【完結】幼馴染の専業ニセ嫁始めましたが、どうやらニセ夫の溺愛は本物のようです
9.なりふり構わない意地悪令嬢に、ニセ嫁タジタジざまぁーす。・その8
「お顔を、お上げになって」
私の言葉に、土下座スタイルからお嬢様が顔を上げた。その顔を思いきり、バチーンと引っぱたいた。
「痛み分けですわ。これでお互い様ですから、お約束通り一矢様には言いません。でも、このままでは戻れませんので、レストルームをお借りいたしますわね。中松、すぐヘアセットをして頂戴。できるわね?」
「はっ。すぐに」
「行きましょう」
中松を連れて令嬢を放置し、その場を後にした。
「もおーっ! ハゲたらどーしてくれんのよおおーっ!」
何度もこの屋敷に来た事のある中松が、レストルームに案内してくれた。中は広く、ピカピカの大理石が光っている。どうしてこうお金持ちの家は、調度品から扱っているものまで高級品ばかりなのだろうか。見慣れた壁とか、安い材質は使わないのだろうか。建設費はいくらくらいするのだろうか。計算したら恐ろしい金額になるのだろう。添え付けの鏡を見ながら、小声で怒鳴った所だ。
悲惨な状態の髪型を、中松が即席でヘアアレンジをしてくれた。携帯用の櫛(くし)に、ワックスとピンは私の髪型が崩れたらいけないと思い、持っていてくれたようだ。大変用意が良い。流石、執事の中の神。キングオブ執事!
「大丈夫でございますか?」ちぎられた髪を誤魔化すようにワックスを塗り、中松の綺麗な指が私の髪をあっという間に整えていく。
「なにがっ」
「花蓮様に、派手に痛めつけられたでしょう」
「別に。頭が引きちぎれるかと思ったけど、中松が助けに来てくれたから大丈夫よ。ありがとう」
とりあえずお礼は言っておかなきゃね。神松のお陰で助かった訳だし。
「心配でございましたから」
「阻喪するとでも思った?」
相変わらず信用が無いわね。
「いいえ。そうではございません。今日の伊織様は大丈夫だと思っておりましたから。そうではなくて、前からあのご令嬢――花蓮様は猫かぶりだと思っておりましたし、あまり良い噂は聞きませんので、伊織様に何かすると思いましたから目を光らせておりました」
「見事ね。読み通りよ。はい、録音機。見つかる前に渡しておくね」
実は中松から、一矢には内緒でボイスレコーダーを持つように言われていたの。三条家に入ってからドレスの内側に付けた録音機を回し、今までの会話を録音していたのだ。それをストップして彼に渡した。
「いいのが録れているわ。あのご令嬢に、クズ呼ばわりされたし」
「それはまた」中松は不敵な顔で笑った。「お灸を据えなくてはいけませんね」
出た! 悪魔の鬼松が!
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