オリジナルマスター
第5話 検討と試合後。
「して、どうするか」
フロアにいる者達に聞こえるように口を開く三十代ほどの男性。
彼は初等部、高等部を統べる学園長リグラ・ガンダールである。
ジークとトオルの試合が終わってすぐのことであった。
ここは校舎にある教員用の会議室である。
議題はもちろん、トオルが使用した『妖刀』である。
使用に関して厳格な取り決めがあるあの妖刀を資格なしで無断使用したトオルに対して、どう処理をするのかを検討しているのだ。
しかし、会議をしたばかりの初め方は、一方的な意見が多々であった。
ようはトオルの失格扱い兼、退学にすべしという意見である。
「勿論失格でしょう学園長!  妖刀ですぞ!?」
「あんな危険な物を持ってる生徒など退学でしょうどう考えても!」
「いや、騎士団に引き渡しましょう。危うく生徒に被害が出かけたんですよ!?」
学園長の言葉を合図に、会議室に教員達からの罵詈雑言が飛び交う。
会議室にほとんどの者達がトオルの退学を主張している。
妖刀を持つ危険な存在など早くこの学園から追い出したいのである。
「まあ待つのじゃ」
とそこへ。同じく会議に参加していた学園きって魔法教師《老魔導師》クロイッツ・ガーデニアン。
そんな老師が罵詈雑言を飛ばしていた者達に待ったをかけた。
「今回の件はワシに預からせてくれんかのぉ? リグラ学園長殿」
彼らも誇るガーデニアンがなにを言い出すのかと思えば、大半の教員を驚かせることを言い出したのだ。
「ガーデニアン先生なにを言って……!」
「理由をお聞きしても?」
当然教員の一人が反発的な発言をしようとしたのだが、そこで学園長のリグラが窺うように聞いてきたのだ。
「皆さんも少しは落ち着きましょう」
真面目な表情で聞くと、リグラは周囲に目を配り黙らせる。
ガーデニアンにはなにか名案があるのだろうと察したからだ。
「正直に申すと、今更失格扱いにしても遅いと言いたいんですよ。あの試合を途中で中断しなかった時点で」
「なっ」
「ぐっ」
ガーデニアンの言葉に、否定的な空気を張り詰めていた教員達に歪みが生まれた。
そう。ガーデニアンの言う通りなのだ。
あの試合、トオルが使用したのが妖刀であると分かった時点で止めるべきであったのだ。
しかし、皆妖刀が発する妖気に足を竦んでしまい動けなかったのだ。
……ガーデニアンは別であったが。
その時に何も言わなかった者達が今更なにか言えば、一緒に何故止めなかったと蒸し返されるのを危惧している。
ちなみにその際真っ先に止めようとして、ジークに言い含められた審判役の教員は重苦しい空気に縮こまっていた。
とにかく一度でもいいから試合を止めて検討すべきであったのだ。
そしてさらにガーデニアンは口にする。
「それにあの試合で被害者はでましたか? けが人はでましたかな?」
「それ……! でませんでしたが」
凄みのある顔で否定的な雰囲気のある教員に問い掛けるガーデニアン。
教員の方は多少動揺を見せるが、なんとか質問に答える。
と、それを待っていたかのようにガーデニアンが素早く切り出した。
「えぇでませんでしたな  ────スカルスのおかげで」
「──っ」
ジークの名が出た瞬間、先ほど以上に表情を歪め、苦虫を噛み潰したかのような顔になる教員衆。
「ガーデニアン先生、つまりどうしろと?」
リグラの方は少しだけ眉をピクリと動かしただけだが、ガーデニアンには少しであるが、苦い表情に見えたのだ。
だが、特になにか言ってくることもないので、ガーデニアンは言いたいことを皆に聞こえるように言ってのけた。
「あの試合で被害を受けた者がいるとするなら……スカルスだけです。そこで今回の件────スカルスに一任して頂きたい」
「……」
ガーデニアンが口にした言葉に沈黙するリグラ。
前フリからしてそれに近いことであると思われたが、実際にガーデニアンの口から聞き、表情には出さないが驚いているのだ。
「なにを血迷ったことを……!」
「あのような者にそんな権限など!」
「学園にいることすらおこがましい劣等生に……!」
そして当然のように、ここにはいないジークに対して罵倒をあげる教員達。
多少理屈はありそうな雰囲気ではあるが、完全に感情的にぶつけている。
「本気で言っておるのか?」
しかし、それを予想していたのか、ガーデニアンがニヒル笑みを浮かべ叫びあげる教員達に言葉の槍を突き刺した。
「試験試合で三年に勝ち。妖刀持ちを圧倒した彼ですぞ?」
「「「「───っ!!」」」」
ガーデニアンの言葉に教員達は固まってしまう。
自分たちが何も出来なかった相手にあのジークが勝ってしまったのだ。
たとえ彼の性格性に問題があっても、その事実は覆せれない。
三年に勝ったことがマグレであっても、妖刀持ちに勝ったことがマグレだったと現実逃避できるほど、皆愚かではなかったのだ。
「学園長、如何しますか?」
「……」
そしてガーデニアンが返答を促すリグラは、難しい顔して視線を下に向けて思案していたのだった。
 
◇◇◇
「っ───! こ、ここは……?」
「気がついた?」
「ん?  ──シオン姉!?」
トオルが目が覚めましたのは、学園に完備されている医務室の中のベットであった。
そしてそんな彼の側にいたのは、彼の姉であるシオン・ミヤモトであった。
無表情な顔つきでベットに寝そべるトオル眺めているが、その表情には微かな心配の色が彼には見えた。
(うっ、心配かけてしまった)
三年風紀委員長である姉。トオルはこの姉が地味に苦手であった。
昔は感情豊かな姉であったのだが、大戦を経験し父を亡くして以来、感情が押し込めるようになってしまったのだ。
そして必要以上に弟のトオルに構ってるところがある。
なので心配事があるとよくトオルのところに飛んで来るだが、本人としては非常に困る話である。
(あまり強く言うと落ち込むから言えないけど)
と言っても口にはしないトオルであった。
「怪我は大丈夫?」
「ん〜……たぶん」
改めて上体を起き上がらせ自分の体を見回すと…………包帯だらけである。
服装は病人が着そうな格好であり、その下に大量の包帯が彼の体を隠している。
どう見ても重傷である。
「不思議だ……痛みがない……」
「麻酔が掛けられてるから」
「よく生きてるよなオレ」
「何度も撃たれたり、殴られたりしたから……、覚えてない?」
「え! んー」
シオンに言われ記憶を探るトオル、途中までは確かに意識はあった。
妖気に堪えながらなんとか戦っていた筈だ。
────だが、そこまでであった。
(あれ? どうなったんだっけ?)
無数の矢を躱したり切ったりして、ジークの懐に入り接近戦に持ち越したところで意識が掻き消えたのだった。
「覚えてない?」
「お、覚えてない」
全く記憶がなかく困惑状態であるトオル。
そんなトオルにシオンが頷く。
「私が説明する」
「え、あぁ」
こうしてシオンから説明を受けたトオルであった。
「なんてこった」
「大丈夫?」
「微妙だ……」
シオンの説明を聞いたトオルはがっくりと肩を落とした。
内容としては妖気を纏った最初は接戦だったそうだ。
だが途中から暴走状態に入ってしまい、ジーク以外の者にも襲いかかろうとしたのだ。
────そして、それを止めたのが、対戦していたジークであった。
「そして場外に出て暴れようとしたところで彼が背後から襲ってきた。最終的には、こう……頭を掴んで何度も地面に打ち付けようにして」
「いや、もういいや」
頭を抱えるようにして俯くと不意にジークの言葉を思い出す。
『もう容赦はしない』
どんだけ容赦なしなんだと思いたくなったが、賭けに負けて暴走した自分になにか言う権利などないのは分かりきっており、口にしようとはしなかった。
(結構鍛えたつもりだったんだが、まだ不足しているか)
寧ろ借りができてしまったなと、ため息を吐きたくなったのだ。
「やっぱり強かったな。アイツ」
苦笑気味に何気なく呟くトオル。
「うん、強かった。興奮した……!」
「……さいですか」
そういえば内気になった反面、戦いに関しては好戦的なタイプであったと思い出した。
「戦いたいな」
「それは結構難しいと思うけど」
どうもジークと戦いたそうな表情をするシオンに、釘を刺すつもりで口にするトオル。
今回の予選会は勝ち越し数と上勝ちなどで評価とされる。
勝ったも者は勝った者と試合をして、負けた者は負けた者と戦う。
戦える限り進めていくのである。
さらにトーナメントはバラバラにしてあるので、学年が上の者と戦うこともあるのだ。
その成果によっては、たった1試合の結果でも大会メンバーに選ばれることもある。
勝ち越し続ければいいというわけではないのだ。
そして一戦目で敗北してこうして寝てしまっていたトオルの場合は─────
「オレは……敗退か?」
「それはまだ分からない。けど一応、次の試合は不戦敗ということが決定してる」
───それもそうか、とシオン言葉に納得するように頷く。
(どのみちもう少し回復が必要だしな。次の試合は棄てて、その次から……!)
しかし、納得している彼にシオンからさらに重い一言がくる。
「でも厳しいかもしれない。妖刀は……まずかった。今学園側と緊急会議が行われてる」
「ああー、そうかー」
やはり簡単にはいかないようだ。
「でもどうして妖刀の力を使った? まだ解放状態は安定してない」
「うっ、いや」
来ると思った質問が、このタイミングできたこと言いづらそうにする。
「あ、あれはな」
「なんで?」
(そんな目で見るなよ)
子犬みたいな目で見詰めてくる姉に、観念したトオルは諦め混じりに口を開く。
「なんかよ?  最初は普通に戦うとしてたんだけど」
「だけど?」 
トオルの言葉に不思議そうに首を傾げながら続きを促すと。
「妖刀の方が急にざわめき出してよ。抑えが利かなくなったんだよ」
「抑えが?  なんで?」
「わ、分かんね……。今までも何度か戦ってる最中にざわいたことあったけど、こんなに騒ぎ喚いたのは初めてなんだ」
トオルも検討がつかない様子で首を傾げる。
言葉に嘘はなかった。大会に出ようと思っていたので、妖刀の力を使おうとは考えてなかったのだ。
それがまさか
「つい妖刀に感化されちまったんだよな」
「……」
心底不思議そうにしているトオルを他所に、シオンは無表情ではあるが、なにか思案するような目をして、黙ってトオルを見ているだけであった。
フロアにいる者達に聞こえるように口を開く三十代ほどの男性。
彼は初等部、高等部を統べる学園長リグラ・ガンダールである。
ジークとトオルの試合が終わってすぐのことであった。
ここは校舎にある教員用の会議室である。
議題はもちろん、トオルが使用した『妖刀』である。
使用に関して厳格な取り決めがあるあの妖刀を資格なしで無断使用したトオルに対して、どう処理をするのかを検討しているのだ。
しかし、会議をしたばかりの初め方は、一方的な意見が多々であった。
ようはトオルの失格扱い兼、退学にすべしという意見である。
「勿論失格でしょう学園長!  妖刀ですぞ!?」
「あんな危険な物を持ってる生徒など退学でしょうどう考えても!」
「いや、騎士団に引き渡しましょう。危うく生徒に被害が出かけたんですよ!?」
学園長の言葉を合図に、会議室に教員達からの罵詈雑言が飛び交う。
会議室にほとんどの者達がトオルの退学を主張している。
妖刀を持つ危険な存在など早くこの学園から追い出したいのである。
「まあ待つのじゃ」
とそこへ。同じく会議に参加していた学園きって魔法教師《老魔導師》クロイッツ・ガーデニアン。
そんな老師が罵詈雑言を飛ばしていた者達に待ったをかけた。
「今回の件はワシに預からせてくれんかのぉ? リグラ学園長殿」
彼らも誇るガーデニアンがなにを言い出すのかと思えば、大半の教員を驚かせることを言い出したのだ。
「ガーデニアン先生なにを言って……!」
「理由をお聞きしても?」
当然教員の一人が反発的な発言をしようとしたのだが、そこで学園長のリグラが窺うように聞いてきたのだ。
「皆さんも少しは落ち着きましょう」
真面目な表情で聞くと、リグラは周囲に目を配り黙らせる。
ガーデニアンにはなにか名案があるのだろうと察したからだ。
「正直に申すと、今更失格扱いにしても遅いと言いたいんですよ。あの試合を途中で中断しなかった時点で」
「なっ」
「ぐっ」
ガーデニアンの言葉に、否定的な空気を張り詰めていた教員達に歪みが生まれた。
そう。ガーデニアンの言う通りなのだ。
あの試合、トオルが使用したのが妖刀であると分かった時点で止めるべきであったのだ。
しかし、皆妖刀が発する妖気に足を竦んでしまい動けなかったのだ。
……ガーデニアンは別であったが。
その時に何も言わなかった者達が今更なにか言えば、一緒に何故止めなかったと蒸し返されるのを危惧している。
ちなみにその際真っ先に止めようとして、ジークに言い含められた審判役の教員は重苦しい空気に縮こまっていた。
とにかく一度でもいいから試合を止めて検討すべきであったのだ。
そしてさらにガーデニアンは口にする。
「それにあの試合で被害者はでましたか? けが人はでましたかな?」
「それ……! でませんでしたが」
凄みのある顔で否定的な雰囲気のある教員に問い掛けるガーデニアン。
教員の方は多少動揺を見せるが、なんとか質問に答える。
と、それを待っていたかのようにガーデニアンが素早く切り出した。
「えぇでませんでしたな  ────スカルスのおかげで」
「──っ」
ジークの名が出た瞬間、先ほど以上に表情を歪め、苦虫を噛み潰したかのような顔になる教員衆。
「ガーデニアン先生、つまりどうしろと?」
リグラの方は少しだけ眉をピクリと動かしただけだが、ガーデニアンには少しであるが、苦い表情に見えたのだ。
だが、特になにか言ってくることもないので、ガーデニアンは言いたいことを皆に聞こえるように言ってのけた。
「あの試合で被害を受けた者がいるとするなら……スカルスだけです。そこで今回の件────スカルスに一任して頂きたい」
「……」
ガーデニアンが口にした言葉に沈黙するリグラ。
前フリからしてそれに近いことであると思われたが、実際にガーデニアンの口から聞き、表情には出さないが驚いているのだ。
「なにを血迷ったことを……!」
「あのような者にそんな権限など!」
「学園にいることすらおこがましい劣等生に……!」
そして当然のように、ここにはいないジークに対して罵倒をあげる教員達。
多少理屈はありそうな雰囲気ではあるが、完全に感情的にぶつけている。
「本気で言っておるのか?」
しかし、それを予想していたのか、ガーデニアンがニヒル笑みを浮かべ叫びあげる教員達に言葉の槍を突き刺した。
「試験試合で三年に勝ち。妖刀持ちを圧倒した彼ですぞ?」
「「「「───っ!!」」」」
ガーデニアンの言葉に教員達は固まってしまう。
自分たちが何も出来なかった相手にあのジークが勝ってしまったのだ。
たとえ彼の性格性に問題があっても、その事実は覆せれない。
三年に勝ったことがマグレであっても、妖刀持ちに勝ったことがマグレだったと現実逃避できるほど、皆愚かではなかったのだ。
「学園長、如何しますか?」
「……」
そしてガーデニアンが返答を促すリグラは、難しい顔して視線を下に向けて思案していたのだった。
 
◇◇◇
「っ───! こ、ここは……?」
「気がついた?」
「ん?  ──シオン姉!?」
トオルが目が覚めましたのは、学園に完備されている医務室の中のベットであった。
そしてそんな彼の側にいたのは、彼の姉であるシオン・ミヤモトであった。
無表情な顔つきでベットに寝そべるトオル眺めているが、その表情には微かな心配の色が彼には見えた。
(うっ、心配かけてしまった)
三年風紀委員長である姉。トオルはこの姉が地味に苦手であった。
昔は感情豊かな姉であったのだが、大戦を経験し父を亡くして以来、感情が押し込めるようになってしまったのだ。
そして必要以上に弟のトオルに構ってるところがある。
なので心配事があるとよくトオルのところに飛んで来るだが、本人としては非常に困る話である。
(あまり強く言うと落ち込むから言えないけど)
と言っても口にはしないトオルであった。
「怪我は大丈夫?」
「ん〜……たぶん」
改めて上体を起き上がらせ自分の体を見回すと…………包帯だらけである。
服装は病人が着そうな格好であり、その下に大量の包帯が彼の体を隠している。
どう見ても重傷である。
「不思議だ……痛みがない……」
「麻酔が掛けられてるから」
「よく生きてるよなオレ」
「何度も撃たれたり、殴られたりしたから……、覚えてない?」
「え! んー」
シオンに言われ記憶を探るトオル、途中までは確かに意識はあった。
妖気に堪えながらなんとか戦っていた筈だ。
────だが、そこまでであった。
(あれ? どうなったんだっけ?)
無数の矢を躱したり切ったりして、ジークの懐に入り接近戦に持ち越したところで意識が掻き消えたのだった。
「覚えてない?」
「お、覚えてない」
全く記憶がなかく困惑状態であるトオル。
そんなトオルにシオンが頷く。
「私が説明する」
「え、あぁ」
こうしてシオンから説明を受けたトオルであった。
「なんてこった」
「大丈夫?」
「微妙だ……」
シオンの説明を聞いたトオルはがっくりと肩を落とした。
内容としては妖気を纏った最初は接戦だったそうだ。
だが途中から暴走状態に入ってしまい、ジーク以外の者にも襲いかかろうとしたのだ。
────そして、それを止めたのが、対戦していたジークであった。
「そして場外に出て暴れようとしたところで彼が背後から襲ってきた。最終的には、こう……頭を掴んで何度も地面に打ち付けようにして」
「いや、もういいや」
頭を抱えるようにして俯くと不意にジークの言葉を思い出す。
『もう容赦はしない』
どんだけ容赦なしなんだと思いたくなったが、賭けに負けて暴走した自分になにか言う権利などないのは分かりきっており、口にしようとはしなかった。
(結構鍛えたつもりだったんだが、まだ不足しているか)
寧ろ借りができてしまったなと、ため息を吐きたくなったのだ。
「やっぱり強かったな。アイツ」
苦笑気味に何気なく呟くトオル。
「うん、強かった。興奮した……!」
「……さいですか」
そういえば内気になった反面、戦いに関しては好戦的なタイプであったと思い出した。
「戦いたいな」
「それは結構難しいと思うけど」
どうもジークと戦いたそうな表情をするシオンに、釘を刺すつもりで口にするトオル。
今回の予選会は勝ち越し数と上勝ちなどで評価とされる。
勝ったも者は勝った者と試合をして、負けた者は負けた者と戦う。
戦える限り進めていくのである。
さらにトーナメントはバラバラにしてあるので、学年が上の者と戦うこともあるのだ。
その成果によっては、たった1試合の結果でも大会メンバーに選ばれることもある。
勝ち越し続ければいいというわけではないのだ。
そして一戦目で敗北してこうして寝てしまっていたトオルの場合は─────
「オレは……敗退か?」
「それはまだ分からない。けど一応、次の試合は不戦敗ということが決定してる」
───それもそうか、とシオン言葉に納得するように頷く。
(どのみちもう少し回復が必要だしな。次の試合は棄てて、その次から……!)
しかし、納得している彼にシオンからさらに重い一言がくる。
「でも厳しいかもしれない。妖刀は……まずかった。今学園側と緊急会議が行われてる」
「ああー、そうかー」
やはり簡単にはいかないようだ。
「でもどうして妖刀の力を使った? まだ解放状態は安定してない」
「うっ、いや」
来ると思った質問が、このタイミングできたこと言いづらそうにする。
「あ、あれはな」
「なんで?」
(そんな目で見るなよ)
子犬みたいな目で見詰めてくる姉に、観念したトオルは諦め混じりに口を開く。
「なんかよ?  最初は普通に戦うとしてたんだけど」
「だけど?」 
トオルの言葉に不思議そうに首を傾げながら続きを促すと。
「妖刀の方が急にざわめき出してよ。抑えが利かなくなったんだよ」
「抑えが?  なんで?」
「わ、分かんね……。今までも何度か戦ってる最中にざわいたことあったけど、こんなに騒ぎ喚いたのは初めてなんだ」
トオルも検討がつかない様子で首を傾げる。
言葉に嘘はなかった。大会に出ようと思っていたので、妖刀の力を使おうとは考えてなかったのだ。
それがまさか
「つい妖刀に感化されちまったんだよな」
「……」
心底不思議そうにしているトオルを他所に、シオンは無表情ではあるが、なにか思案するような目をして、黙ってトオルを見ているだけであった。
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