元勇者だけど可愛くない後輩に振り回されてます。
侵略兵器と能力者&魔法使い その1。
「動く?」
「いや、ここで待機だ」
問いかける白岡に対して時一は首を横に振るう。
天を突き刺す闇色の雷の気配をいち早く察知していた。街中からでも見えるソレに危機感を抱く白岡であったが、何か考えがあるのか時一は冷静にスマホで連絡を取っていた。相手は訊く必要もなく彼女が嫌いな不良亀であろう。
「龍崎を話し合った。あっちが表に出てオレが裏側を探って首謀者を見つける」
「出来るの? 相手は監視カメラも欺く多分相当な術師だと思うけど?」
「問題ない――目星は付いてる」
連絡が来たのか確認しながら告げる。続けて別の誰かにも連絡を取るとスマホをポケットに入れた。
「誰なの?」
「これから確かめる。その為にも」
チラリと別方向に視線を送る。釣られて白岡も見上げると特殊な気配が3つ。試合場へ近付いているのが感じ取れた。
「アイツらには頑張ってもらわないとな」
「ほんとうに大丈夫なの? 今度は三機もいるけど……」
「龍崎がいるどうにかなるさ。……それに」
ポケットに入れていたスマホを取り出す。送っていた相手から連絡が返ってきたようだ。さっと読むと静かに笑みを浮かべて白岡へ画面を見せた。
『――了解、こっちも片付いた。まもなく着く』
「これって……」
「こわーい死神さまの増援だ」
軽い調子で言うが、聞かされた白岡は薄っら寒気を覚える。接点こそあまりないが、あの得体の知れない者の恐ろしさはよく知っていた。
試合場は既に大混乱となっていた。
突如襲来した三機の『滅亡の侵略者《ドレッド・レイダー》』が暴れて、解禁された試合場を利用していた学生たちに襲い掛かっていた。
「――グっ!」
「朱音さん!」
「朱音! チッ、このカスが!」
その中には鷹宮たちも入っていた。同じメンバーである白岡は居ないが、他の橘と藤原の2名は参加していた。
「落ち着け藤原! ここはプロと一緒に連携で」
「煩い! 僕に指図するな!」
そして、三機の機械兵に対して真っ先に突っ込んだ鷹宮が吹き飛ばされる。考えなしの突進ではなかったが、前回と同格三機が相手では無謀でしかなかった。
問題はそれを見た鷹宮狙いの藤原がキレたことだ。普段はイケメンの優しい雰囲気であるが(女性限定)、今一番のターゲットである鷹宮への攻撃。プライドの塊である彼にはとても許容できることではなかった。
「【チェーン・アックス】ッ!」
所持していた武器系の能力を使う。見た目はチェーンソーと見るからに危ない代物だが、彼は慣れた様子で振るうと回転を増したチェーンが赤く染まる。
鷹宮を吹き飛ばした一機に向かって叩き込む。すると頑丈かつ魔力耐性も付いた装甲が悲鳴をあげた。
『―――』
「硬い装甲だな! 削り甲斐がありそうなボディーだ!」
機械兵が大きな腕で振りかぶってくるが、藤原は一切後退する気配を見せない。それどころか逆に踏み込んでギリギリところで攻撃を躱す。まるでスリルを体験しているようで、何度も刃も真っ赤なチェーンソーを叩き込んで敵の装甲を削っていく。
「ハハハハハハハハ! もっとだ! もっと!」
「退がれ藤原!」
「ッ――チッ!」
煩いと思ったが、振り返らなくても攻撃の気配を感じたので迷わず退がる。するとさっきまで彼が立っていた位置周辺が氷の鉄球が埋め尽くす。藤原を襲っていた一機だけでなく他の二機も巻き込んで攻撃の暇を与えない。
「撃てぇぇぇッ!」
さらに別の声が上がる。合図となって遠距離系の能力者の攻撃が飛来する。念の為に控えていた警備の者や派遣された上位能力者たちだろう。非戦闘員を非難させていち早く敵を包囲するように陣を取っていた。
「どういうつもりだ、松井。アレは僕の獲物だぞ」
「緊急事態だ。割り切れ」
風紀委員会の副会長であり、氷系の能力者でもある松井桃矢。
彼の登場に藤原は苛立ちを隠さず睨み付けるが、松井は気にした風もない。ほぼ意識を囲っている三機に移して氷の生成に集中していた。
「さっさと失せろクズども。ここは僕たちだけで十分だ」
「無能の君に言われたくないなぁー。ボロ出す前に消えたらどうだい?」
松井としては本心からのセリフであるが、挑発紛いな発言に藤原が大人しく退く筈がない。真っ赤に染まっているチェーンソーを向けて、殺人鬼のような鋭利な笑みを浮かべた。
「邪魔するなら貴様から氷漬けにするぞ」
「出来るものなら……その前に君を真っ二つにしてあげるよ」
一触即発な雰囲気。起きている事態も無視してプライドの塊である2人が今まさに衝突しようとしていた。
――次の瞬間、
『『『―――ッ!」』』
機械兵三機が一斉に唸った。
いや、全身から赤き波動を放出すると、まるで稲妻のように全方位を攻撃した。
大きな爆発と衝撃が走る。
建物が崩れる音もして悲鳴もあっちこっちから響いて……すべてが収まった頃には
試合会場は完全に崩壊していた。
咄嗟にプロたちが生徒たちごと守ったか、辛うじて死人は出ていなかったが、ほぼ全員が戦闘不能。睨み合っていた松井も藤原も瓦礫の中で生き埋めになっていた。
「そ、そんな……」
橘や他の生徒たちによって避難されていたお陰か、頭から血を流しているが鷹宮は起き上がっていた。近くで気絶している橘や生徒たちの容体を確認しているが、目の前の惨状に言葉を失っている。
会場自体が頑丈な作りだったのは前から知っていた。前回の襲撃の際も何箇所か壊されはしたが、完全に崩落するほどではなかった。
「しかも三機も出て来るなんて……」
もしかしたらまた来るかも知れない。鍛えるついでにほぼ勘で待ち構えていたが、予想外の数に思考が今にも停止しそうだった。前回の兵器だけならリベンジと憂さ晴らしで迷わず挑めたが、同等レベルの機械兵が三機もいる。試しに突っ込んでみたが、見事に敗れてしかも全員やられてしまい、もう後が残されていなかった。
『ッ!』
「っ! マズイ……」
1体の視線らしき赤き眼光が起き上がったこちらを捉える。 他の二機も同じように鷹宮をロックオンすると、各々飛び道具を使用する。
二足歩行のゴリラタイプの機械兵は、肩に背負っているガトリングガンが連射。
飛行している鳥型の機械兵も翼に付いているレイザービームを撃つ。
獣型の四足歩行の機械兵は口を大きく開ける。砲撃のような光の粒子砲を発射した。
「ッ! ここまでか!」
瞬間、鷹宮の視界が3種類の光で覆われる。逃げ場などない。せめて周りの人たちだけでも守ろうと、光の剣を出して皆の前へ出ようとした。
……その時だった。
「【ミラー・マジック・シールド】!」
「【カット・ディフェンス】!」
「ふっ!」
鏡のような障壁が視界全体を覆うと、その端から出て来た剣を持った大地がレーザーガンを剣で弾く。
さらに障壁に阻まれて四方に飛び散った光の球は、見覚えのない男子生徒が両手のひらに引き寄せている。
「返すぞ、はぁぁぁ!」
すべてが集まり巨大な光の玉となると、男は高く上げて機械兵たちへ返した。
直撃したのか爆発が起きて激しく土煙が舞う中、振り返った大地が呆然とする鷹宮を見た。
「ここからは俺たちに任せろ」
「出て来られても邪魔でしかないんで退がってください」
「もう少し言い方があるだろう」
告げて白い手帳のような物を取り出してカードを抜く。
障壁を解いた麻衣も何処からともなく金色の杖と水色の杖を取り出していた。
「邪魔なのは事実でしょう。それとも巻き込んでしまってもいいと?」
「そういうこと言っている訳じゃないだろう。……たく、こんな時まで気遣いが欠けた後輩を持つと先輩はストレスで胃に穴が開きそうだ」
「ご安心を、その時はしっかり治療しますんで、ついでに強靭な肉体に作り変えて私好みにしてよろしいですか?」
「何も安心できないし、何もよろしくないから!」
何言っても無駄か! 分かっていたけど!
手帳に付けていた『剣士』を外すと、召喚していた専用剣が姿を消す。さらに取り出した『戦士』と合わせてセットした。
「ははは、君たちは本当愉快だねー。こっちは戦力差に緊張して仕方ないのに」
呆れた顔で龍崎も並ぶように移動する。戦力的に厳しいのは事実なので出し惜しみする気がないらしい。手首にはめている銀のブレスレットに手で触れていた。
『『『――ッ!』』』
そして開戦のゴングは大きな煙の中から飛び出した『滅亡の侵略者《ドレッド・レイダー》』三機の一斉攻撃であった。
「いや、ここで待機だ」
問いかける白岡に対して時一は首を横に振るう。
天を突き刺す闇色の雷の気配をいち早く察知していた。街中からでも見えるソレに危機感を抱く白岡であったが、何か考えがあるのか時一は冷静にスマホで連絡を取っていた。相手は訊く必要もなく彼女が嫌いな不良亀であろう。
「龍崎を話し合った。あっちが表に出てオレが裏側を探って首謀者を見つける」
「出来るの? 相手は監視カメラも欺く多分相当な術師だと思うけど?」
「問題ない――目星は付いてる」
連絡が来たのか確認しながら告げる。続けて別の誰かにも連絡を取るとスマホをポケットに入れた。
「誰なの?」
「これから確かめる。その為にも」
チラリと別方向に視線を送る。釣られて白岡も見上げると特殊な気配が3つ。試合場へ近付いているのが感じ取れた。
「アイツらには頑張ってもらわないとな」
「ほんとうに大丈夫なの? 今度は三機もいるけど……」
「龍崎がいるどうにかなるさ。……それに」
ポケットに入れていたスマホを取り出す。送っていた相手から連絡が返ってきたようだ。さっと読むと静かに笑みを浮かべて白岡へ画面を見せた。
『――了解、こっちも片付いた。まもなく着く』
「これって……」
「こわーい死神さまの増援だ」
軽い調子で言うが、聞かされた白岡は薄っら寒気を覚える。接点こそあまりないが、あの得体の知れない者の恐ろしさはよく知っていた。
試合場は既に大混乱となっていた。
突如襲来した三機の『滅亡の侵略者《ドレッド・レイダー》』が暴れて、解禁された試合場を利用していた学生たちに襲い掛かっていた。
「――グっ!」
「朱音さん!」
「朱音! チッ、このカスが!」
その中には鷹宮たちも入っていた。同じメンバーである白岡は居ないが、他の橘と藤原の2名は参加していた。
「落ち着け藤原! ここはプロと一緒に連携で」
「煩い! 僕に指図するな!」
そして、三機の機械兵に対して真っ先に突っ込んだ鷹宮が吹き飛ばされる。考えなしの突進ではなかったが、前回と同格三機が相手では無謀でしかなかった。
問題はそれを見た鷹宮狙いの藤原がキレたことだ。普段はイケメンの優しい雰囲気であるが(女性限定)、今一番のターゲットである鷹宮への攻撃。プライドの塊である彼にはとても許容できることではなかった。
「【チェーン・アックス】ッ!」
所持していた武器系の能力を使う。見た目はチェーンソーと見るからに危ない代物だが、彼は慣れた様子で振るうと回転を増したチェーンが赤く染まる。
鷹宮を吹き飛ばした一機に向かって叩き込む。すると頑丈かつ魔力耐性も付いた装甲が悲鳴をあげた。
『―――』
「硬い装甲だな! 削り甲斐がありそうなボディーだ!」
機械兵が大きな腕で振りかぶってくるが、藤原は一切後退する気配を見せない。それどころか逆に踏み込んでギリギリところで攻撃を躱す。まるでスリルを体験しているようで、何度も刃も真っ赤なチェーンソーを叩き込んで敵の装甲を削っていく。
「ハハハハハハハハ! もっとだ! もっと!」
「退がれ藤原!」
「ッ――チッ!」
煩いと思ったが、振り返らなくても攻撃の気配を感じたので迷わず退がる。するとさっきまで彼が立っていた位置周辺が氷の鉄球が埋め尽くす。藤原を襲っていた一機だけでなく他の二機も巻き込んで攻撃の暇を与えない。
「撃てぇぇぇッ!」
さらに別の声が上がる。合図となって遠距離系の能力者の攻撃が飛来する。念の為に控えていた警備の者や派遣された上位能力者たちだろう。非戦闘員を非難させていち早く敵を包囲するように陣を取っていた。
「どういうつもりだ、松井。アレは僕の獲物だぞ」
「緊急事態だ。割り切れ」
風紀委員会の副会長であり、氷系の能力者でもある松井桃矢。
彼の登場に藤原は苛立ちを隠さず睨み付けるが、松井は気にした風もない。ほぼ意識を囲っている三機に移して氷の生成に集中していた。
「さっさと失せろクズども。ここは僕たちだけで十分だ」
「無能の君に言われたくないなぁー。ボロ出す前に消えたらどうだい?」
松井としては本心からのセリフであるが、挑発紛いな発言に藤原が大人しく退く筈がない。真っ赤に染まっているチェーンソーを向けて、殺人鬼のような鋭利な笑みを浮かべた。
「邪魔するなら貴様から氷漬けにするぞ」
「出来るものなら……その前に君を真っ二つにしてあげるよ」
一触即発な雰囲気。起きている事態も無視してプライドの塊である2人が今まさに衝突しようとしていた。
――次の瞬間、
『『『―――ッ!」』』
機械兵三機が一斉に唸った。
いや、全身から赤き波動を放出すると、まるで稲妻のように全方位を攻撃した。
大きな爆発と衝撃が走る。
建物が崩れる音もして悲鳴もあっちこっちから響いて……すべてが収まった頃には
試合会場は完全に崩壊していた。
咄嗟にプロたちが生徒たちごと守ったか、辛うじて死人は出ていなかったが、ほぼ全員が戦闘不能。睨み合っていた松井も藤原も瓦礫の中で生き埋めになっていた。
「そ、そんな……」
橘や他の生徒たちによって避難されていたお陰か、頭から血を流しているが鷹宮は起き上がっていた。近くで気絶している橘や生徒たちの容体を確認しているが、目の前の惨状に言葉を失っている。
会場自体が頑丈な作りだったのは前から知っていた。前回の襲撃の際も何箇所か壊されはしたが、完全に崩落するほどではなかった。
「しかも三機も出て来るなんて……」
もしかしたらまた来るかも知れない。鍛えるついでにほぼ勘で待ち構えていたが、予想外の数に思考が今にも停止しそうだった。前回の兵器だけならリベンジと憂さ晴らしで迷わず挑めたが、同等レベルの機械兵が三機もいる。試しに突っ込んでみたが、見事に敗れてしかも全員やられてしまい、もう後が残されていなかった。
『ッ!』
「っ! マズイ……」
1体の視線らしき赤き眼光が起き上がったこちらを捉える。 他の二機も同じように鷹宮をロックオンすると、各々飛び道具を使用する。
二足歩行のゴリラタイプの機械兵は、肩に背負っているガトリングガンが連射。
飛行している鳥型の機械兵も翼に付いているレイザービームを撃つ。
獣型の四足歩行の機械兵は口を大きく開ける。砲撃のような光の粒子砲を発射した。
「ッ! ここまでか!」
瞬間、鷹宮の視界が3種類の光で覆われる。逃げ場などない。せめて周りの人たちだけでも守ろうと、光の剣を出して皆の前へ出ようとした。
……その時だった。
「【ミラー・マジック・シールド】!」
「【カット・ディフェンス】!」
「ふっ!」
鏡のような障壁が視界全体を覆うと、その端から出て来た剣を持った大地がレーザーガンを剣で弾く。
さらに障壁に阻まれて四方に飛び散った光の球は、見覚えのない男子生徒が両手のひらに引き寄せている。
「返すぞ、はぁぁぁ!」
すべてが集まり巨大な光の玉となると、男は高く上げて機械兵たちへ返した。
直撃したのか爆発が起きて激しく土煙が舞う中、振り返った大地が呆然とする鷹宮を見た。
「ここからは俺たちに任せろ」
「出て来られても邪魔でしかないんで退がってください」
「もう少し言い方があるだろう」
告げて白い手帳のような物を取り出してカードを抜く。
障壁を解いた麻衣も何処からともなく金色の杖と水色の杖を取り出していた。
「邪魔なのは事実でしょう。それとも巻き込んでしまってもいいと?」
「そういうこと言っている訳じゃないだろう。……たく、こんな時まで気遣いが欠けた後輩を持つと先輩はストレスで胃に穴が開きそうだ」
「ご安心を、その時はしっかり治療しますんで、ついでに強靭な肉体に作り変えて私好みにしてよろしいですか?」
「何も安心できないし、何もよろしくないから!」
何言っても無駄か! 分かっていたけど!
手帳に付けていた『剣士』を外すと、召喚していた専用剣が姿を消す。さらに取り出した『戦士』と合わせてセットした。
「ははは、君たちは本当愉快だねー。こっちは戦力差に緊張して仕方ないのに」
呆れた顔で龍崎も並ぶように移動する。戦力的に厳しいのは事実なので出し惜しみする気がないらしい。手首にはめている銀のブレスレットに手で触れていた。
『『『――ッ!』』』
そして開戦のゴングは大きな煙の中から飛び出した『滅亡の侵略者《ドレッド・レイダー》』三機の一斉攻撃であった。
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