【完結】幼馴染の専業ニセ嫁始めましたが、どうやらニセ夫の溺愛は本物のようです

さぶれ(旧さぶれちゃん)

7.旦那様(ニセ)とのなれそめを思い出す嫁(ニセ)。・その5

 こんな風に貧相な私があれこれ悩んでも、きっと一矢にはお似合いの女性がいる筈。比べられたら堪らない。
 不細工と思われている方がいいのかもしれない。綺麗にしても、却って貧相さが増してしまうのもよくないし。

 私はボディークリームだけを塗って、化粧はせずに寝室へ向かった。
 ドキドキする。あああ、どうしよう。心臓が・・・・破裂しそう・・・・!
 エッチなんかしないよね? 大丈夫だよね?

 昨日、何故か一矢にキスされちゃったけど、その後手を出してこなかったし、平気で私の横ですやすや眠っていたし、貧相な私なんかじゃ欲情しないってことよね?

 ファースト・キスだったけど、どういうつもりだったのか全くもって謎だけど、それでも初めての相手が一矢だと、嬉しくなってしまう自分を何とかしたい。本来なら、文句バリバリの案件ですから!

 とりあえず何もないだろう、大丈夫、を百回くらい繰り返してから寝室の扉を叩いた。しかし返答がない。
 おかしいなと思って扉を開けると、昨日と真逆のシチュエーションだった。
 一矢がベッドで、既に眠っていたのだ。


「あれ、寝ちゃったんだ・・・・」


 ほっとした半分、残念半分だったが、きっと一矢も疲れたのだろう。多分身体を洗ったり何だったり、かなり時間をかけたから結構待たせてしまったんだ。待ちくたびれちゃったのね。悪かったなぁ。
 今日は折角のお休みだというのに、私の為(?)にわざわざ買い物に出向き、慣れない包丁遣いや、大声で喧嘩・・・・。まるで幼い頃、遠慮なく言い合っていたあの頃のように、私達の時間が巻き戻ったように思える。



 もっと幼い頃、一矢に好きだと言えていたら、もしかしたらもっと違う未来があったのかな?



 私が一矢を好きになって、もうすぐ二十年になる。
 初めて彼に会ったのは、確か五歳の頃だ。幼い私が、仲のいいお友達と遊んで別れた夕暮れの帰り際。グリーンバンブーのある実家まで帰る私の目に映ったのは、悲しそうに一人でぽつんと公園のベンチに座っていた同じ年齢位の綺麗な男の子の姿だった。夕日を背に浴び、とても淋しそうだったことを覚えている。あの淋しそうな背中に綺麗な顔は、今でも鮮明に思い出せるんだ。

 思わず声を掛けた。迷子にでもなったのかと思い、どうしたの、と尋ねた。
 泣くのを我慢していたのだろうか、彼は涙の滲んだ瞳で私を睨みつけ、無言で去って行ったんだ。
 何アイツ、と腹が立つよりも、どういう訳か悲しかった。あんなに綺麗で可哀想な顔をする子を、私は見たことが無かったから。


 彼は私の中に、かなり強烈な印象を残して行ったのだ。


 

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