オリジナルマスター

ルド@

第6話 歓喜。

悪夢の悪戯デス・タイムから一時間が経過した。
タイミングを見計らっていたか、リナとの話を終えたキリアが入室して来た。

「失礼します。ジークさん、本日お疲れさ……お楽しみだった・・・・・・・ようですね? 出直しましょうか?」
「あ、あはは……ちょ〜っとキリアさん? 入っていきなり誤解を招くような発言はやめてもらえます? 俺たちはただ部屋で遊びを──ってギャーッ!? ホント待って!? ほ、ホントに去ろうとしないでくださいっ!」

“まったく心外である!”といった不機嫌な表情で否定したジークだが、本気で部屋を去ろうとしたので、慌てて縋り付き止めに入った。……その表情はいつになく必死さが感じられた。

「いやぁー……なんだかお邪魔だったかと。まだ時間も大丈夫ですし、なんでしたらもうしばらく席を外していますが」
「いや、外さなくていいから! 今居なくなれたら本気で困るから! お願いだからこれ以上二人っきりにさせないで!?」

というか普段は図太いジークの取り乱した姿。こんな腰の引けた弱々しい子犬のような彼は初めてで、うっかり胸がキュンとして保護欲を掻き立てられたが、咄嗟に正気に戻って咳払いで誤魔化した。

「じょ、冗談に決まってるじゃないですか! そんなに腰にしがみ付かなくても居なくなりませんって!」
「いやいや! この場での撤退発言は結構マジに聞こえるんですよぉ。俺があなたの立場なら部屋に入る前に立ち去ってますって! 絶対っ!」
「……そうハッキリと宣言されると、私も本気で逃げたくなりそうなので、出来ればオブラートに包んで欲しいのですが」
「でしたら、入っていきなりあんな冗談はやめてください。俺もう心身ともに疲れ切って場所考えず、号泣したい気分なんですから!」

キリアの発言も仕方がないことだと彼も分かっている。
だが、それでも訂正しない訳にはいかない。置いてかれるのは本当に嫌なのだ。




「〜〜〜」
「……」
「〜〜〜」
「え〜と……シャリア?」
「ん?」

簡単に説明すると今現在、ジーク彼女シャリアの距離はゼロに等しい。
というか密着している。睡眠から目覚めると、自然に自分の膝の上に座った彼女を見て、ジークは言葉もなく黙り込んでしまった。

(ツッコミ待ち? じゃないか……素か)

とくに気にした様子を見せず、擦り寄るようにジークに背を預けている。
間近で嬉しそうに首を傾げる彼女を見ていると、なかなか言い難い。どうにか紡ぎそうな口を開き苦笑混じりではあるが、言葉を交わそうと交渉してみた。

「あ〜〜、んと、で、出来ればちょっと離れ──「やだ♪」ああ〜〜……そうですか」

(可愛い顔で言われた)

交渉失敗。満面な笑みで見事に拒否られた。
当初はソファーを寝床として一緒に寝ていたのに気付いた際は、「もしかして……やっちゃった!?」とか一瞬アホなことを考えて、慌てふためいていた。

(色々と喪失した気がしたが、それは別物だろうな)

すぐにそれはない思い返したが、あの時のテンパり振りも早々見れるものではなかったと、一緒に起きたシャリアは語る。

「中々の反応だった。また見てみたいものだ」
「出来れば自分のベットで寝てほしかった」

起き上がってしばらく、ソファに座り込んで茫然とするジークに、釣られて起き上がったシャリアは、当たり前のように彼の膝の上に座り込む。彼の腕を抱えるように絡めると、しばらくぶらぶらと楽しげに体を揺すっていた。

一連の流れから二十分も過ぎているが、その間ジークは何も出来ず、只々イスのように固まるしかなかった。

(な、何故こんなことに!?)

もうさっさと帰りたい気持ちで一杯であった。
昼のサナとの小競り合いに個室で起きた敵との交渉と拠点の襲撃。あと狙われた妹のリナの護衛。……もう寮に戻って寝たい気持ちで満載である。

(帰りたい。眠い、眠っていたはずなのに眠いよ)

いつもなら昼休みの休憩中に昼寝したり、サボりたい授業の時に昼寝したり、ガーデニアンの補修をサボりたくて昼寝したりと、……彼の学園ライフの中で最も楽しみなお昼寝の時間を奪われたのだ。

(あー、ホントキツい。真面目に働くといつもこれだ。やっぱり俺には自堕落な生活が性に合ってるよ)

いくら自分のやり過ぎが原因とはいえ、さすがのジークもいい加減にして欲しいとシャリアに文句の一つでも言ってやりたいが。

「〜〜〜」

膝に座り楽しげにしている彼女の後ろ姿を見ていると、どうも良心が痛み動くことが出来ず、文句も言い出せずに黙っていた。

(く、可愛いは正義だと何処かで聞いたが、本当だったか!)

さらに幼女体型とはいえ一応女性なので、無理矢理引き剥がすのは彼の流儀に反する部分があり、困り切っていた。

(あはははは……膝に当たるお尻が柔らかいやぁ)

結局、話が進まず時間が過ぎていくだけで、最終的に話を終えたリナを一旦ギルド内の一室で休ませたキリアがやって来るまで、このまま身動きが取れず妙に嬉しそうに座り込むシャリアの頭を無意識に撫でて待つしかなかった。

(誤解を生まれそうな光景なのは分かるが、キリアさんには察してほしかった!)

入室後、二人に対してキリアも特に気にせず……というか、もういつものことなので諦めている感じがあるが、結局シャリアのお願いのまま、その体勢で話をすることになった。

「では話してくれるか? 友よ」
「はぁ、分かってるよ」
「その状態で会話するんですね」

諦めても言いたくはなる。そんな二人を見て呆れた顔をしたキリアが呟いたが、頭痛を覚えながらジークは聞こえないフリをして話を進めた。

「まぁ端的に言えば、思わぬ拾い物から始まったのかな。今回の騒動は」

ギルド会館に入ってから二時間以上が経過しようとする中、ようやく説明が始まった。
学園で捕まえた《死狼》イフの件、《悪狼》ダガンやその部下達との戦い。そして公園で見つけた謎の執事とロリコン集団について。



そして自分が打った布石について。
協力者の二人に彼は順に伝えていった。


◇◇◇


「敵の力が未知数である以上、決行を早める必要があります」

伯爵が提供した拠点で密談をしていた執事の男性《伝達者メッセンジャー》は雇い主であるケーブル伯爵にそう意見を述べた。 

「ん? 相手が未知数であるのなら寧ろ時間をかけて対策を……」
「確かに対象の行動がハッキリしている以上、残り期間時間を掛けて対策を練るべきかも知れません」

決して一方的に雇い主の言葉を否定せず、伯爵が述べようとしていること察して言葉を引き継ぐ《メッセンジャー》である。

「しかし、ケーブル様。私を含め部下の者たちは、かの冒険者と鉢合わせし、お恥ずかしながら見事に退散させられてしまいました」

お恥ずかしながらと顔は微笑で悔しげな気配は全くなく、寧ろ楽しげにも見えるのは伯爵の気のせいではないだろう。

「私もこれでも元は傭兵の者、相手の力量を見分ける目は持ってるつもりです。ですが、かの者と出会った際は全くと言っていいほど機能せず、相手が動き出すまで判断出来ませんでした。相手はほぼ間違いなく私と同等かそれ以上の者です。時間を掛ければ、かえってこちらが不利になるかと。……《七罪獣》のように不意を突かれる可能性もあります」

“結果全滅”とは口にしないが、背後で聞いていた部下達は、先ほど伯爵から《七罪獣》が見舞われた惨劇を聞いていたので、決して他人事のようには思えない。

薄ら寒さとともに感じた恐怖心。部下達はあの時のどれだけ危険な状況であったかを実感し、蒼ざめる者まで出ていた。

冗談ではないのだ。あの時、臨戦態勢に入っていた自分たちを《メッセンジャー》が止めなければ、《メッセンジャー》はともかく自分たちは確実に全滅していたのだと。

「ふふふっ、なるほど想像以上の相手なのか。だがその割に随分楽しげに見えるが?」

しかし伯爵は、そんな不安要素のある話を聞かされても、別段畏怖を感じた様子もなく、《メッセンジャー》の表情から見える喜びにも似た歓喜の表情に疑問を浮かべた。

「ハハっこれは失礼。なにぶん久しぶりの未知の強敵なので」

今度は本当に恥ずかしそうで、照れた様子で頬を指で掻く《メッセンジャー》は、不意にあの時目撃した冒険者との対面を思い返す。

ローブにフードを付けた冒険者は、顔付きは分からなかったが、随分若い印象を感じさせる声と空気を纏っていた。

僅かに見えた赤い髪に紅い瞳、伯爵からの情報で《真赤の奇術師》と呼ばれる冒険者であることは分かった。 

最後に一番驚かされたのは、かの者が発する魔力である。異常なまでの存在感の無い魔力であったが、かの者の牽制とともにあの場で最も存在感があり、圧倒的な海にも似た奔流をもたらす魔力へと一変した。

「久々に血が騒いでるんですよ、この老体の血が」

長く生きている《メッセンジャー》でもアレほどの魔力の圧力を感じたことは一度も無い。

彼はいつになく心の中で歓喜していく中、改めてこんな自分などが執事など、お堅い役職が似合わない生き物なのだと、伯爵との密談を続けながら理解してしまった。

「オリジナルマスター 」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く