こっそり守る苦労人 〜隠れ異能者の日常〜

ルド@

次のご相談とは…天然なお姉さんだった。

夏も近いからか、武の機嫌が普段より悪かった(だいたい日常的に悪い)。

「前回の反省すべきことはなんだろうなぁー?」

「武、顔が怖いぞ?」

「誰の所為だと思ってる? 元はと言えばお前の所為なんだからな!? アレはどういうことかって、こっちまで九条から説教くらったんだぞ!? アイツがキレるとマジで怖いのはお前もよく知ってんだろ!?」

仁王立ちの武がイラッとした顔でそんなことを言って来た。

しかし、確かに凪は怖かった。いったい何回斬って来んだって思ったし、マジで痛かった。手加減しないもんアイツ。真剣だったら即死どこかスプラッターな光景が出来て、とばっちりで剣道場が閉鎖されてたぞ。

場所は武の家。こいつの部屋で勉強をしていたが、突如前回の黒河の一件についての反省会が始まった。切っ掛けは、隣の部屋から合流する感じで勉強会に参加して来たこいつの姉である。

「へぇーそんなことがあったんだぁー」

「へぇーじゃねぇよ姉貴ぃー。こっちは本気で死を覚悟したんぞ。キレた九条も怖ぇが道場の連中もヤバかったからな? 吹き飛んだ黒河を見てみんな真っ白になったぞ?」

惚けた顔でも色っぽいのは天然の女神様だからだろう。……ラフなTシャツと短パン姿が……何かえろいな。あとツッコミもなしですか。

石井いしい由香ゆかさんは中学3年の先輩である。

生徒会も務めている学校一の有名な女神様だ。変人的な意味で有名な武や恐ろしい意味で有名な凪とは違う断じて!

中学生でありながら既に母性で満ち溢れているから、学年関係なく男子生徒はほぼ全員が陥落! その噂は他所の学校まで広まっており、よくナンパやら告白されている。

「それこそ姉貴をナンパしている連中が勘違いで零を襲い掛かって、見事に全員撃退された時くらいに」

「そんなに派手だったか? 骨も外してないし、打撲跡も付けてないんだぞ?」

「その全員がトラウマ抱えるレベルで、逆さ吊りにされてなかったならな。オネェさん・・・・・バーの店前で」

「また来られても面倒だと思って……」

「助かっているけど、男としてはやり過ぎな…………いや、何でもない」

何とも言えない様子で武が苦笑いする。
実は護衛を頼まれて撃退した経験もある。彼氏と勘違いされて狙われたが、なるべく穏便に済ませたつもりだよ?

オネェさん・・・・・達も大喜びしてくれて、丁重に歓迎して上げたらしい、武的にはNOだったか?

「でもあの人数で病院ごとならなかったから、わたし的には有り難かったけどねぇー」

まぁ、この人もまた迷惑を掛けた人の1人だ。今年は受験生なので受験が終わってから尋ねようと思っているが、正直何注文されるか不安はあった。

「すっげえ脱線したけど話を戻すぞ? はぁー前回の反省点だが」

こうして前回の反省点……黒河との不祥事が由香さんの前で明るみになった。

不祥事とは大袈裟な気もするが、女子を吹き飛ばした際の凪のキレっぷりを思い出すと……ハイ、スミマセン。どう見てもやり過ぎました。

「ソニックブームを出すなってことだよな。一応物が壊れない程度に加減して黒河も無傷で済ませたが、アイツのロリ体系を計算に入れてなかった。……軽過ぎたから簡単に吹き飛んだよ。子供体型だから」

「この場に黒河がいなくて本当によかったな。はぁー姉貴、ご説明を頼む」

「誤ってみきちゃんをすっぽんぽんにしなくて良かったねぇ」

「服だけを切るってことですか? 出来なくはないですが、大衆の面前で全裸にするのは流石にやりませんよ?」

「そう言う問題じゃねぇよ姉貴!? ソニック何たらを出せてる時点で既におかしいってことだよ!? チートキャラも大概にしろって話だよ!」

「お、おお……そうか」

くわっ! 顔を近付けて凝視された。う、野郎の顔とかキモいから。そこは由香さんなら最高なのにっ!

「ん? なぁーに?」

「いえ、何でも」

前言撤回。理性的な意味で危険なので無しな方向でお願いします。可能でしたら優し目からでお願いします。

「はぁー、せっかくだから訊いておくが、あと何人やるつもりだ? 黒河だけじゃないんだろう?」

「何人やるか……セリフだけだとリア充だなぁー」

「ひゃー、零くんぷれーぼーい」

「いやー」

照れますなぁ。全然実感ないけど。
あと凪がいなくて本当によかった。居たら100パーからかわれる。あの悪魔なら学校中に言いふらしかねないからな!

「一々話を脱線させるな! 姉貴も下ネタに便乗するな! 弟して普通に嫌すぎるわっ!」

「「あははは、ごめんねー? たけしぃー」」

「あははは、ハモるなよぉー? ◯っ◯したくなっちゃうだろー?」

あ、この世界だと伏字認定なセリフが出ちゃった。ニコやかに微笑んでるけど、危険な気配しかしないや。心なしかブチギレた阿修羅さんが見える。

創造者も「その辺にしておきなさい」なんて言っている気がするし、座布団に座り直すと胡座あぐらを組んだ。真面目モードです。

「あー、質問の回答だけど……正直悩んでる」

いいかげん拳か蹴りかシャーペンでも飛んで来そうなので素直に答える。実は由香さんも興味津々だったようでキラキラした目を向けていた。

……もう少し離れた位置からお願いしたいけど、はい、無理ですね。

「凪はまだあとでいいらしいから後回しだ。葵も対象の1人だけど、今は無理っぽい」

「ま、いきなりは無理だろうな」

「年頃って言うのも理由だと思うけどねぇー。でも大好きな筈だよ!」

「見事に毎日避けられてますけどねぇー」

葵の話をした途端、キレ顔の武も難しい顔になる。由香さんもフォローしてくれるけど、返答に困るセリフしかない。年頃だから困ってるんですよぉ?

「葵ちゃんも一旦保留しかないだろう。なら他の奴にするのか?」

「知り合い全般だけど、とりあえず次は……「わたしでいいよぉー」……え?」

そこで手を上げたのは、なんと由香さんでした。まぢですか?
気を遣って後回しにしていたが、まさか本人から求めてくるとは……。

「いいよねぇ? 零くん?」

「いい……けど」

よろしいのか? どうせ訊く予定ではあったが、時期が時期だから流石に抵抗があるぞ。

「ちょっといいか?」

聞いていた武が難しそうな顔で姉を見る。
何を言いたいかは大体予想は付くが、俺は黙って見ていることにすると。

「姉貴よ、受験は?」

「ふふん! どうだと思う?」

苦戦していたら学校側がおかしいよな。
弟の質問を質問で返す姉。見ている俺は考えるまでもないと、口にはしないが即答した。

由香さんの学力なら何処でも行けるだろう。受験先の高校も聞いているので、余程の非常事態……それこそ試験自体を受けれなかったとかなければ余裕であろう。

「楽勝ぽいな、チクショウ!」

訊かなくても武も分かっており愕然としている。悔しいなら訊かなきゃいいのに。
運動系のスペックは結構高いけど肝心の勉学面は……。

「何だ、その目は?」

「哀れな生き物を見る目」

「その生き物って人間だよな!? 別種族じゃないよな!?」

「哀れな物を見る目はOKェなの?」

「ダメに決まってるだろうが! あとエセネイティブなのが腹立つからやめいっ!」

そもそも勉強会の理由がお前なんだから、しょうがないだろう?

口にはしないけど表情で読めたか、武は悔しげな顔で睨んで来るが、正直に言わせたいのか?

「ゴ、ゴホン! で!? 姉貴は何をお願いするつもりだ!?」

「露骨な話の逸らし方だけど……そうだねぇー?」

苦しい感じで話を振る武。……姉に負けた弟とは、いつ見ても哀れだな。原因の1人である俺が言えた義理ではないが。

「あ、そうだー!」

話を振られて考えていた由香さん。思い付いたようにぽんと手を叩くと、ニコニコと笑みを浮かべる。その笑顔を見る側からすれば、癒しの一言に尽きるだろう。

見ただけできっと男子なら何人も堕ちてしまうに違いない。

「ねぇ? 零くーん?」

ただ、その笑顔を真っ正面から受ける立場として言わせて貰うと、色々と危機感を覚えずにはいられなかったりする。

凪もそうだけど、女性があの笑顔をしている時は、大抵ロクでもないことだと相場で決まっている。俺って賢い!

「お願いがあるんだけど」

「……何なりと」

───断れるかどうかは別の話ですが。
分かりましたから抱き付くのも勘弁してください! 弟さんも見てるのよ!?


話は後半に続く! え? 続いちゃうの!?

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