中、チラリと周囲を視線を向けるガーデニアン。

「な、なぁ? なんか息苦しくねぇか」
「あ、ああ、なんか寒気もするぞ」
「なんか疲れが……」

彼の魔力の余波を浴びても、ギリギリ倒れなかった男子達の話を盗み聞く。

ジークが解放した魔力が安定しだしているというのにまだ辛そうにしている生徒達を見て、ガーデニアンは呆れ顔となる

(いくら感知が出来なくて、高い魔力だからといって……普通じゃありえんのぉ。─────明らかにそれ以外にも理由はある)

と内心呟いてはみたが、リグラには話そうとはせず、まもなく終わりを迎えようとしている、試合の行く末を見届けることにしたのだった。


いよいよ試合は、終幕へと移ろうとしていた。

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