元勇者だけど可愛くない後輩に振り回されてます。

ルド@

魔王復活と勇者帰還 その8。

『ギィィィィアアアアアアアア!』

 怒りを露わにして魔王が魔剣を振るう。
 宿敵でもある勇者の俺が相手だからか、魔剣に纏っていた漆黒のオーラが爆裂の斬撃となってこちらに飛んで来た。

 咄嗟に躱したが、巨大な爆炎が俺を飲み込んだ。
 ――ように魔王には見えただろう。

「『拳闘士グラップラー』!」

 紅蓮の炎を宿っている真紅のガントレットによって爆炎の斬撃を弾かれる。
 取り戻した麻衣のカードの影響か凄まじい量の魔力が鎧となって、俺のガントレットを何倍にも強化していた。

「【爆龍我・龍剣】ッ!」

『ガフッ!?』

 懐に入って拳を鎧越しの腹へ打ち出す。
 すると紅蓮の炎を纏うガントレットから炎龍が剣のように飛び出す。
 噛み付くように魔王を貫こうとして、その巨体を押し出した。

「【瞬速レベルⅣ】、【ヒート・ソウル】、【爆龍我……!」

 加速のスキルで勢いよく押し出された魔王の背後へ回り込む。
 スキルで紅蓮の炎を集中させた拳を構えると、力任せに炎龍の剣を弾いた魔王の顎を狙った。

「――龍星】ッ!」 

『ッ! ギアアアアアッ!』

 アッパーカットの要領で魔王を打ち上げる。
 巨体な魔王の体が跳ね上がるくらいの威力はあった筈だが、顔の仮面は割れておらず着地すると鋭い眼光と共に無数の魔弾を撃ち出して来た。

「『槍使いランサー』ッ!【無音連鎖】ッ!」

 服装と装備も替わって俺の手元に三叉の銀槍が握られる。
 円を描くような素早い槍捌きで迫って来る魔弾を弾いていく。

「『龍殺しの英雄の槍フリード・ランス』解放ッ! 【バスター・スラッシュ】ッ!」

 正面を遮るような弾幕を弾くと、オーラを纏った槍を構えて魔王へ突進する。
 貫通系と斬撃系のスキルで魔王の体に何度も浴びせていく。

「【バスター・スラッシュ】【バスター・スラッシュ】【バスター・スラッシュ】【バスター・スラッシュ】【バスター・スラッシュ】【バスター・スラッシュ】【バスター・スラッシュ】【バスター・スラッシュ】【バスター・スラッシュ】【バスター・スラッシュ】【バスター・スラッシュ】【バスター・スラッシュ】【バスター・スラッシュ】ッッ!」

『ギァァァァァ!?』

 解放した槍の力を使い切る勢いでスキルを連発。
 普段なら魔力が足りないので絶対出来ないが、消費した端から回復しているので遠慮なく使っていく。
 終わった後が非常に怖いが、ここでケチっていたら化け物のコイツには絶対に勝てない。

「『弓使いアーチャー』!【風神】!」

 続いて弓の使いにモードを切り替える。
 緑色の木弓を弦を引くと【風神】で出来た極太の光の矢が装填される。

「ハァァァァ!【トルネード・アロー】ォォォォォッーー!」

 そして至近距離で勢いよく放つ。
 回転した極太の矢が弾丸のように魔王を撃ち抜いた。






「どういうことだ!? なんで彼が《《あの魔力》》を扱える!? 魔導王の女も完全にはコントロールが出来ず人格にも影響を及ぼしていた筈が……!」

「これも予想外だったか? それよりよそ見をしていいのか?」

「ンガッ!?」

 異能で黒色になった零の足蹴りが『魔神の使者』こと藤原の顔面へ直撃した。

「し、死神ィィ!」

「わざわざ指名した癖に呑気によそ見しているからだ。それともオレを相手に余裕なのか? 魔神の犬」

「貴様ァァァァァ!」

 大地たちの戦いは魔王が彼を圧倒すると思っていた。
 だから大地が魔王を押している状況に藤原は戦闘も忘れて見入っていた。
 零に隙を突かれても仕方ないだろうが、宿敵である零だけには藤原も我慢ならない。

「死ねェェェェェッ!」

 杖の先から赤黒い魔力弾を放つ。
 雷ようにバチバチとして、魔法使いでもない零に容赦なく降り注ぐが……

「嫌に決まってる」

 呆れながら手をかざして黒い霧を呼び出す。
 カーテンのように彼を隠して壁になると、降り注ぐ魔弾から彼を守る。
 脚力を強化していた零は魔弾をやり過ごすと、あっという間に藤原と距離を詰める。
 黒色に染まった拳でまた顔面を殴り飛ばそうとしたが、藤原の杖が盾のように阻んで拳を止めていた。 

「グッ! 化け物め!」

「正真正銘の人外に言われる筋合いはない」

 黒い剣を出して首を取ろうとする零。
 それを杖で弾いて先を刃に変えて反撃する藤原。
 何処までも冷静な零に対して、藤原の憤怒は何処までも引き上がっていた。

 そして交差する剣戟の嵐。
 激しく火花を散らして零と藤原は衝突する。

「このッ! カスが!」

「……!」

 苛立った藤原が杖の先端から魔弾を撃つが、余裕の動作で零は剣で弾いて足元から神速で斬りに攻める。

「それで勝ったつもりか?」

「なに?」

 しかし、片足を取ろうとした零の剣が斬ったのは藤原の幻で出来た分身。彼の周囲に無数の幻影の藤原が出現して彼を惑わそうとした。

「「「「さぁ、どうする死神! どれが本物か分からないだろう!?」」」」

「……ハァ」

 余程幻影に自信があるのか、勝ち誇った顔の藤原たちが杖の刃を不動の零に向けるが、囲まれた彼の反応は冷めたものだ。
 黒剣の先を地面へ刺して静かに目を閉じた。

「オレはアイツらと違って戦いを楽しむ性格じゃないんだ。古臭い手品にも興味はない」

「私を手品師と一緒だと思っているなら後悔するよ。我々使者の力を見せてやろう」

「……どうでもいいが、僕なのか私なのか一人称をハッキリしろよ」

「ッ――殺す!」

 飽々とした顔で溜息を溢す。
 向こうからの殺意が増した気がするが、零は淡々と奴を仕留めようと目を開けた。






「で? 君はこっちに来るんだ?」

「あの兵器には前世から恨みがあるの。邪魔だろうと参加するわ」

 異能使いの零の方が相性の良い『滅亡の侵略者《ドレッド・レイダー》』の相手をすることなった龍崎だが、向こうにも因縁があるのだと察して渋々ながら妥協することにした。

「見学でもいいけど。いや、その方が動き易いんだが」

「私に遠慮はいいから」

「本当に勘弁してほしいんだがなぁー」

 何故か大地の方に行くと思われた鷹宮まで付いて来ている状況。
 正直邪魔にしか見えないが、鷹宮も相当頑固なようで敵が待ってくれる筈もないので、龍崎は自分の不運を悟りながら……

『ッ!』

「っと! 危な!」

 自分を狙ってくるレーザーガンを風魔法で飛ぶことで回避する。
 火魔法で両手両足と背中から炎を噴射させると、推進力を上げて空中から攻撃を仕掛けた。

「『魔力融合』――『火炎弾ファイア』!『微風刃ウィンド』!」

 手のひらから火炎のレーザーを発射した。
 風の刃も飛ばして全身機械の体を解体しようとするが、直撃した筈の火炎のレーザーと一緒に吸収されてしまった。

『ッ!』

「っ、魔力の吸収が戻ってるな。耐性もか」

 大地の攻撃で防衛システムが麻痺を起こしていた筈だが、どうやら時間が経って回復してしまったようだ。
 軽く舌打ちする龍崎だが、機械兵の背中から発射されたミサイルの群れにうんざりする。

「チッ、環境に対する配慮の欠片もないな」

 ビー玉サイズの火の玉を弾幕のように撒いた。
 迫って来ていた魔力ミサイルは誘導されて、全てが火の玉に直撃して爆発を起こした。
 鷹宮の側で着地しながらその様子を眺めて、深く溜息を漏らしていた。

「嫌そうね。気持ちは分かるけど」

「こういう相手こそ零さんみたいな特殊な人の専門なんだけどな。別にオレも普通の方じゃないが、この機械兵は苦手だ」

 愚痴を溢しながらゆっくりと近付いてい来る機械兵を捉える。
 もう大地から受けたダメージもない様子、この島の莫大な力を取り込んでいたからか性能もかなり上がっているようだった。

「『魔法融合』でも今のレベルじゃ無理か……仕方ない」

 やり難い敵の能力に少々悩んでいたが、戦略がまとまった。
 手首に着けている銀のブレスレットを構えて機械兵を睨む。

「次が最後だ。合体が出来るのはお前らだけじゃない」






「『剣士ソード』!」

 頑丈な大剣で力強く叩き付ける。
 異世界の特殊な金属の中でも、一番硬い性質の物を材料にしてもらった一品だ。
 まだ素人だった当時の俺には頑丈なくらいがちょうどよかった。

「折れないことが、あの荒れた世界じゃ便利だったからな!」

『ギィッ!』

「お前もそうだろう!【ガード・スマッシャー】ッ!」

 両手で振った力任せの横薙ぎが衝撃波を発生させる。
 魔王も負けじと魔剣を一振りして暗黒の波動を放つ。
 二種類の衝撃は互いに相手の力を跳ね返そうとして相殺する。 
 激しい土煙で視界がゼロになるが、俺は構わず突進した。

「っ! 痛いなぁ!」

 予想通り魔弾が飛んで来て直撃する。
 だが、俺の『剣士ソード』は頑丈が売りのジョブだ。
 防御スキルも発動しているので、即死でもない限り耐えられる。

「ハァァァァァッ!」

 まだ動きが鈍い奴に大量の魔力を込めた一撃も浴びせる。
 耐久値も高い大剣なので溢れ出る程の魔力にも耐えれる。
 何度も纏っている鎧を破壊するように打ち込み続けると、さすがに耐久値が保たなくなってきたか全身の鎧が削れ始めた。

『ギッ!』

「――ッ!」

 しかし、大剣の刃を苛立った魔王の腕で止められる。
 獣のような唸り声を上げるとミシミシと剣の刃も鳴り、頑丈な筈の俺の剣が今にも折れそうだった。

「『戦士ウォリアー』……」

『!?』

 だが、腕で捕まえていた大剣が折れる前に消失する。
 代わりに俺の手には『戦士ウォリアー』の専用武器である『踏破した冒険者の証アドベンチャー』の短剣が握られている。

「【ライト・エッジ】!」

『グゥゥゥゥゥッ!?』

 呆然としている魔王に向かって光の刃を浴びせた。
 不意を突かれた魔王は大きく後退して、斬られて煙を上げている胸元を押さえていた。

「さすがに効くか? 『戦士ウォリアー』はオールラウンダーだが、スキルは光属性に特化してる」

『ギィアアアアァァァァァァァ!』

 屈辱そうに唸り上げる魔王が魔剣に魔力を注ぐ。
 暗黒の魔剣も主人に共鳴したように濁った輝きを見せる。
 溜め込んだ暗黒の稲妻を解放させて、俺を中心に広範囲を破壊した。





「『戦神バトルマスター』」

『ッ!』

 降り注いだ暗黒の稲妻を全身の銀色の鎧でガードする。
 尚も降り続いていたが、両腕を左右に振るうと稲妻も逸れて左右に流れた。

「【オートディフェンス】……フッ!」

 防御スキルで稲妻の軌道を逸らして、鎧の拳で地面を打ち鳴らした。

「【アース・クラッシャー】ッ!」

 すると地面から衝撃波が発生して地割れを起きる。
 一直線に魔王へ突き進んで、破壊の衝撃波で地面ごと魔王を吹き飛ばした。

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