気まぐれ

そらしろ

湯気の温度


幼い頃に火傷をした。

立ち上る湯気が本当に熱いのか確かめる為にポットの上に手をかざした事が原因だ。

周りの空間に対して異質なそれは子供の目を通してみると魅力的な物に他ならなかったが、それは同時に飼い慣らすことのできなかった好奇心が自らに牙を向いた瞬間だった。

火傷の跡は一生残る物になってしまったが、そのお陰で自制を意識できるようなった。
こうやって一つずつ自分は賢くなっていくんだと実感した。これが経験であり、成長とともに賢明な判断をするようになっていけるのだと。

今となっては魅力的に映る物でも未知の物に安易に手を伸ばすことなんてないだろう。
好奇心をそれなりに正当性のある理由で捨て去る事もできるようになった。

湯気の温度なんて確かめるはずがない。
成長した自分は火傷する可能性を学んだのだから。

感情や欲求を安易に表に出すはずがない。
成長した自分は自制心を手に入れたのだから。

自分の理想を延々と追い求めるはずがない。
成長した自分は妥協する事を覚えたのだから。

夢を語る覚悟などあるはずがない。
今の自分には最も縁遠い物なのだから。


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コメント

  • ハギノ

    楽しく読ませていただきました。
    「湯気の温度」すごく好きです!!!

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