オリジナルマスター

ルド@

第5話 後輩との軽い対話。

(男子諸君よ。もし登校中の通学路を可愛らしい後輩女子と共に歩けたらどうかな?)

『ん? なんだ?』
『おいアレって? サナさんの妹の?』
『え? どういうこと!?』
『ていうか隣の奴って……』
『う、嘘だろ……』

ウルキア初等部そして高等部に続く登校ルートが騒然となっていた。騒ぎ立つ学生たちの視線の先には二人の学生が歩いていた。

「……」
「(ニコニコ)」

歩いている二人の学生は問題児なジーク・スカルスと才女なサナの妹リナ・ルールブ。
それだけでも驚きの光景であるが、ここでさらなる爆弾が用意されていた。

「……なぁ妹さん?」
「リナでいいですよ」
「じゃあリナさん」
「呼び捨てでどうぞ。先輩ですから遠慮は不要です」
「……リナ」
「ハイ」
「……何故引っ付くのかな?」
「さあ? 何故でしょう?」

ジークの問いに惚けた口調で笑みを浮かべるだけのリナ。現在リナはジークと共に歩き、胆にも彼の腕に抱きついた状態で、登校ルートを嬉しそうに歩いていた。……その目は明らかにジークをからかってる目である。

(まさかの敬語ですか。なにこの娘? 猫被り過ぎだろう。……素を知ってるから気持ち悪いなコレ)

吐き捨てたい気持ちであるが、その結果、起こった被害は甚大であった。

『ぐっ! グルルアアアッ!?』
『がアアアア!? ユ、ユルサァネェエエエ!!』
『ウウッ!? よくモよくモォ〜〜〜っ!!』

(……獣化してる。全員人間なのに)

その光景を見た男子のほぼ全員が呻き出し、苦しみ、そして般若のような顔へと変貌していく。

『う、嘘よっ!? なんであんなクズに!?』
『アアア〜〜〜!? サナさんの妹ちゃんまでがあの男に!!』
『た、たすけなきゃ!? ああでも近寄りたくないっ! 妊娠させられちゃいそうっ!』
『どうしたら良いの!? 殴りに行けば良いの!? それとも刺しに行けば良いの!?』

(するわけないだろう──って妊娠に何? 刺すってどういうこと!?)

女子もまたキャーとかイヤーとか本当に絶望したような悲鳴を上げる。同じく般若の顔へと変貌していた。ちなみに女子に関しては全員ではなく半数ぐらいであり、残りの半数はゴミを見る目、もしくは先生にでも報告しようか思案している顔であった。

(女子の方が怖っ! 思考が歪み過ぎじゃないか? あとお願いだから刺すのと通報するのはやめてっ!)

その忌殺し兼ねない視線の先にいるのは当然、現在後輩女子から腕を抱締めらるという、大変羨まけしからんご褒美を受けているこのウルキア学園一番の嫌われ者、高等部二年のジーク・スカルスであるのは言うまでもない。

(居心地……最悪だなこれは)

当の本人は抱締められてる状態にちっとも嬉しそうな顔ではなく、無数の遠慮のない視線と隣の後輩女子の存在に鬱陶しさすら感じてきた。
せめてもの救いは男子にしろ女子にしろこの空間に踏み込まず、少し離れた場所から様子を窺っていることぐらいであろうか。

(しかし、この妹なんで急にこんな? サナが何か吹き込んだか? 密着しろって? まさかなー)

今朝突然ジークの部屋に尋ねて来たリナ。ジークに対して自分がサナの妹であることを含めて自己紹介を終えるや、一緒に学園まで登校しようと言い出しため、今に至っている。

(本当は断りたかったんだが)

残念ながらその選択はジークにはなかった。言葉こそ違うが断ろうと口を開く前にリナに先手を打たれた。

『もし断ったら今すぐ寮の外に出て、半脱ぎ状態で先輩に虐められたって泣きじゃくりますね』

のような近い言い回しで、しかし遠くであったが、ジークが気づくには十分な言い回しであった。この時はジークも普段ののほほんとした笑みが引き攣れた苦い笑みに変わっていた。

(天使じゃなくて悪女だろう。どう見てもよ!)

以上のようなことがあり、現在ジークは後輩女子に捕獲された気分を味わっている。ついでに無遠慮な視線のトゲからも。

「いやですか? 抱きつかれるのは」
「できればなぁ〜。生憎初対面の女性に抱締められて動揺するほど、良い経験がないんだよ俺は」

こういう時にちゃんと拒絶出来るのがジークの凄いところである。遠慮がないのはジークも一緒のようであるが。

「えぇ〜? ヒドイ先輩ですね〜。……流石あのアリスさんを捨てた人」
「お先に失礼〜」
「え、ちょっ……!」

なにか人の名前を口にしようとしたリナに、パッと腕を振って引き剥がした。
その顔は酷く覚めた笑みに変わってたのを見て、リナは地雷踏んだのかと焦り、慌ててジークの腕にしがみ直した。

「あー!? ゴメンナサイっ! 冗談です! 冗談! ちょっとからかってみたくなっただけで」
「へぇー」

今度は呆れたような笑みにジークは変わっていた。ただ笑みを浮かべるだけで再度引き剥がそうとしない様子にとりあえず安堵するリナ。

「でも事実じゃないですか。姉様や他の方から責められてきたのになんでボクだけ……疲れるなぁ(ボソリ)」

一応後半部分もジークには聞こえたが、特に気にしないことにして口を開いた。ついでに、やっぱり無理して敬語使ってるのかと呆れ混じりに思った。

「朝からアイリスあいつの話で弄られるのは嫌なの俺は。そんな話しかないならもう先に行きたい」
「まあまあそう言わずに、ただ少しお話がしたくなったんですよ。アリスさんの件から気になってましたから」

リナは笑みに浮かべたまま、彼にだけ聞こるように顔を近づけてそう口にした。……急な顔同士の急接近に周囲の温度が二、三度下がった気がしたが、気のせいにしておく。……確認のために視線を向けるという選択も一切しないが。

「お話? 校舎まですぐだよ」

リナの急接近に特に動揺の色を見せず、遠くからチラチラと見える校舎を見上げならそう告げた。というよりもいつまでその役を演技続けるんだと疑問を浮かべた。

「それでも良いんですよ? また後日窺いますから」
「……」

出来ればもう来ないで欲しいなぁ。みたいな目でリナをジークは見るが、当のリナは気にした様子を見せず、勝手に話を進めた。

「先輩って高等部からこの学園に入ってるんですよね? 大抵の人は初等部からですけど……」
「あ〜そうだなぁ」

もう適当でも良いやどうせ学園までだしと、怠そうにリナの問いに答える。

「この学園に入って僅か一年あまりすっかり有名人になりましたね? 冒険者ギルドでも色々あったみたいですし」
「詳しいな」

随分情報を集めてきてるような口ぶりにジークは訝しげな視線でリナを見る。

「えぇまあ。クラスに新聞部の情報通な友達がいますから」
「……」

リナが新聞部と言ったと同時に無言になるジーク。

(新聞部か……。あのウザったい連中の仲間が身近にいるのかぁ)

アイリスの件で散々な目にあったのを思い出した。苦虫を噛み潰したような顔でリナを見た。

「色々と先輩の話を聞いても理解出来ないところがありました。先輩が学園に来た理由ですよ」

リナの笑みが消え、鋭い目付きへと変わる。

「わざわざ高等部から入学したのに入学した当初から問題ばかり起こしてるから不思議なんですよ。例えば……校舎内の見学を理由に夜に閲覧禁止指定の魔法書が保管してある部屋に無許可で侵入して、本を全部読み尽くしたり」

その新聞部の友達にでも聞いたのか、思案の表情で少し間を空けて口にした。

「あ〜アレは単に学園内にあるっていう図書館を探してただけで。そしたら珍しい本がわんさかあったからついな」

こんな風に言い訳を述べているが、勿論狙った上での無断侵入とタダ読みである。絶対認めないが。

「へぇ〜……外から何重もの結界や魔道具による特殊施錠を取り付けてあったって聞きましたが? しかも先輩の侵入に気づいたのはたまたまその日校舎を巡回を担当していたガーデニアン先生だったんですよね?真夜中に先生の絶叫が響いたそうですよ?」
「いやぁ〜先生か。あの人、実は怖がりだったみたいでね。顔を真っ赤して発狂していたよ」
「それは激情して発狂していたのでは? あと誤魔化せてませんよ? 施錠はどうしたんですか?」
「いやぁ〜懐かしい懐かしい」

そんなツッコミなど知らんフリで懐かしみ笑みを浮かべる。
そんな顔を見て学園に来た理由については最初から答える気がないようだとリナはため息をつき、一旦この質問を止め話題の路線を少し変えてみた。

「というかそのガーデニアン先生にももっと感謝すべきですよ。他にも起こした問題を数えたらキリがありませんが、普通こんなに問題ばかり起こしたら進級できませんよ? 即退学で学園を追い出されます」

リナの言うことは正しい。ジークの場合さらにサボりも含まれているので、学園側から考えればこんな不真面目な学生の入学など認められる筈はないし、すぐにでも退学して学園から排除している。

そんな学生に進級などありえない筈なのだが。

「それがないのは全部ガーデニアン先生が周りに口添えしてるからですし、それに入学当初にあった実力テストのときの保険があってですよね」
「……」

実力テスト。簡単に言うと模擬戦のようなものである。入学試験は冒険者登録と適当な模擬試合で乗り切ったジークだが、この時行った実力テストについては少しばかり反省が必要であった。

自分のクラスの模擬試合を担当してくれたハゲ先生ことガーデニアン先生、その《老魔導師》相手にジークは──────。

「クラス内で唯一ガーデニアン先生との模擬試合で倒されなかった生徒。で有名な時期もあったほど話題になってましたよ」
「まあ、そうかもな。別に勝ってないけどな」

リナの言い分に曖昧に答えるジーク。なにやら言い難そうな口ぶりで答えるのであった。

結局その後、高等部の校舎が見えてきたのでジークは補修云々を理由にリナの質問攻めから逃れるように校舎に向かって去っていた。

(はぁ、どうなってんだこりゃ……)

そして校舎に入ってすぐ、自分とリナとの間に可笑しな噂が流れていることに、半笑いをして眩暈を覚えていた。

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