元勇者だけど可愛くない後輩に振り回されてます。
魔王復活と勇者帰還 その1。
「や、やってくれたなァ……!」
その者は血走った目で試合場を睨んでいる。ただしそれはわざわざ用意した機械兵を蹂躙した龍崎や大地、麻衣に対してではない。
「死神ィ……! このままで済ますか!」
煮え滾る憤怒のまま鉄の手すりを握り潰していた。
憎しみの全てが1人の男に注がれていた。かつて忠誠を誓っていた魔神を討ち倒したことに対する恨みか、計画など無視して奴だけでも始末しようか考え始めたが。
「なんだ? あの魔法師は?」
鳥型の『滅亡の侵略者《ドレッド・レイダー》』を始末した龍崎が謎の行動を始めたことで、その者の視線と思考は零から一時的に逸れた。
「これで終わりでいいんですかね?」
「さぁな、とりあえず疲れたな」
戦闘が終わったところで、俺も麻衣も能力を解いてその場で座り込んでいた。
龍崎の機転で勝つことはできたが、魔王の最高幹部級の相手はやはり消耗が激し過ぎた。全盛期の俺と麻衣ならまだなんとかなったかもしれないが、魔力関係の対策が沢山あって麻衣でも相性が悪過ぎた。
「龍崎この後どうする? この惨状だから人が集まる前に離れた方がいいと思うが、瓦礫に埋もれてる怪我人を放置するのもちょっと……って龍崎?」
「まだだ」
ちょうど近くで着地した龍崎に尋ねる。さっきの緋色の雷も凄かったが、今度は虹のオーラを纏っている。迷想するように目を閉じて何故か首を横に振った。
「まだだ……って」
「終わっていない。そういうことだ」
虹のオーラが背中に集まって何枚もの翼のように広がる。軽く跳躍して魔力を操作すると片手を高く上げた。
すると掲げた手のひらから虹のオーラがドーム状に広がっていく。崩壊した会場の周囲を完全に覆い切ると龍崎がゆっくりと着地した。
「『虹光の大円高壁』……これで逃げ場はないな」
纏っていた虹色のオーラが消滅する。彼から流れていた濃い異質な気配も消えて、今度は手首にはめている銀のブレスレットを構えた。
「【コード:慈愛聖女】魔力解放!」
全身からキラキラとした聖属性のオーラが発現される。服装は変化していないが、さっきの侍の格好の時と同じ能力だと思われた。
新しいモードでいったい何をするのか、零さんの方を見ても黙っているだけでただ待っていた。
「閉じ込められた? まさか私の存在を感知しているのか?」
張られた結界を見て事態の異変と危機感を抱く。結界を見る限り自分をここから逃げさない為だと思われるが、怪我人もいる以上長時間の拘束は難しい筈。
自慢ではないが、その者の偽装はかなり高性能に出来ている。外側から増援が来るまでの短時間で見つかるとは正直思えなかった。
「結界が解けるまで怪我人に化けているか?」
偽装をさらに上げようとしたが、その者の考えを読んでいたか聖なるオーラを纏った龍崎が魔力を集めて、そして一気に解放した。
『慈愛聖女の抱擁』
世界を癒そうとする聖女の光。
治癒効果もある癒しの光が瓦礫まみれの会場を包み込もうとした。
「こ、これは聖属性! 埋もれてる奴らを治癒する気か!」
否、それだけが目的ではない。
ハッとした顔で自分にも迫っている光を見て……背筋が凍った。
「し、しまっ――」
慌てて暗黒の障壁を展開して身を守る。本来なら人には無害な治癒系の魔法であるが、魔神の使者と呼ばれるその者は人外だ。
しかも、魔神の魔力も宿している悪意の塊と言っていい存在。そんな者が完全に正反対である癒しの力を受けたりしたら、どうなるかは明白であった。
「恐ろしいことを考える! まさか治癒に聖属性を混ぜて僕の浄化を企むとは……! 他の術も強制的に解除させられた!」
顔色が真っ白で気分が悪そうだ。咄嗟に聖属性の光から身を守ることは成功したが、漂っている癒しの匂いと言うものがその者を苦しめる。吐きそうになるのを必死に堪えていた。
「いや、あんなモノをくらうよりはマシか。魔導神の入れ知恵か? なんと憎たr「そうだ、絶対嫌だよな? お前たちのような逸れモノには毒でしかないもんな?」「――なッ!?」
突然の声に反応して振り返った途端、背後からの一閃。
咄嗟に躱そうとしたが、鋭い一閃は服を斬り裂いて被っていたフードが取り払う。上半身の半分と横の頭部が少し斬られた程度済んだが、切り口から伝わる異様な鋭い痛みがその者を焦らせる。
(なんだこの痛みは……!? 掠った程度の痛みではないぞ!)
まさか毒でも塗られているのか、彼が持つ銀色の両刃の細い剣に警戒の色を見せるが、彼はクルクルと器用に柄を回して剣で遊ぶ。まるでこちらをおちょくっているようだが、その振る舞いに薄寒さを感じるのは気のせいだろうか。憎々しい眼光で男を睨みながらその者は掠った頭部をそっと触れた。
「時一……久」
「ハハハハ、やっと会えたな。魔神の使者――いや」
嬉しそうに笑う。だが、それも一瞬のみ。
教室でも見せない真剣な眼差しで剣先をこちらへ向けた。
「クラス1のイケメン――藤原浩司くん?」
恨みを込もった眼光でその者――藤原は返事の代わりに馬鹿にしたような時一を睨み付けていた。
その者は血走った目で試合場を睨んでいる。ただしそれはわざわざ用意した機械兵を蹂躙した龍崎や大地、麻衣に対してではない。
「死神ィ……! このままで済ますか!」
煮え滾る憤怒のまま鉄の手すりを握り潰していた。
憎しみの全てが1人の男に注がれていた。かつて忠誠を誓っていた魔神を討ち倒したことに対する恨みか、計画など無視して奴だけでも始末しようか考え始めたが。
「なんだ? あの魔法師は?」
鳥型の『滅亡の侵略者《ドレッド・レイダー》』を始末した龍崎が謎の行動を始めたことで、その者の視線と思考は零から一時的に逸れた。
「これで終わりでいいんですかね?」
「さぁな、とりあえず疲れたな」
戦闘が終わったところで、俺も麻衣も能力を解いてその場で座り込んでいた。
龍崎の機転で勝つことはできたが、魔王の最高幹部級の相手はやはり消耗が激し過ぎた。全盛期の俺と麻衣ならまだなんとかなったかもしれないが、魔力関係の対策が沢山あって麻衣でも相性が悪過ぎた。
「龍崎この後どうする? この惨状だから人が集まる前に離れた方がいいと思うが、瓦礫に埋もれてる怪我人を放置するのもちょっと……って龍崎?」
「まだだ」
ちょうど近くで着地した龍崎に尋ねる。さっきの緋色の雷も凄かったが、今度は虹のオーラを纏っている。迷想するように目を閉じて何故か首を横に振った。
「まだだ……って」
「終わっていない。そういうことだ」
虹のオーラが背中に集まって何枚もの翼のように広がる。軽く跳躍して魔力を操作すると片手を高く上げた。
すると掲げた手のひらから虹のオーラがドーム状に広がっていく。崩壊した会場の周囲を完全に覆い切ると龍崎がゆっくりと着地した。
「『虹光の大円高壁』……これで逃げ場はないな」
纏っていた虹色のオーラが消滅する。彼から流れていた濃い異質な気配も消えて、今度は手首にはめている銀のブレスレットを構えた。
「【コード:慈愛聖女】魔力解放!」
全身からキラキラとした聖属性のオーラが発現される。服装は変化していないが、さっきの侍の格好の時と同じ能力だと思われた。
新しいモードでいったい何をするのか、零さんの方を見ても黙っているだけでただ待っていた。
「閉じ込められた? まさか私の存在を感知しているのか?」
張られた結界を見て事態の異変と危機感を抱く。結界を見る限り自分をここから逃げさない為だと思われるが、怪我人もいる以上長時間の拘束は難しい筈。
自慢ではないが、その者の偽装はかなり高性能に出来ている。外側から増援が来るまでの短時間で見つかるとは正直思えなかった。
「結界が解けるまで怪我人に化けているか?」
偽装をさらに上げようとしたが、その者の考えを読んでいたか聖なるオーラを纏った龍崎が魔力を集めて、そして一気に解放した。
『慈愛聖女の抱擁』
世界を癒そうとする聖女の光。
治癒効果もある癒しの光が瓦礫まみれの会場を包み込もうとした。
「こ、これは聖属性! 埋もれてる奴らを治癒する気か!」
否、それだけが目的ではない。
ハッとした顔で自分にも迫っている光を見て……背筋が凍った。
「し、しまっ――」
慌てて暗黒の障壁を展開して身を守る。本来なら人には無害な治癒系の魔法であるが、魔神の使者と呼ばれるその者は人外だ。
しかも、魔神の魔力も宿している悪意の塊と言っていい存在。そんな者が完全に正反対である癒しの力を受けたりしたら、どうなるかは明白であった。
「恐ろしいことを考える! まさか治癒に聖属性を混ぜて僕の浄化を企むとは……! 他の術も強制的に解除させられた!」
顔色が真っ白で気分が悪そうだ。咄嗟に聖属性の光から身を守ることは成功したが、漂っている癒しの匂いと言うものがその者を苦しめる。吐きそうになるのを必死に堪えていた。
「いや、あんなモノをくらうよりはマシか。魔導神の入れ知恵か? なんと憎たr「そうだ、絶対嫌だよな? お前たちのような逸れモノには毒でしかないもんな?」「――なッ!?」
突然の声に反応して振り返った途端、背後からの一閃。
咄嗟に躱そうとしたが、鋭い一閃は服を斬り裂いて被っていたフードが取り払う。上半身の半分と横の頭部が少し斬られた程度済んだが、切り口から伝わる異様な鋭い痛みがその者を焦らせる。
(なんだこの痛みは……!? 掠った程度の痛みではないぞ!)
まさか毒でも塗られているのか、彼が持つ銀色の両刃の細い剣に警戒の色を見せるが、彼はクルクルと器用に柄を回して剣で遊ぶ。まるでこちらをおちょくっているようだが、その振る舞いに薄寒さを感じるのは気のせいだろうか。憎々しい眼光で男を睨みながらその者は掠った頭部をそっと触れた。
「時一……久」
「ハハハハ、やっと会えたな。魔神の使者――いや」
嬉しそうに笑う。だが、それも一瞬のみ。
教室でも見せない真剣な眼差しで剣先をこちらへ向けた。
「クラス1のイケメン――藤原浩司くん?」
恨みを込もった眼光でその者――藤原は返事の代わりに馬鹿にしたような時一を睨み付けていた。
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