【完結】幼馴染の専業ニセ嫁始めましたが、どうやらニセ夫の溺愛は本物のようです
6.旦那様(ニセ)に忠実な執事が、実はとんでもない羊被りだった件。・その1
『伊織―? まだ準備はできないのかー?』
お風呂場の方から、一矢のやや反響した声が聞こえた。
「あ、はいっ、ま、待って! まだ着替えが出来ていないのっ! 今、水着を選んでいる所だから! 沢山買ってくれたから、迷っちゃって!」
中松に腹を立てていて、肝心の着替えを疎かにしてしまった。仕方なく今日買ってもらった水着の山から選んだのは、中松が選んだ花柄のワンピース水着だった。
・・・・とりあえずこれにしましょう。
着ると、似合っていた。露出が少ないから、上品なお嬢様が着るような感じになった。
一矢が待っているから大急ぎで風呂場へ行き、昨日と同じ様に背を向けて私を待っている彼の傍に行った。
「あ、あのっ、おま、お待たせしました」
「準備はできたのか?」
「あ、う、うん」
「じゃあ、今日は私がお前の身体を洗ってやろう」
「やっ、そんな、い、いいよっ。じ、自分でやるからっ・・・・」
背中を向けていたが、私がやって来たので振り向いた一矢と目線が合った。かなり鋭い目線をしている。真っ赤になった顔、変じゃないかしら。貧相な身体だって、思われたりしないかしら。
困ってオロオロしていると、一矢の方がふっと鋭い目線を解き、優しく微笑んでくれた。「可愛いな、その水着、よく似合っているぞ」
「あっ、そ・・・・そうなんだ・・・・ありがとう」
あれ?
お風呂だから一矢は眼鏡を取っているのに、どうしてそんな似合っているとか、解るんだろう?
一矢、極度の近眼で目が悪いハズなのに、どうしてそんなにくっきり見えているの・・・・?
気のせい・・・・?
「眼鏡が無いからあまりよく見えなくて、大体の雰囲気しか解らんが、ちゃんと洗ってやるから安心しろ。昨日、背中を洗って貰ってとても気持ちよかった。伊織も慣れない事を頑張っているだろう。私が労ってやるから、遠慮するな」
あ、見えてなかったのね! 雰囲気ね。雰囲気。ラジャ!
だったらちょっと安心だけど、旦那様(ニセ)、背中洗いは、恥ずかしいので嫁(ニセ)として遠慮したい案件ですーぅ。
早く座るように言われたので、仕方なく一矢に椅子を譲ってもらい、そこに腰かけた。
「み、水着、着てるから・・・・洗えなくない?」
「うむ。だから、できれば脱いで欲しいのだが」
「いやっ、無理っ、無理だから!!」
「だろうな」
ふっと唇の端を持ち上げ、そのままでいいから後ろを向いていろ、と一矢が優しく微笑んでくれた。あ、赦してくれたのかな?
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