オリジナルマスター

ルド@

第11話 油断。

(『魔鏡面世界ミラーワールド』)

────フロア全体が鏡の世界に覆われた。

【光属性】オリジナル魔法『魔鏡面世界ミラーワールド

発動したのは、光系統のオリジナル・・・・・で作り上げた魔法の鏡。壁や天井、床などが鏡のように変化して、更に鏡で出来た街灯のような物が幾つも出現して、対面に映る者、鏡同士が映り合い、何重にも周囲を映していた。

「ッ!?」
「「「「!?!?」」」」

ダハクを含め部下たちも一変。部屋の状態に戸惑い構えていた姿勢が僅かに崩れ、隙だらけとなった。

「っ! しまっ──」

だが、ダハクだけは咄嗟にハッとして、すぐに警戒態勢に戻そうとするのが……。

「終わりだ」

既にジークはトドメを刺しに出ていた。

(『火球ファイア・ボール』『風球ウィンド・ボール』)

再び『無詠唱』で火の魔法と風の魔法を発動した。
無数の火の玉と風の玉が野球ボールサイズからボーリングサイズ、入り混じって周囲に放たれる。

「回避を──!?」

ダハクは防御魔法、もしくは回避行動を取ろうとしたが、ジークが放った魔法は彼らを狙わず周囲の壁、天井、床や配置された鏡の街灯に向かう。……ダハクも部下たちも戸惑いを隠せずにいた。

「何のつもりですか?」
「見てれば分かりますよ。……まあ」

放たれた火と風の魔法は、目標である鏡に直撃すると、渦を描くように鏡に吸い付く。

鏡が光り輝いた。

「──分かった時には・・・・・・・……終わってますよ」

手をかざしてジークは合図を送った。

(『全鏡面・解放リフレクション』!)

「なっ!?」
「「「「ッ!」」」」
 
鏡に留まっていた魔法が鏡の光に反応したか、僅かに膨張したと思ったら、各鏡から同時に魔法を解き放たれる。

勢い良くフロア全体が火と風が飛び刈り、混ざり合い、混合系の魔法『螺旋の炎幕スパイラル・フレイム』へと変化した。

「燃え尽きろ」

【火属性】+【風属性】混合Bランク魔法『螺旋の炎幕スパイラル・フレイム

「「「「ガアアア!?!?」」」」

全方位から降り注ぐ火の嵐。部下たちは回避どころか防御すら出来ず、のたうち回り、苦痛に悶えて、一人一人崩れるように炎に包まれ倒れていった。

「おっ」

ただし、襲い掛かる火の嵐は、ジークによる遠隔操作が全くされてない。
発動者であるジークにも見境なく火の嵐は襲い掛かって来た。

「はははっ、手当たり次第で困ったもんだ。……自業自得であるが───『反鏡外套ミラー・コート』」

軽く笑い声を上げて呟くと、両腕をクロスして守りの型を取る。

【光属性】オリジナル魔法『反鏡外套ミラー・コート

体中を先程の魔法で出来た鏡が包み込む。
発現されて完全に覆い切った瞬間、襲い掛かって来た火の嵐を全て弾き飛ばして、火の嵐から彼を守った。



そして、それが三十秒ほど経ち……。

(五、四、三、二、一……───よし『静雨の風レイン・ウィンド』)


魔法を『無詠唱』で発現した瞬間、火によって荒れ狂うフロアを霧雨にも似た雨が風に乗ってフロア全体を覆い尽くす。吹き荒れる火を消し去り、周囲から煙を起こしていた。

【水属性】+【風属性】混合Cランク魔法『静雨の風レイン・ウィンド

周囲に沸き立つ火を、今度は水と風の混合魔法によって消火する。
それから数秒後、身に纏っていた魔法を解除して、フロアを見渡す。

「ううっ……!」
「ちくしょう……!」
「イテェー……」
「ガ……ア……!」

一応加減して放ったので命に別状はないが、見渡す限り地獄絵図にしか見えない。
まだ消火の影響で煙などが上がっていて、全体を確認出来てないが、それでも大方は片付けることが出来たようで、彼として満足のいく結果だと思われる。

……ただ問題があるとすれば。

「あの執事さんが倒れてるかどうかだが……倒れてますかね?」

頰を軽く掻き苦笑気味に呟くと、ジークは探知魔法と透視魔法で、煙の中からダハクを探し出そうとしたが。



「いやはやっ! 寿命が縮みましたぞ! なかなかの魔法の練度、恐れ入りました冒険者様」



立ち上る煙の中から男の声が聞こえたと思えば、執事服の男性がホコリを払うように苦笑で姿を現す。

見たところ手傷を負ったようには見えないダハクの姿に、ジークは小首を傾げて目を細めた。

(アレだけ受けて無傷だと・・・・? そんな馬鹿な……)

あまりに不可思議な執事の状態に浮かべていた苦笑いが消える。……僅かに真剣みのある顔つきに自然と変わっていた。

「これは……相当面倒なようだ」

ダハクに聴こえないように小さく嫌そうにそう呟く。……どうやら簡単にはいかないらしい。

(特に防御魔法を使ったような気配はしなかったが……)

身を守る直前、執事に向かって確かに火の嵐が包囲したと記憶している。一瞬で燃え盛ったフロアであったが、見逃さないように守る一瞬まで見張っていた。防御魔法を展開する暇などなかったと、少なくともジークは思っていたが。

「なるほど、これほどの使い手ならダガン様やイフ様が敗北なされたのも頷けますな」

目の前で納得顔で頷き右手で顎を触るダハク。
見ていたジークの顔が次第に険しいものへ変わっていく。

(残された手は身体強化で躱すか、強力な防具か魔道具で防ぐくらいだが、……あの短い時間で全方位からの攻撃の嵐を躱したとも思えない。防具も身に付けているのは普通の執事服。多少魔法耐性が付与されているようだが、強力な魔道具の線もない)

それなりに実戦を積んできた魔法使いであるが、先程ダハクが何をしたか予想が立て難くなっていた。

(う〜〜ん、……まあいいか?)

だが、いつまでも熟考してしょうがないと、分析に回していた意識を戻す。さっさと済ませてしまおうと、空間を支配する『魔鏡面世界ミラー・ワールド』に意識を移して体内魔力を練り上げた。

(『魔鏡球ミラーボール』)

練り上げた魔力を注ぎ込み操作に集中する。散らばっている鏡が何箇所にも集い、それが合わさると面が十数枚程ある多角形の球体に変貌した。

【光属性】オリジナル魔法『魔鏡球ミラーボール

全部で七つ空中に浮かぶ。人が隠れれそうな程大きく、ジークの周囲を浮かび彼の指示を待つか、待機して仄かに光を発している。因みにこれによってフロア全体の七割の鏡が削れていた。

「先程は驚きのあまり質問出来ませんでしたが、その鏡の魔法……初めて見る魔法ですね」
「そうですか」

老いていても魔法を見極める目は死んでないようだ。一瞬でさっきの魔法のが何の分類なのか察して、そこから更にジークの表情を窺いながら探るような声音を乗せてくる。

「派生属性としても鏡系統があるなど聞いたことないですね?」
「どうでしょうか?」
「合わせ技でもこれほど精密には……出来かねますかな?」
「どうでしょうか?」
「────オリジナルですか」
「どうでしょうか?」

いちいち返答する必要がないが、なんとなくダハクの質問に返答するジークは、七つの球体に意識を向けて魔力を注いだ。

(行け)

彼の合図によって、七つの球体は散り散りになって飛ぶ。倒れているダハクの部下の元へと降り立つ。

呻き声出し気絶している部下たち。そんな彼らに多角形状の球体は空中で分解されて、広がり包囲していく。
他の六つの球体も同じく柵のようにして、倒れ込んでいる者たちを包囲したのを確認し終えたジークは……。

「『範囲指定移動エリアワープ』」

一定範囲を位置指定によって、空間移動させる移動魔法『範囲指定移動エリアワープ』を発動した。

もともと『魔鏡球ミラーボール』は魔法を遠隔で発動させる為の魔法である。壁や反射の効果もあるが、ジークはコレが本来の使い方だと認識している。

その効果によって自分を中心にするか、目視または移動用魔法陣マーキングが必要であった『範囲指定移動エリアワープ』を『魔鏡球ミラーボール』を目印として発動可能にした。

(あとはよろしく。シャリア♪)

因みに飛ばした先は当然ギルド会館。昨日の内に移動用魔法陣マーキングを増やして置いておいたのでなに問題はない。……シャリアやキリアに言ってない気がしたが、ジークは特に気にしないことにした。

「ほう! 空間移動ですか珍しい! 空間干渉系統・・・・・・は希少でなかなか手に入り難いのですが、まさか……このような場所でお目見え出来るとは、夢にも思いませんでした」

その光景を見たダハクは歓喜のあまり興奮の様子である。ダハクの表情はこれまでジークが見た執事服の似合う老人の顔でなく、未知の魔法に対して戦いの血を騒がせた獣……いや、戦闘に狂った狂人を思い浮かせる顔付きへと変貌した。

だが、それでも一応は執事、自分が仕えている主人が欲するであろう素材が目の前にいることに、ダハクは懐かしい傭兵時代の血を一旦置き、執事として役目を果たすことにした。

「実に興味深い。宜しければ一緒に来ませんか? ルールブの姉妹と共に歓迎しますよ?」
「生憎、誰かに仕えるのは性に合わない性格なんですよ」

勿論そんな下心が見え見えの勧誘に乗るジークではない。ようやく倒れていた部下たち邪魔者たちが消えたのを確認するや発動中の『魔鏡面世界ミラーワールド』に注いでいた魔力を上げて、ダハクを捕らえようと────

「“囲め”」

残った鏡集に命じると、一枚一枚がダハクを包囲して動き回り、徐々に範囲を狭め彼の逃場を封じようとしていく。

「少しは考えては頂けないでしょうか? 我が主人も貴方ほどの魔法師がこちら側に来て頂ければ、今後の実験・・に役立つと───」
「ゲス共のお仲間になる気はありません。お断りします」

耳障りな発言が聴こえそうになり、かき消すようにジークは悪態を吐き捨て敵に冷たい目で見る。これ以上言葉を交わしても不要だと、言うかのように被っていたフードを深く被り直して、再度空間移動の発動に移った。

「では、さようなら『範囲指定移動エリアワープ』!」

ダハクを包囲する鏡達が光り出して、彼をギルド会館に飛ばそうと空間移動の魔法が発動────


「『無力無価オーダー・キャンセル』」


────しかけたが、ダハクが手を合わせ叩く仕草をした瞬間、光がグラつき、歪み、崩れ、煙のように消えてしまった。


時間して一秒にも満たない一瞬で、ジークの魔法を無力化した。


「……!」

その光景を茫然としながら目撃したジークは、無意識の内にある単語を口にしていた。

オリジナル・・・・・……!」
左様さようです」
「っ」

ダハクの澄ました顔見て自分の予想が的中し、マジかとジークは心の中で驚愕した。

(嫌な予感はあったが、原初持ちか!)

昨日ダハクの資料をシャリアから有るだけ見せて貰っていたが、原初持ちとは書かれていなかった為、この展開を予想していなかった。相手は《魔境会》の幹部なので原初持ちの可能性は高かったが、情報を鵜呑みにし過ぎていた。

しかも、予想外なのはそれだけではない。

(俺のオリジナルが破られるほどなのか……)

そう。一番驚いたのは彼のオリジナル魔法がダハクのオリジナル魔法によって敗れたという事実。

魔法には強さか高効果などでランクが存在しているが、オリジナル『原初魔法』には、極一部を除いて・・・・・・・オリジナル同士による上位関係が一切存在しない。

なのでその均衡を破れた時は、相手の魔法の技量あるいは、魔力が自分よりも上回っていたことになるが……。

(魔力量は絶対ありえないとすると魔力操作しかないが、まあ俺の魔力操作じゃしょうがないか。ヘタしたら下級魔法使いより下手かもしれない)

ジークは自身の異質な魔力が原因で、原初オリジナル魔法の操作が不得意なのである。……特に通常魔法が壊滅的であるが。

(もし魔力操作が俺より上だとすると……ヤバイねぇ)

魔力操作技量で負けてる以上ジークがダハクに立ち向かうには、無駄にある体内魔力量で勝負するしかないが、それはかなり難しい。

(全力の魔力全開で攻撃系のオリジナルを使えば、執事のオリジナルを破れると思うけど……したら絶対ダメだ。ここは戦場じゃない。最悪街が危ない)

大戦時は遠慮なく魔力をフルに使っていたが、今はあの頃とは違う首を振るう。自身の魔力操作が難しい。もし全開で魔力を解放したら、彼には地獄絵図しか想像できず、その案を即で取り消しにした。

なので取る選択は───

(まずは効果を調べよう。──『身体強化ブースト』『魔力探知マジックサーチ』)

身体強化をしたあと探知魔法を瞳に付与して、ダハクの魔力を監視して能力の解明へと移した。

(『跳び虎』!)

「──っ!」

更に移動走法『跳び虎』でこちらを余裕な表情で伺っていたダハクに奇襲を仕掛け、一瞬で懐にまで接近して格闘戦に持ち込んだ。

余裕そうな顔から一変、驚愕の顔するダハクをジークは『跳び虎』で速くなった脚力移動の中、してやったりと笑みを一瞬だけ浮かべた。

「シっ!」
「うっ……!」

強化された拳でダハクを殴り飛ばす勢いで殴る。咄嗟に腕でガードしたダハク。体から漏れ出している魔力のオーラからして、ダハクも『身体強化』を使用しているが。

「くっ! ちっ!」

守りに入ったダハクを見て、ジークは連続で強化された拳でダハクの守りを崩そうと謀る。
苦しそうな声を上げ守りに徹するダハク。その結果、衝撃で大気が震え彼等が踏み締める地面が崩れ出す。

「ふっ!」

拳を止めたダハクの腕の部位の服が破れ、そこから戦いで受けたものと思われる幾つもの傷跡が見えた。

「それは……」
「くっ……───ッ!」

腕の複数の傷を見て、この執事の戦歴をマジマジと見た気がして、僅かに目を見開くジーク。

しかし、ダハクはそんな彼の目線が気に入らないのか、目付きを鋭くするや体から魔力を溢れ出す。ジークの探知を付与した目からは、幾つもの輪のように魔力がダハクから放たれ、それがジークの魔力に触れた途端───



ジークが発動ていた『身体強化ブースト』が解除されてしまった。



「っ!?」
「油断大敵です。───『火崩れ』!」
「ッ! ──ガッ!?」

【火属性】Cランク魔法『火崩れ』

ほんの一瞬茫然としたジーク。その僅かな隙をダハクは【火属性】を付与した肘打ちの打撃をジークに叩き込んだ。
普段のジークならこの一瞬の隙でも十分躱せたかもしれないが、『身体強化』を失った今のジークでは、その可能性は皆無であった。

「が……ガハ……!」

モロに受けたダハクの攻撃にジークは倒れはしないが、崩れ落ちそうになっている。当然その隙もダハクは見逃さない。

「ふふっ、残念でしたね───『炎猛波動イグニス・ウェーブ』!」

【火属性】Aランク魔法『炎猛波動イグニス・ウェーブ

「グっ──!」

零距離からの上位級魔法の攻撃。最初の攻撃で倒れかけたジークに、この攻撃をかわす術はなく、火炙りの如き炎が体の内部まで浸透させて彼に襲い掛かってきた。

「まだまだですよ。──捕縛せよ『蛇炎の縛り』」

【火属性】Bランク魔法『蛇炎の縛り』

『省略詠唱』により現れた炎蛇たち。対するジークは先程のまでの火系統の連続攻撃で、足はプルプル震え俯いた状態で辛うじて立っているだけ。『身体強化』が消えた影響で防御力も失われいる。

そんな彼を見て、ダハクはもう躱すことは愚か防御魔法を使えないと判断。長い戦闘経験によって確信していた。

「さぁ捕まえましたよ!」

火系統の拘束魔法で縛られ動きを封じられるジーク。ダメージの所為か殆ど抵抗すら出来ず、膝立ち状態となった彼を見て、ダハク笑みを浮かべながらトドメとなる魔法を使用した。

「これで終わりです。──叩き込め『剛炎鉄槌ストロング・パイロハンマー』ッ!!」
「────」

【火属性】Aランク魔法『剛炎鉄槌ストロングパイロ・ハンマー

もはや呻き声も上がることも出来ない。蛇炎によって身動きも取れないジークへ、ダハクが放った渾身の火のハンマーがその身に叩き壊した。












「……?」

だが、トドメの魔法を叩き込んだその時。
ダハクの耳に微かに聴こえた気がした。


────やっぱりか・・・・・


「な、何が……」

何処か小笑を思い浮かばせる声。ダハクは嚙み締めかけた勝利の余韻からあっという間に冷める。なんともいえない異様な感覚に息を詰まりそうになった。


そして、それは巨大な火のハンマーによって、ジークの体を地べたに叩き込んだ直後であった。

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