元勇者だけど可愛くない後輩に振り回されてます。

ルド@

真に欺いていた者とは……。

 あれから5日が経過した。
 試合場と暗黒島の騒ぎの所為で3日間は休校となって、試合場は建物自体が崩壊してしまい使用不可となり、暗黒島は色々あって・・・・・立ち入り禁止が解除される未来すら危うい状況であった。

「や、やっと解放された……」

「お兄ちゃん大丈夫?」

 グッタリして職員室から出て来た俺を妹の空は心配そうに見て来る。
 俺は手を振って大丈夫だと返すが、どうしても溜息は溢れてしまう。

「今日も長かったねぇー。5日間連続で事情聴取」

「政府機関が相手じゃないだけマシだけど。何度も同じ質問だから精神的に辛い。また明日も呼ばれそうだ」

 いや、別に俺だけが特に訊かれているわけではない。
 あの場に残っていた者たちは皆先生たちに呼び出されて事情を訊かれている。

「試合場の件が大きかったなー。第三者の立場だったら絶対に気になると思うが、随分見られていたらしい」

 俺の場合は龍崎の結界で閉じ込められていた試合場で、零さんたちと一緒に戦ってたのを残っていた何人かに見られていたのが原因だ。
 思いっきり参加していたので仕方はないが、同じく参加していた麻衣よりも回数が多いのはなんでだ。

「マイちゃんが怖いからじゃないかな? ほら1年生どころか学園最凶説があるし」

「最強じゃなくて最凶なところがアイツっぽいな」

 妹の言う通りだろう。
 教員連中も麻衣の能力を恐れている節は前からあった。
 たとえ病み上がりでもアイツ相手に強気に出るのは危険だからな。
 ……もっとも。

「今の麻衣なら多分大丈夫だと思うけどな」

『君らのお陰で本当に助かったよ。約束通り彼女の無害認定を師匠に告げて来る。まぁ暴走の危険性は魔王の力が抜けたことでだいぶ薄れたようだ。君が使ったのも良かったかな? 前よりも安定しているように感じるよ』

 去り際に龍崎が告げた言葉を思い出す。
 過去の清算とは言え手伝ったこともあり事前に交わした約束を守ってくれた。
 具体的な理由はよく分からないが、一旦麻衣から暴走気味だった魔導神の因子が抜けたことで、濃度というか暴走の気配が沈静化したそうだ。

 俺がカードを通して使ったのも要因かもしれないとのことだが。
 受け取った4枚・・のカードを取り出して見た。

「一応信用してくれたってことかな」

「それって龍崎さんから貰ったカード? あれ? なんか色が……」

「他のカードと同じになってる。絵柄も名前も変化した」

 麻衣の無害認定の話をした際に龍崎が俺に渡した4枚のカード。
 零さんと知らない名前のカードが2枚。
 龍崎が使用していた時は、黒色と銀色と赤・青色と分かれていたが、俺が受け取った瞬間に他のカードと同じになって絵柄もノーマルな感じになっていた。

 ただの学生服の姿をした【泉零】。

 龍崎の師匠らしい黒髪の魔法使い【ジーク・スカルス】。

 同じく黒髪の青年で冒険者のような姿をした【ヴィット】。

 最後に渡されたのは――彼自身【龍崎刃】のカードである。

 受け取った全てのカードがノーマルカードとなって俺の手元にあった。

「龍崎の時はもっと凄い気配がしていたが、どうやらカード自体にはまだ認められてないらしい」 

「色々複雑そうだねぇ」

 まぁ戦う機会が減りそうで時間もあるから、ゆっくりやればいいけど。
 暗黒島が使えなくなったことでモンスターが殆どいなくなってしまった。

「先生たちもすっごい慌ててるみたい」

「能力訓練はともかくモンスターを通しての実戦方式がほぼ出来なくなったからな。当分は普通授業が中心になりそうだ」

 魔神の使者こと藤原に放った俺たちの最後の一撃が影響して、溢れ出ていたエネルギーの本流の根本を破壊してしまった。

 詳しいことは専門じゃないのでよくは知らないが、龍崎の話じゃ藤原は魔王を強化するために莫大なエネルギーを蓄えている島とリンクしていたらしい。
 
 俺が戦った時も固有スキルが使えないのにしぶとかったのはそれが原因だ。
 結局俺が倒してそのリンクも途切れたようだが、藤原も島とリンクして強化していたようだ。

 最後の攻撃の反動が大き過ぎて島のエネルギーの器である『存在の原点』が完全に壊れた。

 他にも管理している区域はあるだろうが、政府が公にしているのは数える程度。
 しかも、学生が利用出来るのは基本暗黒島のモンスターのみ。
 それ以外の別地区の場合は政府への手続きが必要になり、正式な依頼でもない限りまず利用は出来ない。

 まぁ、学生でも学園を通してではなく個人でなら入れないことはないが、政府機関に目を付けられるような行為は当分は抑えたいのが本音であった。

「であの後輩は一緒じゃないのか? せっかく負担が掛からないように教員たちを言ってるのにお迎えは妹だけか」

 何気に九重さんも居ないし。
 あの麻衣が献身的に来てくれるとは最初から思っていないが、彼女が居ないのは地味に傷付いた。

「よく分からないけど2人とも何か用事があるんだってぇー。別々みたいだけど」

 何だろうって不思議そうに首を傾げる妹の頭を撫でながら俺も考えてみたが、数秒も保たずにすぐ放棄した。
 女子の都合なんて分かったら苦労はしないが、麻衣の思考回路は理解しようするだけ疲れることは異世界の経験からよく知っていたから。









「着きましたよ」

『よし、鍵は持ってる? 開けて中に入るんだ』

「はいはーい」

 スマホと連動中のイヤホンからの指示通り、自分のポストに入れられていた鍵を玄関の鍵穴へ挿し込む。
 引っ掛ることもなくスムーズに入ったところで回してみると、ガチャっと解錠された音がした。

「おじゃましまーす」

『誰もいないよ?』

「気分の問題ですよ。これってかなりグレーなことでしょう?」

 誰もいないのは聞いているので必要ない行為だが、不法侵入に近いことだと自覚している。
 少々恨めしそうイヤホン越しで相手にグチを漏らすが、相手は相手で何を今さらといった感じであった。
 
『手伝うって約束したよね? そういうのはいいからさっさと中に入ろうかぁー?』

「ぐっ分かりましたよ!」

 もう自棄気味で中に入った(靴はちゃんと脱いで)。
 その指示通り奥の部屋に入ると広々としたリビングに着いた。

『着いた? 近くのテーブルに置かれてあるチェスと下に敷かれた魔法陣が見えるかな?』

 私物はそんなに置かれてなくて、あるとすればテーブルや椅子程度である。
 言われてテーブルを見ると確かに透明なガラス細工で出来たチャスがあり、その下に奇妙な形をした魔法陣が見えた。

「これって……儀式の陣?」

『分かるか? そう、魔神の使者こと藤原が残したある儀式用の魔法陣だ』

「捕らえた人のですか? ていうことは、これって魔神か魔王に関係する魔法陣でしょうか」

 先輩に倒されたと思ったらこっそり自分を狙って来た人物。
 直接の面識はほぼなく最終的に通話中の相手が捕らえた魔神の使者。
 先輩にはその件について一応話してあるが、捕らえてくれた彼の説明は曖昧にしてある。
 かつて襲って来た炎の精霊の使い手であるが、彼が意図的に先輩を避けていると察して、礼の代わりに伝えなかった。

『それを君に調べてほしいんだ。本当なら異世界から来ていた専門家にお願いする予定だったが、滞在期間までに部屋を見付けれなかったんだ』

「だったらわざわざ侵入しなくても、写メか何かで送ればよかったのでは?」

 ついで彼が龍崎たちの仲間であるのも聞いている。
 というのも龍崎たちが立ち去る前にこっそり麻衣にだけ説明して帰って行ったのだ。
 なぜ大地には内緒なのかと気になって尋ねたが、今後の監視の為だと言われて暴走した手前反論することが出来なかった。

『そうしたかったが、何度試してもどうも写りが悪くてね。もしかしたら魔法陣自体に阻害系の仕掛けがあるのかもしれない』

「んー? あれ、ちょっと待てください」

 彼の説明を聞きながら思い出していると別の記憶が呼び起きる。
 忘れかけていた一度か二度しか見ていない何かと結び付こうとする。

『どうかしたか?』

「この魔法陣の形式に何か見覚えが……って!? これって!」

 歪な形状の所為で気付きにくかったが、彼女の視界に映るそれは……






「異世界人の……召喚魔法陣・・・・・? うそ、なんでこれがこんなところに……」

『なに? 今、なんて――』

 突然彼の声が聞こえなくなって、電撃のような衝撃が首元に走る。
 理解が追い付く前に体が痙攣を起こしてテーブルの側で倒れてしまった。

『――! ――!?』

「な、んが……」

 イヤホンから彼の声がするが、上手く聞き取ることが出来ない。
 懸命に痺れを解こうとするが、魔力が思うように練れず声もまともに出せない。

 けど訳の分からない状況でも自分がとんでもない窮地に立っていることだけは分かる。
 あの魔法陣の目を奪われて驚きのあまり警戒が緩んでいた。

「確保しろ。このまま本部まで連行する」

「はっ!」

 女性の声がした。
 何処かで聞いたような声だが、思い浮かぶ相手がいない。
 男の声もしたが、こちらはキリッとした返事だけ。

「すまないな。それを見られた以上、もうお前を帰すわけにはいかないんだ」

 手首に何かを付けられて手足を縛られる。
 すると何とか練ろうとした魔力の感覚が霧散する。
 能力者に使われえる無効化の手錠だと理解したところで、目元の隠されて再び首元に何かを当てられた。


 彼女の意識はそこで完全に途切れてしまった。




「どうした? おい、小森さん!?」

 別室で指示を送っていた時一がイヤホンで麻衣に呼びかける。
 声はヴィットの声にしてあるが、口調の方が完全に素になっていた。
 彼女に気付かれると面倒なので離れた場所で待機していたが、すぐにでも向かおうと部屋を出たところ……。

『ほう? 声を変えているということは、小森や幸村には正体を明かしてないか 随分用心深いことだな』

「っ! 佐倉先生か……」

 大地や時一のクラス担任。
 佐倉涼香の声にいち早く状況を理解して舌打ちする。
 協力関係だった筈の教員の裏切り、しかもあの場所にいるということは、こいつは……

「そうか……あなたは機関側の人間だったのか」

『どうしてそう思う?』

「言ってないからだ。オレが捜索して学園側に告げた藤原の部屋は二十以上あったが、当たりのその部屋だけは伝えていない。その部屋を知っているのは藤原と奴が密かにコンタクトを取っていた能力機関『MARIA』の組織。政府機関とも繋がりがある学園側が寄せ付けていない連中だけだ」

『ふふふ、ご名答。そして認めたということは、こちらの意図も分かるよな? 異世界の力を持つ・・・・・・・・、彼女は貰っていくぞ』

 そこで通話が途切れる。
 いや、恐らく破壊されたのだろう。

「くそ!」

 目立たないように走っていたが、もう隠している暇もないと速度を上げた。
 2分も経たず麻衣が調べていた藤原の部屋に到着して、玄関を蹴破って侵入したが、そこはもぬけの殻。

「佐倉……!」

 麻衣の姿はなくテーブルに置かれていたチェスと魔法陣も綺麗に消えていた。
 




「確保しました。これから学園島を抜けて本部まで向かいます」

『よくやった。流石は最高幹部のエース級の涼香。やはり君を送っておいて正解だった』

「恐縮です、統括理事長。ですが、報告した通り彼らが追って来る危険があります」

『ルート通りに島を抜けて街外まで出ればいい。そこまでの護衛隊はもう用意済みだ。ただし時間を掛ければこちらが不利になるから急げ』

「了解、すぐに向かいます」

 通話を切って部下に指示し車を走らせる。
 側には眠らされて簀巻きにされた麻衣が転がっている。

「まさかこんなに早く見つかるとはな。あの方が求めていたこの世界の希望が……本当に済まない」

 嬉しような悲しいような複雑な表情で呟いて、彼女は静かに眠っている麻衣へ謝罪した。






(こんな体勢で謝られても困るんですけどねぇー)

 と寝たふりしていた麻衣が心の中で呆れた。
 もう痺れは解けているが、魔力が練れないので魔法も能力も使えない。

(彼の言った通りいきなりだったけど、可愛い女の子相手にここまでする普通?)

 まさか自分にも対能力者用の捕縛器具が通じるとは思わなかった。
 脱出しようにも大地ほど肉体を鍛えていない麻衣では拘束を解く術がない。

(条件で抵抗せず捕まれって言われたけど、このままだと本当にマズくない?)

『オレの指示中に教員たちに捕まりそうになっても抵抗するな。こちらが助けるまで大人しく捕まっていろ』

 大地の勇者の力を取り戻す手伝いをする代わりに彼が提示した条件。
 聞かされた際は意味が全然分からなかったが、こうなる展開を彼は読んでいたことになる。

(もう少し詳細な説明が欲しかったですけどね! うっかり魔力で電撃弾を弾いて返り討ちにするところでした!)

 と愚痴を溢しつつ舌の裏に入れていた錠剤カプセルを飲み込む。
 口も縛られて舌が動かしにくいが、器用に動かしてバレないように入れるとカプセルが体内の魔力と接触する。

 化学反応のように彼女の体内であるが、小さく点滅を始めた。






「よし、起動した。時間が経てば自動で起動するが、上手く飲み込めたようだな」

 専用のタブレットで反応したカプセルから彼女の位置を割り出した。
 落ち込んだフリをしつつ監視カメラや盗聴器がないことを確認した時一は、ある人物に連絡しつつタブレットで彼女の反応を待っていた。

「やはり学園島を抜ける気か。思ったより早く動いたな」

 佐倉涼香の正体を時一はとっくに知っていた。
 そして入学した麻衣の異常な能力値魔力と能力、最近大地を通して調べられた麻衣の能力データを調べれば、外の能力機関から派遣された佐倉が目を付けないわけがなかった。
 
 彼女がそのうち動き出すことを予期していた。
 だが、気付かない内に動かれても厄介だと考えた時一は、先手を取ろうと麻衣と交渉した際に部屋の捜索を求めたことを佐倉が気付くようにこっそりと漏らしていた。

 わざわざあの部屋にしたのは、本当に藤原が佐倉先生――正しくは能力機関と密かに手を組んでいたからだ。
 写メで撮れなかったと嘘をついて彼女をあの部屋まで招けば、バレたくない佐倉たちは捕獲も兼ねて絶対に動く筈だ。

 ちなみに魔法陣の写真は別世界まで通じる携帯のメールに添付して送っていた。
 龍崎が帰るまでに見つけれなかったの本当で専門でもないので、その辺りは本当に申し訳ないと思いつつ送ったのだが。

「召喚系の魔法陣とはな」

 所持しているスマホでも撮っていた魔法陣を見ながら呟く。
 麻衣の言葉と驚きからして、まず間違いなく異世界の者を召喚する類のものだ。

「あの統括理事が動いているからあり得るのか? いずれにしてもさっさと本拠地まで案内してもらわないとなぁ」

 麻衣をエサにした形であるが、これで謎だった統括理事の居場所まで割り出せれるかもしれない。
 しかも、こちらは誘拐された後輩の救出という建前があるので遠慮する必要はない。

「でも大地に伝えるのはマズイからその前に終わらせないと」

 正体がバレたくないし、麻衣とは別の危険がある大地を呼ぼうとも思わない。
 意外と後輩が関わると突っ込む感じがあるクラスメイトを想像していた時一であったが。

「やっと来た」

「お、待たせたか」

 マンションを後にして自動車などが置かれる地下駐車場まで移動した。
 そのうちの一台、シルバーの車まで歩いた時一の前でボンネットに座っていた女性が姿を現す。
 着替えたのか制服のスカートではなく動き易い短パンで少し残念がったが、ジトとした目をされたのですぐ視線を逸らした。

「遅すぎ」

「悪い悪い。ちょっと時間が掛かった」

 と言いながらドアに触れると鍵が開いた。
 運転席へ乗り込むと時一の姿が変化して、大人びたヴィットという名の男性の姿になった。

「こんな回りくどいやり方して、本当に逃したらどうつもり?」

「大地にそれとなく情報を漏らす予定だった。多少派手になるだろうが、麻衣を誘拐して後ろめたさある機関と喧嘩するのに抵抗はないだろうからな」

 ぶつぶつ言って助手席に乗り込む女性に返しながらエンジンを掛ける。
 偽りの身分的には完全にアウトであるが、もう1人の彼はしっかり免許を取得済みで運転技術は相当であった。

 場所が分かっているので十分追い付ける。
 それが分かっているので本気で怒鳴るつもりはないが、それでも親友を囮にした彼を簡単には許せないか、不機嫌そうな顔で睨みながら尋ねた。

「それで麻衣は何処?」

 短めな薄い茶髪した女性――九重沙織はそう訊く。
 麻衣と同じくらい小柄だが、細みで鍛えられたスポーツ系の女子。

 普段麻衣たちは見せない鋭い目付き、親友の救出の為なら何人でも斬ってやる。
 そんな殺し屋のような表情をしながら、協力者である時一久ことヴィットへ視線を送っていた。


 第2章(完)

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