元勇者だけど可愛くない後輩に振り回されてます。

ルド@

後輩から学園を紹介された結果将来の話にまで発展した。

 能力者育成機関――『天輪学園』
 設立時期は今から15年前。当時の日本能力者のトップ3名によって建設された教育機関。当初は高等部のみであったが、今は中等部・高等部・大学あり研究機関として学院も存在する。

 既に国に登録されているか登録した能力者は、中等部からの入学が認められてさらに学費も免除か減額が可能なそうだ。

 学園の目的は若手能力者の質を高めることと、新たな能力者の誕生の教育の場……とあるが、裏では全く別の目的があると個人的には思った。

 理由は『存在の原点』から誕生するモンスターだ。年々数だけでなく単体で強化されている傾向があった。
 厄介な能力スキルを持つタイプも現れることが増えていくのに対して、それに対応が出来る能力者は年々減っていた。

 元々能力者の数は少なかったそうだが、モンスター活発化に伴いそれが重大な問題へと発展した。

「で当時の打開案の1つとして元々計画されていた学園建設が本格的になったと……一般の教育に加えて色んな能力のカリキュラムも導入しているようだな」

「みたいですねぇー」

 パンフレットの記載文にそこまで書かれているわけではないが、読んでいけばそれとなく予想は出来てしまう。

 他には学園島内部のいくつもある巨大校舎や建物ついても記載もあるが、ついついその裏を読んでしまう。所謂要塞とか……。

「社会の裏事情をヒシヒシと感じるな」

「でも興味ありません? 能力者育成の学園って」

「まぁなくは無いが」

 昔はともかく今はだいぶまともな感じに思える。
 テレビや雑誌でも何度か目にしたことがあるくらい表舞台には出て来ている。モンスターとの戦闘関係は殆どないが。

 しかも、昔は大半が元々能力者であったのが、今では訓練を受けない素人であっても素質があれば普通に入れる。
 少し前ならお払い箱であったが、ここ数年の間にもの凄い改善がなされた。

 何故なら、

「入学したらすぐ能力の開花が可能か……」

「そういう能力者がいるそうですよ? なんでも素質のある者なら全員を開花出来るらしいです」

「きっとスキル名はバーゲンセールとかじゃないか? 掘り出し物が出せるスキルとかだろう」

「センパイ、そのネーミングはちょっと……」

 スキルの量産計画とかロクな計画じゃないと思ったが、割りと好評で年々受験者が増えている。
 単にテレビや雑誌の広告を知って、好奇心な若手が増えているだけな気もするが、影響は相当大きいのは事実であった。

「まぁどんなスキルが手に入るか興味はある」

「私もです。魔法に関係する能力とかだったら大歓迎ですねぇ!」

 瞬間、脳裏に過るのはかつての悪夢。寒気と共に蘇った。

 闘争心や怒りと憎しみなどで興奮マックスな後輩によって、破壊され尽くした敵アジトの成れの果て。

 沈められた敵の船や撃ち落とされた飛行船。

 魔王幹部が指揮していた崩壊し切った巨大な敵の城。

 そして、爆乳という理由だけで狙われた魔王の娘の別荘地。

 どれも悲惨な絵であったが、1番最後が1番酷かった。主に動機が。

 偶々魔王の娘が拠点とする場所まで近付いたが、まさか環境レベルで棲めなくなるくらいの破壊魔法で破壊し尽くされるとは夢にも思わなかった。

 そんなに許せなかったのか。全ての男性を魅惑的させかねない、あの爆乳が……。
 
 後日、涙目な娘が逆襲しに来た時、色々と複雑な気持ちで相手をした。

 ただ心底愉快で獰猛な笑みの後輩が魔王の娘を迎え撃つのを見ると、無性にあっちの味方になりたくなったが、それは流石に色々とダメだと我慢した。

 ちなみに麻衣や王国にも内緒だが、実は倒さずにこっそり見逃している。

 元々戦っていた原因は暴走していた父魔王にある。娘の方も派手に暴れていたが、別に大量虐殺とかをして来た訳でない。
 話せば分かる奴だったので、そこは王女さんと同じで上手くやっていると影ながら思っておこう。

「俺も勇者関係のだったら面白そうだと思ったが、お前はこれ以上魔法スペックが上がったらマズいだろう」

 破壊レベルがこれ以上アップしたら、いよいよお蔵入り確定だぞ『魔導王』。

 今の俺は勇者のスキルも魔法もほぼ使えない。有り合わせの基本職の力を少しずつ使えるだけだが、もし……その取得能力で新たな能力を手にしたらどうなるか。

「センパイと私なら行けますよ」

 不敵な笑みを浮かべた後輩は顔を寄せると慣れている甘い香りが鼻に掛かる。
 見た目は小生意気な薄茶髪の娘だが、美少女枠なのは明らかだ。同年代の男子からうっかりドキッとしてしまうに違いない。

 まぁ中身を知っている俺には全然効かず、寧ろ妹の空の方が見た目が凶悪的なのであちらの方がヤバい。
 義妹だからか遠慮が本当にないのだ。比較すると拗ねるから顔には出さないが。

 いや、それよりもさっきの麻衣の言い方が妙なんだけど。

「私なら……ってことかはお前も?」

「一緒に能力者になってみませんか? 私は次の年になりますが、学園では学年関係なく組めるそうなんですから、チーム組んで能力世界で儲けて暴れてみませんか?」

「明らかに本音が隠れているけどな」

 まさか後輩から能力者デビューに誘われるとは、しかもまだ入ってすらいない学園先で。他人事みたいに言っているけど本当になったらどうしよう?

「ぶっちゃけますと将来のことを考えた上での保険ですねぇ。この力がある以上はまともな職業は難しいですし、常に隠し続けなくてはなりません。ハッキリ言って家族や学校に隠すのも窮屈です!」

 金儲けのくだりから急に真面目な感じになったと思ったら、テンションアップと共に後輩のグチ回に入った。突っ込んだらダメなんだろうか。

「ふっ、流石センパイです。私の考えはお見通しのようですねぇ」
 
 表情が変わっていない所為でなんか勘違いされてる。平然としている訳ではないが、真顔仏頂面はオートなんだけど。

「以心伝心ってヤツですねぇ?」

 気持ちのキャッチボールは一切届いてないぞ?
 まさか話が将来にまで発展するなんて誰が予想出来るか。別に考えてなかった訳ではないが、妹に話した時点で満足していた。

「センパイの後輩として微妙に感動です!」

 何故か感動された。しかも微妙とは。
 ……というかこの後輩、俺とチームも組むと言っているが、この先もずっと側に居続ける気か? 本当にそうなったら親御さんになんて言えばいいんだ? 

「センパイ……?」

 いや、寧ろ喜ばれそうだな。『ようやく麻衣ちゃんをゲットだね!』とか『あー待ちくたびれたわ。この甲斐性なしめぇー』とか『息子よ、責任は大事だぞ?』とか『それで孫はいつ生まれるんだい?』みたいな。

 …………順番は麻衣母・義母・父・麻衣父の順であるが、誰が何を言っているか普通に分かってしまう自分が怖い。

 とりあえず婚姻届にサインするのだけは全力で回避しよう。

「もし本当に能力者として活動していくなら、まず必要なのはちゃんとした経歴です。この学園でしっかりと学んでおけば、いざという時役立つ筈ですから!」

 とうとう経歴の話まできたかー。しかも、冗談とか一切なく本気なのが付き合いから察してしまう。

 この後輩、儲ける為にはしっかりと地盤を固めるタイプだ。
 普段は猪突猛進なタイプで向かってくる相手には遠慮なく突っ込んで行くか、向かって来なくても自ら突っ込むような爆走猪……じゃなくて辛めな攻撃キャラだから。

「やってみませんか!? やってみましょうよ!?」

 俺の目には後輩の背後にある『$のオーラ』がちゃんと見えていた。
 こいつの頭の中には、能力者の立場を利用した稼ぎプランしかないらしい。 流石は俺の後輩だ。全くブレがないや。

「……」

 しかし、内心悪くないと思っている自分がいた。

 遅かれ早かれこの世界のモンスターとはいつか戦うつもりだった。勇者だった時の名残か? そうしようと決めた時点で迷いが吹っ切れていた。

 弱っていてもやはり勇者ということかな? 顔には少しも出ないが、後輩の話を聞いてさらにやる気が出てきた。

「あのセンパイ? 黙ってられると流石に不安になるんですが」

「はぁ、とりあえず細かい話は今度にしよう。料理出来たからいい加減空を起こしに行け。そして怒られてから帰って来い」

「――え?」

 話している内に炒めていた料理が完成した。大きめの皿に盛ってリビングのテーブルに置く。話に集中していたが、思ったよりもなんとかなったものが出来た。

 ポカーンとしている後輩の席に箸やら皿やら置いていくと。

「え、え、え? えええええ!?」

 話振っておいて今さら驚いているが、良いリアクションだ。
 こいつのこういう反応は割りと好きだから時々からかいたくなるんだ。

 やり過ぎるとキレて大変だからマメにアメを与えるのを忘れてはいけない。

「じゃ、じゃあセンパイ! 本当に良いんですか!? 進学先どころか将来ほぼ決まっちゃいますよ!?」

「まだ2年だが進学先は早い内に決めても問題はない。一度ちゃんと調べるつもりだが、元々何処でもよかったからな。どうせ適当に選ぶなら理由がしっかりしたところがいい」

 まともな理由かは怪しいが、口にするのは野暮だろう。まだ確定ではないが、俺の中ではほぼ進路先は確定していた。

 ……まさか後輩のアイデアによって決まるとは思わなかったが。

「ほ、本当に良いですねぇ!? 私も覚悟決めちゃいますよ!? 後悔してももう遅いですからねぇ!?」

「拒否して欲しいのか?」

「ノォーです!! 絶対にノォーですぅ!!」

 ていうか覚悟ってなんだよ。必死な形相で手をバタバタさせて止めてきた。
 はぁ、全くこの後輩は……。

「いいから空を起こしに行け。目覚めの空は抱き付き癖があるから精々気を付けろよ?」

 今日も色々とあったが、本日を以て俺の進路先及び将来関係がほぼ確定しました。

 ついでに後輩の同伴も確定した。頼むから災厄でないことを祈るが、異世界での経験が『それは無駄な祈りだから諦めなさい』と時空を超えて言っている気がした。




「だ、抱き付き癖かぁー」

 こうして話が終わる筈だったが、何気ない俺の一言が後輩のテンションを一気に下落させた。

 どんよりとした顔でこちらに目を向けている。……あ、目から光が消えて濁ってるように見えた。

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