元勇者だけど可愛くない後輩に振り回されてます。

ルド@

異次元から襲来と来訪者 その3。

『ッ!』

「国と友の仇だ! くたばれ!」

 殺意を込められた容赦ない斬撃の一閃。巨大兵器は片腕に付いている十字架の盾のようなものでガードするが、無傷でも衝撃が大きく上体が軽く傾いた。

「鷹宮! 何故ここに……」

「お前たち全員逃げろ! さっきの攻撃を能力で受けた以上、しばらく能力が使えない! 良い的になって死ぬぞ!」

 突っ込む際に秋党から声が呼び止められたが、鷹宮は言うだけ言って駆ける。いきなりの彼女の乱入に秋党の思考は半ば混乱していたが、隣で聞いていた松井は半信半疑で銃に能力を使おうとしたが……発動しない。

「嘘……本当に使えない」

「なッ! ち、オレもだ……!」

 松井の怯えたような声にハッとした顔で秋党も手のひらで確かめるが、発動する気配は一切ない。信じ難い話であるが、鷹宮の言う通り能力が完全に使えなくなっていた。観戦席でも同じで寸前まで発動させていた者たちが全員麻痺したように使えなくなっていた。

「サオリン……!」

「うん、こっちもダメ……! お兄さんから貰ったカードも反応しない」

 同じく困惑した様子の空と九重がいる。互いに能力や大地から借りたカードを使えないか確かめるが、秋党たちと同じで全く発動しない。……つまり、今は自分たちは守る術のない完全に無防備ということだ。

「っ!」

 そこで何かを察した顔で空は九重の手を取る。使えるか分からないが、槍も持って走り始めた。

「――空っ!?」

「ここから離れないと! 戦いが始まったら他の邪魔になる! お兄ちゃんやマイちゃんが動くかもしれないし!」

 迷うことなく試合舞台を降りようと急ぐ。まだ戸惑う九重を引っ張ってとにかく兄たちがいる方へ駆け出して行った。




「何故お前がこの世界にいる!? 誰の差金でここまで来た!?」

『ッ!』

 返答の代わりにガードに使っていた十時の盾を振るう。そもそも話せる以前に言葉が分かるか怪しい存在だから質問自体が無意味に近い。

「はぁァァァ!」

 模擬剣を能力で光らせる。止まらず突進した突きで向けられた盾を打つ。

「のわっ!?」

「なあああ!?」

 激しい金属音と衝撃波が試合場で発生して、まだ舞台に残っていた秋党と松井は咄嗟に耳を押さえるが、余波に巻き込まれて飛ばされてしまう。

「ふっー!」

『ッ!』

 しかし、中心で打つかり合っていた両者は一歩足りとも引かない。憤怒ような剣幕で鷹宮が剣をさらに光らせると巨大兵器も十時の盾を赤黒く光らせた。雷のようにバチバチ鳴らせて明らかにエネルギーをチャージしているようだった。

「っ」

 それに気付いた鷹宮は一目散に飛び退く。スカートなのも気にせずバク転してながら距離と取ったところで、兵器から横薙ぎの赤黒い光の攻撃が飛んできた。
 落ち着いた様子で軌道を逸らす剣術で迫っていた光の攻撃を横に流す。お返しに彼女も光の斬撃を飛ばして牽制するが、相手も一切動揺を見せず十時の盾で弾いて見せた。

「前のと同じで頑丈な装甲のようねっ!」

 そこでもう一度距離を詰める。特殊な走法で一気に駆けると上体を叩っ斬る勢いで剣を振り下ろした。

 しかし、巨大兵器の方もさっきまでの攻防で鷹宮への警戒レベルが引き上げていた。
 巨体の左右に搭載さている複数のブーストを噴かして横に一瞬だけ移動。鷹宮の振り下ろしが直撃する寸前で躱して、機械の腕で詰めて来た彼女を殴り飛ばした。

「――がっ!?」

 そもそも力の差があり過ぎた。ボールのように吹き飛ばされると舞台の縁まで、途中で体と剣で堪えたことで落ちずに済んだが、今の一撃で砕けた肋骨が彼女の行動を制限させていた。

「ゲホゲホ……! クソっ……」

 なんて体たらくな有り様だ。この程度で深傷を負ってしまう自分が嫌になる鷹宮。前世に比べても遥かに劣っている今の自分では、相手になる筈がないのは分かっていたが、それでも前世の世界を滅ぼした存在と同じ兵器が相手なのだ。どうしても退くことが出来なかった。

「く、前と違って機動力がアップしてる……!」

『ッ!』

 当然動けなくなった相手に慈悲などない。顎門を開くと赤黒い光が集める。膝を付いている鷹宮へ追撃の光線を浴びせようと―――




「やばかった」

「桁外れの濃度です……! このマシン何なんですか!?」

「知るかよ」

 刹那、割り込んだ大地と麻衣が両手を突き出して、光線から鷹宮や観客たちを守っていた。

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