オリジナルマスター

ルド@

第12話 予選試合前のテスト。

聞き間違いかと思った。
トオルの一言にジークは違和感を覚えて、自分の耳を疑った。

「……俺たち?」
「ん?」

それはどういう……そう呟きかけたが。

「スカルス!! やっと来たかっ!」

野太い声が彼の耳に届く。薄々予想をしつつ声のする方を振り返ったら……。

「あ、ハゲ先生」

映り出す頭部につい嫌そうに呟いてしまった。ついでにサングラスも見えたので誰なのかすぐに分かった。

「……ぬし。本当に一度だけワシをどう見てるか問い質しても良いか? あまりに失礼過ぎるじゃろう。ワシこれでも元王宮専属の魔法師じゃったんじゃぞ? 結構偉かったんじゃぞ?」
「いやいや、ちゃんと敬意を込めて接してるつもりですよ? 今の聞き間違いですってガーデニアン先生」
「何をぬけぬけと……!」

不満そうにブツブツ言うガーデニアンにジークが笑みを浮かべて返す。口調は礼儀正しいが、どこかワザとらしいところがジークらしい。隣にいるトオルは溜息混じりに呆れていた。

「まったくぬしは───ってそれはあとじゃ」

ジークに対して溜息を吐くと、ハッと思い出した顔をしたガーデニアン。珍しく慌てた様子にジークもトオルも疑問符を浮かべていると。

「すぐにワシと来い。────これから試合を始めるぞ」
「なんで?」

とジークに言うや手を掴み取り、何処かへ連れて行こうとする。だがジークが呆然としたまま動こうしないので引っ張りきれない。
何を言ってるのかは理解し切れてない。隣で会話を聞いていたトオルも同じくであった。

「俺の試合は、まだ随分後の筈じゃ……」
「それがなあ。一部の責任者側からの意見でのう。ぬしだけ試合に出るに相応しいかテストすることになったんじゃ」

説明をするガーデニアンだが、どこか苦々しい表情をしている。だがそれよりも……。

「は? 責任者?」
「うむ。予選会の責任者を勤めてる監督教員と生徒会の者たちじゃ」
「うげっ」

教員のほうはどうでもいいが、生徒会という単語を聞き露骨に嫌そうな顔をするジーク。
直接的な面識はないが、ジークもそれとなくウルキア学園の生徒会役員達の天狗振りは耳にしていた。

「監督教員はそれほどでもなかったが、生徒会側から少しのう……。全員ではないが、ぬしの参加に反対姿勢をとってきたんじゃ。ジーク・スカルス如きに魔導杯に出る資格なぞ無い。とな」
「はぁ」

なんともアホらしいとジークは心の中で呆れた。

(如きとは。完全に上から目線だなぁ。やっぱ噂通りか)

一部の劣等生達を蔑み差別的な対応をしている差別主義姿勢の生徒会役員。一部の生徒会役員は、そういった思考の持ち主がいるのをジークは噂で聞いていた。
だがさして驚かなった。というか寧ろ呆れた。彼らもジークからしたらその蔑んでる生徒達と大差無いと思ったからだ。

(いや違うな。寧ろそれ以下のカスだな)

時々辛辣なジーク。普段自分勝手でのほほんとした彼からは想像出来ないほどだ。

(ん?)

ふと視線を感じたジーク。移動中、引っ張れていた状態であったため、確認しにくかったが。

(サナに……リナ?)

姉に直接声援でも送りに来たのか。本来、参加者以外は立ち入りを認められてない一階訓練場で、試合後なのか少し汗をかいたサナと一緒にこちらを窺うリナがいった。

二人共。ガーデニアンに引っ張れているジークを呆然とした目で見ていたが、リナのほうは少しだけ後退りしたようにジークには映った。


◇◇◇


「ではこれより。魔導杯予選会。参加認定試験を開始します。ジーク・スカルス。前へ」

ジークが立つ複数ある訓練場の戦闘エリア。その中心で審判である教員が声を出しジークを呼ぶ。

うんざりした顔で聞いたジークは溜息を吐くと重い足で歩いていく。その途中、どうやらアレが監督教員なのだと理解した。

(名前は……忘れた)

如何にも体育会系と思えるほどの分厚いガタイの男性教員。ジークを見る目はそこまで酷くはないが。

(うわー……。なんか知ってる顔が集まってないかな?)

チラチラ視線を左右に向けると顔見知りの人物が何人か立っており、ジークのほうを眺めていた。

────ついこの間、チンピラ学生達からジークを助けた灰色の髪の男子生徒。三年風紀委員のジル・ガルダ。

─────その隣に先輩らしき男女が二名。一人は白髪の髪で眼鏡をかけた長身の男子生徒。三年風紀委員副委員長のクロス・バルタン。

─────そしてもう片方の女子。長身でスレンダーな体型で黒の長髪は後ろで結んでおり、左手に刀らしき物を持っている。三年風紀委員委員長のシオン・ミヤモト。トオル・ミヤモトの姉である。

(……見ないようにしよ)

そう恐ろしげに心の中で呟くと、獰猛な風紀委員グループから視線を外した。

他にもさっき見かけたルールブ姉妹。話していたトオル。と、やたら視線が集まってないかと不思議そうに思った。

(まあいいか。で、俺の相手は……ん?)

向かいに立つのはジークと同じ生徒であった。男子生徒でネクタイの色からして三年だと分かったが。その顔を見てジークは少し首を傾げた。

「……なんか何処かで見たような───」

しかし、普段話すような三年の知り合いなどジークにはいないので、恐らく学園で有名な人物なのだろうと思ったが。憎々しい目で睨んでくる男子生徒を見てどこか引っかかるものがあった。

「……よォー   ジーク・スカルス。あん時は良くも嵌めてくれたな?」
「は?」

(嵌めた? なんのことだ?)

腹の下から吐き出したかのような低い声で話す相手に、ジークはなんのことなのかサッパリ分からなかった。

「テェメの所為でオレは……!!」

怒りで青筋が立って顔を真っ赤にするほどなのかと思ったが。ジークはふと気付いたことがあった。

(なにかあったのかな? 顔が痣だらけだ。……前歯も折れてるし)

憤怒に歪めていて気づくのに遅れたジークだが。無惨にもボロボロの顔をした先輩を見て目を見開いた。

(あの感じからすると殴られて出来たみたいだが……。まさか俺の所為で!?)

「おい。スカルス君。準備はいいのか?」
「え、あ、はい」

審判である教員から少し注意を受けたので。思考を切り替えて試合に集中することにした。

(とりあえず考えるのは後だ。それに……たぶんアレだ。最近リナと付き合ってるとか。噂を鵜呑みして嫉妬心を狂わしたんだよ恐らく。あのケガはきっと、試合前運悪く転んだんだろう)

俺は関係ない筈だとジークはケガについて考えるのをやめて試合開始の合図を待った。

(とにかく大会に出ると決めたんだし。俺も覚悟を決めようか。……目の前の男子生徒には申し訳ないが──────)


(────さっさと……終わらせる・・・・・

ジークは心の中でそう決心した。


◇◇◇


「始まるな」

トオルは訓練場の端で間もなく始まるジークの試合を見に来ていた。
近くではサナや妹のリナ。姉がまとめ上げている風紀委員メンバーが観戦していた。

生徒会の実行委員メンバーも観戦しているが、こちらはどうも別の目的があるようにトオルには窺えた。

(大方、ジークが負けたら皆の前で晒し者にでもして追い払うつもりなんだろう)

一部の生徒会役員の悪意ある笑みを見て、不愉快そうな顔するトオル。まるで腐ったゴミでも見てるかのように。
あまり見ていると自分まで腐りそうだと、視線をジークのいる中央へと向ける。

(というかアイツがちゃんと試合をするとこ見るの、初めてじゃないか?)

まともに模擬戦を受けたところすら見たことがないトオルは。これから始まる試合を割と楽しみにしながら待っていた。

(唯一まともだったのは一年の時のガーデニアン先生との実力試験だが。ジークのヤツ、何故か全然攻撃せず避けてばっかだったしなあ)

「ふっ、楽しみだな」

そうしていると。

「では。高等部二年ジーク・スカルス。高等部三年ルーザ・ルータスの試合を始める」

審判の教員が宣言すると両名。中央で向かい合い。それぞれ構えをとる。

「ルーザ・ルータスって確か」

先日、ジークに鬱憤混じりに聞かれていたトオルは。対戦相手のルーザ・ルータスについて、すぐに気が付いた。

「見事にボロボロだな」

数日前、下校途中のジークに焼きを入れようとしたところを風紀委員のジル・ガルダにボコボコされてできたキズだ。

「その件で今年の参加資格を取り消されたって聞いたが」

(親の権力でも使ったか?)

確か貴族の人間だったと記憶していたトオルは。ジークに向かい合うルータスを呆れた目で眺めていた。

「どう見ても復讐のつもりでこの試合に入り込んだみたいだが……」

一体どうやってか、と疑問に残るが。先ほどのムカつくような笑みを浮かべ生徒会役員を思い出したトオル。

「アホとアホが手を組んだってことか」

金でもチラつかせたか。どのみち利害は一致していた筈のなので、生徒会役員が何かしらの発言をしてこの試合を仕組んだのがよく分かったトオル。

「凄い睨んでるな。……どれだけ恨み辛みがあるんだ?」

幾らなんでもここまでするほどかと、疑問を浮かべるトオルだが。他にも、ルータスに関してこんな噂があったことを思い出した。

(そういえば、ルールブの姉妹達に頻繁にアプローチしてるって聞いたことがあるな……)

本人達は拒否してるのに、デートに誘おうとしたとか。強引に婚約まで取り入ろうとしたとか。それだけ考えてみると、ここ最近妹のリナからアプローチをされて、恋人疑惑が浮上しているジークの存在は。

(嗚呼〜。憎くて憎くてしょうがないような)

自分が散々。家の名を使ってまでしても、振り向いてすらもらえなかった姉妹の片割れと。と考えてみると、どうでもいいがルータスの心境は……関係ないなとトオルはそこで考えるのを止めにしたのだった。

(寧ろ、ざまぁ──!! だよな)

地味にあのハゲ頭がムカついたトオル。心の中で友人のジークに。

(これからも周囲が嫉妬に狂うほどイチャつきな! ……闇討ちは確実にあると思うが)

いっぱいイチャつけと念じ、その結果悲惨な未来が友人に待ち受けているだろうと。この時のトオルは確信にも似た心境で首肯した。

「それでは試合────始めっ!!」

遂に始まったようだと。トオルは試合のほうへと意識を集中した。

「っ、オ──ラァアアアア!!」

先に動いたのはルータスのほうだ。
雄叫びを上げて駆け出し、ジークに迫るルータス。体から魔力が漏れているのを見て、身体強化を使用しているのをトオルは知覚で感じた。

(三年だけあってそこそこ出来る。けど、動作がハッキリしてるからアイツでも対処は……)

まずは思いっきり殴り付けるようだと予想して。トオルは、逆にジークはどう動くかとジークに視線を移したのだが。

(なんだ?)

迫り来るルータスに対して、ジークはただ構えたまま─────動こうとしない。

(なぜ回避しない? おい、やられるぞ!?)

ジークの予想外の停滞に唖然とした表情で心の中で叫ぶトオル。当然そんな叫びなどジークには届いておらず。ただ真っ直ぐ。迫って来るルータスを見据えるジーク。

(まさか無抵抗にやられるつもりか!? あの感じだとただじゃ済まないぞ!)

身体中から闘気を沸き立たせるルータスと違い。その雰囲気は何処までも静かな。まるで空気のようであった。

「シネエエエエ!!」

本人はこれが皆が見る試合であることを忘れているのではないか。そう思ってしまうようなルータスの叫びが訓練場を響かせた。

(っ、ヤバイぞ。ジーク!)

そして強化された脚力を屈して接近したルータス。その拳が動かないジークに向けて、力任せに降ろされようとした─────



「────」



(───ッ!?)

瞬間。ジークの体がブレたようにトオルには見えた。

「────ギャふンッ!?」

そして次に映った光景は。……吹っ飛んだルータスである。
二メートルは飛んだだろうか、そのままエリアの外へと追い出された。

(なん……だと)

ルータスを吹き飛ばしてあろうジーク本人は、構えた状態から右手で殴ったかのような構えに変わっており。右少し上向きのボディーブローを決めたかのような状態で止まっていた。

────まあ……こんなもんかなぁ。

伸ばした方の拳を見つめながら、ジークがそう呟いたのを。トオルは口の動きから読み取った。因みにその口元は薄い笑みを浮かべおり、背筋に薄ら寒いモノをトオルは感じた気がした。

「え?」

しばらくして、誰かが声を漏らした。それにつられるように周囲からどよめきが上がる。
皆、なにが起きたか理解が追いついていない。

それはジークが知る者たちも同様であった。

まずルールブ家は、姉妹共なにが起きたかまったく分かってない顔をして、外に出されたルータスを一瞥たら、ジークのほうを見開いた目で見て、ルータスを一瞥……。その繰り返しであった。

一つ共通してるのは、二人とも吹き飛ばされたルータスのことは、まったく心配している風ではなかった。

風紀委員の面々は茫然とした者もいるが。三年風紀委員ジル・ガルダ。風紀委員長シオン・ミヤモト。副委員長クロス・バルタンの三名はニヤリと愉快そうな笑みを浮かべて楽しげにジークを見ていた。

(は、ははは……面白れぇ……)

どうやらあの面子は、自身の姉を含め、皆戦いに飢えた方々なのだろうとトオルは笑みを見た瞬間、そう理解して視線をあわせないようにゆっくりと逸らしたのだった。

逆に生徒会の面々は、全員が茫然とした表情で見ており。特に先ほど嫌らしそうな笑みを出していた役員は、目を茫然どころか口を大きく開けて目を見開いた驚愕顔で固まっていた。

(ふん、ザマァねぇな)

トオルはいい気味だと鼻で笑って中央に視線を戻した。

「そ、そこまでっ! 勝者。ジーク・スカルス! 同時に魔導杯予選会。参加をみ、認める! 監督者として応援している。が、頑張りたまえ」
「はい」

そこでは、皆と同じで茫然していた審判がようやく我に帰っており、慌ててジークの勝利を告げていたが、今起きたことに驚きを隠せないのか。声が音が乱れすぎて、聞き取り辛かった。しかし、そんなことはトオルにはどうでもよかった。

「楽しみだな。ジーク」

この結果によって決まった自分とジークとの試合。それが先ほどまでの試合以上に待ち遠しいと思ったからである。

「ん?」

─────カチカチカチカチカチッ

「あぁ、分かってる負けないさ。気を抜くなってことだろ?」

主人の気持ちに呼応するかのように腰に差す刀も激しく震えていた。それを見てトオルは、何か思い出したかのように辛そうな表情をする。

「絶対……強くなって、誓いを果たすから。見ててくれ────父さん」

父の形見である刀を撫でながら、トオルは小さく呟いた。









「いつか必ず──────殺すから」

復讐の誓いを。彼は呟いた。

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