【完結】幼馴染の専業ニセ嫁始めましたが、どうやらニセ夫の溺愛は本物のようです

さぶれ(旧さぶれちゃん)

5.旦那様(ニセ)は、嫁(ニセ)の水着を選ぶのにVIPルームを利用致します。・その2

 
「伊織様! 一矢様に向かって何という口の利き方ですか!! ご自分の立場を弁えなさい!」

 大声で喧嘩をしている所へ、一矢の味方しかしないクソ松が飛んでやって来た。左手にパンやらスープやらを乗せた銀トレイを持っている。朝から鬼修行でこっちはへとへとなのに、何で二人にここまで怒られなきゃならないのよ!

「中松、アンタの主人は私が朝、彼を起こさなかっただけで『嫁失格』とか言ってくるのよ! 何が悪かったワケ? そんなにイヤなら他にニセ嫁頼めばいいじゃないって言っていた所よ! 文句ある!?」

「伊織様、文句しかありませんよ」中松は冷ややかな笑顔を湛えて言った。この鬼が!「どんなに理不尽な事を言われましても、主人の言う事は絶対服従ですから。一矢様は貴女のご主人でもあるのですよ。嫌ならそちらこそニセ嫁修行などさっさとお辞めになられて、緑竹家にお帰り下さい。当然、一千万円の借金は即、全額回収させていただきますからね。そのつもりで一矢様に立てつくならご自由にどうぞ」

 中松は本当に鬼だ。こちらとしては、言い返す事が何もできなかった。
 本当は辞めたい。私にはたとえニセとはいえ、令嬢なんて向いていない事は自分でも解っているし、ニセ嫁だって務まるとは思えない。


 悔しい。言い返せないのが本当に悔しい。



 泣いちゃダメだ。こんなところで泣くくらいなら、最初から喧嘩なんか売ったり買ったりしちゃ駄目。
 私が頑張らなきゃ、一千万円の借金を自分たちで払って返さなきゃいけなくなる。そうなると目途が立たないから、当然グリーンバンブーは人手に渡ってしまう――私達一家を助けてくれた一矢にたてつく訳にはいかないのだ。

「も・・・・申し訳ありませんでした。自分の立場も弁えず、一矢様に向かって失礼を致しました。お許し下さい」

 唇をぐっと噛み締め、頭を下げ、気分が優れないから部屋で休ませて貰います、朝食は要りません、と滲んだ涙を見られないようにして、だだっ広いダイニングを後にした。

 こんな状況で家には帰れない。借金の為に、私は自分の自由や人権を一千万円で一矢に売ったんだ。彼らがどうしようと、私は選択の余地もない。ただ、言われたことを的確にこなし、人形みたいに笑っていればいいだけ――



 ぽろぽろと涙が零れた。



 

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