元勇者だけど可愛くない後輩に振り回されてます。
魔王復活と勇者帰還 その2。
「何者だ……貴様は」
「この状況を見れば誰かなんて些細な疑問だと……」
苛立った声音で問いかける『魔神の使者』こと藤原に時一は困ったように苦笑いする。クルクルと両刃剣を回して小首を傾げると……。
「思わないか?」
「っ!」
鋭い踏み込みからの一閃。二度目の不意打ち。流石に藤原も寸前で躱して退がると同時に魔法陣を障壁のように展開。
「死ネェ!」
陣から暗黒の魔弾が無数に発射される。さっきの言葉から時一もただの能力者ではないと分かり、隠すのやめて加減なしの魔法弾を打つけた。
「……」
だが、弾幕のように放たれた無数の魔弾は時一に掠る気配もなく通り過ぎる。
まるで当たらない位置が分かっているのか、体を小刻みに動かして進んでアッサリと魔法陣の眼前まで迫っていた。
「クっ、何故当たらない!?」
「言うわけないだろう?」
「ッ、チっ!」
今度は横に軽く剣を振るう。
たったそれだけで障壁のような魔法陣が切り裂かれた。
多少は強度もある筈。異常な光景を見て藤原はいよいよその剣の危険性を理解し始めるが。
「術師の弱点って何だと思う?」
「何――ガハッ!?」
何を言っているのかと疑問符が浮かんだ途端、横からの衝撃で吹き飛ばされる。 崩落した建物の壁に激突。見た目ほどダメージはないが、その分苛立ちが余計に積もる。地べたに倒されたことも屈辱なのか憤怒の形相で起き上がったが。
「キサマァ……ッ!」
小さな影が視界に入る。さらに嗅ぐの嫌な獣臭が藤原の危機察知を過敏にさせる。
瞬時に視界に入った方向へ障壁を展開させる。すると重い衝撃が響いて障壁越しにメイスのような大きな鈍器が見えた。改めて見ると鎖が付いているモーニングスターと呼ばれるものだ。
「白岡……」
「ん、久々」
無表情で武器を振って挨拶するのは小柄な女子の白岡有希。
あり得ない筋力で自分と同じくらい背丈がある鈍器を左右の手に握られている。さっきの攻撃も彼女の仕業かと納得しかけた藤原だが。
彼が立っていた場所が別の何か包まれた。
「ガ、ガァアアアアアアアアアッ!?」
次の瞬間、彼の肉体を押し潰すような異常な重力が乗し掛かる。近くにいる白岡はボーとして何もしてない。だとすると時一の仕業かもしくはまだ誰かいるのか。
「こ、この程度の重力など……!」
「など……何だって?」
「ッ……時一っ!」
何とか魔法で振り解こうとするが、そんな自分へいつの間にか目の前で見下ろす時一が剣先を向けていた。
「諦めろ藤原。もうゲームセットだ」
「ふ、ふざけるなよ! 貴様のような外野風情が僕の邪魔をっ!」
「外野かどうか見方によるが……同じチームの有希を警戒していたのなら少しは検討が付くんじゃないか?」
そう、白岡も鷹宮のチームのメンバー。言うことなんて全然聞かない自由人であったが、まったく不参加だったわけでもない。彼女の実力は藤原も警戒する程だった。
だが、それだけじゃない。小柄で貧相でも美少女な白岡を警戒していたのは、あの隠す気もない濃い獣臭。
周囲からは猫でも隠れて飼っているのかと思われているが、藤原はそんな見当違いな結論には至らなかった。大地も入学早々に気付いていたが、彼女はつまり――
「人外だとワザとアピールしていたと言うことは……貴様がその自由奔放な獣の主人ということか」
「ご名答。ただし気に入らないな。有希は『幻獣族』でも可愛い猫科なのになぁ」
「獣臭漂う女など興味ない。近付かなかったのは単に臭かっただけガァァァァァァァァ!?」
馬鹿にしたように藤原が言いかけたが、乗し掛かった鈍器の先端の棘球が重力と合わさって彼の背骨をへし折ろうとしていた。いや、少しヒビが入った音がしたからもう折れる寸前だった。
「オレもイラッとしたが、容赦ないな」
「臭いは侮辱ワードのトップスリーに入る。遠慮なし!」
「ちなみに1位は何なの?」
「貧乳、貧相な乳、ぺったんこ、真っ平ら、タッチパネル、山なし……」
「1位のワードが無限に増えてるやん」
そんなに気にしてたのかと不憫に思う時一だが、荒れた息で激痛から逃れようとする藤原を見下ろす。
つまらなそうにため息混じりに最後忠告をした。
「投降しろ。最後の警告だ――五秒以内に決めろ。……五」
「っ……」
白岡に目配せして剣先を近づける。
殺意も怒りもない淡々とした彼の動作、冷や汗を流している藤原も本気だと悟った。
「四、三……」
背中に打ち込んだ武器を戻して構える白岡。
遠くで魔法を打ち出そうとしている江口亮太。
「二」
その剣先に何かが流れていく。
魔力ではない何か、恐らく気の一種だと思われるが、そちらの知識は乏しい動けない藤原には対処のしようがない。
「……一」
「ゼロは言うな」
だから彼は自分の生存を放棄した。
抑えていた暗黒のカードの4枚を解放する。
「僕は……私は全てを捨てよう!」
「ッ! アース!」
重力が増して首に刃が突き刺さる。白岡のデカい棘球で背中が完全に破壊された。
「ガフっ……ククククッ、惜しかったなァ?」
しかし、彼は笑みを消さない。
何故ならカードの抑えは既に解放されたから。
「素材は出揃っている。――魔王……復活の時ダァ!」
勝利目前にして異世界の魔王が――降臨する。
「この状況を見れば誰かなんて些細な疑問だと……」
苛立った声音で問いかける『魔神の使者』こと藤原に時一は困ったように苦笑いする。クルクルと両刃剣を回して小首を傾げると……。
「思わないか?」
「っ!」
鋭い踏み込みからの一閃。二度目の不意打ち。流石に藤原も寸前で躱して退がると同時に魔法陣を障壁のように展開。
「死ネェ!」
陣から暗黒の魔弾が無数に発射される。さっきの言葉から時一もただの能力者ではないと分かり、隠すのやめて加減なしの魔法弾を打つけた。
「……」
だが、弾幕のように放たれた無数の魔弾は時一に掠る気配もなく通り過ぎる。
まるで当たらない位置が分かっているのか、体を小刻みに動かして進んでアッサリと魔法陣の眼前まで迫っていた。
「クっ、何故当たらない!?」
「言うわけないだろう?」
「ッ、チっ!」
今度は横に軽く剣を振るう。
たったそれだけで障壁のような魔法陣が切り裂かれた。
多少は強度もある筈。異常な光景を見て藤原はいよいよその剣の危険性を理解し始めるが。
「術師の弱点って何だと思う?」
「何――ガハッ!?」
何を言っているのかと疑問符が浮かんだ途端、横からの衝撃で吹き飛ばされる。 崩落した建物の壁に激突。見た目ほどダメージはないが、その分苛立ちが余計に積もる。地べたに倒されたことも屈辱なのか憤怒の形相で起き上がったが。
「キサマァ……ッ!」
小さな影が視界に入る。さらに嗅ぐの嫌な獣臭が藤原の危機察知を過敏にさせる。
瞬時に視界に入った方向へ障壁を展開させる。すると重い衝撃が響いて障壁越しにメイスのような大きな鈍器が見えた。改めて見ると鎖が付いているモーニングスターと呼ばれるものだ。
「白岡……」
「ん、久々」
無表情で武器を振って挨拶するのは小柄な女子の白岡有希。
あり得ない筋力で自分と同じくらい背丈がある鈍器を左右の手に握られている。さっきの攻撃も彼女の仕業かと納得しかけた藤原だが。
彼が立っていた場所が別の何か包まれた。
「ガ、ガァアアアアアアアアアッ!?」
次の瞬間、彼の肉体を押し潰すような異常な重力が乗し掛かる。近くにいる白岡はボーとして何もしてない。だとすると時一の仕業かもしくはまだ誰かいるのか。
「こ、この程度の重力など……!」
「など……何だって?」
「ッ……時一っ!」
何とか魔法で振り解こうとするが、そんな自分へいつの間にか目の前で見下ろす時一が剣先を向けていた。
「諦めろ藤原。もうゲームセットだ」
「ふ、ふざけるなよ! 貴様のような外野風情が僕の邪魔をっ!」
「外野かどうか見方によるが……同じチームの有希を警戒していたのなら少しは検討が付くんじゃないか?」
そう、白岡も鷹宮のチームのメンバー。言うことなんて全然聞かない自由人であったが、まったく不参加だったわけでもない。彼女の実力は藤原も警戒する程だった。
だが、それだけじゃない。小柄で貧相でも美少女な白岡を警戒していたのは、あの隠す気もない濃い獣臭。
周囲からは猫でも隠れて飼っているのかと思われているが、藤原はそんな見当違いな結論には至らなかった。大地も入学早々に気付いていたが、彼女はつまり――
「人外だとワザとアピールしていたと言うことは……貴様がその自由奔放な獣の主人ということか」
「ご名答。ただし気に入らないな。有希は『幻獣族』でも可愛い猫科なのになぁ」
「獣臭漂う女など興味ない。近付かなかったのは単に臭かっただけガァァァァァァァァ!?」
馬鹿にしたように藤原が言いかけたが、乗し掛かった鈍器の先端の棘球が重力と合わさって彼の背骨をへし折ろうとしていた。いや、少しヒビが入った音がしたからもう折れる寸前だった。
「オレもイラッとしたが、容赦ないな」
「臭いは侮辱ワードのトップスリーに入る。遠慮なし!」
「ちなみに1位は何なの?」
「貧乳、貧相な乳、ぺったんこ、真っ平ら、タッチパネル、山なし……」
「1位のワードが無限に増えてるやん」
そんなに気にしてたのかと不憫に思う時一だが、荒れた息で激痛から逃れようとする藤原を見下ろす。
つまらなそうにため息混じりに最後忠告をした。
「投降しろ。最後の警告だ――五秒以内に決めろ。……五」
「っ……」
白岡に目配せして剣先を近づける。
殺意も怒りもない淡々とした彼の動作、冷や汗を流している藤原も本気だと悟った。
「四、三……」
背中に打ち込んだ武器を戻して構える白岡。
遠くで魔法を打ち出そうとしている江口亮太。
「二」
その剣先に何かが流れていく。
魔力ではない何か、恐らく気の一種だと思われるが、そちらの知識は乏しい動けない藤原には対処のしようがない。
「……一」
「ゼロは言うな」
だから彼は自分の生存を放棄した。
抑えていた暗黒のカードの4枚を解放する。
「僕は……私は全てを捨てよう!」
「ッ! アース!」
重力が増して首に刃が突き刺さる。白岡のデカい棘球で背中が完全に破壊された。
「ガフっ……ククククッ、惜しかったなァ?」
しかし、彼は笑みを消さない。
何故ならカードの抑えは既に解放されたから。
「素材は出揃っている。――魔王……復活の時ダァ!」
勝利目前にして異世界の魔王が――降臨する。
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