オリジナルマスター
第3話 一件落着?
「ようはつまり、俺が目立つ理由が増えてジークとしての正体がバレそうだから……か?」
「まあそうだな」
「そうですね」
ジークの問いに二人は頷く。悪い方向であるが。
(まあ俺もそこら辺無視して今回の立ち回ったからな。結構ヤバいのか?)
今回の騒動で表に出てしまったため、これ以上はジークの正体がバレる可能性がある。二人は危惧しているのはそれだ。
「それにゼオのヤツ……ルールブ家当主も」
「え?」
何かシャリアが呟いたようだが、ジークからはうまく聞き取れなかった。
「とにかくなジーク。先ほどはああ言ったが、そなたのお陰でもうルールブの娘たちもすぐに狙われる可能性がなくなった。これ以上そなたがムリをする必要はない」
「そうですよジークさん。もう潮時です」 
「……」
確かに二人の言うことも正しい。ジークとしてもこんな慣れない護衛依頼なんて、すぐにでも終わらせたいと考えていたし、そのために早々と敵を殲滅した。
しかし、その結果彼の立場は余計に悪くなった。シャリアとキリアの言う通り退くべき頃合いなのかもしれない。
(だが、それだと依頼を受けようとした当初の目的が果たせなくなる。キリアさんの言う通りもう潮時かもしれないが、アレを逃すのは……)
脳裏に描いていたシナリオが崩れていく。
どうにか巻き返しが出来ないか検討するが、浮かべていた絵図が探るようなサナの姿に移り変わっていた。
(今朝のサナの件もあるか。無茶するとメッキが取られるかもしれない。……不満はあるが、ここまでか)
そうして、朝の寮での出来事を思い返した。
◇◇◇
時間は遡り、今朝の寮へと戻る。
場所はジークの部屋でサナが訪ねて来ていた。
「何でそんな質問を?」
彼に対してサナが《真赤の奇術師》では、と尋ねてきた直後である。
表情を変えずサナを見つめるジークは、言葉の意味を探り始めた。
「……アリス」
「……?」
一分が経ち、場が居心地悪そうな空気を発し始めたところで、サナが躊躇うようにアイリスの名を呟いた。
何故ここでアイリスの名が出るのか、ジークは疑問を浮かべたが、すぐにそれは解消された。
(ああ、そういうことか)
「アイリスは知ってたもんな」
「あ、いや、待って! そうじゃないの!」
「ん? 何がだ?」
自然と呟くとサナはビクっと体を震わし、慌てたように手を振りだした。なぜ震えだしたか、それは目の前にいる彼の笑みに凄みが出だしたからだ。……彼女から見ればまるでバラしたのか、そう言っているように見えた。
「い、一応言っておくけど違うのよ! 私がアリスに無理を聞き出しだけだから、あの子はあなたを裏切ってなんか……」
「いやいや別に気にしてない。彼女の父、フォーカス当主には口止めを約束してもらったけど、彼女個人には口止めしてないし……な?」
「……そうね。アリスが自主的に話してなかっただけ、よね?」
「もちろん」
気にしてないという割に妙に凄みがある気がするとサナは思ったが、ここは口にしないことにした。……決してジークの笑顔から発せられる威圧感に怯えたわけでない。サナの名誉からそう付け足しておく。
「まあ、あの時は色々とあったしな」
彼が言うのは一年ほど前、正確には彼が高等部に入学してから二週間後に起きた事件のことである。
当時、既に《蒼姫》のアイリスと呼ばれていた彼女とヒョンなことから知り合いとなった。その原因はサナであったが、ここでは突っ込まないでおく。
話は省くが、その頃街で騒がせいていた手配中のS級犯罪者にアイリスは狙われていた。
その彼女を偶然守ったジーク。‥…という結果となってしまい、その件についてはギルド側を除けば、彼女の父とその現場にいたアイリスの二人のみが知っている。
(あの後、色々あったせいで忘れていた。自然に俺の側に引っ付いてきたから考えてなかったが)
うっかりし過ぎたなと反省するが、目の前にいるサナがそれを理由に自分に護衛云々を頼み込んでいるのだと予想が付き、どう躱そうかと思案するが。
(まあ面倒だし……いいかな?)
割とあっさり諦めてしまったジークである。……というよりも。
(ヘタに言い逃れすると、余計に怪しくなるだけか。はぁ……やりにくい)
「アイリスはなんて言った? 聞いても大丈夫か?」
「アリスが話してくれたのは、あなたがSランク級の実力者に勝ったことがあるってこと。……それと」
尋ねるとサナは躊躇い気味に続ける。……少し間を空けるとジークの目を見つめて続きを口にした。
「アリスのお父様の推測だそうだけど、あなたが……戦争経験者かもしれないって、その……元戦役者じゃないかって」
「───!」
ここで初めて彼の顔色に歪みが生まれた。
「っ!」
その歪んだ表情はサナの目にもハッキリと映っていた。それほど核心を持って告げたわけではなかったが、ジークの顔を見てサナの顔が強張らせた。
「……ジーク?」
「……」
その顔を見ていたサナもまた驚きの顔で、ジークを見詰める。
彼の額には冷や汗が流れており、今この瞬間の起きてしまった事態に対してどう対応すべきか、明らかに悩んでいる様子であった。
(…………しまった)
心の中で頭を抱えてしまっていた。
◇◇◇
そして現在の時間軸へ。
(はい、回想終了〜。……いやアカンよこれは。特に最後の最後での動揺振りが)
あの後、サナが何か言う前に時間云々で誤魔化して、部屋を追い出したが、とんでもない爆弾を残してしまった。
(なにしてんだ俺は? バカなの? アホなの? あの程度の揺さぶりに引っかかるとか!? 何処の三流演技者だよ!?)
正直アレはミス過ぎだろうと自分自身に罵倒した。
思い返してすっかり落ち込んでいた所為で、会話に入り込めておらず、呆然として座っていた。
「それでミーアさんに魔石の依頼を……ジークさん?」
呆然としていたジークにキリアが質問していた。どうやら会話はいつの間にかミーアに依頼した魔法式用の魔石の話に変わっていた。
「……あ、はい。今回の仕事で珍しい魔法式を幾つかコピー出来たので」
返答に少しばかり間が空いたが、それでも差して問題なく返答出来た。
「相変わらず便利だなぁ〜。そなたの複製魔法は」
「そうでもない。コピー出来る物にもよっては失敗するから、原初クラスは未だにコピー出来ないから直に取り出すしかない」
コピーとは魔法式を保存できるオリジナル魔法のことである。
彼は通り名の一つに《大魔導を極めし者》と呼ばれてる理由は実はこの魔法が少し関わりがある。
世界に流れている魔法の種類は万を超えるほどあり、修行時代の頃に師匠の魔法書を読み漁ったジークでも、全てを把握するのは不可能であった。
その時、習得したのが複製魔法である。この魔法によって倒した相手の魔力を探って、体内魔力に保存してある魔法式をコピー方法を彼は見つけた。
これによって身に付けれる魔法の種類に幅が広がり、自身の異質な魔力のおかげで普通ならありえない複数の属性、派生属性の魔法までも扱えるようになった。……更に魔法式が分かっていれば、魔石を使わずとも魔法を行使することも可能という裏技がある。
だが、こんな都合のいい魔法にも当然欠点があり、その一つが『原初』クラスの魔法のコピーが出来ない。他にもコピー出来るが、強引な剥ぎ取りのような方法な為、魔法式も劣化してコピー前よりも精度が落ちてしまう。
「しかし、その能力の落ちた魔法も、通常よりも威力のある上位魔法へと変えてしまうのだ。たとえ精度が落ちても十分実戦でも通用するだろ?」
「本来魔石からの魔法使用は威力も効果も落ちて、余計に魔力消費が激しいだけの無駄な物として、多くの人から使えない技術として扱われてきました。……ですが、それをジークさんは魔道具と自身の魔力だけで補ったんですよ? 普通に考えて常識外れで誰も真似なんて出来ません。ジークさんだけの専用技術ですよ」
「えーと……そうですか?」
むず痒うとはこのことであろうか、ジークはなぜか背中が痒くなって二人を直視しづらくなった。
(こう褒められるとどうも調子が狂うなぁ。……学園じゃあんな扱いなのに)
しばらく三人の会話を続いて、これ以上は仕事引き受けてもしょうがないと話はまとまり、ジークの護衛依頼は終了となった。
ジークはキリアから報酬を貰い、この日はまっすぐ寮に戻って行った。睡魔に襲われ食事を終えると早々に就寝したが、とある妹様によって蒔かれた種は、彼の気付かぬ間に彼の側で、芽を出していた。
「まあそうだな」
「そうですね」
ジークの問いに二人は頷く。悪い方向であるが。
(まあ俺もそこら辺無視して今回の立ち回ったからな。結構ヤバいのか?)
今回の騒動で表に出てしまったため、これ以上はジークの正体がバレる可能性がある。二人は危惧しているのはそれだ。
「それにゼオのヤツ……ルールブ家当主も」
「え?」
何かシャリアが呟いたようだが、ジークからはうまく聞き取れなかった。
「とにかくなジーク。先ほどはああ言ったが、そなたのお陰でもうルールブの娘たちもすぐに狙われる可能性がなくなった。これ以上そなたがムリをする必要はない」
「そうですよジークさん。もう潮時です」 
「……」
確かに二人の言うことも正しい。ジークとしてもこんな慣れない護衛依頼なんて、すぐにでも終わらせたいと考えていたし、そのために早々と敵を殲滅した。
しかし、その結果彼の立場は余計に悪くなった。シャリアとキリアの言う通り退くべき頃合いなのかもしれない。
(だが、それだと依頼を受けようとした当初の目的が果たせなくなる。キリアさんの言う通りもう潮時かもしれないが、アレを逃すのは……)
脳裏に描いていたシナリオが崩れていく。
どうにか巻き返しが出来ないか検討するが、浮かべていた絵図が探るようなサナの姿に移り変わっていた。
(今朝のサナの件もあるか。無茶するとメッキが取られるかもしれない。……不満はあるが、ここまでか)
そうして、朝の寮での出来事を思い返した。
◇◇◇
時間は遡り、今朝の寮へと戻る。
場所はジークの部屋でサナが訪ねて来ていた。
「何でそんな質問を?」
彼に対してサナが《真赤の奇術師》では、と尋ねてきた直後である。
表情を変えずサナを見つめるジークは、言葉の意味を探り始めた。
「……アリス」
「……?」
一分が経ち、場が居心地悪そうな空気を発し始めたところで、サナが躊躇うようにアイリスの名を呟いた。
何故ここでアイリスの名が出るのか、ジークは疑問を浮かべたが、すぐにそれは解消された。
(ああ、そういうことか)
「アイリスは知ってたもんな」
「あ、いや、待って! そうじゃないの!」
「ん? 何がだ?」
自然と呟くとサナはビクっと体を震わし、慌てたように手を振りだした。なぜ震えだしたか、それは目の前にいる彼の笑みに凄みが出だしたからだ。……彼女から見ればまるでバラしたのか、そう言っているように見えた。
「い、一応言っておくけど違うのよ! 私がアリスに無理を聞き出しだけだから、あの子はあなたを裏切ってなんか……」
「いやいや別に気にしてない。彼女の父、フォーカス当主には口止めを約束してもらったけど、彼女個人には口止めしてないし……な?」
「……そうね。アリスが自主的に話してなかっただけ、よね?」
「もちろん」
気にしてないという割に妙に凄みがある気がするとサナは思ったが、ここは口にしないことにした。……決してジークの笑顔から発せられる威圧感に怯えたわけでない。サナの名誉からそう付け足しておく。
「まあ、あの時は色々とあったしな」
彼が言うのは一年ほど前、正確には彼が高等部に入学してから二週間後に起きた事件のことである。
当時、既に《蒼姫》のアイリスと呼ばれていた彼女とヒョンなことから知り合いとなった。その原因はサナであったが、ここでは突っ込まないでおく。
話は省くが、その頃街で騒がせいていた手配中のS級犯罪者にアイリスは狙われていた。
その彼女を偶然守ったジーク。‥…という結果となってしまい、その件についてはギルド側を除けば、彼女の父とその現場にいたアイリスの二人のみが知っている。
(あの後、色々あったせいで忘れていた。自然に俺の側に引っ付いてきたから考えてなかったが)
うっかりし過ぎたなと反省するが、目の前にいるサナがそれを理由に自分に護衛云々を頼み込んでいるのだと予想が付き、どう躱そうかと思案するが。
(まあ面倒だし……いいかな?)
割とあっさり諦めてしまったジークである。……というよりも。
(ヘタに言い逃れすると、余計に怪しくなるだけか。はぁ……やりにくい)
「アイリスはなんて言った? 聞いても大丈夫か?」
「アリスが話してくれたのは、あなたがSランク級の実力者に勝ったことがあるってこと。……それと」
尋ねるとサナは躊躇い気味に続ける。……少し間を空けるとジークの目を見つめて続きを口にした。
「アリスのお父様の推測だそうだけど、あなたが……戦争経験者かもしれないって、その……元戦役者じゃないかって」
「───!」
ここで初めて彼の顔色に歪みが生まれた。
「っ!」
その歪んだ表情はサナの目にもハッキリと映っていた。それほど核心を持って告げたわけではなかったが、ジークの顔を見てサナの顔が強張らせた。
「……ジーク?」
「……」
その顔を見ていたサナもまた驚きの顔で、ジークを見詰める。
彼の額には冷や汗が流れており、今この瞬間の起きてしまった事態に対してどう対応すべきか、明らかに悩んでいる様子であった。
(…………しまった)
心の中で頭を抱えてしまっていた。
◇◇◇
そして現在の時間軸へ。
(はい、回想終了〜。……いやアカンよこれは。特に最後の最後での動揺振りが)
あの後、サナが何か言う前に時間云々で誤魔化して、部屋を追い出したが、とんでもない爆弾を残してしまった。
(なにしてんだ俺は? バカなの? アホなの? あの程度の揺さぶりに引っかかるとか!? 何処の三流演技者だよ!?)
正直アレはミス過ぎだろうと自分自身に罵倒した。
思い返してすっかり落ち込んでいた所為で、会話に入り込めておらず、呆然として座っていた。
「それでミーアさんに魔石の依頼を……ジークさん?」
呆然としていたジークにキリアが質問していた。どうやら会話はいつの間にかミーアに依頼した魔法式用の魔石の話に変わっていた。
「……あ、はい。今回の仕事で珍しい魔法式を幾つかコピー出来たので」
返答に少しばかり間が空いたが、それでも差して問題なく返答出来た。
「相変わらず便利だなぁ〜。そなたの複製魔法は」
「そうでもない。コピー出来る物にもよっては失敗するから、原初クラスは未だにコピー出来ないから直に取り出すしかない」
コピーとは魔法式を保存できるオリジナル魔法のことである。
彼は通り名の一つに《大魔導を極めし者》と呼ばれてる理由は実はこの魔法が少し関わりがある。
世界に流れている魔法の種類は万を超えるほどあり、修行時代の頃に師匠の魔法書を読み漁ったジークでも、全てを把握するのは不可能であった。
その時、習得したのが複製魔法である。この魔法によって倒した相手の魔力を探って、体内魔力に保存してある魔法式をコピー方法を彼は見つけた。
これによって身に付けれる魔法の種類に幅が広がり、自身の異質な魔力のおかげで普通ならありえない複数の属性、派生属性の魔法までも扱えるようになった。……更に魔法式が分かっていれば、魔石を使わずとも魔法を行使することも可能という裏技がある。
だが、こんな都合のいい魔法にも当然欠点があり、その一つが『原初』クラスの魔法のコピーが出来ない。他にもコピー出来るが、強引な剥ぎ取りのような方法な為、魔法式も劣化してコピー前よりも精度が落ちてしまう。
「しかし、その能力の落ちた魔法も、通常よりも威力のある上位魔法へと変えてしまうのだ。たとえ精度が落ちても十分実戦でも通用するだろ?」
「本来魔石からの魔法使用は威力も効果も落ちて、余計に魔力消費が激しいだけの無駄な物として、多くの人から使えない技術として扱われてきました。……ですが、それをジークさんは魔道具と自身の魔力だけで補ったんですよ? 普通に考えて常識外れで誰も真似なんて出来ません。ジークさんだけの専用技術ですよ」
「えーと……そうですか?」
むず痒うとはこのことであろうか、ジークはなぜか背中が痒くなって二人を直視しづらくなった。
(こう褒められるとどうも調子が狂うなぁ。……学園じゃあんな扱いなのに)
しばらく三人の会話を続いて、これ以上は仕事引き受けてもしょうがないと話はまとまり、ジークの護衛依頼は終了となった。
ジークはキリアから報酬を貰い、この日はまっすぐ寮に戻って行った。睡魔に襲われ食事を終えると早々に就寝したが、とある妹様によって蒔かれた種は、彼の気付かぬ間に彼の側で、芽を出していた。
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