【完結】幼馴染の専業ニセ嫁始めましたが、どうやらニセ夫の溺愛は本物のようです

さぶれ(旧さぶれちゃん)

7.旦那様(ニセ)とのなれそめを思い出す嫁(ニセ)。・その6

 その件があってから、私の中であの子がとても気になった。翌日も同じように公園に行くと、彼は同じように座っていたのだ。遠慮なく再び声を掛けてみた。どうしたの、と。
 彼は再び私を睨みつけ、フン、と鼻を鳴らして行ってしまった。こんな態度を取られたら普通はもう声をかけるのは止めるだろう。でも、私は止められなかった。彼の悲しそうな顔を、何とかして笑顔にしたいと思っていたから。


 それから何日か、同じような事を繰り返した。でも、徐々に変化が表れてきたのだ。
 彼に会うために例の公園に行った時だ。その子が同じ年齢くらいの子供に虐められているのを見てしまった。


 だからいつも、あんなに悲しそうな顔をしていたんだ・・・・!


 この時初めて腹が立った。彼を悲しませる原因を突き止めたので、何とかしたかった。
 止めなさいよっ、と拳を振って向かって行ったら、すぐに彼を虐めていた子供達は声を上げ、離散して逃げてしまった。お金持ちだけが通える、この近くの私立幼稚園の制服だった。彼も同じものを着ているので、恐らく幼稚園の友達に意地悪をされていたのだろう。

 大丈夫かと聞くと、余計なことをするな、と嫌味を言われた。でも、嬉しそうな顔をしていたから、良かったね、って笑うと、まあ、礼は言っておこう、と笑ってくれたんだ。



 私は三成一矢、お前は――?



 初めて話しかけてくれた。一矢っていう名前、そしてどうしていつも公園に一人でいるのか、その時聞いた。
 一矢の家はお金持ちだと聞いた。だからこんなに偉そうなんだと納得したが、気にせず続きを聞いた。
 義理の姉にとても意地悪をされている事や、幼稚園に迎えに来た義理姉に置き去りにされて毎回放って帰られる事を聞いた。だからいつも一人で公園にいたのだと言うのだ。信じられない事実に、私の方が一矢が可哀想だと泣いてしまった。家庭環境が複雑すぎて、どんなに辛いのか全然想像できなかったほどだ。


 一矢が家族に邪険に扱われている事を知り、おせっかいだったと思うが、ことある毎に彼をかまった。


 ある日、阻喪(そそう)をしたから家を追い出されて困っている半泣きの彼を見つけた。家に帰れると酷い折檻が待っている上、食事も貰えないというのだ。
 可哀想一矢を何とかしたくて、自分の家に連れて帰り、お母さんに一矢の家に心配しないように連絡をしてもらって、お父さんに頼んで美味しいグリーンバンブーの食事を振舞ったんだ。



 その日、私達姉弟、両親、一矢の全員が、おかずのエビフライの数で揉めた。
 壮絶なじゃんけんバトルを制した一矢の本当に嬉しそうな笑顔を見た時――私は、彼に恋をした。




 

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