元勇者だけど可愛くない後輩に振り回されてます。

ルド@

去年は他人事だったことも今年は違っていた。

「もう! センパイの所為ですっかり遅くなったじゃないですか!」

「お前が暴れたのも原因だと思うが」

「朝から後輩のトップシークレットな部位に触れて何言ってんですか! このセクハラセンパイ!」

「2人とも喧嘩しないでよ! 急がないと乗り遅れちゃうから!」

 いや、触ってはいないから。そうやって周囲に誤解を招くような発言をするな。
 朝からひと騒動あったが、どうにか乗り越えた。乗り越えた方法については訊かないでくれ。
 しかし、時間が押していたのでさっさと朝食を取ると学園島に続くモノレールの駅まで急いだ。と言っても多少本気で急げば余裕で間に合わせるくらい時間はある。ただし、見られてないことが前提なので当然却下であった。

「そもそも酷いですのはセンパイです! 部屋に放置していくなんて!」

「ノーパン・ノーブラな後輩の処置としては的確な対応だった思うが?」

「シャラップです! それ以上外でその話したら焼き炭にしますからね!? これからも連チャンで泊まりに行きますからね!?」

「泊まりに来るな。食いに来るのはいいが、さらっと泊まる宣言もするな」

 何故こうなったか。問題なく入学式を終えたいだけなのに。
 妹なんてもうこっちを見ていない。一緒に走っているが、関わりたくないオーラ全開で目を背けていた。……お兄ちゃんも背けたい。





「すごい人ですねぇ」

「こんなに居たんだぁ」

 そして、時間までに駅に着いた俺達は、モノレールを利用して学園島に入る。2人共受験や案内の際に見ていたが、学生が多いのか少し驚いた様子で周囲を見ていた。

 学園島の校舎までの道のりは建物ばかりがある都会の街並みだ。休日は殆ど目にしなかった学生達が多く歩いて、学生の街だと実感出来る景色であった。

「大半は1年だろうな。今年の学生は赤色のリボンやネクタイだから見分けが付けやすいな」

「なんかブレザーと合わない気がするんですが」

「大丈夫だ。元々お前にブレザーは微妙だと思ったから。子供っぽい」

「今日のセンパイは喧嘩ばっかり売ってきますねぇー。……久々に本気でやりますか?」

「2人ともいい加減にしてぇー!」

 なんてやり取りをしているとあっという間に校舎に着いた。時間はまだ余裕があったが、門の前には俺達のように急いで来た人、待ち合わせしてる人が集まって少し窮屈感があった。

「人多い! もっと離れましょうよ!」

「勧誘もやっているからな。毎年ここで止まる」

「この人達がみんな能力者なのお兄ちゃん?」

「だろうな。学園の半分近くが集まってるんじゃないか? ここまで居ると外での遭遇がバカらしく思えるだろう? ……さて、俺もそろそろ行かないとな」

 さらに部活勧誘も人達も集まっており余計に抜け出したかったが、ここには俺も用事がある為、苦笑しながら2人にスマホをチラつかせた。

「悪いが付き添いはここまでだ。奥に行けば指示の看板があるからそれに従って行け。終わったら一応連絡してくれ」
「分かりましたが、用事って?」

「……勧誘だ」

 不思議そうに首を傾げる後輩に苦い顔を向けて言うと、門の入り口で立ち止まる2人を置いて中に入る。……事前に大丈夫だと言われていたが、どうせ上手くいってないだろうからフォローしないと。
 こういうサポートのつもりで入った訳ではなかったが、入学生や勧誘の生徒達の波をかき分けながら能力者関係の部活スペースまで移動した。




「あぁ〜!? ダイちゃ〜ん!」

「部長、お疲れさまです。……部長1人ですか? 他のメンバーは?」
「始まる前から諦めて行っちゃったぁぁぁー!」

 予想通り小さいツインての3年の部長が泣いている。というか号泣だ。テーブルの上に用意してあるパンフの山を見れば、理由なんて考える必要もなかった。
 ちょうど通り掛かった入学生が驚いた様子で見ているが、気にしなくていいと他の生徒が促す。いつものことなので他の勧誘の部活のメンバーや生徒もスルーしていた。

「……時一の奴もですか?」

「トキちゃん? まだ来てないよ?」

 一瞬で泣くのも止めて素で返した部長を見て、相変わらず意識してないのか。この部を利用してハーレムを築く! とか言って一緒に入部して来たが、一向に攻略の方は進んでいないようだ。……一体いつ報われるのかアイツの努力は。

「また寝坊したか。まぁ遅刻はしないと思うが」

「前に『是非モーニングコールしてください! デートもありな方向で!』って部員の女子達や依頼があった部活の女子達にIDと番号教えてたけど、そんなにダメなの?」

「まぁ朝はダメらしいですが」

 ちなみにデート云々の話をした時点で、思わず登録し掛けた女子達の手は一斉に止まった。部長はぼかしていたが、結構強引なナンパ野郎みたいなセリフと下心満載な表情だった。
 そして、身の危険を感じた学園の女子達が女子グループの連絡網に通したことで、僅か1年で時一は学園の女子達共通の危険人物として認定されてしまった。

 どう見ても聞いても自業自得の話でしかないが、当本人はまだ知らない。何処までもポジティブな男でモテる為ならどんな重労働な依頼も、相手が女子かそこに女子が居るなら平気でやってみせた。

「でも居ない方がいいですかね? アイツが居たらナンパ嵐で余計に入部希望が来なくなります」

「そんなことは…………ないかな?」

 可愛らしく小首を傾げるのは、『サポート部』の部長3年名倉なくらすずめ
 小動物のイメージが相応しい小柄でツインてな先輩。ちょっと頼りない感は否めないが、『サポート部』の長としての力量は本物だ。……勧誘は全然だけど。

「手伝います。正直難しそうですが、チラリだけでも配っていきますね?」

「ウチは地味だからね。でもいいの? 確か妹さんとその友達の案内があるからって外れたのに」

「案内は校門前までで済ませました。あとは教師達が誘導するので大丈夫でしょう。――あ、良かったら『サポート部』もどうぞ」

 言いながらパンフレット捌いていく。特に興味がない生徒ばかりだから不意を突いて捌いていく。急に視界にパンフが出て来た所為で、思わず手に取ってくれる生徒が多いので結構楽だ。加入してくれるか微妙であるが、パンフを残すのは作った側としては嬉しくないので、そこを遠慮するつもりはなかった。

 5分もしない内にパンフの山は消えていた。
 教師達の指示で1年が移動し始めて勧誘タイムも終わったので、片付けしていると部長が嬉しそうに礼を言って来た。

「いや〜やっぱりダイちゃんが来てくれて助かったよ。流石『サポート部』の副部長兼次期部長!」

「その話お断りした筈なんですが」

「他の2年の人に任せたら廃部確定だもん! わたし達3年は卒業するし、副部長でもいいからやってよぉ〜!」

 否定したいが、否定し難い事実に言葉が詰まる。よく分かっている、流石部長だ。確かに他の2年の奴らが部長や副部長にでもなったら何するか分かったものではない。時一も変人の分類であるが、他の3名もまた別の意味で異常者であった。

 ちなみに『サポート部』は、その名の通りの助っ人系の部活である。頼られる種類は様々であるが、よくあるのは書類整理や片付け掃除などの細々とした作業が一般的だ。

 偶に戦力・人員不足などの理由で依頼されることもあるが、補佐がメインなので重要役割に立つことはまずない。……数回だけ立ってしまったこともあるが、誤魔化せていると思いたい。

「とりあえず副部長の件については検討させてください。しばらくこっちの部活動の参加し難くなるかもしれないんで」

「え、どういうこと?」

「? 入部した際に言いませんでしたっけ?」

 解散した際に話す。キョトンとした部長の顔を見る限り忘れているようだが、入部希望の紙や度々伝えたんだけどな。……思ったよりも馴染んで何度も好評価だったから、念押しで伝えたのに。
「多分妹や後輩の奴とチーム組むから部活の不参加が増えると思います」

「にゃっ!?」

 一応改めて伝えたが、反応が『思い出した半分』『初耳だよ半分』と言った混乱気味な様子であった。
 ここで再度説明も考えたが、時間も押していた為、建物前で部長と分かれて俺は新しい教室へ向かった。その時点で外の人も殆ど居なくなっていた。

「そ、そうだったにゃぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 その最中、背後からそんな悲鳴みたいなニャン子声が聞こえたが、衝動的なものだと理解して心の中で部長を哀れんだ。

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