オリジナルマスター
暴君と魔法使い その2
『人の縄張りを荒らしおってェ───!!』
ジークの呟きなど耳に入らず巨大な猛獣────クマは、ジークめがけて迫り来る。
「え……あえ?」
『何の恨みがあるんダァ────!!』
「ちょっ!?」
呆然と立っていたジークは、突進してきたクマに遅れて反応する。慌てて回避を取ろうとするが。
『鉄槌ィィィ────!!』
(っ間に合わないか!)
今から回避では無理だと判断して、ジークは防御魔法を展開することにした。
「『土の壁』───!!」
土属性の防御魔法だ。ジークの目の前に土が固まり、土石のような壁。それが彼の姿を隠すほど巨大なサイズとなって出現した。
魔力の暴走を考えて、低級防御魔法を展開して守りを固めた。ランクの低い魔法だが、ジークが使えば上級魔法にも匹敵する魔法へと変わるので、十分防げると彼は判断したが……。
(とりあえずこれで様子見を────)
彼が相手にしているクマは、彼の予想を遥かに上回る存在であった。
『ッン〜〜〜ガアアアアアアア!!』
「い……!?」
力一杯体を縮こめるとクマは、頭突きでも食らわせるように突進して、立ち塞がる壁へとぶつかった。
「……っ」
大きく目を見開き息を呑むジーク。その視線の先で壁に顔を突っ込み、こちらを血走った目で睨むクマがいた。
(危なかった……! なんて突進力とパワーだ!)
壁が破られそうになる瞬間。ジークは再発動魔法『再起復活』を発動させ、素早く先に発動した『土の壁』を二重の壁にしてクマに対抗していた。……遅れていたら確実に粉砕されて突破されていた。
「喋れる時点でただの動物じゃないが! クマが障壁を破るか!? 普通!」
『ググ〜〜!!』
しかし、その壁も頭部で貫通されて、もう保たないようだ。
ジークは少し後ろに後退すると別の魔法を発動させた。
(『身体強化』!)
身体強化の魔法を無詠唱で発動させた。これで回避行動が取れやすくなった。
『ニンゲンっ……!』
「なんだ! クマ野郎が……!」
そして壁を壊し切ったクマがジークを見据えて、獣ように唸るや両手を広げて、ジークに飛びかかってきた。
『ガルルルアアアアッ!!』
腕や足を器用に動かしてジークを襲うクマ。衝撃で空気が振動しているようにジークには感じた。
「っ……!」
『ヌゥ……!』
だがジークもやられるつもりなどない。身体強化で上がった体を動かしてクマの攻撃を躱す。合間にクマの足めがけて蹴りを食らわすのも忘れずに。
『フンッ。軽いわッ』
「だろうな」
しかし、ダメージは今ひとつ。やはり巨体に似合う頑丈な肉体のようだと理解したジーク。
「なら火力を上げたらどうだ?」
ダメージを上げるべく。魔力を練り出し、身体強化で体を覆っていた無属性の魔力が─────赤。
火属性の赤い魔力へと変化された。
「『身体強化・火の型』……!」
『────ヌッ!?』
火の身体強化を発動させて、火力重視の身体強化へチェンジした。
無属性の身体強化は全体に強化される魔法だが、火属性の身体強化は火力を特化の魔法である。
(得体の知れない怪物相手に通常魔法が通じるか?)
どうやらジークはパワーで押し切るようであるが、果たして目の前のクマに届く一撃を出せるか。結構な賭けであるが、ジークは挑発的な薄い笑みを浮かべていた。
「そろそろ……いこうか?」
『っ……ナメるなッ!』
余裕そうな口調が余計にクマを怒らせてしまった。クマからの攻撃が始まった。
『ガァッ! ダァッ! オラッ!』
「っ……!」
両手両足を使った連続攻撃。さらには突進や頭突きといった攻撃を躱すジーク。
(やっぱりこのクマ。パワーはあるが、動きは遅い! 『身体強化・火の型』のスピードでも十分躱せる!)
このクマからの攻撃を冷静に躱しながら隙を突けれると判断した。魔力を高めて、発動している身体強化に注ぎ出力を上げる。
「そこだっ!」
『ヌッ!?』
クマの攻撃を躱し切ったジークは、驚愕の顔するクマに向けて、火系統の打撃魔法を纏った拳をクマの腹部に与えた。
「『火打』ッ!」
『ぶッ……!?』
ドコンッと鈍い音と共にクマの腹部を拳がめり込んだ。
同時に吹き出すような声を漏らすクマ。低級魔法であるがジークが使うので、威力は上級にも勝る威力。分厚い巨体であるが、意外と効果はありそうだ。
(黙らせる! 一気に落としてやる!)
そんなクマの状態など気にせず、攻撃の手を休めなかった。
一気に仕留めるつもりでラッシュへと入った。
「『火打』ッ!」
『グブッ……!?』
「『火打』ッ! 『火打』ッ!」
『ゲッ! バッ!』
クマの腹に向かってひたすら殴る。殴り続ける。
(『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ!)
『アッババババババババババババッ!?!?』
殴って殴って殴りまくる。彼の連続攻撃に苦しむクマは苦悶する声がいつしか悲鳴にも似てきた。
他者の視点から見れば、もう完全に動物虐待であるが。
「終わらせる」
『……!?』
────ここで決める。
ジークは暴走のリスクを無視して上級魔法の発動した。威力や魔力コントロールが多少いいほうが安心するので『詠唱破棄』ではなく、『省略詠唱』で発動させた。
「紅蓮の一撃を放て────『真紅の砲弾』!!」
火系統最高位の一つを選び。
『火打』で苦しむクマに至近距離で紅蓮の砲弾を放った。
『ゲフォオオオオッ────!?』
狙い通り紅蓮の魔力大砲は呻くクマに直撃した。
これで終わりとジークが確信した。
………………その時。
『ウウ〜〜〜────フンッ!!』
「え……?」
苦しんでいたクマが鋭い目つきをしたと思えば、迫り来る紅蓮に輝く砲弾を────その巨体で受けて止めてみせた。
『ンン〜〜〜ヌアアアアアア───!!!』
力を込めてジークの『真紅の砲弾』を体で押し潰した。……魔法など一切使わない完全な力技である。
「うそぉー」
身体中から煙を上げるクマの姿にジークは唖然とした表情で、頰にたらりと汗を掻いている。
「おいおい……。どんな体の構造してるんだ。このクマは……」
さすがにこれには本気で驚いてしまった。『真紅の砲弾』はAランクの火系統の中でも最高レベルの魔法だ。それを力で押し潰すなど……。
……なにより。
(俺の魔力を抑えなしで放ったアレを受けて無傷とは……)
普段ジークは使用する魔法は、どれも彼が意識的に抑えて発動されているものだ。抑えないと最悪の場合、相手を消し炭にしてしまうからだ。
だが、今放たれた魔法は違う。
抑えなど一切せず放たれた『真紅の砲弾』。……それを正面から防いでみせたクマを見てジークは戦慄した。
(十星……いや、間違いなく十一星の《魔神級》はあるぞ。……だとしたら非常にマズイな)
非常に良くない状況だと理解した。
一度距離を取ろうとするが──────
『次はこちらの番だ』
「──っ!」
体から出る煙を払うように手を動かした後。クマは低い声で告げる。
『フッ!』
腕をジークに向けて横に軽く払った。
「っ〜〜〜!」
衝撃がジークを襲った。
(風圧ッ! なんて威力だ!)
手を振るった拍子に発生した風圧である。衝撃で岩や木類が吹き飛んでしまった。
激しい衝撃音と共にジークの体も吹き飛びそうになったが、なんとか踏ん張る。体を強化しておいたお陰である。
「っ! お、抑えていたのはそっちもか!」
『ふっ……フン────がッ!!』
ジークの呟きに対して鼻で笑うクマ。今度は手を大きく振り上げて、何か投げるかのようにそのまま勢いよく振り下ろした。
「い……!?」
なんと今度はすぐ側の地面が大きく穿った。それを見たジークは目を見開き恐る恐る口を開く。
「衝撃波を飛ばしたのか……」
『フッ』
その呟きに口元をニヤつかせるクマ。嬉しそうにしているが、ジークは決して褒めてるつもりはない。
『とりゃあああああああッ───!!』
「ッ……! 『土の壁』……!!」
得意げな顔をした後、今度はクマがジークに攻めてきた。
左右の手で何度も突く投げるなどの動作をして、衝撃波を飛ばしてくる。
「ッ、きっつ〜〜!」
ジークも防御魔法で防ぐが、思った以上に威力が高く、作っても作っても壁を貫通してジークにダメージを与えている。
(イタイなぁ〜〜!? くっ、攻撃手段が魔法なら問題ないんだが……)
「──ガっ!?」
『ラアアアッ〜〜〜!!』
とうとう盾も意味をなくしてしまった。
防御魔法が一気に崩れてしまい、ダイレクトにジークに衝撃波が襲いかかる。
「うっ……!」
『ドンドン行くぞ!!』
衝撃波を浴びせながら、徐々に接近して来るクマ。
逆に向こうにペースを握られて苦しむジーク。先程とは完全に逆の構図になっていた。
(『 土の捕縛』っ!)
すかさず無詠唱で唱えるジーク。すると地面の土がデカイ蔓のように伸びて、六ほど生えた土の蔓がクマを縛りあげ身動きを封じた。
『───ッな……に……!?』
何重もの土系統の捕縛魔法で時間を稼ぐつもりだ。流れを変えるためにも、どうしても連続攻撃を一旦止めたかった。
(接近してはダメだな。こうなったら離れたところから神隠しで────)
彼が考えた策は中距離、遠距離から魔法での攻撃。敵が巨体なので神隠しによる攻撃も遠慮なく使えるからだ。
(この場所なら問題なく使える! ────だが!)
ジークの戦術一つ、大きな穴があった。
(っ! こんなことならもっと強力な魔石を組み込んで置けばよかった……! 手持ちの魔石じゃ無理だ!)
今装着している神隠しに付いている魔石は、大半がBランク程度でなのだ。
しかも、さっき使用した重ね掛けが今神隠しで、使える一番強力なコンボだった。残りは環境破壊を考慮した物ばかりで、このクマには使えないと判断した。
(神隠しは元々俺の魔力を抑えるために───カムさんが失敗作を改良して出来た抑制魔道具だ。そのせいで威力がどうしても落ちてしまう。こいつ相手に威力が落ちた攻撃魔法じゃダメだ)
神隠しならそれほど魔力のコントロールに集中せずとも抑えが効く。それにジークが使うので威力は十分ある。
だが、今回の相手には抑えた状態で、さらに出力の低い手持ちの魔石では勝ち目は薄い。
(でもさっきみたいに自ら上級魔法を使うのはもっとマズイ。さっきはうまくいったが、もし魔力を注ぎ過ぎて失敗したら……)
そこまで考えてみたジークの脳裏に、荒野となった『森の道』が映った。
『グ〜〜〜!』
(そもそもさっきの『真紅の砲弾』も使うべきじゃなかったんだ。このクマが搔き消してくれたおかげで、一部が消し飛んだだけで済んだんだ)
威力が落ちる上、手持ちにいいのがない神隠しでは倒しきれない。さらにこれ以上通常の上級攻撃魔法も使えない。
─────となれば
(もう使うしかないな。───オリジナルを)
『フン! ヌアアアアアッ!!』
遂に隠しておきたいオリジナルの使用を決断した。
そんな彼に捕縛を壊し尽くしたクマが憤怒の雄叫びと共に迫ってきた。
『成敗ィ──!』
ジークに向けて駆け出す中、右手を振り上げ殴り付けるように襲ってきたが。
「……!」
迫ってくる攻撃にジークは強化された肉体を屈して躱そうと──────とはせず。
(確実性を求めるなら火力重視がいい。……ならば)
「正面から受けて立とう」
そう呟くと右掌を前に出す。体内魔力を練り出し右手に集中する。すると掌から火─────薄い青色の炎がメラメラと噴き出し始めた。
「これはとっておきの一つ」
『なんだそれは? 青い炎?』
「ああ……竜の炎さ」
『……ン? 今なんと……』
右手の炎を見せながらジークはどこか懐かしそうに呟く。この魔法────いや、この炎とは少し思い出があるからだ。
「奥の手ってやつさ。そこら辺の炎とは格は違う」
薄い笑みでそう告げるとジークは掌にある蒼き炎。
「食らってみなよ。炎すら焼く尽くす─────竜王の炎だ」
───彼が所持する火系統のオリジナル。最強の魔法を放とうとしていた。
…………だがその心中では。
(なんだろう。気のせいか、通じない気がするな……)
自信のあるオリジナルを発動させる中、どこか諦めた感を滲ませた声音を。心の中で漏らしていた。
(本気の本気だと、街まで影響で過ぎるからな。頼むからこれで決まってくれよ!?)
その証拠に顔は薄い笑みを浮かべているが、その頰からは冷や汗のような汗が流れていた。
ジークの呟きなど耳に入らず巨大な猛獣────クマは、ジークめがけて迫り来る。
「え……あえ?」
『何の恨みがあるんダァ────!!』
「ちょっ!?」
呆然と立っていたジークは、突進してきたクマに遅れて反応する。慌てて回避を取ろうとするが。
『鉄槌ィィィ────!!』
(っ間に合わないか!)
今から回避では無理だと判断して、ジークは防御魔法を展開することにした。
「『土の壁』───!!」
土属性の防御魔法だ。ジークの目の前に土が固まり、土石のような壁。それが彼の姿を隠すほど巨大なサイズとなって出現した。
魔力の暴走を考えて、低級防御魔法を展開して守りを固めた。ランクの低い魔法だが、ジークが使えば上級魔法にも匹敵する魔法へと変わるので、十分防げると彼は判断したが……。
(とりあえずこれで様子見を────)
彼が相手にしているクマは、彼の予想を遥かに上回る存在であった。
『ッン〜〜〜ガアアアアアアア!!』
「い……!?」
力一杯体を縮こめるとクマは、頭突きでも食らわせるように突進して、立ち塞がる壁へとぶつかった。
「……っ」
大きく目を見開き息を呑むジーク。その視線の先で壁に顔を突っ込み、こちらを血走った目で睨むクマがいた。
(危なかった……! なんて突進力とパワーだ!)
壁が破られそうになる瞬間。ジークは再発動魔法『再起復活』を発動させ、素早く先に発動した『土の壁』を二重の壁にしてクマに対抗していた。……遅れていたら確実に粉砕されて突破されていた。
「喋れる時点でただの動物じゃないが! クマが障壁を破るか!? 普通!」
『ググ〜〜!!』
しかし、その壁も頭部で貫通されて、もう保たないようだ。
ジークは少し後ろに後退すると別の魔法を発動させた。
(『身体強化』!)
身体強化の魔法を無詠唱で発動させた。これで回避行動が取れやすくなった。
『ニンゲンっ……!』
「なんだ! クマ野郎が……!」
そして壁を壊し切ったクマがジークを見据えて、獣ように唸るや両手を広げて、ジークに飛びかかってきた。
『ガルルルアアアアッ!!』
腕や足を器用に動かしてジークを襲うクマ。衝撃で空気が振動しているようにジークには感じた。
「っ……!」
『ヌゥ……!』
だがジークもやられるつもりなどない。身体強化で上がった体を動かしてクマの攻撃を躱す。合間にクマの足めがけて蹴りを食らわすのも忘れずに。
『フンッ。軽いわッ』
「だろうな」
しかし、ダメージは今ひとつ。やはり巨体に似合う頑丈な肉体のようだと理解したジーク。
「なら火力を上げたらどうだ?」
ダメージを上げるべく。魔力を練り出し、身体強化で体を覆っていた無属性の魔力が─────赤。
火属性の赤い魔力へと変化された。
「『身体強化・火の型』……!」
『────ヌッ!?』
火の身体強化を発動させて、火力重視の身体強化へチェンジした。
無属性の身体強化は全体に強化される魔法だが、火属性の身体強化は火力を特化の魔法である。
(得体の知れない怪物相手に通常魔法が通じるか?)
どうやらジークはパワーで押し切るようであるが、果たして目の前のクマに届く一撃を出せるか。結構な賭けであるが、ジークは挑発的な薄い笑みを浮かべていた。
「そろそろ……いこうか?」
『っ……ナメるなッ!』
余裕そうな口調が余計にクマを怒らせてしまった。クマからの攻撃が始まった。
『ガァッ! ダァッ! オラッ!』
「っ……!」
両手両足を使った連続攻撃。さらには突進や頭突きといった攻撃を躱すジーク。
(やっぱりこのクマ。パワーはあるが、動きは遅い! 『身体強化・火の型』のスピードでも十分躱せる!)
このクマからの攻撃を冷静に躱しながら隙を突けれると判断した。魔力を高めて、発動している身体強化に注ぎ出力を上げる。
「そこだっ!」
『ヌッ!?』
クマの攻撃を躱し切ったジークは、驚愕の顔するクマに向けて、火系統の打撃魔法を纏った拳をクマの腹部に与えた。
「『火打』ッ!」
『ぶッ……!?』
ドコンッと鈍い音と共にクマの腹部を拳がめり込んだ。
同時に吹き出すような声を漏らすクマ。低級魔法であるがジークが使うので、威力は上級にも勝る威力。分厚い巨体であるが、意外と効果はありそうだ。
(黙らせる! 一気に落としてやる!)
そんなクマの状態など気にせず、攻撃の手を休めなかった。
一気に仕留めるつもりでラッシュへと入った。
「『火打』ッ!」
『グブッ……!?』
「『火打』ッ! 『火打』ッ!」
『ゲッ! バッ!』
クマの腹に向かってひたすら殴る。殴り続ける。
(『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ! 『火打』ッ!)
『アッババババババババババババッ!?!?』
殴って殴って殴りまくる。彼の連続攻撃に苦しむクマは苦悶する声がいつしか悲鳴にも似てきた。
他者の視点から見れば、もう完全に動物虐待であるが。
「終わらせる」
『……!?』
────ここで決める。
ジークは暴走のリスクを無視して上級魔法の発動した。威力や魔力コントロールが多少いいほうが安心するので『詠唱破棄』ではなく、『省略詠唱』で発動させた。
「紅蓮の一撃を放て────『真紅の砲弾』!!」
火系統最高位の一つを選び。
『火打』で苦しむクマに至近距離で紅蓮の砲弾を放った。
『ゲフォオオオオッ────!?』
狙い通り紅蓮の魔力大砲は呻くクマに直撃した。
これで終わりとジークが確信した。
………………その時。
『ウウ〜〜〜────フンッ!!』
「え……?」
苦しんでいたクマが鋭い目つきをしたと思えば、迫り来る紅蓮に輝く砲弾を────その巨体で受けて止めてみせた。
『ンン〜〜〜ヌアアアアアア───!!!』
力を込めてジークの『真紅の砲弾』を体で押し潰した。……魔法など一切使わない完全な力技である。
「うそぉー」
身体中から煙を上げるクマの姿にジークは唖然とした表情で、頰にたらりと汗を掻いている。
「おいおい……。どんな体の構造してるんだ。このクマは……」
さすがにこれには本気で驚いてしまった。『真紅の砲弾』はAランクの火系統の中でも最高レベルの魔法だ。それを力で押し潰すなど……。
……なにより。
(俺の魔力を抑えなしで放ったアレを受けて無傷とは……)
普段ジークは使用する魔法は、どれも彼が意識的に抑えて発動されているものだ。抑えないと最悪の場合、相手を消し炭にしてしまうからだ。
だが、今放たれた魔法は違う。
抑えなど一切せず放たれた『真紅の砲弾』。……それを正面から防いでみせたクマを見てジークは戦慄した。
(十星……いや、間違いなく十一星の《魔神級》はあるぞ。……だとしたら非常にマズイな)
非常に良くない状況だと理解した。
一度距離を取ろうとするが──────
『次はこちらの番だ』
「──っ!」
体から出る煙を払うように手を動かした後。クマは低い声で告げる。
『フッ!』
腕をジークに向けて横に軽く払った。
「っ〜〜〜!」
衝撃がジークを襲った。
(風圧ッ! なんて威力だ!)
手を振るった拍子に発生した風圧である。衝撃で岩や木類が吹き飛んでしまった。
激しい衝撃音と共にジークの体も吹き飛びそうになったが、なんとか踏ん張る。体を強化しておいたお陰である。
「っ! お、抑えていたのはそっちもか!」
『ふっ……フン────がッ!!』
ジークの呟きに対して鼻で笑うクマ。今度は手を大きく振り上げて、何か投げるかのようにそのまま勢いよく振り下ろした。
「い……!?」
なんと今度はすぐ側の地面が大きく穿った。それを見たジークは目を見開き恐る恐る口を開く。
「衝撃波を飛ばしたのか……」
『フッ』
その呟きに口元をニヤつかせるクマ。嬉しそうにしているが、ジークは決して褒めてるつもりはない。
『とりゃあああああああッ───!!』
「ッ……! 『土の壁』……!!」
得意げな顔をした後、今度はクマがジークに攻めてきた。
左右の手で何度も突く投げるなどの動作をして、衝撃波を飛ばしてくる。
「ッ、きっつ〜〜!」
ジークも防御魔法で防ぐが、思った以上に威力が高く、作っても作っても壁を貫通してジークにダメージを与えている。
(イタイなぁ〜〜!? くっ、攻撃手段が魔法なら問題ないんだが……)
「──ガっ!?」
『ラアアアッ〜〜〜!!』
とうとう盾も意味をなくしてしまった。
防御魔法が一気に崩れてしまい、ダイレクトにジークに衝撃波が襲いかかる。
「うっ……!」
『ドンドン行くぞ!!』
衝撃波を浴びせながら、徐々に接近して来るクマ。
逆に向こうにペースを握られて苦しむジーク。先程とは完全に逆の構図になっていた。
(『 土の捕縛』っ!)
すかさず無詠唱で唱えるジーク。すると地面の土がデカイ蔓のように伸びて、六ほど生えた土の蔓がクマを縛りあげ身動きを封じた。
『───ッな……に……!?』
何重もの土系統の捕縛魔法で時間を稼ぐつもりだ。流れを変えるためにも、どうしても連続攻撃を一旦止めたかった。
(接近してはダメだな。こうなったら離れたところから神隠しで────)
彼が考えた策は中距離、遠距離から魔法での攻撃。敵が巨体なので神隠しによる攻撃も遠慮なく使えるからだ。
(この場所なら問題なく使える! ────だが!)
ジークの戦術一つ、大きな穴があった。
(っ! こんなことならもっと強力な魔石を組み込んで置けばよかった……! 手持ちの魔石じゃ無理だ!)
今装着している神隠しに付いている魔石は、大半がBランク程度でなのだ。
しかも、さっき使用した重ね掛けが今神隠しで、使える一番強力なコンボだった。残りは環境破壊を考慮した物ばかりで、このクマには使えないと判断した。
(神隠しは元々俺の魔力を抑えるために───カムさんが失敗作を改良して出来た抑制魔道具だ。そのせいで威力がどうしても落ちてしまう。こいつ相手に威力が落ちた攻撃魔法じゃダメだ)
神隠しならそれほど魔力のコントロールに集中せずとも抑えが効く。それにジークが使うので威力は十分ある。
だが、今回の相手には抑えた状態で、さらに出力の低い手持ちの魔石では勝ち目は薄い。
(でもさっきみたいに自ら上級魔法を使うのはもっとマズイ。さっきはうまくいったが、もし魔力を注ぎ過ぎて失敗したら……)
そこまで考えてみたジークの脳裏に、荒野となった『森の道』が映った。
『グ〜〜〜!』
(そもそもさっきの『真紅の砲弾』も使うべきじゃなかったんだ。このクマが搔き消してくれたおかげで、一部が消し飛んだだけで済んだんだ)
威力が落ちる上、手持ちにいいのがない神隠しでは倒しきれない。さらにこれ以上通常の上級攻撃魔法も使えない。
─────となれば
(もう使うしかないな。───オリジナルを)
『フン! ヌアアアアアッ!!』
遂に隠しておきたいオリジナルの使用を決断した。
そんな彼に捕縛を壊し尽くしたクマが憤怒の雄叫びと共に迫ってきた。
『成敗ィ──!』
ジークに向けて駆け出す中、右手を振り上げ殴り付けるように襲ってきたが。
「……!」
迫ってくる攻撃にジークは強化された肉体を屈して躱そうと──────とはせず。
(確実性を求めるなら火力重視がいい。……ならば)
「正面から受けて立とう」
そう呟くと右掌を前に出す。体内魔力を練り出し右手に集中する。すると掌から火─────薄い青色の炎がメラメラと噴き出し始めた。
「これはとっておきの一つ」
『なんだそれは? 青い炎?』
「ああ……竜の炎さ」
『……ン? 今なんと……』
右手の炎を見せながらジークはどこか懐かしそうに呟く。この魔法────いや、この炎とは少し思い出があるからだ。
「奥の手ってやつさ。そこら辺の炎とは格は違う」
薄い笑みでそう告げるとジークは掌にある蒼き炎。
「食らってみなよ。炎すら焼く尽くす─────竜王の炎だ」
───彼が所持する火系統のオリジナル。最強の魔法を放とうとしていた。
…………だがその心中では。
(なんだろう。気のせいか、通じない気がするな……)
自信のあるオリジナルを発動させる中、どこか諦めた感を滲ませた声音を。心の中で漏らしていた。
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