オリジナルマスター

ルド@

暴君と魔法使い その1

これはジークがウルキアに来て、半年ほど経ったある日。

「『森の道』の《暴君》ですか?」
「ええ。聞いたことありませんか?」

ウルキアの街にあるギルド会館。
その個室にて受付嬢のキリアと対話するジーク。
内容は依頼の話であり、いつも通り討伐系の依頼であったが。その途中でふとキリアが切り出した話に困惑していた。……知らないからである。

「ええとー、俺ウルキアの冒険者になって二ヶ月ぐらい経ちますけど。《暴君》なんて初めて聞きましたよ」

討伐系ばかりを引き受けてきたジーク。既にこの街の周囲にある危険区と呼ばれる場所。そこに生息する魔物の種類については、殆ど把握していたつもりだ。

(《暴君》って通り名か何かか? そんなヤバいのが棲んでいるのか?)

彼が把握しているのは表に出ている雑魚の魔物衆であり、各危険区の番人、主とも呼ばれる《神獣級》、《魔神級》クラスの魔物とはまだ遭遇していない。……何処かに潜んでいるかもとは考えていたようだが。

そして、《暴君》もまた、その超危険レベルの魔物の一体。
ジークだからこそキリアも話を持ちかけたのである。

「《暴君》というのは、目撃者からの発言です。その姿や戦い方が印象的だったそうです」
「印象?」

《暴君》を印象させると聞き、思わず脳裏でイメージを浮かべて見るが……。

(ゴリラみたいな魔物とかかな?)

実際に見たことがないので変なイメージしか浮かばない。パッと思い付いたのを挙げてみた。

「いえ、正確には雰囲気というべきでしょうか。出会った皆、恐怖で慄いてよく見た人は一人もいないんですよ」
「え、ではなんで?」

キリアの説明に不思議そうに首を傾げるジークに。

「えーと……。なんと言ったらいいか」

何故か躊躇ためらいがちに、キリアは口を開いた。

「途轍もなく巨体で─────闘いに飢えた獣のオーラを放つ猛獣だとか」
「…………ん? それって《暴君》? なんですか? 《狂犬》のほうがしっくりくるような」
「それですと《七罪獣》のリーダーとかぶりますよ?」
「あ〜〜そうでした」

軽い冗談を口にしながら、何故か《暴君》という呼び名に疑問を覚えているジークに、キリアが若干であるが、重い口調で。

「それについては戦った者にしか……分からないそうです。でもジークさんならあるいは────」

そんな会話をした後、ジークは依頼を完遂すべく動き出した。
ちなみに。

「ところでシャリアさんは?」
「え? ああ。三日ほど前から部屋に閉じ込めています。────ジークさんが街に来てから、仕事をサボって遊んでばかりだったので、あと五日は出しません」
「アハハ……」

言われてみればギルド会館に来る際、彼女が仕事しているところをあまり見ないなぁとキリアの言葉を聞いて思った。……本日見かけないのは、閉じ込められているからか。

(通りで静かなわけだ。今頃、防音完備の部屋で泣きじゃくりながら仕事してるだろうなぁ)

サボってる原因の一端は自分にもあるので、少し心が痛むジークであった。

「気に病む必要はありませんよ。……彼女は幼女アレでも大人ですからね。───自己責任です」
「あははは……。際ですか」

随分と辛辣だなと思ったが。彼女の下でいつも苦労しているキリアの気持ちを考えると。

(ちょっとは優しくしても…………なんて言えない)

心の中で苦笑気味に笑うと、自身の仕事へと動くことにした。


◇◇◇


「ん〜こんなもんかな」

周囲に散らばってる魔物の死体を眺めながらジークは呟く。
キリアとの対話後、危険区である『森の道』に入った。この街で活動を始めてすっかり馴染んだ新しい変装魔法姿で、指定された魔物の討伐を終えたところだ。

「さて」

ジークは掌を地面に乗せて魔力を込めた。

(『常闇の押収ダークリカバリー』)

空間系、収納系の闇魔法を発動し、魔物衆を回収する。
本来なら武器などを取り出したり仕舞う魔法陣系でもよいのだが。ジークの使う魔法陣は特殊であるため、あまり人前で見せるのは避けたい。

「ふぅ」

そして一仕事を終えて一息つくジークは、一度街に帰ろうとその場から背を向け歩き出す。帰りにシャリアにお土産でも買って行こうか、とぼんやりと考えていた。

(ん?)

────だがその時。強烈な存在の気配を。ジークは背筋を通すように感じ取った。

「──!」

向けた背を素早く戻し、視線を森の奥へ向ける。
だが先ほど背筋を伝ったような気配は消えており、感じるのは小さな動物の気配だけで、音も風で騒つく木の音しか聞こえない。

「……」

少しばかり鋭い目つきと表情をして、ジークは目線を遠くへと固定した。

(『魔力探知マジックサーチ』 『魔物探知モンスターサーチ』)

オリジナルを含めた二重の探知魔法を発動。

(───付与せよ 『透視眼《クレアボヤンス》』)

その二種類の探知魔法を視覚で発動した『透視眼』に付与させた。
これによってジークの目は、物体を透過し遠くが視える上、さらに魔力や魔物までも見分けることが可能となったが。

「……いない」

感じ取った気配のする方へと視線を飛ばしたが、そこには何もいなかったことに、少し眉をひそめる。

「確かに感じたが……」

念のためそこから左右を見たりして確認をしてみるが、特に違和感は見られず、気のせいなのかと踵を返そうと─────

「んー、やっぱり気のせい────」


──────ジリ……


「ッ! いや! やはり何か!」

───脳裏でノイズが走った。かつて戦場でよく聴いた。あの嫌なノイズが……。

次の瞬間、相手はすぐ側にいる・・・・・・と直感で感じたジーク。

(ッ! コイツは───やばい!!)

そして相手の力量を瞬時に把握した。

(っ! 『揺れる大地アース・クエイク』───!!)

相手が人間かどうか確認する前に攻撃を仕掛けだした。
いや違う。分かったのだ。相手は間違いなく人間ではない。────魔物だと。

(『地の石槍《ストーン・ランス》』『突風の射弾《ゲイル・ショット》』『風の疾槍《ウィンド・ランス》』─────ッ!!)

左手首に装着している『神隠し』を使用したジーク。発動させたのは、地と風の二つの属性である。

最初に地の無詠唱魔法によって、周囲の地盤を大きく揺らし、居るであろう敵を混乱させた。

(逃すか!)

その状態から神隠しに付けた魔石を発動。地の槍を辺り一面に飛ばし逃げ道を塞ぎ動きを封じた。

(そこだ!)

同時に発動した風の魔法でその隙間、隙間と呼ばれる箇所を徹底攻撃。
貫通力のある鋭い風の弾で木を貫通させて、ジークを中心に全方位を、同じく貫通力のある無数の槍で襲い掛かった。


────その結果、周囲約五百メートルが木もない岩と草の草原へと変わった。


◇◇◇


「……」

無言の状態でジークはある一点を見つめる。彼の風の魔法で倒れた木が散乱している一ヶ所だ。

「居るんだろう? 出てきなよ」

そこを見つめながらジークは言う。すると────




─────ギシ……



「……」

木が軋んだ音がした。だがジークは動揺せず、目線を外さない。


─────ギ……ギ、ギギ

次第に音が大きくなっていくにつれて、目線の先の木が揺れ出す。
……居るのだ。そこに────何か。

「もしかして出られないとか? なんなら手でも貸して……」

ジークがそう言って苦笑混じりに魔法で木を退かそう─────


─────ギギギ………………グシャ

木が潰れた音とともに────


『グガァアアアアアアアアアアアアアアアアアア──────────!!!』


怒り狂った獣の咆哮が響き渡った。

「──っ!!」

────地が揺らいだ気がした。

────天が割れた気がした。

咆哮によって近くにいる小動物や大型動物。魔物までもが慄き恐怖に襲われていた。あるモノは震えながらその場で伏せてしまい。またあるモノは咆哮によって失神してしまっていた。


「……」


その怒りの叫びを一番近くで受けたジークもまた、言葉を失い動けずにいた。
だが、それは恐怖からではない。彼は目の前の光景に固まってしまった。

『グググギギギギギギっ!』

歯を軋ませている姿がなんとも言えない。激情しているのは分かるが、彼はどう反応したらいいか判断出来ずにいた。

「あ、……え?」

だが、なんとか喋ろうとするジーク。言葉が見付からず、それでもどうにか口を開き喋ろうとした結果…………。








「…………クマ?」



呆然とした表情で呟いたジーク。それに対して猛獣───────というか動物のクマは。


『このニンゲンがアアアアアアア────ッ!!』


ジークの呟きなど一切聞かず、怒りの形相で再度────咆哮を上げた。

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