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第4話 狂戦士と魔法使い。
───『妖刀』は持ち主の負によって力を増す物が大半である。
使われた材質や創り上げた鍛冶屋の影響もあるにはある。だが、それ以上に持ち主の影響を一番に受けるのである。
そのため恨みを込められ年々に成長していた妖刀は、非常に危険な代物であり、実は数多く存在していた。
持つだけで宿主を狂わすモノ、夜叉への変貌、命を吸うモノ……大半が封印指定にされて処分を検討されているほどである。
そして曰く付きな刀ほど、その代償は厄介であり、強力なのである。
危険指定とされている武具の一種────それが『妖刀』であるのだ。
◇◇◇
「クケクケケケケッッ!」
「まあ手強くなったのは分かるんだがなぁ。……トオルよ、前にも言ったと思うが」
ドス黒いオーラとともに、身体からタトゥーのような物を浮かび上がらせるトオル。
瞳も真っ黒に染まり、正気かどうか疑いたくなる風貌である。
そんなトオルに対して、ジークは鋭い目つきとなって警告したのだ。
「その力は危険過ぎる。たとえそれがお前の魂によって生まれたチカラでも────封しろ、トオル!」
聞こえているか怪しい中、ジークは意識を二本の刀に向ける─────あの刀は、元は一本だったのだ。
────あの刀はかつて自分が真っ二つに折った刀であると。
───さらにアレが妖刀であることも。
ジークは覚えていた…………いや、思い出したのだ。
───あの時
一年ほど前、トオルと会話をしたあの時であった。
『そういうお前はどうなんだ?』
ジークが自分に問い掛けられた質問を通るに返した時だった。
『オレか? ……オレは』
『ん? どうしたよ』
どこか視線を明後日の方を向くトオルに訝しげにしていると。
『……いや、……オレは────』
多少迷いを見せ、トオルは─────復讐の呪詛を吐き捨てた。
『オレは…………殺したい奴がいるんだ』
『え?』
呆然とするジークを他所に、トオルは今までに見せたことない、憎しみに満ちた瞳と顔つきで低くく声を出す。
『オレは大戦時、父を冒険者に───シルバー・アイズに殺されたんだ』
彼が最後に口にした言葉がジークの中にある、古き戦の記憶を呼び起こしたのだった。
あの刀は自分が殺した、トオルの父親が持っていたものであることを。
(俺に対する恨み、憎しみが込められた妖刀か。本来は全く違う物であったと思うが、俺との一件ですっかり変わりきっているな……)
以前の持ち主が使っていたのを一瞬しか見ていないが、ジークには目の前の刀がどれほど変化したのか分からないが。
それでも以前よりも遥かに危険性が増してるのが、ハッキリと感じ取れていたのだ。
その証拠に。
「ヒヒッケケクケケケッ」
「飲まれ過ぎだろう。ちゃんと通じる言葉で話してくれ」
すっかり妖刀に飲まれた感であるトオルに呆れ混じりにツッコむジーク。
理由が自分にあると知ってる手前、あまり深く言えないのが辛いのであるが。
「お、オイ!」
と、そこへ真っ青となった審判が声をあげた。
「……」
それ見てジークは舌打ちをしたくなったが、それはよりも誤魔化さねばと────立派な作り笑顔を向ける。
「そ、それはまさか、よ、妖──」
「違います」
ビクビクしながらなにか言いかけようとした審判の声を遮るジーク。
実は妖刀を持つには専用の資格が必要なのだ。
そしてその資格を受けれるのは、限られた者のみなのは周知の事実である。
だからこそ注意を────といったところでジークが否定を示した。
「え、だが、アレは」
「違います」
否定する。笑顔で否定するジーク。
言わせない、絶対言わせない、と気持ちを乗せて。
「クケケクカケッ」
対面している者の身体から狂気を発せられているが。
言葉も既に人語にあらず。
それを見た審判は不安気な表情で、再度ジークに問いかけてみた。
「いや、どう見ても……」
「違います」
「だ、だが」
「違います」
「あ」
「違います」
「………………そ、そうなのか?」
「はい」
「そうか……」
有無言わせない。そんな雰囲気を笑みを浮かべながら発するジークを見て、審判の方もぎこちない笑みを作り、無理矢理納得したかのように何度も頷いて下がったてみせた。
「そ、それでは再開するが、万が一の時は試合を中断して止めるからな!?」
「はい」
そこは妥協しなくてはならないと心の中で納得し頷くジーク。
本来であれば即試合中断なのをどうにか譲歩してもらったのだ。
そうして安堵を息を小さく吐くとジークは、もう狂乱して襲いかかる寸前であるトオルを見る。
「ヒィヒァヒァヒァッ……ワルいナ」
すると、ようやく慣れたのか悪どい笑みであるが、なんとか喋り出したトオル。
「ギリギリだな」
「ヒヒヒヒ……まァナ」
「酷いもんだ」
ジークの台詞に肩を竦めて言葉を続けるトオル。
対してジークの方は呆れ具合が強くなったような表情で、先ほど言いかけたことを口にする。
「それは危険なんだよトオル。お前がいくら大丈夫だって言っても───」
「ジィ───クゥゥゥウ」
「……!」
だがそんな警告を遮るかのようにトオルが叫ぶと、両手の刀を握りしめ、勢いをつけ切り掛かってきた。
「キィェエエエ!!!」
(っ速い!)
急激に跳ね上がったスピードに驚きながら、素早く刀を回避すジーク。
「シェアアアッ!!!」
そうして躱してみせたジークを追うようにして、オーラを携え追撃してくるトオル。
「シャアアアッ!!」
「っ」
襲いかかる幾数の太刀を強化した身体をもって躱すジーク。
「ん……!?」
躱す中、ジークは違和感に気が付いた。
(スピードだけじゃない。筋力も上がってるし、太刀筋が異様に鋭くなって…………変則的になってる)
ジークは冷静に躱しながら分析する。
先程までとは違い、明らかに変化しているトオルの動きに動揺しないよう落ち着かせている。
(さっきまでの太刀筋と比べて変則性が増えてる。……不用意に近づくのは危険か)
しかし手を考える合間も、トオルの変則的な剣術が襲いかかる。
振り続けていくうちに、どんどん速くなっている気がするのは気のせいなのか。
部分的な強化のみでは少しばかり不足かと、別の攻撃方法を検討していると。
「…………かんけいねぇヨ」
攻撃し続けていたトオルの手が不意に止まり、ジークに向かってなにか呟いた。
一瞬何かと不思議そうに首を傾げたジークであったが、再度口にしたトオルの言葉に僅かな芽生え始めた迷いがスーッと消えたのだった。
「関係ネェヨ。オレはただ……楽しむダケサッ! コノ試合オよ!」
「トオル」
「ダカラ……─────だからお前も遠慮するなよ! ジーク……!! 全力でかかって来やがれ─────ぇぇぇぇ!!!!」
「おまえ……!」
ほんの僅か、ほんの僅かであるが、きちんとした声音で口にしたトオル。
「っっ──!!」
だが、妖刀はしっかり彼を蝕んでるようだ。
黒いオーラは健在しており、浮き出ている入れ墨のような物も残ったままだ。
辛そうであるが、それでもジークを見据える目は逸らさない。
妖刀のチカラを解放した時点で覚悟は出来ていたのだ。
それでも全力を出し尽くしてジークと戦いたかったのだ。
トオルの言葉を聞き、彼の心情を理解したジークも─────覚悟を決めた。
「分かったよ───もう容赦はしない」
再び構えだしトオルを見る。
トオルの顔は浮かび上がった入れ墨によって、信じられないが人外に見えてしまう。
声音も変化して漂うドス黒いオーラと相まって、どこか狂戦士を思わせるふうに見えてしまうのである。
外野ではそんなトオルを恐ろしく見えるのか、近くで見ている者達が徐々に後退り始めていた。
「……」
しかし向き合っているジークは特に恐怖を感じさせず、魔力無効エリアを自分を中心に展開しながら待ちの姿勢をとる。
(といってもアレが相手だと、ちょっと厳しいかもな)
─────妖刀から流れるソレは魔力ではな恨み憎しみを糧とするチカラ────妖気である。
この世界にも気は存在している。
だが、こちらの分野に関しては生憎、扱う者はそれほど多くない。
他種族の『獣人族』の中には使い手も多くいるのだが、人間側となると大きく分けて二つのタイプとなる。
一つは純粋に気を嗜み扱う正統派である。
そしてもう一つは…………妖刀。
邪気を篭ったソレは魔力にも匹敵する厄介なチカラなのである。
(妖気をベースにして戦うのであれば、俺の『魔無』も意味をなさないな)
先程の一戦を思い返しそう推測する。
しかし一応展開はしておく、どのみちに魔力だけは封じておかないと、余計面倒になるのは目に見えているのだ。
(まあ妖気が使われる時点で十分面倒だけどなぁ)
───だが、そんな面倒になりそうな状況で
(ははははっ! キツイな! キツくて楽しそうだ!!)
ジークは心の中で笑っていた。
昔の血が少しだけ騒いだのだ。
あの地獄のような大戦を経験する前のジーク・スカルスを。
「イクゾ……!」
そうして獰猛そうな笑みで口を開くトオルに。
「来なよ……!」 
ジークも獰猛そうな笑みを浮かべ、受けて立つように答える。
試合始めに口にした時と同じであるが、最初の時とは全く異なる。
「ジィィィ───クゥゥウウ!!!」
「トオルッ!!」
二人とも心底嬉しげな表情となって、相手を潰しにかかったのだ。
「『ミヤモト流裏三式・断斬の惨劇』ィィ────イ!!!」
「『魔無《ゼロ》・エリア全開』! 『零の透矢・一斉乱射』!!」
黒のオーラを纏わせた二刀を構えジークを切り捨てようと突っ込むトオル。
同時に纏わせていたオーラが形を変えて、ジークを飲み込むそうな斬撃へと変貌した。
それに対し魔力無効エリア範囲を一気に広めると、ジークは無数の透明の矢弾を生成してトオルに向けって放った。
────妖気の斬撃と魔力の矢が激突しあった。
それから二十分ほど戦いが続いた。
結果として、ジークの圧倒的な勝利として幕を閉じたのだが、会場の雰囲気は通夜のような空気であった。
ただ一部の者たちはその戦いを見て興奮していたが。
試合をしたジークもトオルそんなことなど一切知らなかったのだ。
使われた材質や創り上げた鍛冶屋の影響もあるにはある。だが、それ以上に持ち主の影響を一番に受けるのである。
そのため恨みを込められ年々に成長していた妖刀は、非常に危険な代物であり、実は数多く存在していた。
持つだけで宿主を狂わすモノ、夜叉への変貌、命を吸うモノ……大半が封印指定にされて処分を検討されているほどである。
そして曰く付きな刀ほど、その代償は厄介であり、強力なのである。
危険指定とされている武具の一種────それが『妖刀』であるのだ。
◇◇◇
「クケクケケケケッッ!」
「まあ手強くなったのは分かるんだがなぁ。……トオルよ、前にも言ったと思うが」
ドス黒いオーラとともに、身体からタトゥーのような物を浮かび上がらせるトオル。
瞳も真っ黒に染まり、正気かどうか疑いたくなる風貌である。
そんなトオルに対して、ジークは鋭い目つきとなって警告したのだ。
「その力は危険過ぎる。たとえそれがお前の魂によって生まれたチカラでも────封しろ、トオル!」
聞こえているか怪しい中、ジークは意識を二本の刀に向ける─────あの刀は、元は一本だったのだ。
────あの刀はかつて自分が真っ二つに折った刀であると。
───さらにアレが妖刀であることも。
ジークは覚えていた…………いや、思い出したのだ。
───あの時
一年ほど前、トオルと会話をしたあの時であった。
『そういうお前はどうなんだ?』
ジークが自分に問い掛けられた質問を通るに返した時だった。
『オレか? ……オレは』
『ん? どうしたよ』
どこか視線を明後日の方を向くトオルに訝しげにしていると。
『……いや、……オレは────』
多少迷いを見せ、トオルは─────復讐の呪詛を吐き捨てた。
『オレは…………殺したい奴がいるんだ』
『え?』
呆然とするジークを他所に、トオルは今までに見せたことない、憎しみに満ちた瞳と顔つきで低くく声を出す。
『オレは大戦時、父を冒険者に───シルバー・アイズに殺されたんだ』
彼が最後に口にした言葉がジークの中にある、古き戦の記憶を呼び起こしたのだった。
あの刀は自分が殺した、トオルの父親が持っていたものであることを。
(俺に対する恨み、憎しみが込められた妖刀か。本来は全く違う物であったと思うが、俺との一件ですっかり変わりきっているな……)
以前の持ち主が使っていたのを一瞬しか見ていないが、ジークには目の前の刀がどれほど変化したのか分からないが。
それでも以前よりも遥かに危険性が増してるのが、ハッキリと感じ取れていたのだ。
その証拠に。
「ヒヒッケケクケケケッ」
「飲まれ過ぎだろう。ちゃんと通じる言葉で話してくれ」
すっかり妖刀に飲まれた感であるトオルに呆れ混じりにツッコむジーク。
理由が自分にあると知ってる手前、あまり深く言えないのが辛いのであるが。
「お、オイ!」
と、そこへ真っ青となった審判が声をあげた。
「……」
それ見てジークは舌打ちをしたくなったが、それはよりも誤魔化さねばと────立派な作り笑顔を向ける。
「そ、それはまさか、よ、妖──」
「違います」
ビクビクしながらなにか言いかけようとした審判の声を遮るジーク。
実は妖刀を持つには専用の資格が必要なのだ。
そしてその資格を受けれるのは、限られた者のみなのは周知の事実である。
だからこそ注意を────といったところでジークが否定を示した。
「え、だが、アレは」
「違います」
否定する。笑顔で否定するジーク。
言わせない、絶対言わせない、と気持ちを乗せて。
「クケケクカケッ」
対面している者の身体から狂気を発せられているが。
言葉も既に人語にあらず。
それを見た審判は不安気な表情で、再度ジークに問いかけてみた。
「いや、どう見ても……」
「違います」
「だ、だが」
「違います」
「あ」
「違います」
「………………そ、そうなのか?」
「はい」
「そうか……」
有無言わせない。そんな雰囲気を笑みを浮かべながら発するジークを見て、審判の方もぎこちない笑みを作り、無理矢理納得したかのように何度も頷いて下がったてみせた。
「そ、それでは再開するが、万が一の時は試合を中断して止めるからな!?」
「はい」
そこは妥協しなくてはならないと心の中で納得し頷くジーク。
本来であれば即試合中断なのをどうにか譲歩してもらったのだ。
そうして安堵を息を小さく吐くとジークは、もう狂乱して襲いかかる寸前であるトオルを見る。
「ヒィヒァヒァヒァッ……ワルいナ」
すると、ようやく慣れたのか悪どい笑みであるが、なんとか喋り出したトオル。
「ギリギリだな」
「ヒヒヒヒ……まァナ」
「酷いもんだ」
ジークの台詞に肩を竦めて言葉を続けるトオル。
対してジークの方は呆れ具合が強くなったような表情で、先ほど言いかけたことを口にする。
「それは危険なんだよトオル。お前がいくら大丈夫だって言っても───」
「ジィ───クゥゥゥウ」
「……!」
だがそんな警告を遮るかのようにトオルが叫ぶと、両手の刀を握りしめ、勢いをつけ切り掛かってきた。
「キィェエエエ!!!」
(っ速い!)
急激に跳ね上がったスピードに驚きながら、素早く刀を回避すジーク。
「シェアアアッ!!!」
そうして躱してみせたジークを追うようにして、オーラを携え追撃してくるトオル。
「シャアアアッ!!」
「っ」
襲いかかる幾数の太刀を強化した身体をもって躱すジーク。
「ん……!?」
躱す中、ジークは違和感に気が付いた。
(スピードだけじゃない。筋力も上がってるし、太刀筋が異様に鋭くなって…………変則的になってる)
ジークは冷静に躱しながら分析する。
先程までとは違い、明らかに変化しているトオルの動きに動揺しないよう落ち着かせている。
(さっきまでの太刀筋と比べて変則性が増えてる。……不用意に近づくのは危険か)
しかし手を考える合間も、トオルの変則的な剣術が襲いかかる。
振り続けていくうちに、どんどん速くなっている気がするのは気のせいなのか。
部分的な強化のみでは少しばかり不足かと、別の攻撃方法を検討していると。
「…………かんけいねぇヨ」
攻撃し続けていたトオルの手が不意に止まり、ジークに向かってなにか呟いた。
一瞬何かと不思議そうに首を傾げたジークであったが、再度口にしたトオルの言葉に僅かな芽生え始めた迷いがスーッと消えたのだった。
「関係ネェヨ。オレはただ……楽しむダケサッ! コノ試合オよ!」
「トオル」
「ダカラ……─────だからお前も遠慮するなよ! ジーク……!! 全力でかかって来やがれ─────ぇぇぇぇ!!!!」
「おまえ……!」
ほんの僅か、ほんの僅かであるが、きちんとした声音で口にしたトオル。
「っっ──!!」
だが、妖刀はしっかり彼を蝕んでるようだ。
黒いオーラは健在しており、浮き出ている入れ墨のような物も残ったままだ。
辛そうであるが、それでもジークを見据える目は逸らさない。
妖刀のチカラを解放した時点で覚悟は出来ていたのだ。
それでも全力を出し尽くしてジークと戦いたかったのだ。
トオルの言葉を聞き、彼の心情を理解したジークも─────覚悟を決めた。
「分かったよ───もう容赦はしない」
再び構えだしトオルを見る。
トオルの顔は浮かび上がった入れ墨によって、信じられないが人外に見えてしまう。
声音も変化して漂うドス黒いオーラと相まって、どこか狂戦士を思わせるふうに見えてしまうのである。
外野ではそんなトオルを恐ろしく見えるのか、近くで見ている者達が徐々に後退り始めていた。
「……」
しかし向き合っているジークは特に恐怖を感じさせず、魔力無効エリアを自分を中心に展開しながら待ちの姿勢をとる。
(といってもアレが相手だと、ちょっと厳しいかもな)
─────妖刀から流れるソレは魔力ではな恨み憎しみを糧とするチカラ────妖気である。
この世界にも気は存在している。
だが、こちらの分野に関しては生憎、扱う者はそれほど多くない。
他種族の『獣人族』の中には使い手も多くいるのだが、人間側となると大きく分けて二つのタイプとなる。
一つは純粋に気を嗜み扱う正統派である。
そしてもう一つは…………妖刀。
邪気を篭ったソレは魔力にも匹敵する厄介なチカラなのである。
(妖気をベースにして戦うのであれば、俺の『魔無』も意味をなさないな)
先程の一戦を思い返しそう推測する。
しかし一応展開はしておく、どのみちに魔力だけは封じておかないと、余計面倒になるのは目に見えているのだ。
(まあ妖気が使われる時点で十分面倒だけどなぁ)
───だが、そんな面倒になりそうな状況で
(ははははっ! キツイな! キツくて楽しそうだ!!)
ジークは心の中で笑っていた。
昔の血が少しだけ騒いだのだ。
あの地獄のような大戦を経験する前のジーク・スカルスを。
「イクゾ……!」
そうして獰猛そうな笑みで口を開くトオルに。
「来なよ……!」 
ジークも獰猛そうな笑みを浮かべ、受けて立つように答える。
試合始めに口にした時と同じであるが、最初の時とは全く異なる。
「ジィィィ───クゥゥウウ!!!」
「トオルッ!!」
二人とも心底嬉しげな表情となって、相手を潰しにかかったのだ。
「『ミヤモト流裏三式・断斬の惨劇』ィィ────イ!!!」
「『魔無《ゼロ》・エリア全開』! 『零の透矢・一斉乱射』!!」
黒のオーラを纏わせた二刀を構えジークを切り捨てようと突っ込むトオル。
同時に纏わせていたオーラが形を変えて、ジークを飲み込むそうな斬撃へと変貌した。
それに対し魔力無効エリア範囲を一気に広めると、ジークは無数の透明の矢弾を生成してトオルに向けって放った。
────妖気の斬撃と魔力の矢が激突しあった。
それから二十分ほど戦いが続いた。
結果として、ジークの圧倒的な勝利として幕を閉じたのだが、会場の雰囲気は通夜のような空気であった。
ただ一部の者たちはその戦いを見て興奮していたが。
試合をしたジークもトオルそんなことなど一切知らなかったのだ。
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