【完結】幼馴染の専業ニセ嫁始めましたが、どうやらニセ夫の溺愛は本物のようです
6.旦那様(ニセ)に忠実な執事が、実はとんでもない羊被りだった件。・その8
「伊織様」今度は中松が私に向き直った。「一矢様に粗相がないようにお願い致します。二度とこの様な醜い喧嘩はお止め頂きますように」
鋭い目線。あー、きっつー。怖ーいぃ。本物の鬼みたいーぃぃ。
「解りました」
思いきり中松を睨みながら答えた。今の私は、恐ろしい飼い主に全然懐かない子犬がキャンキャン吠えている絵面のように思えた。
「それでは、失礼致します。どうぞ、ごゆっくり」
中松は私の様子を気にした風でもなく、さっと私の横を通り抜けようとしたその時――
『貸し、ひとつだからな』
耳元で低い、中松の声がした。
えっ、と中松を見ると、一矢が背を向けているのをさっと目で確認し、普段見せない不敵な顔で私に向かって笑いかけ、その場を去って行った。
な・・・・何アイツ!
鬼だから二重人格者とか!?
乱暴な俺様口調だったし、やっぱり一矢が居る時だけ、猫かぶりなんだわっ!
いやっ。猫じゃなくて羊ね! 執事なだけに・・・・――じゃなーいっ!!
ダジャレを言っている場合じゃないのっ!
なーにが『貸し、ひとつだからな』よ!
偉っっそうに!!
今の中松の態度が、かなり私の逆鱗に触れてしまったらしく、腹が立った。
ああ、そうか。今のでよく解った。あのいけすかない嫌味ないけず男が、私は大嫌いなんだ!
やっぱり土下座させなきゃ気が済まない!
絶対に絶対にぜーったいに、何としてもニセ嫁修行を大成功させて、あの男をひれ伏せさせてやるんだから――っ!!
「伊織、水着はお前の好きな物に任せる。私は準備が出来たから先に入っておくぞ。お前も早く入って来い」
一難去ってまた一難――は、今だったのか――っ!!
ドエロ水着は着なくてもよくなってほっとしたのも束の間、一矢の背中を洗うニセ嫁としての仕事がまだ残っていたんだった・・・・!!
ジーザス! 好きな男のニセ嫁なりきりのお仕事は、中々大変でござーますわよおおおお――――っ!!
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