オリジナルマスター

ルド@

第4話 策略。

初等部と高等部、その校舎の壁には全て魔法耐性がある、特殊な石が含まれている。自然界にある物で、効果としては魔力の干渉軽減、魔力吸収などが含まれた原石だ。

たとえば攻撃系の魔法でその石に攻撃しても、石はその魔法の威力を軽減させる。

更に魔力吸収で魔法そのモノを直撃と同時に吸収してしまう。それにより、魔法は石に傷一つ付けることが出来ず消失してしまう。

しかし、物には限度がある。この特殊な石も一回に軽減出来る魔力と吸収量は決まっている。その為、一定以上膨大な魔力を一度に受けてしまうと、石は耐え切ることは出来ず砕け散る。

本来は学園の訓練場や実験棟などで、訓練の効率化や暴走事故の為に備えられている。何故授業などで使用される場所以外にも、こういった素材で出来ているのか。

生徒同士のトラブル防止の為だ。

訓練や模擬戦で魔法を多く使用される魔法学園では、学生同士トラブルなどがよくある。その喧嘩の際に校舎などに損害が出でしまうことがあり、最悪の場合は喧嘩が過激化して死人が出てしまうかもしれない。
そういったことを回避する為、学園側はこういった処置が行っている。表向きは敵国や魔物が襲ってきた時の為の防衛策となっているが……。


「相変わらず避けるのは上手いわね」

「……初めてかもな。お前に褒めらるなんて」

【氷属性】のCランク魔法『激流の氷柱トレント・アイシクル』を、サナはジークに向けて撃ってきたが、あっさりと躱して放たれた氷柱の上で彼は立つ。冷たい眼差しでサナが睨んでいるが、彼は薄い笑みで見据えていた。
激流の氷柱トレント・アイシクル』は床や壁などに直撃していたが、壁など含まれている対魔法効果の影響でヒビ一つ入られることは出来ず、徐々に氷から煙となって小さくなっていく。
二人から離れた場所で、控えていた女性たちが先程以上に騒めき立つ。ヒソヒソと忙しなく口を動かしてるのは、サナの指示通り動かないか、それとも動くべきか迷っている様子だった。

「もう一度だけ言うわ。撤回しなさい……潰すわよ?」

「あはははっ、怖いな〜」
 
わざとらしく怯えた風に言うジークだが、サナの冷たい殺気にも動じず流している。さっきまでは戦う気もなかったので彼女の殺気にもビビっていたが、攻撃してきた時点でそんな冗談など・・・・・・・もうする必要もない。

「お願いだから……リナを巻き込まないで」

「違う、巻き込んでるのはおまえだ。それに妹さん以上に関係ない俺を巻き込もうとしてるおまえが……言える口か?」

珍しく棘を含ませた声音のジーク。彼女のやり方にイラっときたか、少しであるが素の自分を表に出してサナを責める。理由がなんであれ、強引なやり方で人を巻き込むことなど彼でも許容出来なかった。

「……それについては申し訳ないと思ってる」 

「嘘は良くないなサナ。お前は妹さえ守れれば誰でも巻き込、いや……利用するんだろう?   ──貴族のように自分の都合で」

サナの言葉を否定して、自分勝手だと断言する。忌み嫌う貴族と同類だと言ったのも本心だろう。普段浮かべている笑みはなく、嫌悪感を滲み出していた。 
彼の言い回しに少しの間だが、睨むのも忘れサナは呆然とした顔でジークを見上げ、唇を震わせる。滅多に見ない彼の苛立った顔に戸惑っていた。

「じ、ジーク……」

「これから妹さんに会って全部話す」

「──っ!?」

「どうしても巻き込みたくないなら……全力で止めるんだな」

薄い笑みで小馬鹿にするかのように口にするジークに、サナは目を見開いて、小さく震える口から辛そうな声音を漏らす。

「……分かってたのに……そういう人だって分かってたのに……!」

妹の話をしたことを、今になって後悔した。本当に今更であるが、それだけ彼女も余裕がなかったとも言える。

「貴方はアリスを傷付けた。でも、それは何か理由があってのことだって思ってた」

ジークに話しているのか、それとも独り言なのか、サナは俯き途切れながらブツブツと呟く。

もう一杯一杯なのだ。父に言われ『オリジナル魔法』の継承と次期当主の席。そして自分に開け渡そうとするリナだが、サナは彼女こそが相応しい筈だと確信していた。すぐには無理でも説得してようと考えていた。
なのに『オリジナル魔法』を狙う者たちまで現れて家の方は混乱してしまい、これ以上ないくらい心に余裕などなかった。 

(私の力では妹を守れないのに!)

家の人たちも信用出来ないサナには、アイリスが推薦した彼しかいなかった。いなかったのだ。
親友を捨てた学園一の嫌われ者だけど、彼に任せればリナの身は守れると、彼女が一番信頼しているアイリスが言ってくれたのだ。

「もう行っていいか?  残念なことに予定が出来た」

「──っ!」

辛辣とも聞いて取れるジークの台詞。
それがサナの僅かに残っていた躊躇いを粉々に消し去った。

「もういいわ。それなら覚悟しなさい。──潰してあげるから」   

その一言でサナの周囲の空気が重く、一気に冷えていった。再びジークの周りから、前の氷柱を覆うようにして、新たな氷の柱が襲いかかってきた。


◇ ◇ ◇


(さっきもそうだけど、Cランク級を『無詠唱』とは、やるなぁ。でも──掛かった) 

周囲から襲い掛かる氷柱を余裕を持って躱しながら、『無詠唱』で魔法を器用に操るサナに感心していた。

(相変わらず短気だ。少しだけ悪意をチラつかせただけでこの様だ)

まだまだ弱いが、押し潰そうとする殺気を浴びながらも、ジークの口元には薄い笑みが浮かんでいる。四方から飛び交う氷柱を躱して、視線をサナに固定していた。

(キレた割に正確な攻撃。殺す気はないが、当たると激痛は避けられない威力だ)

観察するように魔法を連発する彼女を見る。怒りを感じるがまだ躊躇いもある攻撃からして、完全に頭に血が上っている訳ではないようだ。当たれば大変だが辛辣な態度と比べると、やはりまだ甘いと感じた。

「もっとクールにいこうぜ?  せっかく美人顔が台無しだ」

「貴方がホットにさせたんでしょうが!」

反射的に発せられる怒号と共に、再び降り掛かる氷柱。数は先程の倍以上、同学年の生徒でもこの雨の如き矢を躱すのは至難の技に見えるが。

「はははっ、魔法は冷たいけどな」

余裕なジークは薄い笑みのまま、降り掛かる氷柱の中に飛び込んだ。予想外の行動にサナから驚きの気配を感じたが、彼は止まることなく氷柱の雨の中へ。

(『派生属性』の1つである【氷属性・・・】とは、……流石ルールブ家の秘蔵っ子だが──まだまだ甘いな)

「なっ!?」

飛んでくる氷柱の全ての射線を見ただけで把握する。驚愕するサナを他所に、氷柱と氷柱の間を縫うように飛んで躱し、呆気ない様子でサナに近付いた。

(どうせなら誘導操作や追加魔法も、仕掛けておけば良かったのにな)

幾ら無数の氷柱で視界を埋め尽くそうとしても、サナの腕はあくまで学生レベル。学生内で高い技量でも一流よりも劣るのであれば、一流以上の彼には通用しない。この程度の回避行動など、彼には造作もなかった。

「驚き過ぎだ。逃げるのも得意だけど、躱すのも得意なんだよ」

「っ!  ジーク!」

一応保険として回避が得意だと付け加えると、余裕で躱した彼を見て『無詠唱』で『身体強化』の魔法を発動するサナ。氷柱の操作を中断して強化した体で、接近してきたジークの胸に鋭い手刀突きを打ち込んだ。

「お……っと!?」 

打ち出された突きに驚きの声をあげるジーク。体術の心得でもあるのか、彼女の突きは槍の突きのように鋭く彼に伸びて迫って来た。
思わぬ手刀突きに驚く彼を無視し、一気に彼の胸の中心。鳩尾の部分へと吸い込まれようとした。

「──はは、なんてな」

「──!?」

だが、届かなかった・・・・・
寸前でジークの左手が襲い掛かってきた右手の手刀よりも速く。そして優しく掴み取って勢いを殺して止めた。さっきまでの動揺した顔が嘘だったように、余裕の笑みでサナの一撃を防いで見せると。

「言い忘れてたけど、俺は攻めるより守る方が得意なんだ」

「っ!  ジークゥ!」

掴む手を引っ張りサナの顔を引き寄せる。間近まで寄せると厳しい顔で睨む彼女に、得意げな笑みを浮かべて覗き見る。噛み付かんばりの彼女にも動じず、内心やはり短気で危ないと感じた。

(ここでしっかり打っておかないとな)

バッと彼の手を振り解くと距離を取り、怒りのままにまた無詠唱で氷柱を放ち始めた。
彼女は学園どころか街でも有名な名家の令嬢だ。ハッキリ言えば目立ってしょうがない家の娘だ。
ジークの一番の懸念事項は、貴族の中でも目立つサナが単独で動いた場合だ。バレないように隠密的に動こうとするかもしれない。だが、素人な彼女の技術では、すぐにバレて間違いなく捕まってしまうか、或いは好機と見られ襲われてしまうだろう。

(単独で動かれるのが一番困るからな。一緒に行動するのもありえないが)

仮に他の選択を取ったとしても、彼女が単独で動いた時点で大問題なのだ。護衛を務めるジークは、そんな展開など絶対起こさせる訳にはいかない。

(なら、今日はもう大人しくなってもらおうか?)

そうして考えた結果、思いついた手がこれだった。
断った上で怒らせて暴れさせる。その上で怒りのまま魔法を乱発させて、今日はもう戦えなくさせることだ。

「ジーク──っ!」

結果は成功した。戦い易い屋上であることや、彼自身が避けるのが得意なことが重なって、最初はまだ躊躇いがあったサナも、今では沸き立つ怒りに駆られながら魔法を連続で使用する。激情に任せて撃ってくるが、避けるのは容易いので全て無駄撃ちに終わっていく。

(魔力切れはまだ先だろうが、これなら次に移っても問題ないか?)

後方にいる女子たちもヒヤヒヤして見守っているが、それも時間の問題である。迫ってくる氷柱を躱していたジークは、また隙を狙ってサナの間近まで接近をする。咄嗟に手を振るった彼女の手を掴むと、わざとらしく掲げるように掴みながら上げた。

「思ったより手がすべすべだな?  ちょっとビックリだ」

控えている女子たちに見せ付けるように、肌触りの良い手を掴で少し驚いて見せる。今回は彼が狙ったのは後方の女子たちであった。

しかし、一番に影響を与えたのはサナだった。更に怒らせることも考えてはいたが、ジークはそこまで意識してなかった。つい握ったように見せてたが、本当にすべすべして手をにぎにぎしてしまい、セクハラ紛いな状態となってしまった。

「──っっ!?  ヘンタイッー!!」

急激な悪寒に駆られたサナは、もう片方の手ですぐさまジークの頰を殴り掛かる。加減など一切ない。本気で吹き飛ばすつもりで『身体強化』に任せて振り抜いた。

「お──っと!」

だが、サナの拳が届く前にパッと手を離したジークは、顔だけズラすことで拳を躱してみせる。伸びた腕に左腕を絡ませると、一時的に動きを封じた。

(お、意外と役得?)

その際に体と体を密着する。体の左側から彼女の柔らかい感触と温かさを、服越しに感じ取り不覚にドキッとした。

(うわっ!  髪が目に……)

振り抜いた際の勢いのまま、揺れた彼女の髪が降り掛かる。視界に散らつく彼女の金髪と漂わせる華のような甘い香りに、目がクラクラしそうだった。

「くっ!  離しなさいっ!」

「いやいや、離したらまた殴るでしょう?  此処まで接近すれば殴──ッ!?」

事実上両手を封じたつもりでいたが、足に──肉付きの良い美脚について全く考えてなかった。
離そうとしなかった彼の足に向かって、サナは強化された足を踏み付けた。

「ぎゃ、ギャァァァ!?  ふ、踏むなよっ!?」

「だったら──は・な・し・な・さ・いッ!!」

「ガァアアァアアァァ!?」

そのまま足をグリグリさせる。ジークが焦るようにして叫び出すが、潰しかねない力で押し潰そうとする。 
早々に拘束している腕を解いて離れるべきだが、サナの様子を見る限り、とてもそれだけで許される気がしない。

(離した瞬間、潰されそうッ!  今度は大事なところをッ!)

だが、思いっきり足を踏まれて普通には脱け出せない。さすがに痛みに苦悶の表情になるが、すぐにでも踏まれてる足を救助しようと、使いたくはないが『部分強化』で足の強化を行った。

(回避技法──脱・出!)

「え?」

踏付けていた足の感覚が消えたことで、サナから素っ頓狂な声を漏れる。気が付けば掴まれていた手も解放されており、自分から少し離れた場所で踏まれていた足をぷらぷら揺らして、涙目になっているジークが立っていた。
足の痛みに堪えるように眉間にしわを寄せると、涙目でサナを恨めしそうに睨んでいた。

「っ〜〜〜〜容赦ないなぁ!?  足が潰れかけたわ!」

「……どうやったの?」

「はぁ?  どうって……足を強化して抜け出しただけだが?」

疑問顔で問い掛けてくるサナに、ジークはなんでもない、といった表情で踏まれた足をフーフー吹きながら簡単に説明した。

「ふぅ……体術柔法の一種だ。そっちだって似たようなものだろう?」

足をもう一度ぷらぷらして感覚を確かめるように動かす。問題ないと確かめると、足踏みして後で彼女に視線を向けた。  

「もうやめないか?  向こうも騒ついてヤバそうだしさ」

出口付近で今にも飛び出そうとする女性たちを見て、イヤそうな顔で提案するジークだが。

「貴方がさっきの言葉を撤回するなら──氷漬け程度で済ませてあげるわよ?」
 
そんな彼の提案を突っ撥ねた上で、逆に追加の提案をしてくるサナ。それも冗談でなく止める気など毛頭ないのが、見て分かるほど本気の目をしていた。

「あははは……。カンベンして」

一体何が程度なのか、彼にはさっぱり分からないが、もう十分かも知れないと内心感じ取った。

(まだ魔力は残っているが、今日何か仕出かす分として心許ない筈だ)

十分に暴れ回ったとみて問題ないと判断したジーク。あとはここから逃走するだけだと視線を出口の方へと向けるが、そこでまた嫌そうな表情を浮かべる。今度のは更に厄介になりそうだと、いった感じの顔でだ。

(なんとなく予想はしたが、出来れば違ってほしかった。幾ら何でもアレを避けるの苦難の技だ)

さすがに強行突破は厳しいか、と思いながら出口で立ち塞がっている大量の女子陣障害物に目を向けた。

「あら、今になって気付いたのかしら?」

そんな彼の探るような視線に気付いたのか、少し冷静になったサナが笑みを浮かべた。

「逃がさないわよ?  出口はあの子たちが塞いでる。逃げ場はないわ」

「どのみち俺が断ってたら逃がさないつもりだったってわけか?  ヒドイ話だ」

選択がNOの時点で氷漬けは決定していたか。正直のところ危機感は全くないが、屋上まで彼と一緒に女子たちも連れて来た、彼女の狙いに彼はようやく気付いたのだ。

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