元勇者だけど可愛くない後輩に振り回されてます。

ルド@

始まる南エリアと西エリアの戦い。

 そして数日後の昼頃である。
 覚醒した『四獣』を退治する為、大規模な討伐作戦が決行された。

 まず始めに『暗黒島』の入り口は東西南北それぞれにあり、全部で四箇所が稼働している。よってエリアも4つに分けられており、島の奥に進むほど危険度が上がり、より危険なモンスターも出てくるのが『暗黒島』の特性だ。

 そして四獣の四体とは、各エリアの中級クラスの怪物たちから選ばれたモンスター。だから毎年選ばれて出て来る四獣は異なっている為、戦闘力よりも能力などをしっかり警戒して当たる必要がある。

 ちなみに数少ない上層の怪物たちは滅多に奥から出て来ない為、大規模の討伐戦の大半は中層レベルに生息しているモンスターが多く、学生たちの場合は中層レベルに対応出来る技量を得ることが卒業までの目標でもあった。

 担当するのは2年生が中心とされている。いざという時のために3年生も混じっているが、基本的には2年が率先して対応を行い、何も知らない新人の1年生の補助も行わなければならない。



「来たか」

「そうですね。しかけますか?」
 
 岩が多い荒野の南エリア。そのゲートを任された2年Aクラス筆頭の秋党あきとう真也しんやが呟くと、隣の同じく筆頭の松井まついあずさが尋ねる。
 2年のランキングトップ、学園ランキング上位でもある2人の力量は3年に匹敵する能力者だ。他のA組や他の2年も後ろで大人しく控えており、実力もあり指示権がある2人の判断を待っている。

「こちら側の準備は完了しています。いつでも動けます」

「まずは……あの獅子の出方を窺うか」

 各自動き慣れた討伐用の服装をしており、制服姿の者やサバイバルスーツのような格好の者もいる。武装系の者たちは借りて来たか元々所持している武器類を用意して、各々しっかりと準備を整えていた。

『グルルルルッ!』

 守っているゲートを目指す『巨大な獅子』がゲートの前で控えている彼らに向かって吠えた。
 さらに背後には獣系の下級モンスターの群れを従えており、灰色の獅子こそが四獣の一体でもある『グラシャラ』。
 吠えたことで臨戦態勢に入った能力者たちを捉えると、巨大な背中の翼を広げて一気よく飛び立とうしたが。

「来るぞ! オレが攻撃するから皆あとに続――」

「イッエェェェェェ! ハクちゃんキーーック!!」

『――ガァア!?』

「……は?」

 背後の仲間たちに秋党が鋭く声で告げた……その時。
 『白龍化』した麻衣が翼を広げて空から飛び蹴りをかました。飛び立とうとしたグラシャラの頭部を思いっきり蹴り飛ばされて、下級モンスターの群れを巻き込んで転がって行った。

「まずはハクちゃんキックで先制です!」

『……』

 そして、呆然とする配下のモンスターたちの視線は、蹴り飛ばされた獅子と蹴り飛ばした同じくらいのサイズの白き龍(麻衣)へ。知能が低かったのか視線が左右に揺れて困惑してしまうモンスターたち。

「んにゃ?」

 龍は腕を組んで呻く獅子を見下ろしていたが、無遠慮に集まってくる獣たちの視線に鬱陶しそうな表情と横目で睨み付けた。

「なんですかぁー? 喰われたいんですかコラ?」

 龍の威圧スキル【龍圧】を重ねたことで、麻衣の鋭い眼力と共に群れとなるモンスターの周囲の空気が一瞬で張り詰める。軽い威圧だった為に倒されたモンスターはいなかったが、泡を吹いて気絶するモンスターが続出。

「う、うぅぅ……」

「め、めまいが……」

「お、おい!? しっかりしろ!」

「なんて圧力だ。まだ離れてるこっちまで影響を与えたというのか?」

「あの龍……もしかして噂で聞いた1年の能力?」

「なんだと? アレがそうなのか?」

 その余波はゲートを死守している学生たちにも及んで、何人かの2年が蛇に睨まれたカエルの如く硬直して、1年の中には失神してしまう者まで出ている。なんとか硬直せず堪えたのは2年のAクラスやBクラスの者のみ。

「秋党くん、どうしますか?」

「どのみちこの状況では動けない。……言いたいことは多いにあるが、一旦様子を見よう」

 加減されていたお陰か威圧の余波を浴びても冷静だった2人は、短く話し合い待機を選択する。眉間にシワを寄せた秋党の方は、明らかに文句がある様子で龍と獅子を睨んでいた。

「で、あなたたちはどうしますかぁ?」

『――ッ!』

 辛うじて残っていた雑魚の群れに白き龍(麻衣)は、両手をゴキゴキ鳴らしながら問うが、確認というよりもただの睨みを利かせただけだ。

 怪物がさらなる怪物に睨まれた構図である。

 当然残っているモンスターはパニックを起こして、群れは陣形を崩して四方に逃げ始めようとするが。

「【武装強化・槍】! 穿って――【サンダー・ランス】!」

「行きます! やぁ!」

 待機していた空が雷を帯びた槍を投げる。
 同じく待機していた沙織が【天使の笛】で呼び出した白のレイピアを振るう。
 初心者の2人は麻衣に連れられて隠れていた。

 2人とも着慣れた制服の上に革のようなガードを付けただけであるが、その制服にはあらかじめ麻衣が施した付与魔法が何重にも掛けられている。強化や補助など種類は色々あるが、身体強化系が多く備わっていた。

「やった! 倒せた!」

「うん!」

 つまり、短期間の修業しか積まれていない彼女らでも、冷静さを失った下級モンスターなら確実に倒せる。慌てていたウルフの一体を倒すと、他のウルフも一体ずつ確実に仕留めていく2人。

「2人とも良い具合に仕上がってますねぇ。センパイのカードを使うか迷いましたが、使わずに済ませて正解でした」

 まだ不安要素があるので彼は麻衣を付き添わせたが、過剰な強化外装とも言える制服姿の2人の戦闘能力は既に2年生に届きそうなレベルだった。

「――! なんて速さだ!」

『ガッルルルルル!』

 そして、その速さは2年トップの秋党すら驚愕させるほど。
 目を見開いて戦場を駆ける2人を凝視すると、蹴りを入れられて頭に血が上った獅子が怒りの咆哮で龍へ突撃をしかけようとしたが。

「む、ハクちゃんテーーッル!!」

『ガルっ!?』

 察知した麻衣が目を輝かせる。白き尻尾のバット代わりに振るうと、バンという鈍い音を鳴らして跳び掛かった獅子を叩き返した。

「思ったより頑丈でしたか」

 吹き飛んだのを確認すると、大きな翼を広げて麻衣は空へ羽ばたく。

「なら一掃してやりましょう! ソラちゃん沙織ちゃん離れてて!」

 気合いを入れた声を上げると、遠目でも分かるくらい息を吸い込んで胸元を大きく膨らませ始めた。

「ま、まさか」

 ゲームをあまりしない秋党でもなんとなく察した。
 どんなドラゴンにもある共通の攻撃方法――

「【ストーム・ブレス】!」 

 暴風の爆弾がその地に飛来した。散らばっていた下級モンスターたちを埃のように吹き飛ばしていった。
 土煙でゲート付近の生徒たちの視界が酷いことになっていたが。

「ククククっ、雑魚どもが……私を煩わせるではないわ!」

『グルルルルルッ!』

「む?」

 調子に乗っている麻衣の視界には一切映っていなかった。
 それよりも今の一撃でも仕留めれなかった獅子の唸り声に少なからず疑問を覚えるが。

「む、まだ動けますか! ならハクちゃんダイブ!」

『グルルルルッ!』

 白き魔力で肉体を輝かせると翼を振るわせて土煙の中へ突撃する。
 迎え討とうとする獅子の咆哮を受けるが、白き光となった龍の麻衣は一気に突っ込んだ。





 岩と砂場である西エリアは常に暑い灼熱地区である。
 出てくるモンスターはトカゲ系やゴーレム系が多く、北エリアの極寒地区と対照的な場所である。
 
『……』

 そして、火タイプの下級モンスターの群れを連れた巨大な火炎ゴーレム『タイタン』は口から火の息を吐きながら、ゲート先に立つ者たちへ視線を送っていた。

「ふぅーやっぱりこっちのエリアは暑いね」

「もうー桃花が引き受けたからだよ。灼熱地区は女子が一番嫌いなエリアなのにさ。副委員長の弟くんに頼めば良かったのに」

「だって生徒会だもん。それに桃矢とうやの能力だとこのエリアじゃね……」

「あー氷系だったね。じゃあ半減しちゃうか」

「半減どころか三割未満かな?」

「全然ダメじゃん!」

 エリアの担当を任されたBクラスの花園はなぞの桃花とうか。それにAクラスの生徒たちやBクラスの仲間たちが集まっている。経験のために1年生も集まっているが、このエリアは北エリアと同じくらいに厳しい環境となっている。

「ま、それは1年の子たちも同じか」

「無理ないだろう。この暑さはまだ成り立ての彼らに厳し過ぎる」

「持ち堪えてるだけ大したものだよ」

 真っ青な空からは灼熱の太陽、熱せられた地上からは砂と岩場である。ゲートから一番近いレベルの低い場所であるが、1年には強過ぎる熱気によって大半が汗を流して集中力を乱している者もいる。

「だから回復や水系の人たちはそっちのフォローを優先して……こっちは――」

 サッと手を遠くのゴーレムに向けてかざす花園。優しそうな微笑みが一変して能力者の鋭い目付きとなる。
 するとゴーレムや他のモンスターたちの足元に真っ赤な丸いランプが出現して点滅する。
 
『……』

 微動だにしないゴーレムに代わり配下のモンスターたちが足元に視線を送る。
 徐々に早まっていく点滅ランプ。花園はかざしていた手でパチンと指を鳴らすと――。

「【クレアボム】」

 爆裂系の広範囲攻撃がゴーレムを含めたモンスターの群れを爆炎で一掃させる。 
 Bクラスの代表である花園桃花はAクラスに匹敵する一騎当千の能力者であった。

「え?」

『……』

 ただし、僅かに表面が亀裂が出来ただけのゴーレムの姿を目視すると、その表情に微かな険しいさが生まれる。中層クラスのモンスターなら今の一撃でかなり消耗する筈が、大してダメージを負っていない。

「『パニックエラー』?」

『……』

 頭の回転が早い彼女の中でその単語が浮かび上がる。視線の先のゴーレムは火の息を吐くだけで返答などある筈がないが。
 そうして攻撃を続けるべきか判断を……僅か迷う中――。

『……』

 大きな両手の拳で地面を大きく打ち鳴らすゴーレム。
 彼女たちに向かって爆炎の火柱が無数に発生する。花園の能力をしている他の2年は邪魔にならないように一歩下がっていた為に反応が遅れていた。

「しまっ――」

 ハッとした顔で手をかざす花園であるが、彼女の爆炎系は防御に向いていない。
 既にすぐ側まで迫っていた火柱を前にして、伸ばしかけた手が硬直してしまった。

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