元勇者だけど可愛くない後輩に振り回されてます。

ルド@

彼らは何処までも先輩と後輩だった。

 時間は少し遡って大地が眠っているマンションの屋上。
 大地の治療を終えた龍崎と大地たちに関する情報操作に必死だった時一が合流。
 有無言わせない重い雰囲気に包まれる屋上で、無表情の龍崎の前で時一は何か言われる前に粛々と正座している。
 その空気はもう反省会と言うより懺悔の会にしか見えなかった。

「とりあえず、言い訳を聞こうか?」

「あ、ハハハハハハハハ……いや〜ごめーん。ちょっと不覚を? 取られちゃいましたわぁ〜アハハハハ! アハハハハハハ!」

「そうかそうか――ブッコロスゾ・・・・・・テメェ・・・……」

「ギャァァァァァァ! 待て待てッ! マジで、マジでスンマセンでしたぁぁぁぁぁぁ!」

 龍崎の口調と声音が変わった途端、青ざめた時一が深々と土下座した。
 零からの説教も怖いが、龍崎の場合はその奥に眠っているもう1つの顔の方がヤバい。冗談が通じるようなタイプではないのだ。

「で? 何故復活したのか、原因は分かったのか?」

「あーそれがオレにもよく分かんなくて、確かに確保出来たと思ったんだが、アイツ……最後の最後でカードを使ったみたいなんだ」

「幸村君や小森さんの中に残っている因子は必要なかったってことか? しかも材料だと思ってた魔王幹部って奴らのカードの半分は、まだ彼の手元にある。つまり奴は残り半分のカードと自分の中にある因子を使って復活させたと?」

「当時の幹部の数通りで考えるならどうしても不足していると思うが、奴は自分の体を入れ物にしている。初めはオレに追い詰められて自棄になったと思ったが、最初からそのつもりだった仮定して、予め自分の体に色々と仕込んでおけばその不足分を補えるのかもしれない」

「補えるのか? あの人とは違うと思うが、魔神に近いと言われてる『魔王種族』だぞ?」

「その入れ物の肉体が魔神の使者ならあるいは。それに奴は自分が贄になる直前でこう言ってた」


『僕は……私は全てを捨てよう!』

『素材は出揃っている。――魔王……復活の時ダァ!』


「全てを捨てるの意味は分かる。問題は素材は出揃っているってところだ」

「……出揃ってる。カードは共に半分のみ、襲来した五体の魔神兵器、あの2人に残っている因子……」

「あと襲って来た場所が同じ会場だったことも妙だ。次元の穴を開ける為にいくつか条件があったとしても、同じ場所なんて警戒されてもおかしくない」

 1つ1つの単語を結び付けようとする龍崎と疑問を口にする時一。
 2人とも何か引っ掛かっているが、何か足りていないのか答えが導き出せない。

「あの会場……もっとよく調べた方がいい気するが」

「その辺りはこちらでやってみよう。この後藤原の部屋も調べる予定だし、すっごい手間取ったけど」

「その藤原って奴が使者か。ちなみになんで分かったんだ? オレの魔法で本体・・を感知したかったらしいが、その前から目星は付いてたんだろう?」

「ん? ああ、学園でも調べれる過去の学歴を調べても何も引っ掛からなくてな。多分調べられることを想定してダミー情報を用意したんだろうけど、試しに色々と調査方法を変えてたらさっき言った部屋の件で引っ掛かってな。ただの学生しかない奴が学園に内緒で部屋をいくつも持ってるなんておかしいだろう?」

 調べた時一も不思議に思ったが、どうやら学園で集めた女子や街中で作った女性たちのハーレムメンバーの名義で誤魔化していたようだ。本当に遊び部屋にしているのもあるようで、本当の拠点を見つけるのは少々骨が折れると思われる。

「分かり次第そっちにも伝える」

「それでいいけど……奴は魔王は何処にいる? 居場所は掴んでるんだろう?」








「魔王は今この世界の特異点の1つにいる。君らが言う暗黒島と呼ばれてる場所だ」

 リビングに移動すると龍崎はスマホを弄って待っていた。
 1人しかいなくて空の姿は見えない。恐らく麻衣の部屋の方に行っていると思うが、今はちょうどいい。

「特異点ってモンスターが生み出される場所のことか? なんでそんな場所まで逃げたんだ」

「あくまで推測の域だが、奴の体はまだ不完全じゃないかな? おそらく強引な方法で復活したから存在を維持するために大量の魔力が欲している。すぐに小森さんを襲って魔力を奪ったのはその為だろうな」

 まだ強引に復活したカラクリが見えないが、龍崎の言っていることも納得がいく。
 なら大量の魔力もどきが溢れている暗黒島の特異点は、奴にとって食糧庫か燃料の補給場だな。
 とそこまで黙って聞いていた零さんが龍崎に尋ねる。
 
「それで刃、状況は?」

「魔王自体に変化なし。ただし、苗床みたいにしてる暗黒島の全体の魔物が突然守りを堅めてるそうです。東西南北すべての門を塞ぐように内側で何千の魔物が見張っているらしいです」

「千体か……それは面倒だな」

「マジか」

 四獣とかのイベントでもないのにモンスターが統制されて動いている。
 10体前後なら考えられるが、数千となると完全に島全部のモンスターってことになる。四獣騒動よりも規模がデカイじゃないか。

「さすがに学園側も政府機関に緊急で連絡して、街にいるプロの能力者たちにも要請したらしいが、規模が規模だけにちゃんと作戦を立ててから挑むらしい。機関の能力者も派遣して明日までには揃う予定だ」

「つまり動くなら今夜一杯か。一応訊くが、考えは変わってないのか?」

 龍崎の説明を聞いていた零さんが改めて俺の意思を尋ねる。
 眠っている間に事態は確実に大きくなって学園側どころか政府機関の能力者まで動こうとしている事態にまで発展してしまった。
 冷静に考えるなら動かないべきかもしれない。いっそ最初はプロたち任せて魔王を消耗させて最後で自分たちが出た方が勝率は間違いなくアップするだろう。けど……

「のんびりしてたら麻衣の力は完全に奴のものなる。取り戻すなら今すぐ行かないとダメだ」

「しかし、どうやって取り戻す? 体内の奥だとヘタしら君まで取り込まれて完全体として奴が復活するぞ」

「その辺りは大地にも考えがあるそうだ。かなり無茶な方法みたいだが、無策じゃなさそうだしオレも乗ってもいいかと思う」

「……考えですか、零さん」

 あまり乗り気でない龍崎であるが、零さんからのフォローで僅かに眉を寄せる。嫌そうではなさそうだが、どこか難しい顔で視線を俺から零さんへと移した。

「まさかとは思いますが、情けで動いてる訳じゃありませんよね? 幸村君たちに同情して危険な賭けに挑もうと?」

「信用されてないのか」

「失礼ですが、前科がありますから。冷徹冷酷で有名だった貴方が師匠からの依頼を無視して爆弾を背負ってしまった彼らを見逃したんですから」

 信頼はあるが、信用はしてない。
 実力は認めているが、覚悟までは疑っているってところか。
 零さん異世界で俺たちの最終的な対処を任されていたらしいが、何を思ったのか接触してまで俺たちを助けてくれた。しかも、魔王の力が残っているのにこちらの世界へ戻る際も見逃してくれた。

「確かに否定できないが……だったらどうするんだ? 魔王をそしてオレを・・・

「……」

 冷たい目と無表情となった零さんが試すように龍崎に問いかけるが、龍崎は何も答えようとしない。
 そうだ。どうしようもない。あの化け物の魔王を放置できない以上、零さんの力は絶対に必要だ。
 けど零さんはまた俺に付いてくれた。無茶と分かっても俺に手を貸してくれるようだ。

「はぁぁぁぁ、知らない間に選択は終わってたってことか」

 折れるしかなかった。そう思わせる深い溜息を吐くとスマホをぽちぽち。協力者の誰かに連絡をした。

「悪いな龍崎」

「いいさ、オレも君の立場で大切な人が傷付けられたら、きっと黙ってはいられないだろうから」

「……なんか勘違いしてないか? 別にあの後輩は大切な人とかじゃないし、俺にとってただの将来の仕事の上でのパートナーであって、可愛らしさも欠片もない金に目がない残念貧乳の――」

「遺言はそこまでですかァー? センパーイ?」

「……」

 背後からマジで殺したそうな殺気を感じた。
 気まずそうに零さんと龍崎が部屋を出て外へ行く。ちょっと待て、魔王どころか悪魔みたいな後輩を相手に俺だけ置いてかないでぇっ!
 逃しませんよとペタリと背中にくっ付いてくる。横目でシャツのパジャマが見えるが、もしかしてこっちにいたの?

「じ、自分の部屋じゃなかったのか?」

「ソラちゃんの部屋で休ませてもらってました。ソラちゃんは寝てますよ? 大分心配させちゃったみたいなので」

 後が大変なのはお互い同じのようだ。起きた時の空の反応を想像して苦笑いが漏れる。

「行かれるんですね、魔王の下へ」

「ああ、行く」

「やめる選択は?」

「ないだろう。お前が俺だったらきっと同じ選択を取ったんじゃないか?」

「受験の時のあの約束を思ってるなら、もう気にしなくていいです。儲けるのは諦めてセンパイの嫁になるので一緒養ってください」

 さらっと愛の告白をしたぞ、こいつ!
 雰囲気も何もない! 羞恥心も一切なく淡々と言い切った!

「どうせソラちゃんの問題も片付けないといけませんし、どこかでセンパイと既成事実的なことをしてやろうとしてたんで、これはもう遅いか早いかですから」

「何を言っているかさっぱりだが、養うか考えてもいいが結婚は勘弁してくれない?」

「な、なんでですか! 私が嫁ですよ! 嫁っ! ツンなんていらないんです! ここはデレて素直に喜ぶところでしょうが!」

「だって……なぁ?」

「シャァァァァァァ!」

 やれやれ、いったいどこにそんな体力が残っていたのか。余程俺の返答が気に入らなかった様子で何度も猫みたいに俺に噛み付いてきた。……山猫の間違いかも。




「ハァハァ……」

「気は済んだか?」

「抵抗なしとは……つまらないです」

「病人みたいな相手を乱暴にできるか」

 触れている体温と息遣いで予想はしていたが、振り返って見ると麻衣の顔は汗だくで真っ赤か。
 今までのやり取りが原因な部分もあるだろうが、まるで見た目通りの子供のような非力な暴れっぷり。今までの麻衣からありえない状態だった。

「ハァ、魔力も能力も殆ど奪われた所為でプラモデルと戦った時の負担が全然解消されてないんです……」

「まぁそうだろうな」

 もう立つこともできない。座り込む麻衣を俺は抱えて空の部屋へまで運ぼうとするが、ギュッと麻衣が抱き付いて拒否を示す。

「せんぱいの……部屋がいい」

「そうか」

 普段ならダメだと一蹴するが、疲れ切った顔で見上げる彼女に俺は仕方ないと笑って運んだ。

「せんぱい……『魔法使い』のカード出してくれませんか?」

「ん、別にいいけど」

 ベットに寝かせたところ麻衣がそう要望して手を出してくる。
 試合場で無理した所為で『魔法使い』は当分使えない。気にせず俺もカードを出して手渡すとカードを見ながら麻衣は嘆息する。

「はぁ、なんとなくセンパイの作戦は予想はできます。引き出しに隠してた魔石も持ち出してるようですし、魔王の力を利用するつもりですね?」

 見事に作戦の要を言い当てられる。思わずゲっとした顔で麻衣の顔を覗いたが、俺の反応で確信したか困ったような笑みを零した。しまったカマをかけられた。

「やっぱりそうですか。知ってましたよ? センパイの中に魔王の力があることも引き出しに隠していた力を吸い取った魔石も……私もそうでしたから・・・・・・・・・

「っ! じゃあ吸い取った筈のいくつか魔石から瘴気の魔力が抜けてたのは……」

「お泊まりした際にちょっと補給しちゃいました!」

「馬鹿だろうお前っ! 笑顔でいう話じゃないわ!」

 腹壊すとかのレベルじゃないだろう!
 まさかその所為で戦闘中に感情が激しくなって、暴走しやすくなってたんじゃないだろうな!

「色々と秘密にしてたのはお互い様ですよ? それに私の話はまだ終わってないので黙って聞いてください」

 気のせいか? なんか調子戻っている気がする。
 さっきまでグッタリしてたのに、俺のベットにいったい何の癒し効果があるんだ。

「センパイが知っているか分かりませんが、センパイと私が持っていたのは剣ですよ。魔王が持ってて倒される際にセンパイを貫いた黒い剣」

 それは覚えている。その後の記憶はサッパリで気付いたら元の世界だったんだ。怪我は麻衣がなんとかしてくれたらしいが、そこを空に見られてバラすことになった。

「嘘言ってました。センパイの怪我を直した私じゃありません。折れて突き刺さっていた魔王の刃です」

 ここで思わぬカミングアウト。結構重要な話そうだが、開き直ったのか麻衣は一気に説明していった。
 ……ところで俺のカードをいつまで見てるんだろう。

「残った柄の方は残すと危ないと思って、自分の異空間に入れて持って帰りました。他の装備と一緒で消えてると思ったんですが、何故か異空間の中で残ってセンパイが能力に目覚めた後に見たら、何故か真っ黒な魔王のカードになってました」 

 ここに来て魔王カードの登場か。半分でも剣が魔王の物ならあり得るのか? 幹部カードと同じで俺が所持していないのに勝手にカード化してたのか。

「もうそのカードはありません。私の力と一緒に奪われました。異世界での魔法技能もそうですけど……まだ少しは残ってます」

 カードを見る麻衣の目に力が入る。
 念じるように、魔力はほぼ空の筈だが、彼女は俺の『魔法使い』のカードに自分の残った力を全て注いだ。

「っ!」

 すると俺の目の前で力を失ったカードが輝く。
 眩い金色の輝きを見せると俺のカードの一点へと注がれた。

「麻衣……」

「ハァハァ……! き、切り札は多いに……越した事は、ない、で……しょう?」

 明らかに無理している。良くなりかけた顔色がまた悪くなった。
 汗が増してもう今にも目が閉じそうなほど弱っていたが、フルフルと震える手を伸ばしてカードを俺に返してくれた。

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