オリジナルマスター

ルド@

第5話 事故?

(もういっそ跳んで逃げようか?)

なんて出来もしないことを考えてしまう。サナをここまで刺激したのは、ジーク自身なので一切擁護のしようもないが、彼の立場を考えれば、逃げたくなるのも仕方ないとも言える。

「さぁ、選びなさい。素直に捕まってさっきの言葉を訂正して引き受けるか。それとも此処で氷漬けにされて放置されるか。──どちらがいいかしらぁ?」

艶かしい程の魅了溢れる笑みを浮かべるサナに、場違いながら僅かに動揺してしまったジーク。内心「不覚ッ!」と悔しそうにして、虚を突かれた気分になったが、その表情には一切見せない。

「ん〜〜そろそろ本当のことを教えて欲しいな。サナ、何故そうまで必死になって俺に頼る?  仮に俺が強かったとして、たったそれだけで最愛の妹さんの身を任せるか?  いや、絶対しない。絶対に安心出来ないしする筈がない」

これまでと同じ質問を繰り返す。まともな回答には期待してないが、感情的な彼女が意固地になっている気はしないでもなかった。

「理由があった筈だ。それらの不安要素を余裕で引っ繰り返してしまう理由が……一体俺の何を知って俺に頼もうと考えたんだ?  本当の理由は一体なんだ?」 

未だ分からないのは、何故ジークに頼ろうとしたかだ。まだ決め手となった理由を聞き出せていないので、去る前に改めて尋ねてみることにしたが、親友であるアイリスも大事にする彼女は話さない。

「だから言ってるでしょう。貴方しかもう頼る人が」

「サナ」

また同じ返答を返そうしたサナの言葉を遮り、ジークは笑みを消して真剣な眼差しを向ける。

「頼むから何を知ってるか教えてくれ?  それさえ教えてくれれば俺も協力しても良いと思っ」

「『氷球アイス・ボール』!」

しかし、そんな彼の言葉を掻き消すように『詠唱破棄』で魔法を放ってきた。

【氷属性】Cランク魔法『氷球アイス・ボール
複数の氷球、ボーリングボールくらいの大きさで数は十を超えて、正確にジーク目掛けて飛んできたが。

「話は最後まで聞くものだ」

先程までの避けるような動きもせず、溜息を吐くと手を前にかざし魔法を──。 

使用はせず、モロに氷球を受けて後ろに倒れ込んだ。

「──がはっ」

「……え?」

呆然としたサナの声が倒れるジークの耳に届く。遠くから女子の騒めきも聞こえる中、動かないまま自分の状態を見もせず確認をした。

(頭部、骨に異常なし。各筋肉繊維も腫れてなさそうだ。咄嗟に『風身』で衝撃を流したが、一発の威力は氷柱と同じくらいあるな) 

そう。ジークは氷球に当たった瞬間。体術柔法の一つ『風身』で体全体から襲い掛かってきた衝撃を、受け流すようにして和らげたが、思った以上に高い威力を持った氷球に違和感を覚えた。
背を地面に向けて倒れると、痛がる素振りを敢えて見せず、ゆっくり上体を上げる。今の場合、見せた方が効果的かもしれないが、呆然と魔法を放った構えで固まっていたサナを見て、そこまで追い詰める必要はないと内心苦笑する。
同時に、やはり今のは感情的に撃ったものか、と威力が高かった理由も納得した。

「あ……ぁ」

その間もサナは呆然として、若干であるが青ざめた表情でいた。まるでやってしまった、本気で攻撃するつもりなどなかった、といった様子である。
それとも彼なら余裕で避けられると思っていたのか。いずれにしろ、此処に来て初めてジークでも分かる程の動揺を露わにしている。あれ程ジークに見境なく攻撃していた女性とは、とても思えない表情を浮かべて立ち尽くしていた。

(このぐらいで止まるのか。やっぱり感情任せなところが弱点だが、対人慣れしてないのも問題だな。以前俺に制裁を加えてた時も平手ぐらいだったし、他の連中と比べても甘い気がする)

多少刺激的な場面を作っただけで固まってしまう精神状態にも困るが、まさか同じ質問をしただけで加減を無視してぶつけてしまうとは。今までも当たれば非常に痛み苦しむ攻撃ばかりだったが、今度のは彼以外の一般の生徒では、無事では済まない一撃だった。

(俺との交渉が上手くいかなくて、余計に焦って加減が出来なくなってる。精神的な負担が影響しているようだが、さて、どうしたものか)

思考を巡らし次の手を考えようとするが、取り敢えず立ち上がって、少しずつサナに近付き手を伸ばしてみる。

「っ!?」

そんなジークの行動に怒りどころか闘志も無くしたか、サナは怯えにも似た顔でゆっくりと後ろに退がって行く。

どうしたものか、といった笑みで手を伸ばすジークに怯えた表情で退がるサナ。状況は完全に逆転してしまって少々ややこしくなったが、それでも先程までの凍てつくような空気よりはマシなのかもしれない。

だが、この時二人は周りのことについて、一切考えていなかった。二人の会話が聞こえない者たちからすれば、ジークがサナに攻撃されて、今度は怯えるサナを攻めているようにも見えた。つまり攻守の逆転でサナの危機的な状況だ。
それがサナ、いやジークの失敗であった。
この場に居る者たちのことを考慮していなかった。

──ッ!!

(殺気?)

突如、体を突き刺すような鋭い殺気。弱いものだが、肌に感じたジークがチラリと感じ取った方へ視線を向けると……。 

「サナさんから離れなさいッ!」 

「え?」 

「ッ──シユ!?」

向けた視線と同時に耳に届いた、奇声に似た女性の叫び声。声に反応してサナが名前を口にしたが、それどころではない。
既にすぐ側まで接近してた一人の女子。女性陣の一人が駆け出していた。

「ジーク・スカルスッ!」

危機迫る表情でジークに親の敵でも見るように、睨みながら襲い掛かって来た。

「や、やめ──」

突然の乱入に茫然としていたサナが我に返る。慌てて女子生徒を止めようと声を張ろうとしたが遅かった。
殴り掛かった女子の拳は、もうジークの顔面に届く寸前。助走を付け分勢いがあった振り絞った拳は、そのまま振り返ったジークの顔面へ……。

到着しなかった・・・・・・

「──よっと!」

「く──ぅ!?」

「女子がグウパンチとは如何なものか?」と思考の隅で考えながら、今は避けることが優先だと素早く躱してみせたジーク。ついでに殴り掛かった腕を掴み、逃さないように動きを封じた。

「うっうっ!」

「ハイ捕獲。大人しくしてもらうぞ?」

あっさり拘束された女性は、掴まれた腕を振り解こうとしながら恨みを込めた目で睨んでくる。咄嗟に足で踏みつけて来ないところ見ると、戦闘方面はあまり得意ではないらしい。

(この子も感情的な子だなぁ。……けど、こいつじゃない)

睨まれている本人は気にした様子はなく、外れクジでも引いた気分で残念そうに溜息を吐く。
と次の瞬間、更にその場に変化が起きた。

「シユ!  何してるのあなた!?」

あまりの急展開にさっきまで茫然としていたサナが、叱るように拘束される女子を見つめる。理由はどうであれ、流石に無視出来ない女子生徒の暴挙に、ジークが拘束されている女子に詰め寄ろうしたが。

「「「サナさん、退がってください!」」」

「っ、あ、あなた達!」

飛び掛かって行った女子に感化され、他の女性陣もやって来てた。詰め寄ろうとしたサナの前に出て、背を向けた状態で目の前のジークと対峙する。

「何かな?」

女子を拘束したまま自分とサナの間で、壁を作る女子陣に問い掛ける。なるべく優しく対応してこれ以上の悪化を防ぎたい。隠されたサナも同じな筈だと語りかけようとするが。

「これ以上は我慢の限界です!」

「サナさんが何で貴方なんかに話掛けたか知らないけど」

「お前のような女誑しをいつまでも野放しには出来ない!」 

「それ以上サナ先輩に詰め寄るなら、タダじゃ済みませんよ?  最低先輩」 

返ってきたのは、まさかの理不尽な罵倒の散弾である。生憎彼はMではないので全然嬉しくない。全員顔が可愛いから、大半の男子も堪えてしまうだろう。

──ただし。

見つけた・・・・
 
目の前の男性はそんな罵倒も無視できるものを見つけて、内心笑みを浮かべていた。

「さぁ話は終わりです。出て行って下さい!」

「「「出て行けッ!」」」 

「ちょっと待ってあなた達!?」

背後で叫ぶサヤを無視して、締め括ろうとする女性陣。いつの間にか拘束されていた女子も解放され彼女たちに混じって、ジークに出て行けと声を張っているが。

(どう捕まえる?)

そんなどうでもいい女性陣の罵倒よりも、まず確かめねばならないことがあった。だが、それは簡単なことではない。すぐに策を思いついたが、実行すると即面倒になる可能性も高かった。

(さてさて、どうなるか) 

だが、この機会を逃すのも惜しい。心の中で呟くと、誰にもバレないように魔力を練り出して、『無詠唱』で魔法を発動する。
彼が得意とする原初である『オリジナル魔法』の二つを・・・

(『武装解除パージ』!  『物資簒奪シーフ』!)

一つ目は、相手が持っている物、或いは身に付けている物を外す魔法。
【無属性】原初魔法『武装解除パージ

二つ目は、選択した物を自分の手元に回収する魔法。
【無属性】原初魔法『物資簒奪シーフ』 

誰にも気付かれないように、この二種類の魔法を発動した。

「あ」

……だが、ここで思わぬ自体がジークの身に発生する。練り上げた魔力を操作して発動させたところで、流し込む魔力の加減を間違えた・・・・・・

(やばい、抑えが……)

すぐに出力を下げようとしたが、バレないように同時に発動させたのがマズかったか。既に出力操作が出来る状態ではなかった。情けない話だが、こうなってはジークでも目立たないように止める術がない。

少し話をズラすが、最強の魔法使いであるジークは、原初である『オリジナル魔法』は得意だが、相手に直接干渉する魔法が大の苦手である。
理由は自身の中にある膨大な魔力を、まだ上手くコントロール出来ないからだ。戦闘方面では問題ない範囲の魔力操作は出来るのだが、治療、回復系など助ける際に、相手に直接魔法を使うことに関しては、未だに完璧に習得出来ていない。
オーク戦で使用した『聖霊の謳歌』が良い例である。あの魔法も基本は自分か相手に掛けるタイプなので、今のように加減を間違えると取り返しの付かない。だから相性と同じくらい使うのを躊躇っていた。

そして今回発動させた魔法は、両方とも干渉系の魔法だ。どうやら片方の『物資簒奪シーフ』は無事に成功しようだが、もう片方の『武装解除パージ』は注ぎ込んだ魔力の加減を危めてしまった。終わったのは、視界に飛び込んだ時だった。


「……」

「「「「……」」」」
 
そして黙り込んでしまうサナと女性陣。突如脱ぎ捨てられた服を呆然と見つつ、感情が消えた瞳でジークを見た。……これも効果か脱がされた服は一切破れていない。

(お、素晴らしい……て言うべきか?)

対してジークの目に映ったのは麗しい下着たちだ。いろんな色と形をして下着から見える、綺麗な肌と巨乳、貧乳、美乳に目が奪われる。男なので下の方の状態も・・・・・・・気になったが、それは駄目だと言うお告げが聞こえた気がしたので、下に落ちそうになる視線を上げながら、なるべく見ないようにしていると。

「ジーク」

「は、はいっ」

格好とは裏腹に、未だ感情が露わになってないサナの呼ぶ声。思わぬビシッと背筋を伸ばしたジークだが、これは非常にマズイと本能が訴えていた。

「これを……やったのは貴方?」

頭の中で警報が鳴り響いている。冷凍保存されたくなければ、早く逃げなさいと、誰かが叫んでいる気がしたが、彼は動くことが出来なかった。

「あ、あはははは……」

もうどうしたらいいのかも分からず、ただジークは笑うしかなかった。そして、ここに来て一番のわざとらしい、乾いた笑い声が屋上に弱々しく響いた。さっきまでサナが青ざめていたが、今度はジークが青ざめる番だった。

だが、すぐに襲われなかったのは、ここに居た全員が花も恥じらうような、初心な女性たちだったからだ。
一部の女性は呆然としたまま、自分の姿を見てジークを見てを繰り返し思考が停止していた。更にもう一部の女性はいち早く正気に戻ったが、自分のあられもない姿に赤面し、慌ててしゃがみ込んだり、両手で胸と下半身の部分を隠して動けないでいる。
残りの女子は涙目だったり、真っ赤に染まって固まったりと様々であるが。

その大半が今にもジークのことを、射殺するのではと思える程睨んでいる。冗談抜きで始めて死の危険を感じ取ったのは言うまでもなかった。
 
「ジーク」

そして問い掛けてから黙っていたサナが震える口を開く。しばらくして顔面の硬直が解けたか、他の女子と同じように顔を真っ赤に染めてプルプルと体を震わしている。

(揺れた!  饅頭みたいにフルフル揺れた!)

羞恥三割怒気七割といった感じか。その拍子に彼の視界にある巨大な双丘もプルプルしたことに驚愕するが、本当にそれどころではなかった。同年代であれだけの大きさを見るのは初めてなのか、女性に慣れているつもりだった彼も取り乱していた。

彼女の下着は髪にあった黄色柄で特に胸の部分がヤバい。健康そうな肌色に下着を押し上げそうな程ある膨らみ。あまりに色々と露出が高いサナの姿に固まってしまい、上手く言葉を発せられなかった。

だから、次の問い掛けに対してありえない程のミスを冒した。

「何か言い訳はあるかしら?」

(っ、ここで返答を間違えれば命はないっ!)

どの神々よりも素早く確信した。普段は見せない程の真剣な表情で、サナ率いる女性陣に向かって……。

「取り敢えず言わせて下さい。事故です!」

ここまではなら、まだマシだった。かもしれない。

「でも満足です!」

少なくとも、この返答はなかった。

「ありがとうございます!」

正直打ち明けました。といった様子で、自分の欲望も一緒に吐き出してしまった。

「分かったわ。──殺りましょうか」

「「「「はい」」」」

「え?  ──ヒャァアァアァアァアァアアァア!?!?」 

話は最初に戻り、ジークは下着姿のサナと女性から逃げ回ることになった。
最初は彼女たちの下着姿を他の生徒に晒すのを避けて、屋上で逃げ回っていたが、女性陣がどんどん過激になって・・・・・・・・、捕まえようと攻撃的になってしまい、最終的に一番過激になった・・・・・・・・サナが上級の範囲魔法まで使用してきた。
さすがに身の危険を感じて、常備していた煙幕玉を使って屋上から下の階に続く扉……ではなく、転落防止柵を音も無く越えて姿を隠した。最初からそうすれば良かった、という気持ちもなくはないが、結果サナたちの嵐のような制裁攻撃から回避することに成功した。

途中、騒ぎを聞きつけたガーデニアン先生が屋上に駆けつけて来たが、視界に映った楽園にコンマ数秒で鼻血を噴き出し、床に血溜まりを作り気絶したという事件があったが、立ち去った彼が知る筈もなかった。


「──さてと・・・、動きますか」

そして、表舞台の幕を降ろしたところで、教室に戻らず彼は動き出す。
厄介なことをさっさと終わらせる為、裏舞台で暗躍する為、ジークは行動を開始した。


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