元勇者だけど可愛くない後輩に振り回されてます。

ルド@

去年は語ると短かったのに、今年は長そうだった。

 ――俺の名は幸村大地。元勇者で今は学園で能力者をしている。
 中学時代に後輩の小森麻衣と共に異世界転移をして、そこで魔王退治という無理難題を突き付けられた。初めは嫌々であった俺達だったが、向こうの王女と街の人達と親しくなったことで考えが変わる。

 やるだけでもやってみようと『勇者』を目指して頑張った。
 何故勇者からと言うと以前も説明したが、異世界のジョブという職業を取得する必要があった。

 ジョブが5つ以上が必要だと知り基本ジョブのみを複数鍛えた俺は、やがて『勇者ジョブ』と手に入れるが、死闘とも言える魔王戦で力の大半を失ってしまった。

 結果として異世界からの帰還した後も状態が回復することはなく、ステータス自体もボロボロの状態であった。かつて手にした基本ジョブのスキルや魔法が少しだけ使えていたが、ステータスのバランスが非常に悪かった。




 しかし、学園島にある『天輪学園』に入学したことで俺の生活も一変した。
 高校自体は何処でも良かったが、後輩の麻衣から能力者育成の学園島があると聞き思い切って受験先に選んだ。

 面接時に多少のトラブルはあったが、どうにか入学することが出来た。……ところが俺が入ったクラスは問題児の溜まり場であるEクラスであった。中でも厄介な生徒も何人か混じっており、担当教員も面接時に目付けてきた1人だったのでやり辛い教室だった。

 しかも、手にした能力はかつて取得した異世界のジョブを使えるものだった。

 初めは後輩の言う通りヤバい系の能力だと思っていたが、要所要所で使い分けれる点では非常に良い能力だと感じた。
 生憎と実戦経験が他よりも少なかったので、能力のレベルアップはあまりしなかったが、今の状態でも十分やっていけるレベルであった。

 しかし、能力の授業で大っぴらに見せる訳にはいかなかった。『サポート部』に入ることで少しは補填は出来たが、能力の成績自体はどうしても下の方だった。

 その間にもクラスメイト達は少しずつ力を開花し始めた。他所のクラスもそうだったが、俺のクラスにも何人か頭角を現してきた生徒が出てきた。

 その1人がかつては後ろの席だった大和撫子の鷹宮さんだ。
 彼女はとにかく強者に挑むのが生きがいというか姿勢の持ち主で、Aクラス〜Dクラスまでのトップクラスの学生と度々対峙していた。

 ……何気に俺も理由があって目を付けられてしまった。同じクラスメイトなのでどうにか誤魔化しているが、いつまで逃れていられるかは分からないが。


 もう1人は金髪の不良男子の江口だ。見た目の割りに喧嘩ごとはあまり聞かないが、自由人であった。

 授業をサボることもなかったが、あっちこっちに散歩? が好きだったらしくモンスターが出現する島に入った際も危険地区と呼ばれて、教員から絶対に近付かないようにと念押しされた場所にも平気で侵入していた。

 しかも実力もハンパないらしく挑まれても負けなしと聞いている。

 他にもクラスのアイドル的な橘やイケメンの藤原も2人ほどではないが、少しずつチームの評価が上がっているらしい。2人とも2年に進級したしそろそろ何かして来そうだ。

 1番反応がないのは読書好きの女子の白岡だ。1年間同じクラスで過ごしているが、目立った行動どころか交流すらほぼない。何度かグループ系の授業で接点はあったが、短い返事か頷く程度の反応しか見せなかった。

 モンスターの討伐戦は何度か参加しているようだが、単独でしか出ていないので情報が全くない。ランクが上がっていないのを見る限り、それほど出ている訳ではないかもしれないが、彼女は他の面々とは違う意味で警戒しないといけない相手だった。

 ちなみに時一の奴は、相変わらずで女好きなのも隠そうとすらしない。
 別に目付きはいやらしくないとは思わないが、それでも態度で色々と丸出しであった。……煩悩的な奴が。
 例えば仲良くなってきた頃に下の名前で呼び合い始めたのだが。

「どうせファーストネームで呼ばれるなら女子からが良いからな!」

 なんてみんなの前で言うから入学早々に女子陣から変人認定を付けられた。当然下の名前で呼ばれることはなく彼女も出来ずに寂しい1年間を送っていた。当の本人はいつも楽しげであったが。

 それから評価補填と気まぐれで入った『サポート部』を通じて、学園の派閥や能力、モンスターについて知ることが出来た。その際に色々と面倒ごとにも巻き込まれたが、それは仕方ないと多少手を貸すことになった。……それが原因で他のクラス連中に少し・・目を付けられたが、それ以上は何もしていないので多分大丈夫な筈だ。

 他にも面倒な事件もあったが、それは後々に語るとしよう。
 正直クラス対抗戦などでランクが自動的に入れ替わると思っていたが、流石に他のクラスも本気の本気でそこまでには至らなかった。

 後半、鷹宮の奴がAクラスばかりに狙いを定めた所為で、Aクラスと衝突することが何度もありしんどかった。やり過ぎて2年や卒業した3年にも喧嘩を売る形にもなり……今は3年のAクラスとは非常に険悪だったりする。

 ……個人的な理由もあるようだが、それだけの所為で巻き込まれて1度だけ俺自身が3年と衝突する件が起きてしまい、今では鷹宮以上に警戒していた。

 しかも、それで鷹宮の目の色が変わり俺まで時々挑まれそうになるが、なんとか躱していた。




 学生生活なんてあっという間と大人達は言うが、その通りだと1年経って思った。
 影に隠れる筈が結局色々とあった1年が過ぎて、2年生になった俺だが……。 

「ハハハハハハハハハハッッ! センパーイ! 楽しい! 楽しいですよ!」

「分かったから少し落ち着け。興奮し過ぎてデカさ・・・が増しているぞ」

「それどころじゃないよお兄ちゃん!? ていうかなんでそんなに冷静なの!?」

「凄いね……空のお兄さん」

 とうとうやって来た後輩によって、新学期早々に波乱まみれな学生生活を過ごすハメになってしまった。

 新たな能力を試すために人の居ない訓練場を利用して助かったが、顕になったソレを見て妹はパニック状態になり友達の子は呆然としている。

「うひゃぁぁぁぁー!! サイコォォォォー!!」

 肝心の後輩はノリノリでハイテンションであった。
 いや、灰になり過ぎて頭がイカれたか。叱る感じで俺が止めなかったから訓練場を破壊する勢いだった。

 どうしてこうなったか。話は1日前の入学式まで戻る。
 進級して2年生になった俺は、同じマンションに引っ越して来た後輩と妹を連れて学園まで登校していた。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品